クリスマスが終わればもう年末だ。新たな武器も2つの内の1つは手に入れたので、安心して新年を迎えられる。
そして今、俺は暇潰しついでに地霊殿に向かって地底の空中を飛行している。相変わらずここは少し気温が高いので、避暑地ならぬ避寒地に丁度いい。
キスメとお喋りしたり、ヤマメに軽く絡まれたりパルスィに謎の嫉妬をされ、勇儀と軽く戦い何度か死んで、温泉に浸かり、想いも肉体も一新してから向かった。だから俺の予想より数時間は遅くなってしまった。
地霊殿の外壁や屋根など、所々が中途半端に修繕されているのが気になる。
「……ん〜?お客さんでも来てんのかな」
地霊殿から感じられる気配が普段より2つ多い。1つはさとりに似ていて、もう1つは消えそうな程小さい。小さい子供みたいだ。
この「さとりに似ている」謎の気配、もしかしてまたあのパターンかもしれない。衣玖さんの時の、妊娠も出産も告げられなかった、あのパターンだ。
「お邪魔しまーす……?」
「あっ、お兄ちゃん!」
「こいし!」
さとりに似た気配の正体は、こいしだった。心を開いて読心能力を取り戻した彼女は、気配も発するようになっていたのだ。しかし無意識の能力もまだ失ってはいないので、オンオフの切り替えができるというのがヤバいと思う。
「どうしたの?久しぶりだねぇ?」
「すまん、新たに3人……いや4人生まれて……」
「えぇ?また一気に?……へぇぇ、十六夜虔魔くん、驪駒駆翔くん、恋夜くん、綺愛羅ちゃん……うわぁ、一気に4人って、お盛んだねぇ」
「いや……ごめん。そりゃ言い訳だな。子供の成長は早いんだし、言い訳せずもうちょっと頻繁にこっち来れたら良かったんだけど……」
「んーん、こっちもこっちで忙しかったからさー。私もそっち行きたかったんだけど……。まっ、次からそうしてくれればいいからさ?」
「……うん」
「来て!会わせたい子がいるの!」
「あ。そういえばお客さんか?微かだけど、気配がするから……」
「ううん違うよ、家族だよ♪」
「え」
サァーッと顔から血の気が引いたのが分かった。こいしとはヤッていないが、さとり、お燐、お空の3人とは何度もヤッてきた。お燐なんて発情期の度ヤッている。俺から頼み込んでヤラせてもらう事も多々ある。お燐はかなりの名器だ。猫特有の舌も、慣れればクセになるというものだ。
ヤる頻度が高いのは、お燐=お空>さとりの順。子供がデキたとするならお空かお燐だろう。恐らくお燐だ。発情期にヤリまくればそうもなるだろう。
彼女や嫁ではなくセフレとの間に子供だなんて、衣玖さん以来だ。
こいしに手を引かれて向かった先にはリビング。一般家庭の数倍の広さの、屋敷ならではの間取り。そこで、さとりやお燐、お空に見守られつつ元気にはしゃいでいる幼女が1人。
黒髪の……鳥のような翼持ちだった。
「あ!ほらほら、お父様が来たよー♪」
「おとーさま!?ぅわーいっ!」
お空が「お父様が来た」と伝えると白いリボンで髪をポニーテールにしている幼女が、俺の太ももにわしっと抱きついてきた。
「おんせんのにおいすりゅねー!おんせんすきー?あたしおんせんしゅきぃ!」
「あ、ああ……そうだね」
「あたしもー!」
「おにーさん来たんだ、久しぶり♪」
「お久しぶりです、エスカルゴさん。……あぁ成程、
「待って待って、何故か引っ付いてくるこの子は?まさかとは思うけど、そのまさかなの?またなの?またなのかッ!?」
「見ての通りです、あなたとお空との子ですよ」
聞いてない聞いてない聞いてない。ただ、遊びに来ただけだというのに、凄い不意打ちだ。あまりに不意打ちすぎて目の前が暗くなってきたようにさえ感じられる。お空と最後にヤッたのはいつだろう。1ヶ月と少し前くらいだっただろうか。
最近は少し地霊殿に来る頻度を増やしていたのでそれに伴ってヤる頻度も増えていた。そして最後にお空とヤッたのは、確か、母さんを孕ませてからのはずだ。
