※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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エスカルゴチルドレンの運動会②

「第3戦目!点数は10点vs10点!これで、玉入れの勝敗が決定するぞ!!」

 

「凄いデッドヒートを繰り広げる2組……最後だし、どんな戦いになるのか予想も付かないわ!」

 

「最後も変わらず1分!それじゃ、よーいドン!」

 

 スタートと同時に結界によって蓋をされる両組のカゴ。紅組は、メリーのスキマによって玉をカゴに入れていき、巫月は白組の妨害に終始する。

 

「お姉ちゃん!流石にやりすぎだよ、これじゃ玉が入んないじゃんッ!!」

 

「勝つ為には手段を選ばないよ。霊愛だってそれは知ってるでしょ」

 

「貫通するんじゃ投げ入れても無駄じゃん!!」

 

「……本当にそうかな?」

 

「?」

 

「霊愛。熱くならないでもっと頭を使わなきゃダメだよ。この競技は『カゴの中に玉を入れる』という内容が主旨ではあるけど、言い方を変えれば『玉をカゴの中に留めておく』とも言えるんだよね」

 

「あ……ああっ!!」

 

「えっ?姉上、どうしたのですか!?」

 

「残念。穹も霊愛も自力で気付ければ良かったね。もう時間は無いよ」

 

「そんなっ────」

 

「そこまでーーーっ!!集計するよー!!」

 

「くっ……」

 

「♪」

 

 巫月はスキマの多重展開は出来ない。だから玉を外に逃がしたくないなら、結界で玉をサンドすれば良かったのだ。そうすれば、結界でサンドした中にスキマを開かれたとしても霊愛のスキマでループ、またはカゴで玉を挟み込めた。

 巫月の言う通り「カゴの中に留める」事くらいはできたのだ。

 そして巫月の目論見通り、玉は穴を通り抜けた。その結果、白組は玉が0個で紅組は100個といった、二度目の完全な勝利を収めた。

 

「勝ったのは紅組ー!おめでとうございまーす!」

 

「いやいやいやいや、ズルすぎでしょお姉ちゃん!流石にアレは妨害が過ぎるよ!」

 

「勝つ為ならどんな事でもするよ。何なら、幻覚でカゴを誤認させても良かったんだよ?でもそれだと完封以上の完封になっちゃうからね、反撃の余地を残しておいたんだけどなぁ」

 

「くっ……」

 

 気持ちは分かるがやりすぎな気もしなくもない。運動会として、成り立っていないような気がする。能力使用はアリとして、妨害は無しにした方がいいだろう。

 後で運営に抗議しよう────と思ったその時。

 

「えー、早速次の種目に移ろうと思ったんですが、先程の玉入れについて、一部の父兄、観客の方から抗議がありました。運営の審議の結果、次からは、相手への妨害は無しという事でお願いしまーす」

 

 白組からは歓喜の声が。巫月は「仕方ないね」と表情ひとつ変えずに事態を受け入れている。全く、あの狡猾さ、誰に似たのやら。

 

「あのズルさ、完全にエスカルゴ譲りウサね。親の悪い所に似るって、都市伝説じゃなかったんだね」

 

「は?」

 

「いや……本当にてゐの言う通りだと思うよ……」

 

「え?俺、傍から見てあんな狡い男なの……?」

 

「「それはもう」」

 

「嘘でしょ……」

 

 次の種目は棒倒しだ。俺は棒倒しなんてやった事ないので、実はこれが初見だったりする。近年は、危険だからと騎馬戦と同じように運動会の種目から除外されがちな種目である。早苗はこれも経験済みなのだろうか。もしそうなら羨ましい。

 

「10人と10人、どんな戦いになるのかしら?」

 

「人間より力が強いからこその戦い期待してるよ!能力での妨害は禁止だよ!」

 

「それじゃあ棒倒し、スタートです♪」

 

 ワァァァァッと戦国時代の合戦のように動き出す子供達。

 紅組は霊魔、霊麗、魅玖、メリーが棒を押さえ、巫月が残りのメンバーを率いて、更に自分が先陣を切って攻め込んでいる。

 白組は霊愛、レイチェル、緋月、姫が棒を押さえ穹が残りのメンバーを率い紅組に攻め込んでいる。

 

