霊夢と……今となっては霊愛とお揃いの陰陽玉だ。それだけで心が浮き足立って来るような気がする。トクン、トクン、と普段通りのリズムながらも普段よりも大きめの拍動を感じる。
「さぁ、お先にどうぞエスカルゴさん!」
「おう。いっくぜェッ!!」
陰陽玉を操り周囲を防御しつつ美鈴に迫る。だが美鈴は流石だ。俺への警戒もしながら、陰陽玉への警戒も忘れていない。陰陽玉を動かそうとすると、その方向に行かないよう回避を始めている。
美鈴の事なので、大方俺の「力の流れ」を読んでいるんだろう。勿論そんなのは分かるのだが、そう簡単にコントロールできるのなら苦労はしない。
「負けたくねーから能力フルに活用してくぜ……!」
まずは《異世界に移動する程度の能力》の使用。この能力を使用するには、まず「仮定」が必要だ。だから、美鈴の周囲約1m全て「異世界」と仮定。この1mという数字は、陰陽玉含む肉弾戦での俺の射程だ。仮定が済めば、後はいつでも転移可能だ。
次に、何年か前の誕生日プレゼントとして貰った
《重力を操る程度の能力》の使用。ただし、美鈴に長時間能力を掛けていてもすぐ対応されるだろう。使用するなら
「重符『グラビティ6』ッ!!」
「くぉっ!?」
グッと体勢が崩れた。この瞬間を逃す手はない。
「喰らえッ!!」
陰陽玉での連撃に加え、手でも足でも攻撃する。しかし動きを読まれるのか、受け止められたり軽くいなされたりする。
陰陽玉の方は防ぎたくても防げないようで、まだ何とか攻撃を当てられていた。ゴツゴツッ、と所々嫌な音がするのだが、陰陽玉を物理的にぶつければそりゃそんな音もするだろう。
「やっぱり肉弾戦が一番ですっ!気持ちいい!!」
「!!」
まだ重力の能力を解除していないにもかかわらず高く飛び上がる美鈴。そのまま地球の6倍の重力を利用し、真っ逆さまに急降下してくる。
重力の「縛り」に慣れるのが早い。余りに早い。俺はドラゴンボールの悟空と戦ってるのだろうかと妄想に逃げたくなる。重力が効かないなんてまさにそっち系のヤツらだ。
「6倍などこれまでに何度も喰らってますからね!ほああぁッ!!!」
「ぎッ……」
何とか飛び退こうとしたが、6倍の重力加速度を利用した彼女の手刀による突きは、スパァッと瞼を切り裂いた。一時的に視界が半減。その隙に美鈴は俺を空中に蹴り上げ────。
「気功符『かめはめ────」
「『影縫い』ッ!」
「はぅあっ!?」
美鈴の動きは、力を解放する寸前で固定された。闇の集合体である影分身を美鈴の影に溶け込ませ、影分身そのものの動きを固定。そうする事で、少し間接的にはなるが美鈴の動きも固定できる。
「うわわわわっ、これは大ピンチですよ……!」
「かもなぁ。影分身は美鈴の影に溶け込んでるから光源の角度を変えても意味はない。さぁどうする?このまま俺の攻撃を受けるかい?」
「……ですねぇ、そうしましょう!」
「勿論、陰陽玉をぶつけるつもりではあったけど。そんじゃあ、これでどうだッ!」
ドガガガガガッと陰陽玉をぶつける。当然ながら顔は狙わない。そして力が溜まるのを感じている。俺からも霊力を流すと、それが増幅されて倍増した霊力弾が放たれるようになってきた。
「
おかしいとは常々思っていた。御札バージョンの夢想天生は、どう考えても所持不可能な量の御札を放っている。その理由は、武器そのものにあった。
霊力を、陰陽玉を通して御札という形に変換して放っていたのだ。だからこそその気になれば霊力が尽きるまで幾らでも技を放てるのである。
「あばばばばばばばばばば……」
「流石の美鈴もこの御札の量には耐えられ……え?」
「なーんちゃって!はあッ!!」
「!?」
ノーモーションで地面の影を狙って弾幕を放つ。影分身は限りなく薄っぺらなだけで、物理的に存在している。つまり弾幕での破壊が可能。
己の影に溶け込んだ影分身を破壊すると、美鈴は呆気に取られて動きを止めていた俺を思い切り強く蹴飛ばし、湖の淵にまで追い詰めた。
「ふぅっ……まだまだ一撃一撃が弱いですね!何か、霊力弾そのものは強いんですけどね、綿飴みたいに中身がないっていうか、フワフワしてるっていうかそんな感じなんです!霊力に密度が無い!そうっ、大体そんな感じなんです!」
