「こ……ここは……っ」
「……?どーしたんだよ?」
「い、いや……」
能力で場所を特定し、移動してきた俺達。植物の胞子の漂う陰気な森の中。そう、ここは魔法の森。しかも目の前には小ぢんまりとした白い洋風の家。アリス・マーガトロイドの家だったのである。
「ここは……俺の姉ちゃんの家なんだ」
「「えっ!?」」
「と、とりあえず行くか」
扉を叩こうとするとカチャリと扉が開いた。目の前に居たのはいつも通り上海人形。奥からいつものように呑気な姉ちゃんの声が聞こえる。
「エスカルゴでしょー?入って来なさーい」
「あと2人居るんだけどいいかなぁー?」
「2人ぃ?いーわよー」
「……という事で行くか」
「え、あ、ああ、行こう、綺愛羅」
「う、うんっ」
俺が率先して家に入り、恋夜は綺愛羅の手を引き俺に続いて家に入ってくる。
「いらっしゃい。その子達は……エスカルゴの子供?一体何男と何女かしら?」
「俺の子じゃあないよ。多分だけど母さんの子だ。この2人、お姉ちゃんお兄ちゃんを探しに来たって言うから、『お姉ちゃんの近くに転移』って感じに移動してきたら、まさかの姉ちゃん家に……ってワケなんだよ」
「えっ?ああ、成程?今度のコンセプトは……大方、双子かしら。となると、私とエスカルゴにとっては妹と弟になるのね」
「そうだね。というワケで恋夜、綺愛羅。この人はアリス・マーガトロイド。俺の姉ちゃん。そんで、恋夜と綺愛羅のお姉ちゃんでもある」
「なら、あんたは……」
「お前達のお兄ちゃん、かな?」
「「〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」」
恋夜も綺愛羅も、面白いくらいに目を見開いてはあんぐりと口を開けているから面白い。まさかこの流れで兄まで判明するとは、2人共、全く予想だにしていなかったのだろう。
「嘘だ、何であんたが俺達の兄ちゃんなんだッ!?もしそうなら、何で、兄ちゃんも姉ちゃんも魔界に帰ってこないのさ!」
「お、落ち着いてよお兄ちゃん……!ほら、こっちのお兄ちゃんはあの赤い妖怪さんと付き合ってるし……仕方ないって。ねっ?お姉ちゃんは人形劇を人里で披露してるってお母さんも言ってたじゃん……!」
「綺愛羅……」
「……えーと、話が見えないんだけど?エスカルゴ、説明してくれる?」
「んーとな……実は……」
事の次第を姉ちゃんに話し、母さんと通信を繋ぐ事にした。既読無視ならぬ着信無視されそうになるものの、気まずそうに言葉を返してくれた。
《何も言わずに産んだから怒られると思って……》
《そりゃ説明の1つや2つは欲しいわな》
《そうよお母さん、流石に何か言ってほしいわよ。アリスの時も何も言わなかったからもう慣れたけどそんなの普通じゃないしね》
《うう……ごめんねアリスちゃん、カルちゃん……。レンちゃんも綺愛羅ちゃんもごめんなさい……まさか遊ぶついでにお姉ちゃんとお兄ちゃんを探していたなんて思わなくって……》
《俺はもう別にいーよ、お母さん。姉ちゃんとも、兄ちゃんとも会えたんだからさ》
《うん、会えたから満足したよっ、お母さん》
《そう……良かったわ……》
《……ところで、恋夜と綺愛羅にはお父さんが居る、なんて聞いたんだけど……どういう事さ、母さん?》
《え?そんなの言わなくても分かるでしょ?》
《…………え?》
背筋が凍り付いた。俺の顔を見て恋夜と綺愛羅は首を傾げるが、アリス姉ちゃんは「まさか?」と、顔をヒクつかせて、苦笑いしつつ俺を見る。
ここで母さんは通信を俺との個人に切り替えた。
《その2人のお父さんはあなたよ、カルちゃん》
《……だと思った…………母さんが男なんて作るはずがないもんな……》
《あら。いつ察したの?》
《恋夜と綺愛羅の2番目の姉がアリス姉ちゃんって判明した時に、直感的にね。つー事は長女が夢子、三女がロリアリス、長男が俺……っつー事か》
《そうなるわね♡》
《……いや、産むの早すぎじゃあねーか?ついこの前セックスしたばかりじゃん……》
《早くこの子達に会いたくて、つい、ね。もう我慢できなくって、大体先週くらいかしら?成長させて産んじゃった♡》
《流石は母さん、常識が通じねえや。そして兄=父とは思わないこの2人に真実を話したらどうなる事でしょう》
《混乱すること間違いなし!ねっ!》
《夢ならばどれほどよかったでしょう……いや、俺の場合は夢でも予知夢だから変わんねーわ》
《あっ、そうだわ。ライブの時くらいしか会えないけど、ヒビキちゃんも入れるのなら、私の子供達は四姉妹プラス三兄弟なのね!》
《子沢山だなー……》