「駆翔、突撃ィ!!」

 

「うおおおおお!!姉御の命令は絶対ィィィ!!」

 

「行くのです特攻隊長妖舞!!」

 

「っしゃあ、ぶっ倒してやるァ!!」

 

 紅組は駆翔を突撃させ白組は妖舞を突撃させる。巫月も穹も、流石は姉妹だ。弟を突撃させるという采配は変わらないらしい。

 

「弦月姫、能力の関係性は?」

 

「虔魔より私が上です!」

 

「グッド。なら後は作戦通りに。頼んだよ弦月姫、紅組の勝敗は弦月姫に任せたから」

 

「はいッ!!────時よ、止まれ!」

 

 弦月姫が時を止めた。子供達の中で、この世界で動けるのは弦月姫と虔魔のみ。姉弟対決が始まる。

 

「副メイド長……余計な仕事を増やさないで下さい」

 

「どの口が言うのかしら、Mr.トラブルメーカー?」

 

「予め言っておきますが、紅組の攻撃手順は、既に穹お姉様が予想されていましたよ。駆翔で場を撹乱したなら、どさくさに紛れて副メイド長が時を止め攻めるチームメイトを白組のこの棒付近まで運ぶ。どうです、当たっているのでしょう?」

 

「だったら?」

 

「お忘れですか?……同一の能力を持つ者であれば、一方の能力を強制解除できる事を。副メイド長が、僕の時間停止を強制解除するのと同じです」

 

「……やってみなさい」

 

「では遠慮なく」

 

 確かに虔魔の発言は当たっている。十六夜親子は同一能力を持っている。最上位は咲夜さんだった(・・・)。だから咲夜さんは弦月姫の時間停止も解除できる。しかし今はほぼ同格。咲夜さんとて弦月姫の停止を解除できない。

 そして虔魔は末っ子。まだまだ練度も低い。幾ら本人が望もうと弦月姫の時間停止は解除不可能だ。

 

「ッ……!?」

 

「不思議?あなたじゃ、まだ私には追いつけない。分かったら無駄な足掻きはやめる事ね」

 

「……かといって、そう簡単に行かせはしません」

 

「あ、そう。それなら……こうするまでよ!」

 

「なっ!?」

 

 弦月姫は攻めているメンバーの中でもパワー型の巫月、メリーに次いで背が高いここあを小脇に抱え虔魔の頭上を飛び越える。

 これこそが巫月の作戦。弦月姫に時間停止をさせメンバーを棒まで移動させ、一気に棒を倒すのだ。

 開始の直後に時を止めさせなかったのは、白組の出方を見る為だ。棒の近くに多くの人数が固まっていれば、また別なアプローチが必要だ。しかし敵も同じように半数以上の人数が飛び出したなら守備も手薄になる。人数差で押し勝てるのだ。

 

「ま、まさか!させません!」

 

「いいえ、させてもらうわ!……すみませんお姉様、少し早いですが……っ」

 

 虔魔は配置された巫月、ここあを引き剥がそうと自陣へ戻る。残りの阿弥、樹理愛の迎えには行くと巫月達が棒から離されてしまうので、少し早いが、弦月姫は2人を棒に配置した時点で時間停止を解除した。

 

「ッ!……虔魔の妨害かぁ」

 

「お、お姉ちゃんッ!?そ、そうか弦月姫かっ!」

 

「そゆこと〜。ここあ、やるよ!」

 

「はいっ!!」

 

「「せぇぇぇのッ!!」」

 

 霊愛、レイチェル、緋月、姫が必死に棒を押える中で、巫月とここあが思い切り棒を蹴っ飛ばそうと構えたその時。観客席────こちらの方で歓声が沸き起こった。

 

「み、巫月お姉ちゃあんっ……倒されそうだよっ……た、助けてえっ!!」

 

「霊魔ッ……!?」

 

