「……!」
霊愛の目が変わった。やる気に満ち溢れてるって感じに見える。お姉ちゃんの私に勝てば──なんて考えてるんだろう。
でも私は負けられない。エスカルゴとエッチする為だけじゃない。最強の座を譲らない為でもない。ただただ、私は強く在りたい。それだけの理由だ。
そりゃ、ご褒美エッチもしたいし、19人の中での最強を維持したいのも嘘じゃない。でも、何よりも大きな理由は、と聞かれたなら、きっと私は、こう答えるだろう。「ただ強く在りたいから」と。
そこには理由なんて存在しない。強ければいい。強ければ私の望むモノは手に入るからだ。そして、強ければ、大抵の事は何とでもなる。
「いくよお姉ちゃん!もう限界だよっ!!」
「……ふふ、私もだよ霊愛」
霊力も体力も、色々と焦らされて色んな意味での限界を迎えそうなんだろう。
これは最近分かった事だけど、私の幻覚の能力は私の心が大きく関係しているみたいだ。身体が酷く疲れていて雷のエネルギーを消費していても、心が元気なら綺麗な幻覚を魅せられる。でも心が疲れていたなら、像はブレて、音にノイズが混じるようになってしまう。
つまりは、今の私は、集中力が切れてきている……という事だ。エスカルゴが知ったら落胆するかな。いや、エスカルゴの事だしそれは無いか。
「……ふふっ」
ダメだ。作り笑いにも疲れた。口元しかマトモに動かせやしない。やっぱり「最強のお姉ちゃん」を演じるのも楽じゃない。ここは、ただの「最強」を演じるか。
「……霊愛。まだ降参しないつもりなら──」
「降参なんてしない!私がお姉ちゃんを倒す!!」
「──ちょっとだけ、痛くするよ」
「フンッ、痛いの上等!次代の巫女……いや、博麗の巫女見習いを舐めない事だよっ!!痛い修業なんて日常茶飯事だもんね!!」
「あ、そう……オーケー、霊愛……ふぅ……分かった。じゃあもう、いっか……決着、でも……」
(お姉ちゃん……疲れてきてるの?そうか、今の私は吸血鬼だから、体力的にお姉ちゃんを上回ってるのかもしれないのかっ!……露骨すぎて演技を疑いたくなるくらいだけど、罠だろうと、踏み入った上で、木っ端微塵に破壊してやる!)
ゴッと加速して迫ってくる。その手には未強化のお祓い棒。アレで私を攻撃して、また何回か攻撃を当てれば、あの「夢想天生」の使用に必要なだけの力が溜まる……って感じなのかも。
だったら、わざわざ喰らってやる義理はないね。あんなの喰らったら負けは確実だ。魔力はほぼ枯渇してる。魔力不足のせいで守護神話が使えないから次は絶対に防御できない。
さっきは何回攻撃を受けて夢想天生になったか。確か、7、8回くらいだったと感じたが。ここは、エスカルゴらしく「ラッキー7」に賭けて、7回の攻撃を喰らったら夢想天生と仮定しよう。
すると、6回までは何とか喰らえる計算になる。
「……ハッ。ばっかじゃないの……?」
思わず素の笑いが零れた。
────OK、認めよう。今の私は疲れている。こんな、攻撃を喰らう前提の作戦を……甘えた作戦を考え付く時点で私は負けてる。気持ちで負けてる。
甘えるな。少なくとも、それは「今」じゃない。終わってからこれでもかと甘えればいい。甘々で、ダメダメで、誰よりも大好きな、あの人に。
私は強く在らなくては。絶対に。何があっても。たとえ実の母親から咎められたとしても、妹や弟に
「私達は弱いんだ」という厳しい現実を突き付ける結果になったとしても。
大事な勝負所では、決して手を抜かない。それが敗者達への手向けだと、私は知っている。
接戦だった。もう少しで勝てたのに。そういった次への希望を抱いていた時に「実は接戦を演じてただけだったんだよ」と後で知らされる方が、ずっと惨めで、残酷で、無様じゃないか。
だから、もう手を抜かない。接戦になったのなら全力を尽くして────殺す気で、妹をブチ倒す。
「地獄の雷よ。地上に
