巫月が闇の弾幕まで使い始めたのはかなり予想外だった。霊愛にとっても全くの想定外だった事は、想像に難くない。
だが、何故だろうか。アレが本当に巫月の奥の手だったのだろうか?────そう思えてならない。
ハッキリ言えば、さっきのアレはカウンターだ。カウンターに奥の手を使うのだろうか?あの攻撃は別にカウンターに特化した技ではなく普通の弾幕の攻撃だ。それをカウンター的タイミングで使用しただけの事。
俺なら奥の手はトドメやクライマックスまで温存するだろう。巫月は俺に似た思考回路の持ち主だ、少なくとも俺に近い事は考えているはず。
永琳やサグメに影響され、賢者らしい思考回路になったとでも言うのか。いやそれは無い。巫月ほど確固たる「己」を持っている子供を俺は知らない。
だから、師に影響されたという事は無いだろう。そして俺の「いつものパターン」では、新技を開発する時は
「流石は霊愛、次代の巫女だね。あんまし勝てる気しないよ」
「いや、どの口で言ってんのソレ。どれもマトモに喰らってないくせにッ!!」
霊力をたっぷり込めたお祓い棒を使い、接近戦を仕掛ける。巫月はスルリと躱し手刀で攻撃するも、今の霊愛は吸血鬼。今の頑丈さは巫月以上である。
喰らいはしても大したダメージにはならず、寧ろ喰らいながらお祓い棒を振るい彼女の脇腹に当て、吹っ飛ばす。
「喰らえええぇぇぁあああああああっ!!」
「がッ……」
「今度こそ……ッ!霊符『夢想封印 夢幻』ッ!!」
今回は本気でトドメを刺す勢いだ。膨大な霊力を消費し、ホーミング弾の密度は俺、いやフラン並。一つ一つの弾に込められている霊力も尋常ではない密度だ。触れたら手が消し飛びそうな程だ。巫月は混血なので、吸血鬼そのものである俺よりは効果は薄いのだろうが、心配になってしまう。
「……こりゃ本気だね」
「当ったり前だよ!!お姉ちゃんを倒さないとッ……私は巫女として一人前になれない!強くなきゃっ、博麗の巫女は務まらない!!」
「でも博麗の巫女は危ない仕事だよねぇ……。異変が起きたら解決しなくちゃ。でも、まだ子供な霊愛にそんな仕事はさせられないよ。ここは、お姉ちゃん勝っとかないとね」
「させるかぁぁぁぁあああああっっ!!」
「ったく、相変わらず聞く耳を持たないんだから。仕方ないね。────『
フィールド全体を囲むように、やや青みがかった結界が出現。どこかで感じた気配だなとそれを見て訝しんでいると、隣の鈴仙が真っ先に声を上げた。
「これは……月の都の……ッ!?」
「!」
そうだ、この妙に澄んだ気配を纏う結界。これは月の都を囲うあの結界だ。へカーティア、ピース、純狐が組んでも壊れない、多くの神から力を貰ってやっと破壊が叶う超強固なあの結界だった。
そしてその気配に釣られたのか、へカーティアに加えて紫さんまでもがこの場に現れた。
「ッ……!?どういう事……月の民が何か仕掛けた……ワケじゃないのね?」
「第一声がそれスか紫さん」
「仕方ないでしょう。幻想郷、いや地上にこんなに澄んだ……浄化されて清らかな『何か』が自然に出現するはずがない。サグメが来た時のように月の民が侵入してきたと考える方が自然よ」
依姫や豊姫が何度も地上に来ていた気がするが、まぁあの2人の事だ、気配を隠していたんだろう。そうでないと紫さんが動き出すと読んで。
「そーね、私も同意見よ。何事かと思ってギリシャほっぽり出して
「あらあら。エスカルゴを利用して成り上がったはイイけれど、色々と苦労しているのね」
「うふふっ、あなた程の苦労人じゃあないわ、紫?もう平定も統治も終わってるしねぇ」
「……」
「……」
「何喧嘩してんすか」
「「喧嘩してない
「……そっすか。まぁ、来たならついでにあの2人の試合、見てって下さいよ。どっちも自慢の娘です」
「ふむ。私は霊愛が勝つと思うわ」
「甘いわね、私は巫月ちゃんが勝つと思うわ。力が全てだもの。どう見てもあらゆる面で巫月ちゃんが勝ってるわ」
