「巫月……今、耳元で囁いたか?」
「え?私には何も聞こえなかったけど……」
「そう……か。じゃあ気の所為だな」
自信に満ち満ちた愛娘の声が聞こえた気がしたが鈴仙は何も聞こえなかったと言う。鈴仙の耳は俺の地獄耳よりも確かだと思うので、気の所為だと思う事にしよう。
それにしても巫月の分身、本当に数が多い。20人くらいなら優に超えているだろう。そんな分身達が一斉に弾幕を放つのだから厄介だ。こっそり、1人くらい持ち帰っても……。
尤も実際分身は幻覚であり、弾幕は、幻覚またはそれだけの方向から放っているというだけであり、分身が弾幕を放ってるワケではないのが面白い。
(目で捉えるからダメなんだ。気配で感じるんだ。そうすれば、巫月お姉ちゃんが何処に潜んでいるか僕にだって掴めるはず……)
「そろそろ大技でも使わないと、私には勝てないと思うよ〜」
「っ、もう本物は分かってるんだ!これで……僕の、勝ちだ!!厚壁『
「ッ!?」
1人の巫月をA.T.フィールドで囲んだ。アレは、霊魔の防御の手段としては結界以上の強度を持つ、ある種の奥義とも言える技だ。そんな大技を、包囲するのに使うとは。
そして、雷のけん玉のけん先をレイピアのように長く伸ばした剣を手元に作ると、A.T.フィールドと一緒に巫月の腹を貫き通した────。
「巫月ィィィィイイイイイッッ!!!」
「ッ……強いわね……霊魔くん……」
負けた、と思った。体内から感電したなら俺以外誰でもヤラれる。建御雷でも気合いで耐えられるかどうかなのだ。巫月がそれをやられたなら、負けて当然である。
情けなくも娘の敗北を確信したその時……。
「狂砲『
「え」
霊魔の背後に現れた巫月は、手でハートを作るとそこから放電しながら突き進むレーザーを放った。完全なる不意を突かれた霊魔はそれに貫かれ、目を白黒させながら地に膝をついた。
「なん……で………………アレ、は…………本物、のはず、だったのに……っ!!」
「『幻覚』なんて一口に言っても、視覚に干渉するだけじゃないんだよー?幻視、幻聴、幻触・幻臭・体感幻覚・幻肢……とにかく、こういうのを全て操作できるのが《幻覚を操る程度の能力》なんだから。気配すら誤魔化せるよ」
「ズル、すぎ……る……」
「あとさ、知ってる?決着前の勝ち名乗りってね、負けフラグなんだって。エスカルゴが言ってたよ」
「……!?」
「次までにもっと鍛えておきなね。もしかしたら、霊愛くらいには強くなれるかもだし?」
「くっ…………悔しい……ッ」
その言葉を最後に霊魔は気絶した。運ぼうと彼に近付くと、ほんのり血の匂いがする事に気が付く。どうやら、唇を強く噛み、そこから血を流しているようだ。
そこまでの悔しさを感じたのなら彼は強くなる。俺はそう直感した。
◆
「さて、最終決戦だねぇ」
「大丈夫か?霊愛は強いぞ」
「私も強いよ。……でも大丈夫、霊愛相手じゃ油断もしてられないし、そもそもしてる余裕が無いもん」
「だな。間違いない。さて、充電でもしますか?」
「んー……そう、だねぇ……でも霊愛も霊力とか消費したままだと思うから、私もこのままでいいよ」
「そうか。……勝ってこい、巫月なら大丈夫だ」
「んふふ、もし霊愛に激励をせがまれたら同じこと言いそうだね?」
「……そう、かもな……」
「頑張るのよ、巫月!」
「鈴仙はもう少し自分の子の勝利を信じたらどう?諦めムードはノンノンノン、だよ?」
「それもそうよね。ごめんね、次こそしっかり応援するわね!」
「そうしてくれると嬉しいな〜♪」
◆
「霊愛、今すぐ試合で大丈夫なの?今だって早鬼の子……駆翔くんだっけ?その子と戦ってきたばっかりでしょう」
