「ふぃ〜、少し寒いね」
「ふみゅっ……ぱぱ、だっこぉ……」
「はいよ」
肩車をしながら地底と地上を繋ぐ穴を飛行して、3人揃って地上へ飛び出す。もう冬なので、地底と違って気温が低い。お空はプルプルッと軽く身体を震わせ、姫は初めて体感した「寒さ」に耐えかね、温もりを求めて俺の肩から降り、抱っこをせがむ。
何故かお空よりも初めて会ったばかりの俺の方が良いらしく、抱っこも肩車も俺ばかりが担当した。お空曰く、高い所が好きだからね、との事だった。
まだ人間だった頃、「猫とバカは高い所が好き」という言葉を聞いた事がある。はてさて、姫は一体どちらだろうか。地獄鴉だが、前者であってほしいものである。
それにしても、超ロリである。赤子とロリの間。霊魔が幼稚園の年長程度だとしたら、恋愛コンビや虔魔、駆翔は年中、姫は年少といった所だろうか。この子から手を離すというのは、命綱も無く綱渡りなんかをさせられているような危うさにも思える。地上にいる間は絶対に手を離すまいと決めた。
「ぱぱぁ、おてて……」
「?」
手が震えている。寒いという事だろうか。しかし触れてみると温かさを感じる。子供とは総じて体温高めであるが、やはり姫とて例外ではないらしい。
寒いならと思い、手を包むようにして直接手袋を創造した。ただし、毛糸や布製だと千切れて誤飲の可能性があるので、ナイロン製だ。初めは冷たいがそこはどうか許してもらいたい。
そして首元が寒そうなのでマフラーも創造した。こればかりは首を絞めるリスクもあったのでお空に巻いてもらった。
「あったかぁい……ぱーぱ、あぃあと♪」
「……やべぇお空、凄い胸が痛い」
「え!?大丈夫なの!?病院行くっ!?」
「いや……姫はこんなにも良い子で、健気なのにさ、俺って奴はさ……お空も古明地姉妹も放ったらかしにして、何で地上で遊び呆けてたんだろって……」
「……私達は大丈夫。これからもっと来てくれれば、それでいいからさ」
「ん……ごめん……」
もうこの反省も何度目なのだろう。情けなくて、情けなくて……。もう、引きこもりたいくらいだ。
「……まま?ぱぱ?」
「んーん、何でもないよ姫っ!何処行こっか!?」
「……?まま、いきたい、きぶん?」
「そーだねぇ、姫と思いっきり外で遊びたいね!」
すると、どこか焦った様子で、姫が俺の腕の中でジタバタし始めた。落としてしまわないように腕を動かしどうにかバランスを保っている。すると姫は俺の襟元を引っ張り、真っ直ぐ見上げて言う。
「ぱぱ!ままと、はなれなきゃ、めっ!されるの!ままと、はなれて!」
「え?えっ?」
「ままね、いきたいときにね、おりんと、あなた、あそぶ!ゆーの!」
姫の言う「あなた」が姫自身を指しているのは、流石にもう分かった。しかしお空から離れなければ怒られるとは一体?
疑問に思った俺は小型のスキマを開いて、事情を知っているらしいお燐に話を聞く事にした。するとお燐は、どこか呆れた様子で額に手を当てていた。
「いや〜……子供の学習能力って凄いねェ。まさか、ちゃんと覚えてたなんて思わなかったよ」
「どういう事だよ?」
「『いきたい』ってのは『イキたい』。つまりね、ムラムラしてるからオナニーしたいなって事だよ。お空、ムラムラしてどうしようもなくなった時は、あたいに姫を預けてシテたんだけどさ。どうやら、その時のあたいとお空の会話を覚えてたんだねェ。何回かイッてスッキリしたら迎えに来るのさ」
「そりゃあ確かに『離れないと、めっ!』だわな。な、お空」
「うにゅ……」
「ムラムラすんのは仕方ないよな。これからは俺がもっと相手するから、いつでも連絡してよ。後で、新しいトランシーバー渡すからさ」
「うんっ!」
「どちらにせよその時はお燐に姫を預ける事になるだろうけどね。あと、さとりとこいしにも頼る事になるかもだけど……」
「あたいは構わないよ。でもお兄さん、少しくらい見返りが欲しいにゃ〜……?」
「お燐が猫言葉を……。つまり
「うんうん、そういう事だにゃ♡」
「「……?」」
お燐とヤる時は、猫言葉をお願いする事がある。単に、その方が興奮が高まるからだ。そしてお燐もそれに対してノリノリである。だから彼女と交わり始めて数年、てゐが俺に悪戯するのが合図なようにお燐が猫言葉を使うのが合図になっていた。精々、お燐の事は孕ませないように気を付けようと思う。
そして姫にもどうにか説明し、言葉に気を付けて会話するよう心掛けた結果、お空の語彙力は、里に辿り着くまでの短時間でかなり向上したと思う。
「わーっ!人里、すっごい久しぶりに来たよ!」
「そうなんだ。軽く食べ歩きでもしない?」
「いーね!姫、柔らかいのは何でも食べれるから、そこは気にしないでね!」
「了解した。念の為に、団子や餅とかそういう喉に詰まりやすい系だけ避けとこうか」
「そうだね!」
「あなた、あうく!あうくの!おいりゅ!」