チラリと地獄の女神とやらを見てみると、表情は驚愕一色に染まっていた。雷を走らせ、地上に紋を描き、地獄の雷を召喚するというこのエスカルゴのスペカは魔法と能力の併せ技らしい。残った少ない魔力で、ここからもう1段階、進化させてやる。
「獄雷『
「っ……きゃあああああああああっっ!!」
地面から吹き出した赤黒い雷は、弾幕として利用するし、次なるスペカ、ジゴデインの布石としても利用する。
すると倍以上の量、威力となって地獄の雷は噴出してくる。技を生贄にして技を使うと威力は上がるらしい。
でもそれによって霊愛が私に近付けないでいる。これでいい。後は魔力を使い切る寸前で技を途中で終了させれば────。
「何のこれしきィィィ……!!」
「……なっ」
結界で耐えていた。そりゃそうだ、一方向からの攻撃なんて、私が夢想天生を完封したのと同じように防げて当然だ。
しかも今の私は魔力が足りていないので、正直、技の発動や維持だけでも精一杯。威力にはそこまで意識をやれない。
とはいえ、威力が上がったのは間違いないが……。
いや、霊愛の霊力が、どこがおかしい。まるで、何かから力を借りているかのように、霊力と何かが混ざりあっている。力の波長がどこか乱れている。
そうか、神か。神から力を借りているから折れた心が持ち直して、あまつさえ反撃の予兆を覗かせて未だ私の攻撃に耐え忍んでいるんだ。
「度し難い、度し難いねぇ、霊愛…………どこまでもお姉ちゃんに勝とうとする……その根性……!ふふ、ふふふふふふふふふふふふ、ふふふふふふふふっ……あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっ!!!」
「お……お姉……ちゃん……?」
「いいよぉ!!かなり疲れてるケド……それはもう、ヘットヘトだけどッ……!こっからはもう、メンドイ理屈は抜きだよぉ!全身全霊、ガチ本気で、相手、してあげるァッ!!」
「っっ」
全身全霊、力を振り絞って、霊愛に立ち向かう。拳の向かう先は霊愛の左頬。よりによって私の手がエスカルゴが好きな部分を傷付けるなんてね、とも思わなくもないけど、負けたくない。今の霊愛は、吸血鬼。遠慮は要らない。寧ろ私が押し負けそうなくらいなんだ。手を抜いたら負ける。負けるんだ。
◆
「……巫月、久しぶりに堕ちたわね」
「そーだな……まぁ、今の霊愛なら耐えられんだろ、吸血鬼だし」
「そうね。にしてもどうして巫月が……」
「だねぇ……ホントに不思議だよなぁ、巫月だけ属性モリモリ過ぎてよぉ」
「そうね……」
「ねー、エスカルゴくん。イマイチ話が見えないんだけど、堕ちたとか属性モリモリとか、何の話?」
狂気に堕ちた巫月について鈴仙と話していると、どこかの芸人のように顔を出したへカーティアが、話に割り込んでくる。
「巫月、俺の子供達の中では珍しい狂気持ちみたいなんだよね。最近だと霊麗がその片鱗を見せたって報告は聞いてるけど、明確に狂気持ちなのは、実は巫月だけなんだ」
「へぇ〜。それ、凶暴化って解釈でOK?」
「うん、大体は。人格が変わったかのように一気に凶暴になって襲い掛かる。自我が有るか無いかは、その人によるけどね」
「エスカルゴくんの場合は無さそうね」
「正解。修行してある程度は保てるようにはなったけどね。……巫月の場合は、幼い頃は自我なんて全く無かったけど、今のあの様子を見るに、割と自我は有りそう。俺より狂気を克服するの早いなんてな。成長性Aを超えてSSSくらいはありそうだなぁ」
「暢気ねぇ、次女がソレと戦ってんのよ?」
「いやぁ、霊愛もちゃんと防御してるし、あんまし心配する要素が無いんだよね。見たところ近くには雲も無いから、吸血鬼化が解ける心配も無いしね。だから相変わらず『どっちも頑張れ』状態なワケ。俺としては長女に勝ってほしいとこだけども……」
「相変わらず巫月ちゃんラブねぇ」
