「霊魔〜、今ちょっと空いてる?空いてるよねぇ?お姉ちゃんと勝負しよーよ?」
「……!巫月お姉ちゃん……!」
「ね?勝負、しよ?」
「う、うん、分かった……。ちょっと待ってくれる?準備したい……から……っ」
「はいはーい、作戦会議行ってらっしゃーい」
「うっ」
霊魔はせめて作戦を立てようと博麗家の皆の所に一旦戻る。霊麗は素知らぬ顔をしているが、霊愛は真剣になり対策を考えているようだった。
作戦会議と知られぬように「準備」という言葉を使ったのに巫月にはバレていたので、霊魔は思わずその察しの良さにビクリとしてしまった。
「霊愛お姉ちゃん……僕、どうすればいいの……?」
「短期決戦しかないね」
「短期決戦?どうして……」
「さっき、お姉ちゃんが妖舞との戦いの最後に発動させた雷のスペル、アレは確か『残りエネルギーを全て消費する』モノだったはずだよ。だから、今のお姉ちゃんの雷エネルギーはスッカラカン。多分、足を強化して速く動く事ができる程度か、それすらできないかのどちらかだよ。分かる?回復されたら負けだよ。そう思っときな」
「ッ……分かった」
「霊麗からは何かある?」
「特に無いかなー。私はそこまで巫月お姉ちゃんと戦ってきた訳じゃないからね。それこそお姉ちゃんくらいでしょ、巫月お姉ちゃんに張り合おうなんて考えてるのは」
「なのかな。……お母さん、何か対策とかある?」
「……そうね。巫月ちゃんは、エスカルゴの子供達の中でも最強格。速いし強いし、再生力も凄まじいと聞いてるわ。並の力じゃ勝てないでしょうね。あと目で動きを追うと負けるわよ。見えててもダメよ」
「あ、そーだよ、幻覚も操れるんだもんね。普通の感覚に頼ったら負けだよね。あっぶな、それ霊魔に伝えんの忘れてたわ」
「幻覚……」
「大丈夫よ霊魔、どうにかなるわ。いや、どうにかしてみせるっていう気概を見せなさい」
「!」
霊夢は膝を折り、目線を霊魔に合わせる。そして彼の両肩をガッシリと掴み、励ますように言った。その光景は、父親である俺が霊魔に嫉妬しそうな程温かくて、優しくて────酷く微笑ましかった。
「あんたは強い。初討伐がモルモーの眷属の吸血鬼なのよ?分かる?普通、初討伐は雑魚妖怪や霊とかそんなモンなのよ?なのにあんたは最初から吸血鬼なんて強い種族を倒せたくらいに強いのよ。もっと自信を持って、強気で戦ってきなさい。負けたって誰も責めやしない。いや、負けて当たり前なのよ。戦闘経験も訓練期間も圧倒的に巫月ちゃんが上だし歳の差もあるの。いい、霊魔?もう一度言うわよ?あんたは巫月ちゃんに負けて当たり前なの。だからそんなに気負わないでね。あんたの成長を、私達に見せて。それだけでいいのよ。勝たなくてもいい。
「は……はいッ!!」
「よろしい」
霊夢が全力で褒めた。そして、全力で激励した。霊魔の顔付きが変わるのも無理はない。だが、俺の推し娘は、決して誰にも負けないのだ。
「勝つよな、巫月?」
「トーゼン。今日は誰にも負けるつもりはないよ」
「よし。でも、油断は絶対にするなよ。霊魔は俺が太鼓判を捺すくらいには猛烈に強いよ」
「だね。昔よりも弱くなったとはいえ、穹を倒せるなんて、子供にしちゃ異常だもんね」
「ああ。霊魔は強い。間違いなく。霊愛と別方向で強い。もしかすれば、今は巫月、霊愛、霊魔の三強なんじゃないかと思っちまうくらいに強いんだぜ」
「ふーん。分かったよ。じゃ、いってらっしゃいのチュー、シて?」
「はいよ。いってらっしゃい、巫月」
「