 霊魔が叫んだ。ふと紅組の方を見てみれば、つい先程まで白組の陣に居たはずの穹がミサイルの如く突き進んで今にも棒を倒さんとしていた。

 

「ッ……穹の速さ、相変わらずヤバいなぁっ……!!耐えて霊魔、霊麗、魅玖、茜!すぐ終わらせる!」

 

「身体強化の魔法を掛けました、今ですお姉様!」

 

「ナイスここあ!皆も早くッ!せぇぇぇのッ……」

 

 蹴った。しかし棒は全く動かない。砕けないのはこの競技用に強化されてるからなのだろうが、全く動かないのはどうもおかしい。

 

「勝負アリィィィィィィッ!!」

 

「「「「────ッ!!」」」」

 

 穹に加え、妖舞が突撃した事で、紅組の棒は軽く倒されてしまった。加えて紅組の特攻隊長駆翔は、棒を支えていた筈のレイチェルに取り押さえられてしまっていた。

 

「〜〜〜〜〜ッッ……やられたねぇ、これは。もっと守りを強くしとけば良かったよ」

 

「お姉様っ……すみません、私が全員に魔法を……」

 

「ううん、全く問題ないよ。この失敗は次の戦いに活かせる失敗だし。次、頑張ればいいよ」

 

「はいっ……」

 

「駆翔も突撃お疲れ。どうだった?あのお姉ちゃん強かったでしょ」

 

「でも巫月の姉御よりは弱い気がするぞ!!」

 

「そうだよ。なら、次はもっと頑張れるね?」

 

「おう!!俺はやるぜぇ!!」

 

「……にしても、ビクともしないなんて変だけどね。霊愛、種明かししてよ」

 

「姫の能力(重力を操る程度の能力)を棒に掛けてもらった。だからほら、見てよ棒の根元」

 

(棒が地面にめり込んでる……。成程、棒を押さえる子達がヤケに根元に固まってると思ったら。地面にめり込んでるのを隠す意味もあったのか。さっすが霊愛、勝ちに来るとかなり厄介だなぁ)

 

 まだまだ幼い姫までも、計算して働かせている。そこまで計算に入れるのかと、巫月は少々驚いて、同時に舌を巻いた。巫月も指示を出す側なのだが、ここまで全員を効果的に動かす方法は、そう簡単に思い付かないからだ。

 子供達は、誰も彼も個性的であり、主張が強い。よくよく考えなければ、互いを邪魔し合うからだ。しかし巫月は、それを考え慎重になり過ぎていた。今回の棒倒しを通じて、それを思い知らされた。

 

「ふぅ、間に合っ……てないわね、遅れたわねこれ、ごめんなさいね」

 

「輝夜は今到着?寝坊でもしたの?」

 

「河童と交渉してカメラを買ってきたのよ。ほら、あなたの分もあるから」

 

「ありがとう。……輝夜、交渉とかするんだなぁ」

 

「ほら、私ってエロゲー製作依頼の件で河童達とも繋がりあるでしょ?だから交渉というよりお願いに近かったかもね」

 

「そういやそうだった。最近もやってんの?」

 

「ええ、お陰様でオカズには困らないわ♪」

 

「そりゃ良かった」

 

「私の幻想郷ではね、エスカルゴがテクで女の子を堕として幻想郷を支配してるのよ。あなたはまだ、私の操作するエスカルゴにも劣ってるわね」

 

「生憎、支配にはとんと興味が無くてね。楽しく、エロエロに過ごせてりゃあ俺は満足できるからさ」

 

「ゲームは事実よりも奇なり、か。つまんないの」

 

 そもそも、俺の持つテクの大半が小悪魔の指導によるものである。受け売りの技術で支配できるのかどうか。興味は無いが気になりはする。

 

「それでイナバ、次の種目は?」

 

「あ、はい。次は大玉グレイズですね」

 

「何それ、面白そうね」

 

「河童のスタッフが設置したあのコーンが目印で……大体、50mくらいですかね。あの区間を、グレイズしながら進むんだそうです。手が離れてもアウト、被弾してもアウト。クリア者が複数現れた時の為にタイムも計測するらしいです。これは……白組の勝ちかもしれませんねー……」