「……フッ、脳筋の神はこれだから困る。力で全ては決まらない。最後にものを言うのは頭脳よ」
「それはどぉ〜かしらぁ!?ねぇエスカルゴくん、巫月ちゃんが勝つわよねぇ!?」
「あは、あははは……ま、まぁ、どっちも頑張れ〜、ですかねぇ……あはははは……」
((逃げたなコイツ……))
実を言うと俺は巫月に勝ってもらいたい。やはり巫月は特別な子だ。一番最初の子だし、霊愛にまだ異変解決に行ってほしくないというのもある。だが仕方ない。霊愛がやる気満々なら俺は彼女に任せるだけだ。
しかし、だからこそ。だからこそだ。俺で霊愛を止められないなら巫月に霊愛を止めてもらいたい。霊愛も俺の子。危ない目に遭ってほしくない。まだ異変なんかは霊夢に、魔理沙に、俺にでも任せればいいんだ。子供は大人しく修行していてもらいたいというのが親心だ。
「何、この……気配……どこか、落ち着かない……」
「これはね、月の都を守護する結界の模造品だよ。清らかなモノを受け入れ、邪なモノを跳ね除ける。今の霊愛は吸血鬼だから、居るだけでキツいよね」
「ッ……!でもお姉ちゃんは妖怪、お姉ちゃんだってキツイはず!」
「私が作った結界だよ?私に不都合があるワケないじゃん。当然『術者以外に影響を与える』みたいな制約があるよ」
「……っ!!」
「しかもこれ、純粋な結界じゃないもん」
「!?」
「どうして霊力使いや神は『結界』?どうして魔力使いは『バリア』?そう……似て非なるものだから。でも私はそれを1つに束ねたの」
「!?」
「
「ッ!」
巫月は霊愛に、急激な気温の変化、いやそれより対策が不可能な、大規模な環境的デバフを与えた。空間そのものに作用するなら対策のしようがない。しかもその強度は、月の都の結界に少し劣る程度に見える。
幾ら永琳やサグメの知恵や、その他の研究が捗る永遠亭に身を置いていたからと……。
「いや、待てよ。結界とバリアを統合した超防御、だったら……
「────ッ!!言われてみれば最近の巫月、私も読めない文字で書かれてた本をよく読んでいた気がするけど……。でも私は兵士で、あんまり勉強とかはしなかったから、普通に月の言語なんだろうなって思ってスルーしてたけど……っ」
「魔術の本、だった……?いや、パチュリーや小悪魔からも巫月が紅魔館に来てるって話は聞いてねえ。小鈴からも聞いてないし、香霖堂……には魔導書系は無いだろうが、魔理沙から巫月が遊びに来たなんて話も聞いてない。もし鈴仙が見たその本がマジならその本の出処は……?」
《ああ、それきっと魔界の本よ?》
《母さんッ!?》
《ほら、小さいアリスちゃんと巫月ちゃん、今でもよく遊んでるって言ったじゃない?》
《あ、ああ……。確かにロリアリスと巫月には交流はあるけどさ……》
《あなた並に好奇心が旺盛なんだし、魔法に興味を示すのも時間の問題だった。それだけよ》
《ま、マジかぁ……。でもそれなら納得だよ。だって魔界の魔法は幻想郷発の魔法より強いのが多いし、他の技術との親和性も高いしな。ロリアリスと俺が組んだ時だって、ぶっつけ本番で上手く魔法が発動したくらいだもんな……》
《そういう事。それを巫月ちゃんは1人でやった、というだけよ》
《……成長だねぇ》
《成長ねぇ……》
俺の表情変化を見て何となく察した鈴仙。一方、俺と母さんの会話を盗み聞きしたへカーティアは、うんうんと頷いている。
紫さんは巫月の実力に目を見張り、勝負の行方を見届けようと食い入るように2人を見つめている。
「ぐ、く、うぅっ……!」
「月の都、凄く神聖な所なんだよ。不浄なる者は、受け入れないんだって。だから、亡霊さんは自然に行動できるんだって。既に死んでるから。でも生者だとすぐバレる。守護すると同時に、穢れ発見機になってるんだってさ。便利だよねぇ。二重に効果があると……一石二鳥でお手軽♪」