「秒で終わらせたから問題無いよ。お姉ちゃんも、霊魔と戦うのになけなしの雷エネルギー使ってた。体力もエネルギーもお姉ちゃんの方が消費してる。寧ろ勝機は今しかない。エネルギー満タンの方が、何をしてくるのか読めなくて勝ち目が消えるよ」
「それもそうだけど、不安なのよねぇ……。ま、全力尽くすだけよね」
「うん」
「頑張ってね、お姉ちゃん。応援してるよ」
「ありがと、霊麗。……ところで霊魔は?もうどこか遊びに行ったの?」
「シガレットちゃんが看病したいって申し出てきたから預けてきたわ。今頃、グッスリでしょうね」
「「あっ……成程ね??」」
「……好きにさせてあげましょう。はぁ……」
「「はーい♪」」
◆
「────決着つけよう、お姉ちゃん」
「そうだね霊愛っ♪…………じゃあ……」
お祓い棒を突き付けて巫月に勝負を挑んだ霊愛。それに対しにこやかに答えた巫月だったが明らかに目付きが変わった。
これまでの余裕綽々な態度は消え、気配はどこか研ぎ澄まされ、スイッチを入れたように、カチリと戦闘モードに切り替わった。
霊魔と戦っていた時ですら見せなかった真剣さ。如何に彼女が霊愛の強さを認めているかが分かる。
「「いくよッ!!」」
同時に動き出す2人。霊愛は巫月の顔面を横からブッ叩くようにお祓い棒を振るうが、巫月はそれを手のひらで受け、棒の勢いを殺さないよう流れるように素早く身体をターンさせる。
背後に回られると直感した霊愛はその場から飛び姉を空中戦に誘う。数テンポ遅れ巫月も飛び始め、姉妹の戦いは本格的に空中戦に移行した。
飛び上がってきた姉を狙い霊愛は蹴りを見舞うも父譲りのパワーで強引に足を掴むと、某格闘漫画のオーガの如く、霊愛を振り回し始めた。
「どりゃあああぁぁぁああああっっ!!」
「────っ!!」
地面に向かって霊愛をブン投げると、すぐ追撃に移る。しかし霊愛だってやられっぱなしではない。巫月が間髪入れず追撃に来る事を読んでいたようで姉の目の前に
「神技『八方鬼縛陣』ッ!!」
「……しまッ…………ああっ!!」
超高速で地面へ墜落するように向かう巫月。その目の前で結界が発動したなら、それこそ時でも停止させなければ回避は不可能というもの。
巫月はまんまと霊愛の策にハマり、霊愛の「八方鬼縛陣」を喰らい動きを封じられてしまった。一方霊愛は、地面に墜落する直前に技を発動させたので受け身は間に合わず、頭から墜落した。しかし今は吸血鬼なので、そこまでのダメージは受けていないようだった。
「う、うご、けない……ッ!?」
「フーッ……『肉を切らせて骨を断つ』ってヤツだよお姉ちゃん」
「…………ッッ!!」
墜落時にできたクレーターの中から、ノソノソと霊愛が出てくる。口の中かどこかを切ったらしく、口元から血が出ている。巫女服もとっくに数カ所が破けているようで、所々肌が露出していた。
「ちゃんと動きを止められたって事は幻覚じゃなく本物みたいだね。結界にも反応アリだし。……まっ、分かってたけど。私やお父さんと戦う時はちゃんと本物だもんね、いつもさ」
「っ……あー、まずったなぁ。馬鹿正直に本物で対応しなきゃ良かったかな?」
「いいんじゃない?美学を捨ててまで戦って勝ってそれに何の意味があるの?」
「ふふっ、それもそうだね。……にしても、ホントに動けないなぁ。霊愛ってばいつの間にこんなに腕を上げたの?」
「今日に備えた。それだけの事だよ」
「……言っとくけど降参しないよ」
「させないよ。しても認めないから」
「だよね。分かってる」
「じゃ……トドメだよ」
「……うん」
