「ただいまー。いやー、突き放されたな〜」
「たっだいまぁ!おねーちゃんにかってるよぉ!」
「お疲れ巫月、緋月。楽しんでるようで何よりだ」
「あのねあのねっ、ひづきね、うたっておどって、すっごいたのしかったよぉ!」
「それは良かったよ。どうしてダンスなのに聖歌があるのかは謎だったけど……」
「えへへ、れーせんれーせん、なでなでして〜♪」
「はい、ナデナデ〜♪」
「んふふふ〜……♪」
緋月は鈴仙に撫でられご満悦だ。対して巫月は、どのようにして逆転しようか、と考え込んでいる。どうやら巫月は運動会ガチ勢らしい。リレーの選手くらいしか目立った活躍をした事の無い俺は、逆転しようなどと考えた事は無かった。そこそこ成績を残せていれば俺はそれで満足だったから────。
「巫月。とりあえずお昼ご飯だ、ゆっくり休もう」
「……うん」
この運動会、各競技もヤバいが一番最後には弾幕ごっこがある。団体戦ではなく、個人戦でもない。10vs10という、前代未聞の総力戦である。もし姫が居なければ10vs9になっていたので片方のチームはある意味助かったと言える。
姫はある程度能力を使いこなしているので、人数合わせ以上の働きをするはずだ。
「弾幕ごっこについてだけど、とりあえず姫の事も警戒した方が────」
「ぱあああああっぷぅわぁぁあああああああああああっ!!」
「「「「ッッ!?」」」」
トテトテと走り寄って来たのは人懐っこい末娘の霊烏路姫。振り向いた瞬間にはもう姫が真正面から飛び込んできていて呆気なく衝突、吹っ飛ぶように倒されてしまいそうになった。鈴仙が咄嗟に背中を支えてくれなければ弁当が吹っ飛ぶところだった。
「ぱっぱ、ぱっぱ!ひめね、ひめね、かってうの!ちゅよいちゅよいって、さとりぃさまゆってた!」
「はははっ、そーかぁ!これからも頑張るんだぞ!パパ応援してっかんね!」
「あいっ!じゃね!もどりゅね、ぱぱ!」
「はいはい、また後でな」
ぴゅーっと、飛行機の翼のように手を広げ、再びパタパタ駆けて行った。可愛らしい。もしも彼女が飛行機というものを知ったら、「ブイーン!」とか言いながら走るのだろうか。
「……あの子、凄い元気ねぇ」
「だな。緋月みたいだ」
「え〜、私はぁ?」
「巫月は全然ああいうタイプじゃなかったろーよ。いつも俺にくっ付いてきて。可愛けりゃどっちでも良いんだけどさ」
「えー、あんな感じだったと思うけどなぁ……」
「全然全然。なぁ?」
「そうそう。いーっつもエスカルゴにくっ付いて、てゐに雷ブツけて焦がしたりさ」
「うーわ懐かしい、そんな事もあった……いや大して今と変わんないよね。痛さは年々増してるしさぁ。ねェ、巫月ィ?少しは手加減しろウサ」
「あはは、そーだねぇ」
「笑い事じゃないっつーの。エスカルゴも鈴仙も、親として注意してよねー」
「いやぁどうかな」
「はぁ!?これだから親バカ野郎は……そんなんじゃまたイタズラするからね〜?」
「構わねーよ。巫月も好き勝手暴れなよ」
「言われなくても♪……ところでえーりん先生は?」
「永琳なら野暮用よ、そろそろ来ると思うけれど。ね、巫月ちゃん、これから白組に勝てる見込みは?もう策はあるの?どうすれば逆転できそ?」
「最後の弾幕ごっこ、残った人数×10点のはずだし、私が弟達を守りながら短期決戦をかけるしかないと思ってるよ。そうすればとりあえず霊愛、穹以外は倒せるはず。……いや妖舞とレイチェルも残るかな。姫がよく分からないからダークホースに成り得ると思って警戒しとく。エスカルゴ的にはどう思う?」
「それは言わないでおく。贔屓になっちゃうしな。運動会だ、ある意味初めての公式戦だろ?自分達で全力でやってみな」
「はぁい……」
全員の手の内が知られている分、白組の方が少し有利だと言えるだろう。ここから巫月率いる紅組が逆転するには綱引き、借り物競争、サイコロリレーなどでどうにか勝つくらいしかないだろう。
「はぁ〜、ごちそーさまでした!デザートに、またエスカルゴの血ィ飲ませて!」
「はいはい」
首に噛み付き、ちゅるちゅると血を吸っていく。緋月はそんな姉を指を咥えつつ見ていたが、不意に立ち上がると、鈴仙に抱きつき、同じように首筋に牙を突き立てた。