「まさか……この結界も……!?」
「いやぁ流石にそれは無理だよ。会得したばっかの技術だもん、オリジナリティはこれから…………ね。でも、この
「!?」
「私が勝てば、私が子供達で最強だと証明出来る。私が勝てば、霊愛をまだ異変解決に行かせなくても済む。一石二鳥……ふふっ♪」
「そんなの、させないッ……!!こうなったらもう、押しまくるしかない!霊符『夢想封印 夢幻』!」
「んっん〜……霊力の弾幕なら流石に消えない、か。じゃあこれなら────雷壁『雷纏反撃壁』!」
「それはお父さんの……ッ!ぶっ壊してやる!!」
「反撃するけどね」
そう、それがホーミング弾の悲しい所だ。標的に真っ直ぐ進むせいで、間にカウンター技を挟めば、まんまとそれに引っ掛かりカウンターに利用されてしまう。
霊愛の霊力弾は巫月の雷に包まれ、彼女の攻撃に転用されてしまう。弾幕を回避するのは夢想封印を放ったはずの霊愛である。
「ぐ、くる、しいっ……くっ、なんで、こんなに空は晴れてるのッ……せめて、雲があれば……!!」
「……!そっか、霊愛は『満月の夜に吸血鬼化する』ワケじゃないもんね。あくまでも『満月の光』か。成程、そうだったね。でも吸血鬼化が解けても少し楽になる程度だと思うけどね」
「だとしてもッ!お姉ちゃんを倒すのに、今のままじゃあ……ハーッ、ハーッ……ダメ、じゃん……!」
「ふふ……もう少しで最強の座は私のモノ……♡」
◆
────どうすればいい。一体どうすれば、私はお姉ちゃんに勝てるんだろう。陰陽玉からも弾幕を放ってはいるけれど、効いている様子は無い。いやそもそも当たってない。攻撃力が足りていないからなのか、まだまだ反撃壁を壊せそうにない。
《ダメですねぇ、博麗霊愛くん。まるでダメです。それではいつまで経ってもお姉さんに勝てません。1年、いや10年経とうとも差は縮まらない。いや、広がる一方でしょうね》
《じゃあどうしろっての!?魅須丸!!》
《陰陽玉は力を吸い、一気に解放します。あなたはまだ陰陽玉を使いこなせていないので、そもそも、力を吸わせてさえいないのです。なので、せめて、力を吸わせれば逆転の目が見えてくるかもです……と製作者からアドバイスしておきましょうかね》
《力を、吸う?》
《ええ。どうやったら相手の力を受けられるのか、それは何となく肌感覚で分かっているのでは?》
《……うん。何となく、だけど。確信もないけれど。それでも、何となく……!!》
《よろしい。ならば行きなさい、次代の巫女よ!》
《言われなくても!!》
力を受け陰陽玉に吸わせる方法は分かる。何故か知ってる。陰陽玉の使い方と同時に習った、というワケでもない。でも、何故かよく知ってるんだ。
無理だと思ってずっとやらなかったけど、ここで一歩を踏み出さなきゃ────本当に負ける。
「お姉ちゃん!私はお姉ちゃんを倒すッ!!」
「!」
「はあああああああぁぁぁっっ……!!」
改めて宣言して、私は飛び出す。勝つ為に。姉にトドメを刺し、勝利を手にする為に。
お祓い棒で攻撃するのは変わらないけれど霊力を込めるのはやめだ。力の吸収の邪魔になっている。敢えて強化を止めれば、きっと……。
「あれあれ?お祓い棒を強化する霊力すら無いの?もう勝負はお終いに近いのかな。後は……殴り合い?なのかな?」
「ハァッ、ハァッ……そう、だねッ……!!」
お祓い棒を素手で受け止めるお姉ちゃん。ほんの僅かだけど、陰陽玉に力が蓄えられたのを感じた。
そんな姉が丁度よく「殴り合い」を提案してきた事もあり、敢えてそれにノった。お祓い棒で連打、連打、連打、連打。しかしお姉ちゃんはそれを全て素手で受け止める。パシンパシンと小気味よい音が夜空に響く。
そんな時、陰陽玉がカッと青白い光を放った。
「……キた……!」
「これは……何か、嫌な予感がするッ!!」
「逃げられないよお姉ちゃん。これで終わりだッ!
