「あ、坂田さん!良い所に来たね、ちょっとこっち来てよ!」
「……今度は下駄の付喪神か」
カルトの時のようにまた何かあったらしく、俺はまたもや付喪神に呼ばれ里の路地裏にやってきた。下駄と喋っているなんて、傍から見たら異常者だ。
「最近ね、里で不思議な子供を見るんだよ」
「へぇ、どんな子供?」
「男の子と女の子の二人組なんだ。多分、カップルなんだと思うんだけどね。あとさ、普通の人間には分からないみたいなんだけど、強い魔力を感じるんだよね。僕ら付喪神みたいな
「……それってもしかしてこの2人?」
シガレット、霊魔の写真を見せる。この2人ならデートしている可能性も無きにしも非ずだろう、と想像したからだ。しかし付喪神はその無い首を横に振り、カランコロンと音を出して揺れる。
「ううん、違うよ。男の子は、その子と同じくらい優しそうな見た目だったけど。女の子は銀の長い髪だったね。一つ結んでて、アホ毛みたいに見えた」
「アホ毛」
「うん。男の子にその翼は無かったし、寧ろ、翼があるのは女の子だった。真っ白い翼だったよ。鳥?みたいに見えたよ」
「白?鳥?……ふーん……」
幻月との子供かな?と思ったがそもそも幻月とはまだセックスはしていなかった。夢月とも。そしてサグメともである。けれども、白い翼なんて他にはサリエルしか心当たりが無い。というかサリエルは青と白だ。
強烈な魔力を内包する謎の2人。それからも更に話を聞くが、強い魔力を感じる、服装が俺のように近代的という事以外は普通に人間に見えるそうだ。
能力を使っている所などは見た事が無く、里ではただ食べ歩きをしたり、買い物をしたりするだけで不審な行動は何一つしていない。
里人からは可愛がられお菓子を貰ったりする事も多々あるくらいで、こうして俺に報告する事はないだろうとも思ったくらい無害らしいが、突然の謎の人物達という事で、念の為に報告してくれたそう。付喪神の報告は、実に有難い。
俺としても処理するかは迷ったが、付喪神が言う強烈な魔力は本当に強そうなので、とりあえず観察だけはしようと思い、その日から里での張り込みが始まった。
◆
「────というワケでさ、謎の子供達?が頻繁に里に来てるみたいだから探してるんだよね。もしも見掛けたら、ばんきちゃんも俺に教えてくれよ」
「分かっ……いらっしゃいませーっ!空いてるお席にどうぞー……あっ」
その子供達は食べ歩きをしている。付喪神からのその情報から、鯢呑亭と違い子供でも難無く来れる赤蛮奇の店に来て、協力を仰ぐ。
話し中でもにこやかに挨拶する赤蛮奇。何だか、もう一人前の店員だ。しかしそんな彼女の表情が、見るからに強ばった。
「ばんきちゃん……どうした?」
「……子供、男女2人組……だよね?もしかして……」
「え」
まさかこんな早くにエンカウントするだなんて。隠してはいるようだが、水に入れて気化したドライアイスのように、魔力が溢れている。だが隠すのが上手いようで、視認するまで彼らの魔力の気配には気付けなかった。姿を見ずに声だけ聞いたらただの子供だとしか思えないくらいだった。
こんなに都合よく早く会えるなんて。まさか、俺の日頃の行いが良いから?……かもしれない。
「今日はここで食べようよ」
「で、でもお兄ちゃん……人がいっぱいだよ……」
「まぁね。でも大丈夫だよ。どうやら人間じゃないのも居るみたいだし?」
横目で俺と赤蛮奇を見た少年。目が合った瞬間、思わず咄嗟に目を逸らしてしまった。確かに、俺も赤蛮奇もこの店では妖怪としての姿を晒している。しかし、普通の子供は、恐れはしないでもあんなにストレートに妖怪呼ばわりはしない。妖怪呼ばわりしたとしても、これ見よがしにこちらを見るなんて事は絶対にしない。
俺は気配探知がそこまで得意ではないが、精一杯気配を探ろうとする。妖怪なのは間違いないらしいのだが、どこか妙だ。読み切れない。
「どこか見覚えがあるのは女の子の方だな……」
「そうなの?……あんたって、一度でも見た女の子は忘れないようなイメージあったけど、そんな訳でもないの?」
「そりゃーね。記憶力は並だよ」
「ふーん……で、どうするの?」
「どうするって?」
「あんたの子じゃないんでしょ?どこの誰かもよく分からない謎の子供を放置?」