「ふぎゃあっ!?ど、どーしたのよ緋月っ!?」
「あっはははは!緋月も吸血に目覚めたんじゃん?飲ませてあげな、鈴仙!娘に押し倒される母親か、面白い絵面だね!ねぇ、サグメ!」
「……親子、仲良し。素晴らしい事」
「ちょッ……とぉっ……!エスカルゴは……ともかく、てゐ、サグメ様っ……緋月……引き剥がすの、手伝……ふみゅぅぅ……」
力が抜けた鈴仙は、酔っ払ったようにぐで〜っとブルーシートに寝転がってしまった。輝夜はそんな鈴仙を見てクスクスと笑っているし、緋月は赤子のようにケプッと小さなゲップをしている。
「ねェ、エスカルゴ?強さの秘訣、わかる?」
「ん……なんだろ?」
「そ・れ・はぁ……健康的で美味しい食事と、好きな人への、そして好きな人からの愛情♡」
「思ったより現実的だった」
「ふふふっ、私はもっとも〜っと強くなるから……。いつか結婚してよね……♡」
「ッ……」
そう呟いた巫月の瞳の最奥で、ちらりと闇が顔を覗かせた……ような気がした。
◆
「それじゃあ、午後の部も張り切ってやってこー!午後1発目は〜〜〜ッ…………借り物競争ッ!!」
「紅組と白組、合わせて5人ずつ出走してもらい、ゴールするまでの早さを競ってもらいます!借りる範囲は、会場全体!運営陣に声を掛けるのもアリ!視野を広く持って、頑張ってください!なお点数は1位25点を元にして順位が1つ下がる毎に5点ずつ引かれますっ!」
「それじゃあ各組、順番を決めてね!……決まった?決まったね!まずは紅組から3人、白組から2人!いってみよー!」
まず第1走者、紅組からは樹理愛、阿弥、駆翔。白組からは姫、緋月。とりあえずは下の子達を放ち運営の用意した「借り物」の傾向を見るようだ。
紅組のブレーンは巫月と霊麗と霊魔なんだろうが白組は誰だろうか。霊愛、穹かもしれない。あまりその2人にブレーンらしさは期待できないと密かに思っているが。
「よ、よーし……頑張るぞっ……!」
「……」
「やってやるぜぇぇ!俺が一番になってやる!!」
「ままもぱぱも、おーえんしてねっ!」
「れーせん、えすかるご、みてるーっ!?」
阿弥は無表情で固まっているようだが、気合いは入っている。隠岐奈は観客席の方で、不敵な笑みを浮かべている。いつの間に来たのやら、紫さんとも何か言葉を交わしている。
「スタートです!10m先に設置されたカードに誰が先に届くのか……おーっとヤクザボーイが一番だ~!一体彼のカードには何が書いてあるのか!?」
「なになに……自分が思う一番強い人?……これは……よし、お母様だな!お母様ぁぁあああっ!!お母様貸してえええええ!!」
「おう!さぁ来い駆翔ッ!!」
駆翔は早鬼の居る勁牙組陣営へ向かうと、早鬼の手を取りゴールへと一直線。凄まじい判断速度だ。そして早鬼もまたノリが良すぎる。
駆翔の次に動いたのは緋月である。
「ぶき……ぶきっ…………れーせん、ぶき、かして!」
「武器?……ルナティックガンでいいのかな。はい、どーぞ」
「ありがとっ!!」
ウサ耳がついたメガホンを渡すと、緋月は跳ねるようにゴールへ向かった。
次は阿弥。帽子が必要らしく、母である隠岐奈の帽子をひったくるように奪って冷静にゴールした。隠岐奈は何を期待していたのか、「帽子かーッ!」などと叫び、紫さんに笑われていた。
その次は樹理愛だ。髪飾りが必要だったようで、カードの配置位置に一番近いらしい博麗神社陣営の霊夢から、チクワのようなあの謎の髪飾りを借りてゴールした。
最後に姫は「動物」だったので、猫化したお燐と一緒にゴールしていた。猫のお燐を抱き上げた姫、とても可愛い。
第2走者は、紅組からはメリー、ここあ。白組は恋夜、綺愛羅、シガレットだった。きっと姉達は、完全勝利を掴む為の作戦を立てているに違いない。
「『剣(刀と剣の区別をつける)』ですって……??剣と刀って一緒じゃないの……!?」
慌てるメリー。しかし近くの誰も迷い、困惑する彼女を助けようとはしない。そんな時、彼女を救うまさに救いの女神の如き少女が、紅魔館の中から、メリーを助けに会場に駆けてくる。
「メリィィィィーッ!!刀は片刃!剣は両刃よ!!エスカルゴが使ってるのが剣よーーーっ!!」
「……!蓮子ぉっ!」