《ふふっ、本当にね♪……というワケでお兄ちゃん兼お父さん、頑張ってね♡》
《あーもうめちゃくちゃだよ。つまり家系図上ではどうなるんだ?》
神綺─────┐
│ │
┌─┬─┼─┬─┐ │
ロ ヒ エ ア 夢 │
リ ビ ス リ 子 │
ス キ カ ス │
ル │
ゴ─┬───┘
┌┴┐
綺 恋
愛 夜
羅
《……こうなるのか?》
《多分そうね。何だか凄い変な形ね♪》
《誰のせいで!……俺のせいか!》
《ふふふ……そうかもね?》
マジかよ、と溜め息をつくと、目を輝かせた弟、恋夜が人懐っこそうな顔と声で、飛びつくように、元気に話し掛けてきた。綺愛羅はというと、未だに少しだけオドオドしているようだ。
「そっかぁ、あんた俺の兄ちゃんだったんだなっ!これから宜しく!てか、兄ちゃんの名前は!?」
「エスカルゴ・スカーレット。種族は吸血鬼だよ。宜しく、恋夜、綺愛羅」
「おうっ!」
「よ、宜しくっ……」
そうだ、今思ったが、綺愛羅は少しだけ母さんに似ている。母さんをロリ化させ、天使の翼を背中に生やしたらこのような感じになるだろう。
顔はそこまでそっくりではない。いや顔ではなく性格なのだろうか。霊夢と霊愛のように似ているのではなく、性格がまるで違うし、表情も違うから、パッと見では母さんと綺愛羅が似ていないようにも見えてしまうのだろう。
「じゃあさじゃあさ、お兄ちゃん!早速お父さんに会いに行きたいんだけど、頼める!?」
「えっ!?あ、あー……それは、無理、かなぁ〜」
「えーっ!?どーしてだよ!」
「魔力が切れちゃうからな。移動先を指定してから移動だと、それなりにな……」
「え?殆ど減ってないように感じるけど」
「も、元々の魔力量が少ないんだよ俺はっ。だからまた今度な、また今度!」
「……じゃあ、お兄ちゃんに私の魔力、あげるね」
「!?」
綺愛羅がこちらに手のひらを向けると、綺愛羅の魔力が手から放たれ、ドッと俺に流れ込んできた。何故こんなにも魔力を分けてくれるのか。もしや、彼女は会ったばかりの兄にここまでしてでも父親に会いたいと思っているのだろうか。
「これで、大丈夫だよね……?」
「さっすが綺愛羅!俺より魔力多いだけあるな!」
「ふふん……♪」
恋夜に褒められ、その小さな胸を反らしてドヤる綺愛羅が、可愛く見えた。
「ね……お兄ちゃん。お父さんの所に連れてって?」
「……2人のお父さんの位置は、分かった。目の前に転移させる」
「「!」」
「じゃ……転移『
2人を俺の目の前に転移させる。すると2人は、キョトンとした顔で互いの顔を見合ったかと思うとそれに続いて俺を見上げた。
「ミスった?」
「……な、なのかなぁ?……あはははは……」
「お兄ちゃんがお父さん、なの……?」
「はっ?何言ってんの綺愛羅、そんな事あるワケ……ない、よね……兄ちゃん……?」
「………………そうだよ。兄であり、父でもあるんだ」
「っ……はぁ……!?」
恋夜は焦りにも似た表情を覗かせる。綺愛羅は、そこまで驚いていないという風に、彼とは違って、どこか冷静だった。
「だと、思ったよ。お兄ちゃんは養子、お母さんと血が繋がっていないって、お母さん言ってたから……そうかもなぁって何となく思ってた。お兄ちゃんやお父さんについてお母さんやお姉ちゃんに聞いた時なんて、答えがほぼ同じだったし」
「……そっか」
「綺愛羅は、前からそう言ってたんだ。でも俺は、そんな事はあるワケないって思ってた。……だけど、本当に、兄ちゃんが……」
「……急に言われても混乱するだろうけどね。そこは2人共、ゆっくり受け入れてくれればいい。何も、今すぐ受け入れろとは言わないからさ」
すると、一部始終を傍で聞いていた姉ちゃんが、ぽそりと言葉を漏らす。
「弟と妹であると同時に、甥っ子と姪っ子なのね。エスカルゴの周りはややこしい事ばかりだわ……」
全くその通りである。自分でそう思ってしまう。義理の姉は他にもレミリアやフランも居るし、母を魔界神神綺とした場合には夢子やアリス姉ちゃんも含まれる。多い。あまりにも多い。
「兄ちゃんでありお父さん、かぁ。何て呼ぼう?」
「好きなように呼びな。どっちでもいいよ」
「じゃあ考えとくよ」
「……私ね、お兄ちゃんやお父さんを見付けたらね、やりたい事があったの」
「!」
やりたい事────綺愛羅はそう言った。だが、そう聞いて思わず身体を震わせたのは、巫月や霊愛などの事があるからに違いない。
「な……何だ?言ってみ……?」
「実は私……」
次に綺愛羅から飛び出した言葉は、俺でも思わず耳を疑ってしまうような──これまでと違う意味でつい聞き返してしまいたくなるような、そんな言葉だった。