「えっへへ〜……産んじゃった♡」
「ま……マジか……」
「因みにですが、お空は卵生でした。胎生じゃないみたいです。そのお陰でしょうか、産みの苦しみはそこまででもなかったみたいですよ」
「そう……なの?お空?」
「うん!ぽこん!って、飛び出す感じ!」
「そ、そう……」
「20日程で孵化しました。……ですが、不思議なものでしてね、なんとヘソがあるんですよ」
「え?」
「知っての通りですが、普通、卵生の生物に臍などありませんよね。臍の緒は胎盤と赤子を結ぶもの。卵ならその必要がありません。なのに、この子にはあるんです。そこから私はある仮説を考えました。お空の卵は、胎盤が固まったものではないかと」
「ファッ!?」
「胎盤……卵の殻には産まれるまでに成長するだけの栄養が詰まっていて、中の子はその栄養を臍の緒を介して吸収してから産まれてくるのではないかと。現に、卵の殻はかなり薄くなっていましたからね。まるでカタツムリが卵の殻を這った跡のようです。ほら、カタツムリって卵の殻も食べるでしょう?」
「な……なる、ほど……?」
「卵生が卵から、胎生が母胎から。卵胎生が『卵が母胎で孵って体外に出る』ならば、お空の場合は、
こんな話をしている間にも、お空との子供は俺の太ももの間に頭をねじ込もうと、ぐりぐりっと頭を振っている。足の間に頭を挟みたがるという本当の意味での子供っぽさは緋月にも見られない。
どうやらこの子は凄く甘えん坊らしい。ただし、人懐っこすぎて心配になってしまう。
「……ところで、この子の名前は?」
「まだ名無しです。2人で考えてからにする、と、お空が聞かなくって……」
「ええっ!?お、お空……何で……」
「だってぇ……私達の子だもん、2人で考えよーって思って……私だけで決めても……」
「じゃあ何で俺が来るまで……」
「んーとね、私ね、まさかこんな事になるなんて……思わなくって……地上に行けなくなったから八咫烏様通して地上の神様に連絡して、お仕事も暫くお休みさせてもらってたんだけど……うーんと、んー……」
「それについてはあたいから説明させてもらうよ。その子、生まれた直後に能力を覚醒させたんだけどそれが制御できなくってさ。全員で鎮圧しながら、何とかやりくりしてきたんだよ。制御できるようになったのも、実は3、4日前の話でね」
「それなら尚更、トランシーバーでも何でも使って緊急連絡とか飛ばしてくれれば……」
「それが、この子の能力の影響で全滅しちゃって。バッキバキに壊れちゃったんだ。怨霊を飛ばして、連絡してもらおうとも思ったさ。けど、怨霊と会話できるのなんて、あたいくらいなもんでしょ?使者としては使えないなぁって思ってねぇ……」
そして、地底には紫さんのような式神使いなどは居ない。成程、連絡手段が無いワケだ。だからこそ普段から直接での連絡になっているワケだし、少し仕方ない所もあった。
というより、俺だけが悪かった。連絡も、会いに来るのも期間を空けすぎていたから起こった問題と言ってもいい。
「……いやいや、俺から連絡しなかったせいだよな、俺から連絡してりゃ連絡がつかない時点で分かったはずだしな……ホントゴメン……」
「そこはまぁ……そうだけど、お兄さんだって地上で色々と忙しく過ごしてるんだから仕方ないって」
「私も鎮圧とか手伝ったよー♪」
「能力の制御を覚えさせるのには、こいし様が必須でしたよねー。さとり様の腕っぷしでもダメだし、あたいはあたいでロクに力発揮できないしで……」
「だってー、無意識で能力を発揮してたんだもの。それなら、今となっては他人の無意識も操れる私が手伝うしかないでしょっ?」
「……ありがとう、こいし。何とお礼を言えばいいか分からん。俺に出来る事があれば何でも手伝うから何なりと言ってくれ。さとりも、お燐も」
「うん、何か考えとくね♪」
「ありがとうございます」
「ありがと〜」