 

「どうして?」

 

「巫月、精密な操作が未だに苦手みたいなんです。大雑把な攻撃とか、ただ単に火力の高い攻撃は得意なんですけど、細やかな技術が無くて……」

 

「俺に似てらぁ」

 

「そうなのよ。そんな所までエスカルゴに似なくていいのにさー」

 

「サラッと毒吐くのやめて」

 

「ふふっ、それじゃ紅組は他の子に頑張ってもらうしかないわね」

 

「ですね」

 

 でも巫月の事だ、これに向けて特訓している筈。ただで負けるはずがない。俺は巫月を信じている。たとえ負ける事になろうとも一矢報いてくれると。

 

「……ところで、お師匠様とサグメ様はまだ……?」

 

「ええ、まだ予定が終わらないみたいねぇ。一応、真っ直ぐ来るよう言ってあるから、終わったらすぐ来るはずなんだけれど……。でも、午後には間に合うはずよ。気長に待ちましょ」

 

「そうですね」

 

 サグメは巫月の家庭教師をしてくれているので、是非とも巫月の運動会は見てほしいものだ。しかし予定があるのなら仕方ない。地上に降りたサグメが何処でどんな予定があるのか知らないがそこを追及する権利は俺には無い。黙って待つのみだ。

 

「それじゃあルール説明するよー!」

 

「各組で、2人1組を計5組、作ってもらいます。その内のどちらかが、直径2m以上の弾を作って、グレイズしながら向こう側に行ってもらいます!」

 

「途中で手を離してもアウトだし、触れて弾が消滅したらその時点でアウト!また、クリア者には10点ずつ与えられるけど、順位ボーナスもあるからね!時間も測るのでより早いタイムを狙って頑張って!それじゃ2人1組を作って出走順番も決めちゃってくださーい!!」

 

 そうだ、チーム分けが当日に分かるのだから大玉グレイズの為の2人1組もその時に作る事になる。段取りが悪く進行も遅くなるように思えるのだが、これはこれで微笑ましいので良しとしよう。

 結果、子供達の組み合わせはこうなった。

 

       紅組      白組

 第一走者:駆翔&阿弥   姫&霊愛

 第二走者:巫月&霊麗   緋月&穹

 第三走者:ここあ&霊魔  虔魔&妖舞

 第四走者:魅玖&弦月姫  レーテ&シガー

 アンカー:樹理愛&メリー 綺愛羅&恋夜

 

 紅組の本気度が凄まじい。弾幕の操作が絶望的に下手な2人を一番最初に配置している。メリーには樹理愛の、霊魔にはここあの、弦月姫には魅玖の、霊麗には巫月の補佐を担当させているようだ。

 スポーツの団体戦で言う「頭落とし」のような、最初から相手に一勝を与えているような布陣だ。

 紅組と違い、白組の何と平和な事か。こちらは、全体的に技術が安定しているからなのか全ての組で補佐される側と補佐する側が決まっている。

 因みに順位ボーナスの内容としては、1位20点、2位15点、3位10点、4位5点となっている。この順位ボーナスは紅白合わせた10組の総順位だ。故に同チーム内でも速度を競える。

 

「それでは大玉、どうぞ!」

 

 第一走者の二組が弾を作る。紅組は阿弥、白組は霊愛が弾を作った。そして河童のスタッフが直径の測定をし、2m以上だとOKが出た。

 

「大玉グレイズ、よーい……ドン!」

 

「うおおおおおおお突撃突撃ィィィィィィッ!!」

 

「ちょッ、何やっ──」

 

 紅組の弾幕が爆ぜた。駆翔が思い切り弾に衝突し被弾判定が出されたからだ。グレイズもクソもない結末である。

 そして霊愛と姫のペアは、ゆっくりゆっくりと、姫のペースに合わせて進んでいる。霊愛が、とてもお姉さんっぽく見えた瞬間である。

 

「嘘でしょ……ちょっと駆翔……何やってんの……」

 

「うわー壊れちった!悪い!」

 

「……」

 