抱き上げ、抱き締め、数秒間のキス。愛娘の唇の柔らかさを堪能していると、巫月の方から舌を強く捩じ込んできた。公衆の面前でこれはヤバいな、と柄にもなく焦った俺は慌てて娘との口付けを中断。
プクッと可愛らしく頬を膨らませた巫月は、俺の首に飛び付き、思い切り牙を突き立てた。
「い゙っ……」
「〜〜〜〜〜ッ……ぷはぁっ……。エッチなチューがダメなら血くらいは飲ませてよね!それで勝てるんだから!」
「最初からそうしとけよな……そっちのキスするには少し場所が悪いよ」
「えへへっ……♪」
しかも霊魔が待ち構えているので観客達も相手の巫月の登場を今か今かと待ち受けていたのだ。皆に娘とのキスを見られるのは……今更だが、ちょっぴり恥ずかしいものだ。
「お待たせ〜。さてっ、やろっか!!」
「霊力を満タンまで回復させる程の隙を与えた事、お姉ちゃん、きっと後悔するよ」
「私だってエネルギー少し回復したもーん。そこはお互い様だよ」
「勝つ。僕が勝って、皆に博麗霊夢とエスカルゴ・スカーレットの子は全員が強いんだって、
「霊夢さんの子は強い。そんなの当たり前でしょ。改めて認めてもらうとか、奮闘する意味は無いよ。それ以上に私が強いってだけだからね」
「っ……!僕が勝つんだッ!!」
「私が勝つよ。誰か合図、お願いしまーす」
どうやら、霊魔は珍しく熱くなっているようだ。本当に珍しい。だが、あのような見え透いた挑発にノる程、子供でもない。巫月は巫月で、霊魔を少し舐めているのかもしれない。まぁ、ほんの少しでも苦戦すればそんな考えは改めてくれるだろう。
巫月には油断なんてしてほしくない。そのような酷い理由で負けてほしくない。もしこれで油断して負けたなら、軽くデコピンするくらいの事はしてもいいかもしれない。
巫月が観客に合図を促すと霊魔推しのレミリアがスタートの合図を送った。霊夢達の方へ行き、共に観戦するようだ。
レミリアが何故そんなにも霊魔を推すのか俺には分からないが、とにかく、この戦い、巫月には絶対に勝ってもらいたい。
「────誤想『P・B・S』」
「……!」
俺をはじめ観客達には霊魔にどんな弾幕が見えているのか分からない。巫月のそのスペルを喰らった経験も無いので想像すらもできない。
霊魔の様子を見るに、被弾はしていなさそうだ。必死に回避するのが可愛らしく見える。フランが、かつて俺に向かって「小動物みたい」と言った事があるが、
(この空白、明らかに「逃げ道」だな……あからさま過ぎるしどう考えても僕を誘導する為の「確定した道筋」……なんだけど…………)
キョロキョロと回避しつつ周囲を見渡す。
(……ダメだー、回避できそうな道は数本しかない。小人しか通れないでしょあんな隙間。逃げ道を設定してあるせいでちゃんと「避けられる」弾幕だし、明らかに「誘導する為の空白」でも、スペルカードルールに違反はしてない……やりづらいな)
(霊魔、やっぱバカじゃないなぁ……。誘導する為の弾幕だって気付いてるね。密度増やしてんのに全く私から目を逸らさない。0.1秒でいいから私から目を逸らしてくれたらその瞬間に接近してノックアウト出来るんだけど……)
(巫月お姉ちゃんがどんな戦い方をするのか、僕も少しは見てきた。倒せたと思ったら「幻でした〜」みたいな感じが多いから、正直、僕の目の前にいる巫月お姉ちゃんが本物かどうかすらも分からない。でも、一つ分かる事がある。幻なら最初から幻で、決して後出しジャンケンはできないって事。つまり片っ端から倒していけば……!)