『夢想天生』ッッッ!!!!」
「え……ええっ!?」
陰陽玉に溜まった力が、御札の形となり全方位に散らばる。これはまさに回避不可能な弾幕で、姉の強固な、空間そのものに作用するこの結界の事も、ボロボロにしてしまった。壊れるまでもう少し。
「あっ!?……ちぇーっ、まぁまだ開発段階だもん、壊されてもプライドに傷付いたりしないけどさー。まさか土壇場で覚醒するとは……ッ」
反撃壁を盾にして防御しているけど、それもすぐヒビが走り粉砕。何重もの反撃壁を用意するけれどそれすら次々に壊れていく。
(ヤバイヤバイヤバイ、生成が追い付かないっ……!スキマは開けるけどスキマ空間はまだ作れないし……いやこの御札の量、ヤバイって!視界全部が紫色……いやでも、この強さなら異変解決に行かせても全く問題ないよねぇ……)
「まだまだぁぁぁぁっ!!」
(あれ?でもこの御札、ホーミングじゃないんだ?ふーん……
「これで────!!」
最後の反撃壁が壊れるその瞬間、お姉ちゃんは、自分の目の前に巨大なスキマを開いた。何かが発射される様子はない。私は構わず力の解放を続けた。けれど、御札はスキマに飲み込まれ続けるだけ。
しかもスキマの出口はお姉ちゃんの結界の外側。御札を完璧に逃がしていた。
「ウソでしょ……!?これを、完封するなんて……、そんなの、あるわけ……!!」
「ホーミングならまだ勝機はあった……かもね。私はまだスキマの多重展開は難しいし、方向や数で押す戦法なら通じたかも。でもその場合は雷纏反撃壁でどうにかしたケド」
「お姉ちゃん……無敵なのッ……!?」
(実はもうそんなに余裕ないんだよねぇ〜……魔力が少なすぎてこれ以上はブッ倒れる……流石に何時間も昏倒するのはマズイもんね。エッチする機会を逃すなんて有り得ないし。だから守護神話はもう無理。維持しない方が私の為だね)
「そん、な…………壊せたのが、結界だけ、なんて……そんなぁ…………ううっ……ううううぅぅぅっっ……!!うあああああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
私の叫びに呼応して弾幕の密度は上がっていく。けど、現実は非情だ。お姉ちゃんの力量的に考えてスキマの持続時間は長くない。だからせめてもっと長く出し続けられたなら良かったのに──スキマが閉じるより早く、私の夢想天生が終わりを告げた。
「はぁっ、はぁっ……く、うぅっ…………」
「っ……!あっぶな……もう少しでスキマ閉じるトコだったよ、霊愛」
「ううっ……」
「じゃあ……一閃『Mishap of Thunder』」
私の頭上に魔法陣が広がる。アレがただの見掛けだけの魔法陣なのは知ってる。あそこから、極太の雷を落とすんだ。
もう回避する気力すらない。霊力を極限まで消費したからだ。これ以上はブッ倒れる。墜落して気絶するって、自分で分かる。
《────力を、貸しましょうか?》
《魅須丸……。でもこれは私の戦いだよ。必要ない。私がもっともっともっともっともっと修行して強くなればいいんだから》
《その間にも巫月・優曇華院・スカーレットくんは勉強に修行に明け暮れ、力を高めるのでしょうね。差は縮まりませんよ。良くて『追い掛ける』程度。私は、そう思いますがね?》
《ッ……》
《それに、『私の戦い』と私の助力を否定するのはあなたの両親を否定する事にも繋がると思います。博麗霊夢くんもエスカルゴ・スカーレットくんも、神の力を借りて戦う事に何の負い目もありません。強さを欲するのならば、もっと力を欲するのです。さぁ、博麗霊愛くん。私の力を欲しなさい》
《……分かったよ。お願い、魅須丸》
《全く、あなたという子は。最初から、そう言えばいいのですよ。だからあなたは、いつまで経っても甘えるのが下手なんです。少しは父親を見習っては如何ですかね?誰にでも甘えているでしょう、あの甘ちゃん吸血鬼は》
《……確かにね》
ドクンッと強く脈打ったと感じた瞬間に、ドッと力が流れ込んできた。魅須丸の……真の意味での昔の神の力だ。神の力なら月の力にも対抗できる。もし次にあの結界を使われたとしても魅須丸となら破壊できる。
広がりつつある頭上の魔法陣を見つめ、深呼吸。
────まだ、勝負は終わってない。
非想天則の夢想天生、まさに陰陽玉の設定の通りの手順を踏んでると思うんです。相手に攻撃を当ててやっと夢想天生が発動、対人だと中々大変ですが、その分効果は絶大ですからね……マジで強すぎる。
でも直進だからね、対処されるのも仕方ないね。
人間が、お地蔵が、僧侶が魔法を扱える世界です。巫月が使えないワケないですね。魔力の少なさまでエスカルゴに似てしまっています。可愛いですね。
夢想天生を見た親子の反応
エスカルゴ→あ、オワタ
巫月→ヤバッ!?でも弾幕の性質的に対処可能かも
これが頭脳の差。悲しいですね。
実の娘(月の頭脳の新弟子)に嫁の大技の攻略法をお出しされるエスカルゴの心中や如何に。