 何なんだ、駆翔の後先の考えなさは。まさか母の脳筋さが強く受け継がれているというのだろうか。今度からはノウキントツゲキオーとでも呼ぼうか。

 早鬼は観客席で大爆笑しているし、オオカミ霊は頭を抱えている。やれやれと言わざるを得ない。

 

「駆翔は予想通りだね。ここまでは計算内。後は、私が凡ミスしなきゃいいんだけど。あと、最悪でも完走するだけでとりあえず10点は貰えるんだから、不安なら速度は落として完走はする事。でも霊魔、弦月姫の2ペアは本気で勝てると思う。だからこのペアには、できれば順位ボーナス狙ってほしいな」

 

「……分かった。僕、やってみるよ。宜しく、ここあお姉ちゃん」

 

「うんっ!お姉ちゃんと頑張ろうねっ!」

 

「御意。必ず、お姉様の計画を遂行してみせます」

 

「私も頑張るよ。でも、お姉様も頑張ってね」

 

「……正直、皆にこんな事も言えないくらいに、私はグレイズに自信が持てない。これまで回避の特訓を後回しにしてたツケね。えーりん先生にお願いして特訓してもらったけど、私としては不安だしね……。でも完走はするよ。サポートお願い、霊麗」

 

「任せて」

 

 紅組は、作戦会議を怠らない。和気藹々とまではいかないがアレはアレで楽しんでいるのだろうか。いや、楽しんでいると思いたい。

 

「おぉーっと、これはやってしまったぞ白組、手を離してしまったーっ!」

 

「いやでも惜しい所まで行ったわ、本当に惜しい。努力賞をあげたいくらいね!」

 

「本当にそうだね!第一走者は共に0点!それじゃ第二走者、準備して下さい!」

 

 姫が手を離してしまったようだ。幾ら弾と速度を合わせていても、まだ弾幕経験の浅い姫には、少し荷が重かったのだろう。仕方ない事だ。

 姫は涙目になって霊愛に抱きついているが霊愛はよしよしと頭を撫でて、抱き締めて、慰めている。やっと霊愛も姉らしくなってきた。

 

「スタート!!」

 

 巫月と霊麗、緋月と穹が動き出す。霊麗は巫月の速度に、穹は緋月の一歩一歩をよく見て弾の速度を逐一変化させている。凄まじい操作技術だ。これも彼女の《加速を操る程度の能力》の賜物だろうか。

 危うさの残る巫月&霊麗ペアと違い、スムーズな弾運びだ。お陰で白組は紅組を抜いて、グングンと差をつけている。

 

「ヤバイヤバイッ……抜かされてる……!速度上げよ霊麗、私はまだ大丈夫だから」

 

「そう?じゃあ、少しずつ速くするからね。難しくなってきたら言ってね。いちにのさんでその速さで安定させるから」

 

「分かった」

 

 会場には凄まじい緊迫感が漂っている。運動会と思えない静寂だ。会場には、グレイズ特有の音の、カリカリカリカリッという音だけが響いている。

 

(姉上のペアが追いついてきましたか。しかしもしこれ以上スピードを上げたら緋月の手が離れるかもしれないですし……仕方ありませんね。ここは勝ちを譲り、完走に集中しましょう)

 

 緋月は、姉に抜かれているのにも気付かない程にグレイズに集中しているようだった。だからこそ、穹はそんな妹を急かすような事はせず、ただ慎重に進んで行った。

 

「ゴォーーーール!!2組共、素晴らしいグレイズ音でした!音フェチの方にとってはシビれるような時間だった事でしょう!それでは第三走者の準備も整っていますので、スタートォォ!!」

 

 ここあと霊魔、虔魔と妖舞がスタートを切った。しかしここで、虔魔が持ち前の天然さを発揮した。

 虔魔は時間を止めた。敵への妨害ではないので、時間を止め、その隙に進もうと考えたからである。けれども、虔魔の手が触れた事により弾は爆ぜた。弾の操作主は妖舞だったので、虔魔の思う通りには動かす事ができなかったからである。