(────気配が変わった?……何か、仕掛けてくるかもしれないね。警戒警戒っと)
「そろそろ、こっちの番だよ。自己『スフェリカルバリア』」
「!!」
球状の結界に身を包んだ霊魔は、弾幕を恐れずに直進してきた。霊魔の結界は小ささに比例してその強度を高めていく。霊魔1人を包むくらいの大きさだとするなら、結界の強度は、博麗三姉弟の中でも最高峰と言える。
「……霊魔はエスカルゴに似てるからね、そういった戦法に移るのも読めてたよ」
「!?」
「これで串刺しにしてあげる。痛いとは思うけど、我慢してね?神槍『スピア・ザ・トライデント』」
雷武器シリーズからの派生なのか、バチバチ帯電している三又の槍、トライデントを生成する。あのネーミングから察するにレミリアの「スピア・ザ・グングニル」をモチーフにした事は間違いない。
「フフッ、漫画に出てくる悪魔が持ってそうでしょこの巨大フォーク♪」
「……」
まさに巫月の言う通りで、巫月があのような物を手にしてニコニコとしていると、小悪魔系のエロいキャラが性的な意味で異性を誘っているようにしか見えなくなってくる。
「弱点は外すから安心してねー。というか、まずは結界を壊さなきゃだし────!!」
ダンッと地面を蹴り巫月は動き出す。落雷などを放たない事から、そこまでのエネルギーは未だ回復していないようだ。
先程のキスの時にエネルギーを多少譲渡した方が良かっただろうか?それだと不正にも思えるので、譲渡していなくても特に後悔はしないが……。
「ハッ!!」
「ッッ」
キュイィィィィン、と耳障りな音を立てて、槍はポッキリ折れた。霊魔の防御力は、武器を使用した巫月の攻撃力を遥かに上回っていて、ヒビどころか傷一つついていない。
宙に舞った折れた槍を見て、巫月はピクリと眉を動かす。
折れた槍が地面に落ちる前に、巫月は次の攻撃に移行。槍を握っていた手でグーを作り結界を殴る。しかしヒビは入らない。それもそうだ。何より彼の最高防御力はフランドール4人分の攻撃力でやっと破壊可能になる程の鉄壁さを誇っているのだから。
「うーん……、流石の巫月でも、霊魔の結界の前には手も足も出ないか」
「そうね……霊魔くんの防御力、最強なんじゃない?エスカルゴの子供達の中で」
「かもなぁ。嬉しいが、このままじゃジリ貧だな。泥試合だよ、まさにな。いいや、巫月が妖怪な分、霊力での攻撃は特に効くから、時間が経過するほど霊魔が有利になるばかりだな……。いや、巫月だってエネルギーは回復するから、正直どっちが有利かも分からん」
「うーん……流石は霊夢の子ね」
「……あれ、待てよ?」
「?」
「霊魔の防御力がバカ高いのはA.T.フィールドだけじゃなかったか……?」
「……?」
「いやきっとそうだ!巫月ィ!もっと強ェ物理攻撃仕掛けてやれェ!!巫月なら大丈夫だッ!!」
「分かった!」
(お父さん、何でそんな余計な事を……ッ。そんなに巫月お姉ちゃんに勝ってほしいって事なんだね……?強いから応援するのかな。だったら僕が強くなれば僕を応援してくれるのかな。……絶対、勝つ!!)
決意を秘めた目で霊魔がポケットに手を入れる。そこから取り出したのは紐が丁寧に巻かれた一つのけん玉。巫月が結界に向かって嵐のようなラッシュ攻撃をする中、霊魔はけん玉の紐を解いて、それで遊び始めた。
それと同時に雷のエネルギーで生成された巨大なけん玉が霊魔の結界の真上に生成された。
「児戯『壊れた扇風機』」
けん玉のけんを指先で持ち、紐をぶら下げ、且つけん先を天に向けたまま円を描くように回しだす。次第に速度は増していくが、紐はたまにけん先やら大皿、小皿なんかに引っ掛かったりする。
すると雷けん玉もそのような軌道を描き、霊魔の結界の前に立つ巫月に向かった。不意討ちのような形になるが巫月はギリギリの所で回避。
「ッ……いったいなぁ!!」
掠ってはいたようで、彼女のフワフワの耳が少々チリチリになってしまった。持ち前の再生力ですぐ回復はするも、巫月は自分が少しでも攻撃を受けた事に対し憤りを見せ、攻撃方法をラッシュから雷の攻撃に切り替えた。
「私史上最強の攻撃……!これを使うのはエスカルゴ以来初だよッ!!旧約『インドラの矢』ッッ!!」
全てのエネルギーを一点に集中させ、天に放つ。カァッと凄まじい光を放ったそれを打ち下ろすと、一息に爆散する技だ。
あの光を見てゾワッと総毛立ったその瞬間、俺と霊夢は同時に……誰よりも早く動き出していた。
「霊符『四重結界』ッ!!」
「夢符『二重結界』!」
俺は四重結界、霊夢は二重結界を展開する。俺は己の結界の強度に自信が無いので、それならせめて数で補ってやろうという考えである。
2人の結界が完成したその瞬間、雷エネルギーの集合体が彼の結界に着弾。核爆発とも思えるような凄まじい爆発が起こり、結界全体にヒビが入る。