プハッと顔を太ももから話した子供は、ててっとお空へ向かいダイブするように抱きついた。彼女もそれを当然の如く受け入れているから可愛らしい。
頬擦りし合っている母娘は、とても微笑ましい。母娘というよりは年の離れた姉妹に見えてしまう。
「トランシーバーが壊れる原因にもなったこの子の能力って何なんだ?」
「んーとねぇ。なんだっけ、さとり様?」
「断定はできません。ですが起こった事やあなたの能力を考えると恐らく────《重力を操る程度の能力》かと思われます」
「……そっか。そうか…………。物理的に作用する系の能力で良かったよ。概念的な能力なら、大変な事になってたかもしれないしね」
「同感です。能力の射程は地霊殿全体程度、強さは屋根に穴が空く程度から綿毛程度までかなりの差があると思われます」
「穴?」
「屋根の補修、ご覧になりましたか?アレですよ。極めて局所的に重力を掛ける事により物体の破壊も可能なんです。面でも攻撃が可能な上、点の攻撃も可能なんです」
「俺より汎用性高くて笑えねえ……。今の俺じゃあ、そんな芸当は難しいよ」
「しかもそれを全て無意識下で行っていたのです。なのでこいしがあの子の無意識を操り、無意識での能力の使用を封じているんです」
「……成程……」
お空が核融合、この子が重力。お空の場合は後で授かった能力らしいが、もしや霊烏路親子の場合は宇宙に関する能力なのではないだろうか。いいや、流石に2つの例だけで判断するのは早計だが。
「ねーね、ぱっぱぱっぱ〜!」
「ん?」
血と能力の因果関係について考えていると、またあの子が飛び付いてきた。本当に落ち着きのない子だが、やっと真の意味で子供らしい子供に出会えた気がする。樹理愛より、緋月より子供らしい。
「何かこの子ね、お母様、お父様って教えてるのにママ、パパって言うんだよ。地底でその呼び方する子供はいないし、何処で覚えたのやら謎だよねー。ね、お姉ちゃん」
「そうね。でも呼び方なんて好きにさせればいいと思うわ。お空もエスカルゴさんも困ってないしね」
「……ママ呼び、もしかしてあたいのせいかもです。ほら、あたいって博麗神社に結構遊びに行ったりもするじゃないですか?その時、東風谷親子も遊びに来ててちょっと交流したんですけど、そのときに、そんな呼び方もあるんだなぁって思って。あたいを母親と勘違いした時に、呼び方を教えるついでに、
『こんな呼び方もあるんだよ〜』って意味で、それ教えちゃったんですよね〜……もしかしてそれ、余計でした?」
「んーん、大丈夫!そんな事、どーだっていいよ!ねっ、さとり様!」
「そうね。人物の判別さえキチンと出来ていれば、生活する上で特に問題は無いし。問題は名前よ」
「あ!そーだ!ね、お兄さん、名前どうしよ!?」
「……お空やお燐みたいにさ、『お〇』って呼び方もできる名前がいいんだよな、俺的に。どう思う?」
「いいと思う!」
「んー……俺じゃあ、
「でもさ、まぁるい眼のこの子にピッタリじゃん。あたいは良いと思うけど」
「
「んーとね、んーと……うにゅぅ…………ね、あなたはどんなお名前がい〜い?ママに教えてー♪」
「ぱっぱ!ぱぱ!」
「パパはおにーさんだよ、パパのお名前もちゃんと覚えないとね!」
「お空、お空。パパがお兄さんって、ゴチャゴチャするからあんたもその呼び方は改めた方がいいよ」
「それもそっか!おにーさんがパパだったら、私のお兄ちゃんとの子供になっちゃう!お兄ちゃんとか居ないけど!」
「ぱぱ…………たま……おたま…………たま、す、き!」
人差し指をチュパチュパしながら途切れ途切れに呟く。すると、お空はそんな子供の頭に顎を置いてブツブツ呟き始めた。
お空もお空で、アレコレ考えているようだ。俺は名付け親になる資格はない。母さんこと神綺の時もそうだったが、産まれた事すらも知らないなんて、言語道断である。どれだけ彼女を、地霊殿の子達を放置してたというのか。
全く、俺も落ちる所まで落ちたものだ。もしや、これ以上は落ちない所まで来たのではなかろうか。