「殺しはしないよ。雑魚妖怪と違ってマトモだし、被害も無いみたいだし……」
「すみませーん」
「!……っ」
「あの子が呼んでるよ。大丈夫、何かあったら俺がばんきちゃんを守るから」
「うん……分かってる。じゃ、行ってくる」
赤蛮奇を見送って、俺はスタミナ定食を食べる。普段通りニンニク増し増しだ。2人の様子を見て、俺は2人に遅れて店を出た。
「なぁ、今日はあっちにも行ってみよう!」
「うん、行こ!」
男の子の方は翼が無く活発な霊魔のような感じ。女の子の方はどこか臆病な感じがして、それでも、子供ならではの快活さも見える気がした。背中の、天使の羽だけがどうにも違和感に見えるが。
◆
────話し掛けてみよう。
そう思い立った俺は、気さくな吸血鬼兄ちゃんを装い、手を繋いでルンルン歩いていた2人に軽めに話し掛ける事にした。
「そこの仲良し2人組。ちょっといいかな?」
「「!!」」
呼んだ瞬間、自分達の事だと思ったのか、一瞬で振り返って身構えた。男の子は女の子を庇うように前に立ち、下から俺を睨み付けてきた。
「おっとっと、どうしたどうした?」
「あんた、あの店に居た悪魔だな。追いかけてくるなんて、俺達に何の用だ?理由によっては──」
「ちょっとだけ気になってな。君達、最近この里に来てるんだよな?」
「だったら?追い出すのか?同じ妖怪だろ」
「発想が飛躍しすぎだ、お前は俺か?俺が言いてえのはだな……」
膝を折ってしゃがみ、視線を合わせるとビクリと身体を震わせる2人。明らかに女の子は俺に対して怯えていて、男の子はそんな女の子を守るように、ますます庇うようにしている。
「お前らは何者なんだ?……ってコトだよ。つまり、お名前を聞かせてってこった」
「そっ……それだけ、かよ?」
「おう。俺ァ自警団に入ってるんだよ。自警団って分かるかな?不審な奴を取り締まる奴の事なんだ」
「ッ!?俺達が不審だって言いたいのか!?」
「そうだな、まず妖怪が普通に里にいるのは変だ」
「はぁ!?お前も、あの赤い女も妖怪だろ!?」
「ああ。でも俺もあの子も素性を明かしてるんだ。まずは名前を教える。それだけでいいんだよ」
「くッ……」
「お兄ちゃぁん……」
女の子の方は泣きそうになっている。可愛い、と思ってはいけない。
「2人共、魔法は使えるんだよな?魔法が使えないのにその魔力量はまず有り得ねえ。そんでもって、魔法を使えるなら分かるな?『名前を教える』って行為が何を意味するか」
「「っ……」」
名前は非常に大切だ。呪術的な意味合いで言えば名前を媒介に遠隔から呪い殺す、という事も可能。某有名漫画も、ノートに名前を書いて殺していた。名前とは漫画世界だけではなく幻想郷や近隣の世界なんかでもとても大事なものだ。
「俺は────」
「あー、あと嘘防止の為に言っておくが、俺は嘘を見破る能力がある。嘘をついたら今この場で殺す。OK?」
「「────ッ!!」」
明らかに顔色が変わった。ビンゴだ。
偽名を使うつもりだったし、名前の重要さをよく知っている。つまり、幻想郷や外界出身じゃない。もしそうなら名前を明かす事に対しここまで億劫になるはずがない。
「……レンヤ。俺はレンヤだ」
「レンヤくんね。後ろの君は?」
「っ……キアラ……です……」
「レンヤくんにキアラちゃんか。2人の関係は?」
「ッ!?それは関係ないだろ!」
「あるよ。俺とあの赤い女の子はカップル。さぁ、俺は言ったぞ、君達にも言ってもらおうかな?」
「んなっ……汚ねーぞ、お前が勝手に言っただけだろそんなの!契約として成り立ってねー!無効だ!」
「大声で騒ぐなよ、事を荒立てたいのかな?平和に済まそうって言ってるんだ。早めに答えな。場合によっちゃ、この世界から追放する手もあるが……?」
トーンを落とし少々脅す。子供相手に情けない事この上ないのだが、彼らについて詳しく知る為には仕方のない事だ。もしも親を呼ばれたらヤバいが、大丈夫だろう。いや、大丈夫だと思う事にしよう。
「……ただの双子だよ。俺が兄ちゃんでキアラが妹。地元じゃ、恋愛コンビって呼ばれてる」
「恋愛コンビ?何で?」
「俺達の名前に、それぞれ字が入ってるからだよ。俺は、恋に夜でレンヤで、キアラは綺麗の綺、愛、羅生門の羅でキアラ」