「ッ!!やべっ、皆、逃げ────」
「……ったくもう、娘の攻撃すら防げないだなんて、アンタはまだまだね」
「霊夢……!」
俺の四重結界の外側から霊夢が一つの結界を張り援護をしてくれた。隣に霊夢が立つ事により緊張や緊迫感が高まり集中力が切れそうになってきたが、根性でそれをカバーし、霊力を全て使う勢いで力を結界に流し込んでいく。
ヒビは見る見る内に回復し、爆発の余波も何とか俺の結界で防ぐ事ができた。
「はぁっ……はぁっ……あっぶねぇぇ……!!」
「なんだ、出来るじゃない。最初からそれくらいの気持ちでやりなさいよね」
「……ああ。サンキュな」
「もしアンタの結界が壊れてて、私がアンタの援護してなかったら、アンタが立ってるこっち側は全部吹っ飛んでたわよ」
「んなっ……そんなにかよっ!?巫月のヤツどうしてそんなにエネルギーを一気に……」
「それくらいしないと霊魔の結界は壊せない。多分巫月ちゃんはそう判断したのよ。そして多分私達が観客をガードするのも計算の内ね」
「それはまぁそうだろうな……全く、後で注意だな」
「本人も爆風をまともに喰らってるし、別に良いんじゃない?煤だらけだし」
「……それもそうだな」
「……。本当に甘いわねぇ……」
煙が晴れると、巫月と霊魔の取っ組み合いがよく見えるようになった。霊魔は結界を壊され、しかも巨大けん玉もあの爆発により掻き消されたので遂に本人が動くようになった。霊魔は雷のエネルギーが少ないのでエネルギー温存の意味もあるのだろう。
「でも今に始まった事じゃあないだろ?」
「それもそうだけど。じゃ、私はあっち戻るから」
「え。ここで見て行けよ」
「鈴仙とアンタのイチャつきをそばで見てろって?それとも、私とアンタのイチャつきをそばで鈴仙に見せ付けるつもり?」
「あ、いえ……」
「ったく……本当しょうがない奴。ちゃんとその辺も考えなさいよね」
「うい」
だが待ってほしい、どちらにせよイチャつくのが確定とはどういう事だろうか。愛娘、愛息子の試合だと言うのに、イチャつく親が居るだろうか。否、居ない。
「別にイチャつかないのになぁ。な、鈴仙」
「そうね、巫月とエスカルゴじゃあるまいし」
「……怒ってる?」
「怒ってません」
「完全に怒ってるやーつ……」
「私がここに居るのに何で霊夢をここに留めようとするの?別に仲悪いとかじゃないけど、少しくらい遠慮してほしいよ」
「……そっか、分かったよ」
「……いや……ごめんね、心狭い女で」
「この程度で心狭いとか思わねーから大丈夫。次は気を付けるよ」
「ありがと」
「……さて、巫月の試合に注目注目っと」
「そうね」
巫月のあの技により霊魔の結界は消されていて、弾幕の撃ち合いに発展していた。霊魔は時折結界、巫月は反撃壁のようなものを行使していて、かなりレベルの高い戦いになってきている。
両者共に決め手に欠けているようだった。だからなのか、あの手この手で攻めているようだが2人共攻撃性能も回避性能も高いせいで決着がつかない。決め手が無いとこんな戦いに発展するとは。2人の底力や発想力の限界が見れそうな気がしてきた。
「くっ……お姉ちゃん、しぶとい……!!」
「それは霊魔もだよ、まさかこんなに手こずるとは思わなかった……。確かに強いね、凄く強い。霊愛と別の意味で、だけどッ!!」
「ッ!?……嘘でしょ……」
今度は彼だけでなく全員に見えるタイプの幻覚を行使する巫月。何と今回は、視覚情報を狂わせての擬似的な分身だ。
俺やパルスィ等のように実際に分身してはいないはずなので、巫月の分身達には触れず、触れようとすればすり抜けるのだろう。
そして分身達は、まるで蜃気楼かなにかのように本体と全く同じ動きをトレースするようで、全ての巫月達が寸分違わぬ動きをしている。
(どれも本物にしか見えない……どれが幻覚?どこに巫月お姉ちゃんが……)
「霊魔!目に頼るな!さっき言った事、もう忘れたなんて言わせないわよ!!」
(目に……頼るな……そうか、分かった……!!)
霊夢が霊魔に向かって思い切り怒鳴る。たまたま霊夢達の近くに居た魔理沙はビクリと身体を震わせソソッと後退るようにその場を離れる。
そして俺は、霊夢のアドバイスの意味が何となく分かった。きっと、霊魔にも伝わっているだろう。これはマズイ。
「巫月ィ!粘れ、粘るんだ!!負けんな!!絶対に負けんな!!巫月なら勝てる!19人姉弟の中で最強目指してんだろ!?負けてられねーだろッ!?」
────分かってる。勝つから大丈夫だよ♪
「……え?」
観客席に居る俺の耳元で、巫月の囁きが聞こえたような気がした。
今年も本作を読んで下さり本当にありがとうございました。来年も宜しくお願いします。
次の更新は、いつも通り2日後の1月2日です。
良いお年を!