「ん、歩けるか?大丈夫?」
「あいじょぶ!えっへん!……へぷしゅっ」
「クシャミしちゃう子には上着を贈呈ィ〜」
お空の大きな黒翼は少々目立ちすぎるので、軽く畳んでもらった上で羽織るバーカーをお空に着せ、俺も上着を羽織り、姫には少々メルヘンチックにも見える、ある意味悪目立ちする純白でレース付きの羽織りものを着せた。
艶やかな黒髪と純白の上着のアクセントが、結構効いてるのではと思う。似合っては……いると思う。少なくともへカーティアは褒めてくれそうだ。
「う〜ん……何かバランス悪くなぁい?」
「え、そうか?」
「あったかいよ、まま!あったかーいのっ!おうちみたい!」
「……温かいならいっか!」
「そ、そうだよ!じゃあ、行きますか!」
意気揚々と家族3人並んで歩く。勿論、真ん中で姫を歩かせて、両隣で俺とお空が彼女の手を取って誘導している。
やはり行き先は茶屋で、俺達は日本茶を飲みつつ姫には茶菓子を食べさせている。砂糖菓子なので、口の中でトロリと蕩けるし喉に詰まる心配もない。
「ままぁ、おいひぃねぇ!」
「そうだね、美味しいね!」
「……マジに姉妹みてぇ」
「これでも親子なんだよー?おにーさんとの……あ、何て呼ぼっか?」
「お空の好きに呼びなよ。呼び方を変えるったって今更だったよな」
「それもそうだよね。じゃ、これまで通りね!」
「はいよ」
その時、霊愛と霊麗が連れ立って飛んでいくのが見えた。買い物袋を持っているので、何か買い物に来たんだろう。
ついでだと思い、超音波を放って2人を呼んだ。声で呼ぶと近くの人間に迷惑だし、姫を驚かせると思った次第だ。そして、超音波なので吸血鬼にしか聞こえないというのが何より大きい。
「お父さんとお空じゃん、どーし……えっ!?」
「うわぁ。お父さん……また?」
「どうやら
「姫?確かにドレスとか着せたらお姫様みたいには見えそうだけど」
「もしそんなの着たら、地霊殿には合わなさそう。それで、この子は綺愛羅より上なの?下なの?」
「下らしい。だから末娘は姫だな」
「それじゃあ、綺愛羅が『末娘』だったの、たった数週間だけじゃん」
「存在を認知してなかっただけで実際は数日だな。下手すれば数時間かもしれない。どちらにしても、巫月の予想は当たったってワケだ」
「突然過ぎて実感も湧かないけどね〜……」
「ある意味で今更感はあるけど、そんなに驚かない自分に驚いてるよ」
「私も……」
「えっと……2人共、姫とも仲良くしてねっ……!」
「うん。任せてよ、お空。これでも2番目。18人のお姉ちゃんだからね」
「私は6番目だから、14人のお姉ちゃんなんだな……少し前までは下の四姉妹なーんて呼ばれてたのに、いつの間にか上から数えた方が早くなってる……」
「そりゃ俺のせいだな。あ、霊夢と霊魔にも伝えておいてくれ」
「「分かってる」」
その後も少々娘達と会話をして、2人は買い物に戻った。姫は、霊愛には少々懐いたようだったが、霊麗には終始自分から触れようとはしなかった。
子供ながらに、何か思う所があったのだろう。
◆
「ぱぁぱ、ばいばいっ!あちたも、あなたのこと、かたぐうま!ちてね!」
「はいよ、また明日な」
「ふみゅ〜ぅ……♪」
頭を撫でると猫のような顔で喜色を露わにする。そんなに肩車が気に入ったのなら毎日してやろう。それが、存在すらも知らなかった娘に俺が出来る、せめてもの贖罪だ。
◆
その後、他にも隠し子や、気付いていないだけで孕ませていたりするのだろうかと怖くなった俺は、この後妖精や子供の天狗以外の関係を持った子達を探し、次の「まさかの事態」を防ぐ為に奔走した。
結果、一応は安心できそうだったので、俺は心底安心したのであった……。
霊烏路姫
種族:地獄鴉と吸血鬼のハーフ
能力:重力を操る程度の能力
一人称(矯正前):あなた(自分の名前だと勘違いしている)、あたし
矯正後:ひめ、あたし
お空が「2人で考えて名前を付ける!」と意固地になっていた為、父親であるエスカルゴが訪れるまで名無しだった。
名無しだったので、家族(地霊殿のメンバー)から
「あなた」と呼ばれていた為、姫は、自分の名前を
「あなた」だと認識してしまっている。
(※数日後に克服)
極めて幼く、ちょっぴり舌っ足らず。ら行が上手く話せないが、可愛いので誰も問題視していない。
重力を操る彼女の能力は力加減の幅がかなり広く、現時点では父よりも汎用性が高いが、それを知ったエスカルゴは、姫に指導ができるようにと本格的に鍛え始めた。
なお、姫の一人称である「あたし」は、彼女がよく聞く一人称である「あたい」と「わたし」が、姫の脳内で合体したものである。
お空の子の能力は宇宙モチーフでいきます。
というのも、お空が核融合(太陽)だからですね。そして何故急に?って感じなんですが、素数なのが少し気持ち悪くて。
これからどのように姫・お空がお話に関わってくるのか、お楽しみに。