「たま……好き……たま……すき…………たま……き……?そうだ!ね、おにーさん!環ってどうかなっ!?それで、普段は『お
「お……いいんじゃあないかな」
「あっ……でも、姫って可愛くない?私にとっては、お姫様みたいに可愛いからっ……♪」
「普段は『お姫』か『お姫様』かな?」
「ふふ、それもいいかもっ!ねぇ、お燐はどっちが良いと思う!?さとり様もっ、こいし様もっ!」
「流石にそれは、あたいからは何も言えないよ……。2人で話し合って決めないとね」
「そうね、お燐の言う通り」
「そーそー♪」
「うにゅう……おにーさんはどっちがいい……?」
「姫、可愛いと思うよ。正直、環と姫で迷うかも。俺は他に良い案も無いし……」
「んー……それじゃあね、姫で決定だねっ!霊烏路姫スカーレットね!」
「待て待て、最後は要らんだろ」
「え?そう?」
「優曇華院姉妹と違って、絶望的に似合わないよ。お空、自分の名前に
「霊烏路空スカーレット……何かスゴイ変だよぉ……モヤモヤしちゃう……」
「だろ?合うのと合わないのとあるんだよ。だから姫はそのまま、霊烏路姫で良いんじゃあないかな」
「分かった!姫!今日からあなたは『姫』だよ!」
「……?あたし、は、
「んーん、それは名前じゃなくって……。えっとね、それは名前じゃなくてただの呼び方っていうか……。他の人が、姫を呼ぶ時にそう言うだけで、あなたのお名前じゃないのね」
「?……?」
「えーと、えーとぉ……!ううう、さとり様ぁ!」
「無理して今、姫に教える必要は無いと思うわよ。呼び方についてはゆっくり教えていくって感じでもいいんじゃないかしら」
「分かりました!」
ただ、あまり教えるのを延ばしすぎるとレーテの
「目ん玉焼き」のようにクセになるかもしれないと思うので、早めに矯正しようと思う。
「ねっ、ねっ!ぱっぱ、ぱっぱ!」
「どーしたどーした、お姫様?」
「あのね、あのね!かたぐ
「ふふ、いいぞぉ。ほら、おいで」
「うんっ!」
肩車をせがむなんて、樹理愛以来かもしれない。またまた遅れての顔合わせとなったがこの子の事も精一杯に可愛がって育てようと誓った。
けれどもそれと同時に、巫月が言った「『末娘』なんて称号、どうせまたすぐに別の子に移るんだろうなぁ」というセリフが再び心を抉った。
そして生まれたのは数週間前らしいので、恋夜と綺愛羅よりは妹かもしれないとの事だった。なのでやはり「末娘」の称号は姫に受け継がれるようだ。
「あはははっ!たかーい!ままよりたかぁい!」
「そ、そうか?大して変わんないと思うけど……」
「たか〜いのっ!ふひひっ♪」
「よしよし」
お空との身長差はあまりない。お空は俺の彼女や嫁達の中でもトップクラスの高身長だ。霊夢は割と普通だが、お空はかなり高身長だ。身長差が凄い。実はお空が一番体位的な意味でセックスがしやすい彼女である。誰にも言った事は無いが……。
「……ごめんな、会いに来なくて」
「いつもねぇ、ぱぱとこ、いこーとしてたのにね、さとりさま、まま、おりん、だめってゆーの!」
「え?」
「あのね、あなたね、のー
「?……あー、成程ね。でも、今なら大丈夫でしょ?さとり?」
「最近になって制御できるようにはなりましたし、大丈夫だとは思います。加減はできないようですが戦闘にはならないでしょうし、大丈夫かと」
「じゃあ……少し地上に散歩に行ってくるよ。お空、行こう」
「っ!うんっ、行く!さとり様もお燐もこいし様も行こっ!」
「……お空、3人だけで行くのよ」
「そうそう。久しぶりのデートだもん。いや、最早家族サービスかな?」
「そーそ、3人で行ってきな♪」
「……?分かった!行こっ、おにーさん、姫!」
「そうだな、行こう」
「いこ!」
唐突な家族サービスが始まった。これと言って、何処に行くのかも決めていない。しかしいつも通り家族との団欒を楽しむだけである。