「恋夜、綺愛羅……こりゃあ確かに恋愛コンビだわ。名付け親は可愛らしいセンスをお持ちのようだな。フルネームは?」
「これがフルネームだよ。俺達の地元には幻想郷の住人みたいに苗字とかは無いから」
「幻想郷の存在は誰から?」
「お母さんから聞いた」
「お父さんは?」
「居ない。俺も綺愛羅もお父さんを見た事ないし、お母さんから話しか聞いてない。『カッコよくて、可愛くて、とっても強い子なの』ってな」
カッコよくて可愛いとは一体どういう事だろう。よく分からないが2人について知りたい事が格段に増えた。なので、道端で話すのもアレなので近くの甘味処に寄ることにした。
「ほら、オススメの団子」
「……アリガト」
「あっ、ありがとっ、ございますっ……」
恋夜はぶっきらぼうに、綺愛羅は少々オズオズと団子を食べ始める。警戒心も解けてきたところで、俺の方から話を振ろうと思った。
「2人は、何しに幻想郷に?」
「遊びに来ただけだよ。地元で遊び尽くしたから、お隣の世界の幻想郷に来た。門番も居なくなった?仕事しなくなったらしいからさ、普通に通れるし、何なら魔法でも来れるからさ」
「お父さんを探しに来たワケじゃないんだ?」
「お父さんにはそんなに興味はないよ」
「……家に戻って来ないから、嫌いなのか?」
「んーん、そーゆーワケでもないよ。お母さんは、お父さんの話をする時はお姉ちゃん達と喋ってる時くらい楽しそうだからさ、そこまで嫌いって感情は無いんだよね」
「ふむふむ。綺愛羅ちゃんはどうなんだ?」
「お……お姉ちゃんも、お母さんも、お父さんが好きみたいだから……何とも思ってない、です……」
「へー……平和なら、それで良かったよ」
外の世界での俺の実家は、まるで正反対だった。父母の仲は悪いし、母さんは親父の悪口を言った。実際それが正しかったので俺も親父が嫌いだ。だがこの子達の家庭にそれが無いのなら良かった。
「……てか、お姉ちゃんも居るのか。何人兄弟?」
「俺と綺愛羅も入れて6人らしいよ」
「
「お兄ちゃんと2番目のお姉ちゃんにも会った事は無いんだ。だから、普段は1番上のお姉ちゃんと、俺達から見て何歳か上のお姉ちゃんと、お母さん、俺と綺愛羅の5人で暮らしてる」
「あのね、あのね……?お兄ちゃんとお姉ちゃん……すっごく仲良しだって、お姉ちゃん達、言ってた。お母さんも、すっごく楽しそうに話してたの。私、お姉ちゃん、お兄ちゃんに会ってみたい……」
「……綺愛羅は、そう思ってるみたいでさ。幻想郷に居るのは間違いないみたいだから、遊ぶついでに、お姉ちゃんとお兄ちゃんも探してんだ。……特にさ、お姉ちゃんはお母さん達と魔力の気配が似てるから探しやすいらしくて、とりあえず、お姉ちゃんから探してるんだ」
「ほーん……もし良かったら手伝おうか?」
「「え?」」
「俺にも、お兄ちゃん以外の
「お前、何でもありかよ!?嘘もバレるし、お前、チートすぎる!」
「……強いの、凄い……っ!」
「あ、嘘がわかるってのは嘘ね。嘘つかれたくないから、それだけは嘘つかせてもらったよ」
「んなっ!?」
「で、どうする?」
「……どうする、綺愛羅?」
「……お願いしますっ……!まだ初めましてなのに、こんなお願いして、ごめんなさい……」
「初めましても何も関係ないよ。さて……」
異世界に行く力で「恋夜と綺愛羅の姉の場所」を設定。そして魔法にて双子+自分をその場所へ転移させる。人探しの仕事でもしようか、などと思ったその直後、俺の視界に驚きの光景が目に入った……。
恋夜&綺愛羅
年齢:?
能力:???
苗字の概念が無い、幻想郷の近隣の異世界の出身。
母、長女、三女、恋夜、綺愛羅の5人暮らし。兄と次女はその世界から見て異世界(幻想郷らしい)に居るらしく、母や姉からそれを聞いていた為、遊ぶついでに家族探しをしている。
父も探そうと思ってはいるものの、2人の中では、姉と兄、食べ歩きや買い物の方が優先順位が高い為父親探しは二の次三の次となってしまっている。
母、長女、三女の中での彼らの父親の評価は高い方である上、「家族を捨てたワケじゃない」とずっと言い聞かされている事から、恋夜と綺愛羅は父親を恨んでいたりはしていない。
ただし父親は極度の遊び人らしく家にも全く戻って来ない。少なくとも恋夜と綺愛羅が生まれてからは全く帰って来ていないとのこと。