「霊符『夢想封印』ッッ!!!」
早くも決着なのか。こんなにもアッサリと決着となってしまうのか。生まれてこの方、ずっとずっと守り続けてきた巫月の最強伝説も、終わりなのか。
────そう考えた俺がバカだった。
「……混符『
「はっ……!?」
漆黒の弾幕が飛び出し、夢想封印を相殺。いや、余った弾幕が霊愛の移動した軌跡をなぞって彼女を執拗くホーミングを始めた。
「くっ、何なの急にッ!!」
弾幕を追加し、結界で防御し、何とか凌ぐ霊愛。しかしその隙に巫月は、まるで父親の真似のような自己犠牲を払い霊愛の結界から脱出しようとする。
「何をする気だ巫月のヤツ!?なんで口元に雷刀を作った……!?待てッ……まさかッ!やめろォ!!」
「巫月ィ!それはやめて!!お願いだからッ!!」
巫月の先の行動を察した俺は叫ぶ。鈴仙も察したらしく、同じように巫月を止める為に叫ぶ。しかし巫月はこちらを見ずに
「待ってッ……お姉ちゃん……何をするつもり!?」
「んふふっ……
「いやぁぁぁぁ!!やめて巫月ぃぃ!!」
「くそっ、止めるしか────」
ニタリと笑うと、咥えた雷刀を左肩に突き刺す。そしてバチバチと凄まじい電気を放って肉を焼き、肩から腕を焼きちぎった。
それにより、再生した左腕は霊愛の術から解放。左手に雷刀を作ると何の躊躇いも無く右肩、続いて長い鎌を作ると両足を斬ったのである。
「んぎっ…………ふぅ、痛かったけどスッパリと解放されました〜♡……ん?」
「おい巫月何やってんだバカ誰がそこまでしろって言ったよオイ!?」
勝負に割って入り巫月の両肩を掴み問い詰める。流石の巫月もデレはせず焦りを見せ始めた。
「ちょ、エスカルゴ、勝負中……」
「関係あるかンなもん!!投了しろッ!戦闘不能になった時点で巫月の負けだろ!?」
「負けじゃないよ?戦闘不能じゃないよ?私はまだ戦闘可能だよ?エスカルゴみたいに再生を利用した戦法を使っただけなのに、それの何がいけないの?私がダメならエスカルゴもダメだよね?なのに何でエスカルゴは自殺までしてその戦法を使ってるの?おかしくない?」
「俺は不老不死ッ!!」
「私は超長寿の超再生能力持ち。『死』じゃなくて
『再生』を作戦に組み込むのはアリでしょ」
「ダメだ!死んだらどうする!?」
「死なないよ。上手くいくよう、勉強してるしね。もしもの事も考えてあるよ。心配しなくていいの。だから戦わせて?私が最強だって証明しなくちゃ」
「っ……何でこうなっちまったんだっ…………!どこで間違えたんだ、一体どこで…………っ!!巫月が最強なんかじゃなくたって……俺はッ…………」
「間違えてないよ。私もエスカルゴも強さを求めただけ。そこに正解も間違いもないよ。強くなりたいだけなんだから。エスカルゴもそうで、私もそう。強くなる為、勝つ為に頑張る。でもそれは悪い事?ううん、悪くないよね?頑張るべき事だよ。なのにエスカルゴは私の頑張りを否定するの……?」
「ちがっ……そ、そんな、つもりじゃっ……!そんなつもりは無い!!」
「分かってるよ。エスカルゴは私を心配して、そう言ってくれてるんだよね?」
「っ……」
「でもね?心配するのなら『負けた後の私』の方を心配してほしいな……?」
「っ!」
「負けたくない一心で頑張ってたのに負けたのなら私は目標を失うも同然。分かるよね?」
「……ああ……分かるよ、それは……」
「なら……もう私を止めないで」
「………………約束しろ。その方法を使うのは俺の目の前だけにしろ。もしもの時に俺が巫月を助けられるようにする為だ。約束しろ。それすらダメなら絶対認められない。どんな手を使ってでも巫月に勝負を続行させない」