 時間停止を解除すると共に、目の前の弾が消えた事に妖舞が愕然とした。その隙を逃さずに、紅組のペアはせっせと進んでいたので順調にゴールした。

 

「何やってるの虔魔、妖舞くんの足引っ張るような事をするんじゃないの!」

 

「……すみません、メイド長」

 

「謝るなら妖舞くんにでしょう!」

 

「まぁまぁ、咲夜、虔魔くんも頑張ったんだから」

 

「お嬢様はお優しすぎます!」

 

 第四走者は、魅玖&弦月姫、レーテ&シガーだ。どちらもこれまでのペアよりも倍速く進んでいる。安定感のある魅玖と弦月姫、息ピッタリなレーテとシガー。霊魔と組ませてあげたい所だが敵同士だ、これは仕方あるまい。

 

「凄い順調ね、レイチェルとシガレット……」

 

「あっちはいいよ、こっちに集中だよお姉様、巫月お姉様にどやされちゃう」

 

「そ、そうね。巫月お姉様、笑顔で怒るものねっ……きゃんっ!」

 

 しかしながら、そんな焦りは失敗を招くものだ。ゴール目前という所で弦月姫が小石に躓き、弾へと思い切り突っ込み、顔面で被弾してしまった。

 

「あ。うわぁー、やらかした〜」

 

「あうう……ごめんなさい魅玖……」

 

「私はいいけど巫月お姉様に……ね」

 

「はい……」

 

 退場し、弦月姫は巫月にペコペコと頭を下げる。すると彼女は、軽くチョップをした上で頭を撫でて慰めていた。

 その頃には、とっくにレイチェルとシガレットもゴールしていたので、弦月姫はそちらを悔しそうに見つめるしかできなかった。

 紅組アンカーの樹理愛メリーは凄まじい安定感を見せ、ゆっくりではあったが、見事にゴール。白組アンカーである綺愛羅と恋夜は、やはり流石は双子であり10組の中で唯一走って(・・・)競技を終えた。

 

「うーん、こりゃ順番間違えたかな」

 

「え?どうしてです?」

 

「白組のアンカーさ、恋夜と綺愛羅に任せたけど、あの2人を一番最初にすれば良かったと思ってさ。そうすれば紅組のメンタル折れそうだし」

 

「確かに。唯一走れるペアでしたし、1桁台もあのペアだけですもんね」

 

「てか、皆、完走に集中しすぎて歩いてたもんね。仕方ないけどさ」

 

「しかし、この競技の存在によりグレイズの練習もできましたし、ある意味、今後に役立ちそうです。有難い事です」

 

「そーだね、それは言えてるわ〜」

 

 霊愛と穹の会話だが、とても恐ろしい。あまりに勝つ気満々すぎる。殺意と言ってもいいくらいの、凄まじい強気さだ。

 完走したのは紅白共に3組ずつ。順位ボーナスも加味すると、最終的な結果としては────。

 

 1位、7.24s(白組:綺愛羅&恋夜)10+20点

 2位、59.40s(白組:レーテ&シガー)10+15点

 3位、66.57s(紅組:ここあ&霊魔)10+10点

 4位、71.62s(紅組:巫月&霊麗)10+5点

 5位、78.08s(白組:緋月&穹)10点

 6位、83.57s(紅組:樹理愛&メリー)10点

 離脱:姫&霊愛

 被弾:駆翔&阿弥、虔魔&妖舞、弦月姫&魅玖

 

「────集計の結果、現時点の点数は……!」

 

「紅組、65点!白組、85点!……です!」

 

「この大玉グレイズで上位2つを取られたのが凄く効いてるぞ紅組〜ッ!これからの競技でこの点差を埋める事ができるのか!?頑張って下さいっ!!」

 

 次の競技はフォークダンスである。俺の地元では運動会の種目にフォークダンスなんて聞いた事すら無いが、早苗が運営側である以上、彼女は運動会でフォークダンスの経験があるのだろう。

 美しさを競うらしい。中立であるべき審査員は、一体誰になるのだろうか。少なくとも俺でない事は予想できるが、果たして────。

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