知ってる。そんな事は知ってる。だが力の流れはすぐに克服できるものでもないし、ましてや弾幕に込める力の密度なんて霊愛のように変幻自在な方が異端だ。
大なり小なり調整は誰もができるだろう。だが、俺の霊力弾は、全力を尽くして密度を濃くしたってこの程度。自我があるかどうかも分からない雑魚を滅する程度だ。
飛び抜けた上級妖怪ではない美鈴にだって痛手を負わせられない。手を抜いていなくてこれだ、俺の霊力面での成長性は絶望的だろう。
「おっかしーよな、こんなに能力に恵まれてんのに大して強者にゃ勝てやしねー。なんだろう、能力の使い方が悪いのかな。もっと頭を使わねーとだな。はぁ……もし巫月が俺の能力持ってたらフル活用して最強になりそうだ……おっかねーな」
「そうですね。巫月ちゃんは、子供達の誰より頭がキレる。非常に侮れません」
「俺の強さは間違いなく《雷を操る程度の能力》に依存してる。だからそれ以外も鍛えようと思った。だが、まだ早かったみてーだな」
「早くはないと思いますよ。エスカルゴさんくらい吸収力があるのならどうにでもなるかと思います。もう少し自分の感覚を信じてあげては?」
「あぁありがとう美鈴、優しい言葉だ、実に優しい言葉だよ。でもな?でも、違うんだよ、そう簡単な問題でもない。俺は感覚派じゃあねーんだ。理屈でどうこう考えて、マジで最後の最後にやっと自分の勘を信じるッ!!だが、それはただの『思考放棄』なんだよ!こんなんだから俺は、天才共にゃこうも追い付けねーけど……!それでも、どうにかして皆に近付くって決めたんだ!俺が強くなる為にッ!!」
力が、陰陽玉に充填されたのを感じた。イける。何故だかそう感じた。確信は持てない上に、本当にイけるかどうかも分からない。でも────理屈で説明できない、けれど。
「俺は強くなる!使えるモン全てを使ってなッ!!
『夢想天生・邪』ッ!!」
光る電球に黒いフィルムでも貼ったかのような、暗い光が陰陽玉から発せられる。すると、黒塗りの御札が霊夢の夢想天生と遜色ない程に飛び出した。
「この密度はッ!……でもエスカルゴさん、あなたをその強さまで押し上げたのは他でもない、あなたの本能です!野生の勘です!暴走や狂気を抑えようとするあまり、理性が強くなりすぎたのでは!?」
「なにィ!?」
「あなたはもっと勘に任せるべきだ!そうしてこそ理屈なんかでは到底説明できない、飛躍的な成長ができる!
「……!」
御札をグレイズし、または弾幕で相殺しながら、御札の雨の中を美鈴は突き進んでくる。まだまだ、霊力の密度が薄いから簡単に突破されてしまう。
負けじと陰陽玉に霊力を込めて増幅し御札として放つもすぐに霊力が枯れてしまった。霊愛の半分の時間も、夢想天生を維持できなかった。
「これでトドメです!!」
「────俺ならそのセリフ、失敗フラグなのに」
ニッ!と眩しい程の満面の笑みで放たれた美鈴の拳を、腹で受け止め、幾度目かの敗北を喫した。
◆
「……コツ、少し分かったよ」
「おおっ!何です何ですっ!?」
「多分だけど『想い』だな。霊夢のと、原理はまた違うだろうけどさ。力を流すだけじゃダメだ。俺が抱く想いの強さに比例して、相手から奪う力も多くなるし、霊力を増幅する割合も変わってくるんだ」
「ほへぇ〜……何でそう思うんです?」
「最後の夢想天生、それまでと比べて霊力の密度が急に上がったでしょ?」
「確かにそうですね」
「俺の霊力の密度を1だとすると倍に増幅したって2程度だ。でもあの夢想天生は明らかに量も密度も4、8倍になってたよな。俺のテンションがハイになったからだ。そんで、あの瞬間は、想いもかなり強いものになってた……」
「……成程です」
「今、俺は陰陽玉に霊力を流してるよ」
「ひえっ!?不意討ちはんたーい!!」
「でも、夢想天生は使えない。敵の力だと仮定して魔力も流してるけど吸収されるだけだ。変だよね、宣言なんてしなくても技は使えるのにね。だから、この陰陽玉を真の意味で使うには、きっと力の他に
『強い想い』が必要なんだろうな」
「じゃあ……強くなりたいって、想わないとですね!本気で!」
「ああ……ホントそうだね。頑張りますかね……」
美鈴は明確な弱点がないので彼女に勝つには正攻法しかないです。エスカルゴの場合は痺れさせる事が出来るので楽ですが、それを封じられるとまだまだこんなモンです。