「ふふ、うふふっ……全くもう、心配性なんだから♡大丈夫だよ。その約束、絶対に守る。だから、私が子供達の中で最強を目指して、ずっと維持するの、認めてくれる?」
「ああ……巫月の思うようにしていい」
「ありがとっ!大好きだよっ♡」
「俺もだよ……巫月。大好きだ」
軽く口付けを交わし、俺は鈴仙の元に舞い戻る。当然、鈴仙からは酷く責められたが、巫月の覚悟を踏み躙る事は俺には出来ないと伝えてみると、渋々ながらも押し黙ってくれた。
鈴仙には本当に申し訳ないと思っている。しかし巫月があそこまで言うのなら、と任せてみたいとも思う。当然、俺の監督下でなら、の話だが。
「お待たせ〜。ごめんねー、エスカルゴったらもう心配性でさー♪」
「……愛されてるね、お姉ちゃん」
「ふふ、そうだね。でも霊愛もでしょ?」
「多分……ね。じゃあ続きだね、お姉ちゃん?」
「うん、そうしよっか」
「……まさかお姉ちゃんも闇みたいな弾幕を使うとは思わなかったけどね」
「あはっ♡……奥の手は最後の最後まで……ね……♡」
「……!」
「わかる?霊愛。……さっき、私は初めてあそこまで追い詰められたんだよ。エスカルゴと鈴仙以外なら初めてかもね〜、私をあそこまで追い詰めたのは。霊夢さんは、強すぎて追い込まれるとかそんな次元じゃなかったし……」
「……なら、もう一度追い込んでやるっ!!」
「やれるものならやってみなよ、霊愛。待っててねエスカルゴ……、私が最強なんだって、今度こそ証明してみせるから……」
巫月のあの闇の弾幕の出処は、何なのだろうか。もしかしたら、霊魔のA.T.フィールドや、俺の闇の弾幕のように、心の何かが具現化したのだろうか。
だとすると巫月は一体────。
「……もしかして巫月、どこかで病んでるのかしら」
「!……鈴仙、何でそう思うんだ?」
「だって、さっきの弾幕……闇を解き放つみたいな、そんな感じがしたっていうかさ……。心の疲れとか、悩みとか、そういうのを戦う事で発散してるように見えたよ。少なくとも『普通』じゃないよ」
「……それには同意だ」
父に肉体さえ捧げてしまえる、ファザコンという言葉では到底片付けられない事実。そう、そもそも巫月が「普通」なワケがなかった。
病んでいるのか病んでいないのかは分からないが普通なはずがなかった。考えれば分かる事だった。
確かに「解き放つ」ように見えた。彼女は何かに苦しんでいるのだろうか。もしや、心のどこかでは俺に縛られていると感じていて…………?
「大丈夫よ、心配しないで。少なくとも、あなたが考えているような悩みは抱えてないわ」
「うわっ!?え、永琳先生!?来てたんすか!?」
「何よ、来ちゃ悪いの?家族だけのパーティかしらこれは?」
「あ、いえ……」
「ったく。……話は戻すけれど、巫月ちゃんは心からあなたが大好きみたいだから、問題は無いわよ」
「永琳先生、《考えを読む程度の能力》もあるって自己申告したらどうっすか?」
「そんな高尚なモンじゃないわ。あなた程度の考えくらいすぐ読めるって言ってるのよ」
「……」
「巫月ちゃんの悩みはもっと深層に……。深い深い、それはもう深い悩みよ。私は聞かせてもらったわ」
「えっ」
「でも私は言えない。口止めされてるからね。もし聞きたいならあなたが直接あの子に聞く事ね」
「……ッス」
「まずはウドンゲもエスカルゴも、あの子の戦いを見守りましょう。全てはそれからよ」
「……はい」
「わかったっス……はぁ……」
どこか嫌な予感がしつつも、巫月と霊愛の戦いに目を戻した。そこでは娘2人が激しく取っ組み合い力いっぱいに戦っていた。