「てかもう愛してる♡……ニシシッ♪」
「病気ね。ねぇ、鈴仙?」
「ええそーね、本当に……」
◆
マズイ。一気に押されてきている。動きはまるで滅茶苦茶だ。それはもう読みようがないくらいに。何とかお祓い棒で「受け止める」のが精一杯で攻撃なんてしようがない。カウンターすらままならない状態でお姉ちゃんを倒すなんて、どうすれば。
「くぅあああああああぁぁぁぁぁっっ!!!」
「んぎぎぎっ……
「どーかなァッ!あっははははは!どりゃああああああああぁぁぁぁぁっっ!!」
「!!」
拳を受け止めてきたせいでお祓い棒がビキビキと嫌な音を立てるようになってきた。折れかけてる。間違いなく。これ以上はマズイ。もし折れたなら、攻撃手段は拳か弾幕しかない。
「こうなったら相打ち覚悟で!はああぁぁっ!!」
拳は最低限の動きで回避する。所々を掠り、血が流れても、私はお祓い棒を振るう。
「霊愛ああああああぁぁぁぁぁ!!!」
「絶対、勝つ!!」
「しまっ────ッ!」
連続で軽い突き技をお見舞いしてやった。これであと1発。あと1発さえ当てられれば、今度こそ、トドメの夢想天生を使う事ができる。
お姉ちゃんにはスキマを開く余力は無い。次こそ勝てるんだ。
「さ・せ・る・かァァァァァ!!!」
「させてもらうからァァァァァッッ!!!」
殴り殴られ、やっと隙が見えた。左ストレートで顔を背けてやった瞬間、左での蹴りで攻撃を当ててやった。陰陽玉はまた青白い光を放ち────。
「『夢想天生』ッッッ!!!!」
「狂砲『
大量に放たれる御札、そしてお姉ちゃんから太いレーザーが放たれ空中でバチバチと火花を散らしてぶつかり合う。
御札は燃やされ消えていくが次々と放たれるので何とかレーザーにも対抗できているらしい。だから私はこのまま技を維持するだけ。お姉ちゃんだって余力はもう無いのだから。
《待つのです博麗霊愛くん!!》
《ッ!?》
《技を維持して相手の消耗を待ったのでは負ける!今のうちに一気に押し込まなければ!!》
《はァ!?何だってそんな無駄な事を────いや待って!まさか…………まさかッ!!》
《────ええ、そうですよ》
「……掛かったね、霊愛っ♡」
レーザーが薄くなると、御札を燃やさずに一気に突き進んできた。今回のスペカは「貫通ver」。寧ろこれが本領だった。
「あぐぁぁああああああああぁぁぁぁっっ…………」
「まだまだああああああああああっっ……!!」
全身が痙攣する。力が入らない。霊力を形にする事ができない。弾幕も放てない。上手くできない。足も。手も。頭も。身体も。
《霊愛くん!気をしっかり持って!!私を神降ろしすればあと数秒は耐えられます!!》
────無理だよ、魅須丸。神降ろしなんてもうできっこないよ。最強は……やっぱお姉ちゃんだね。
◆
「おおおおおおっ、巫月が勝った!!霊愛もスゲェギリだった……やりやがるぜ2人共……!!」
落ちてきた霊愛は霊夢が受け止めたので、俺は、まるで落ちるように着地してきた巫月をギリギリの所で受け止めた。
「危なかったな巫月」
「うん……。ね、エスカルゴ……ご褒美……」
「あ、ああ……そうだな。紅魔館の中、行くか?」
「……明日、お願い……」
「え?あ、うん、そうだな、そうしよう」
疲れからか、そのまま深い眠りに落ちてしまった巫月であった。
◆
「巫月ちゃん、強かったわね」
「そだね。霊愛お姉ちゃんでもダメだったんだから私じゃ勝てないね」
「そうね。もし巫月ちゃんが異変に参加したなら、弾幕の美しさで争うしか……勝つ手は無いわね」
「……霊愛お姉ちゃんも強かったね」
「本当にそうね。まさか、土壇場で『夢想天生』を二度も発動させるなんて。見様見真似とはいえよくやってくれた。これでもう、安心して博麗の巫女をあの子に継がせられる…………」
そう呟いた霊夢の顔は、どこか晴れやかで、何か決心をしたように、霊麗の目には写った。