「いいからゴールしてメリー!!」
「うんっ……ありがとー!」
嗚呼、美しきかな、女子同士の友情。
メリーは涙目になりながら俺の所まで来たので、一時的に妖魔雷霊剣の結界を解き、すぐ手渡した。
その頃、ここあ、恋夜、綺愛羅、シガレットは。
「『一番歳の近い家族』って……!シガーしか居ないじゃないの~っ!!」
「え?あ、ここあ、私を借りるの?ちょっと待って霊魔くんの所に行かなくちゃ……」
シガレットのお題は「好きな人」らしい。彼女は霊魔の手を掴むと、ここあと合流。3人が横一列に揃ってゴールした。ビデオ判定になったが、全くの同時だったらしく、与えられる点数は同じとなったようだ。流石は双子である。
そして恋夜と綺愛羅だが2人揃って「本」だったようで、ロリスとアリス姉ちゃんの2人に魔導書を借りて、しかも上手い事に、こちらの双子も全くの同時にゴールした為、4位と5位の点数ではなく、4位と4位の点数を与えられる事になった。
第3走者、紅組からは魅玖と弦月姫、白組からは虔魔、レイチェル、妖舞。借り物競争は、いよいよ以て本格化してきた。
「植物の種だとォ!?チッ、これは仕方ねー……ッ!姉上ぇぇ!!種くれぇぇ!!」
「絶対にイ・ヤ!」
「はぁ!?それじゃあ俺がゴールできねェ……あっ!おい、逃げんなよ!!」
「逃げてないわ、私は私の『借り物』を探しているだけだから」
「チックショ……!」
妖舞は植物の種を、弦月姫は眼鏡を探している。植物の種といえば弦月姫だ。故に、妖舞は迷いなく弦月姫を頼るが、今は弦月姫と妖舞は別の組であり敵同士である。そう簡単に手を貸すはずもない。
弦月姫は時を止めて妖舞から逃げ回って、妖舞は追い掛ける。
俺が見る限り会場に眼鏡の者は居ない。願わくばマミゾウが居ればと思ったがそんな望みは叶わず、俺の知っている限りだと河童のスタッフの中に眼鏡女子が居たくらいだ。
すると、弦月姫は時を止めたまま、紅魔館陣営に身を寄せていたモルモーに何事か話し掛け、なんと創造魔法にて眼鏡を
それを受け取り、モルモーから距離を置いた上で時間停止を解除。見事、1位を飾った。
「あーッ!ゴールしやがった!!」
「1位はもらったわ。努力しなさい妖舞、足りない頭をフル回転させてね」
「ぐぎぎぎぎっ……煽りやがってぇぇぇっっ……!」
「頼れる人は私の他にも居るわ」
「なぁにぃ……?」
花壇の手入れは弦月姫と美鈴の共同作業である。風見幽香を除くのであれば、弦月姫の言う「頼れる人」というのは美鈴だろう。
果たして妖舞がそれに気付くかどうか。
妖舞がそうしている内に、レイチェルは五寸釘、魅玖は魔法使いの帽子、虔魔は空の弁当箱を持ってゴール。最後に一人ぼっちになった妖舞は、涙目になりながらウロウロする。全方位から浴びせられる視線に耐えられず、遂には泣き出してしまった。
「ううっ……うぐぅぅっ……うぐっ……ひぐっ……うっ、ううぅぅっ……く、そぉっ……くそぉぉっ……!!」
「……あーもう……仕方ない奴……」
弦月姫は時を止め、グスグスしていた彼の足元に種を置き、元の位置に自分が戻ってから停止を解除する。すると彼の前には種があるので、妖舞は口に出さずとも弦月姫が助けてくれたと察し、ゴールの後に弦月姫にペコペコしていた。
紅組のアンカーは霊麗、霊魔、巫月。白組からは穹、霊愛。3人と2人はバチバチに火花を散らして睨み合っている。いや、正しくは霊魔だけオドオドしているのだが。
「アンカー、スタートです!!」
穹はやはり段違いな速度だ。旋風をも巻き起こしながら、走るような低空飛行の後、カードを拾うと同時に開封。その場でキョロキョロ見回し、何かを探し始める。
その隙に、巫月、霊魔、霊麗が遅れてカードへ。半妖の霊愛はやはり体力的に劣るので仕方がない。
「お、おねーちゃ……は、やすぎっ……」
「吸血鬼並の速度でビビったでしょ。紅組は全員、ここあに身体強化の魔法を掛けてもらってるしね。だから茜も超速かったんだよ♪」
「な……っ!シガレット!!身体強化お願い!!」
「わ、分かりましたぁ!!」
しかしこれでも互角になっただけだ。巫月は焦る様子を見せやしない。そればかりか、焦るばかりの霊魔に優しく声を掛けてやる程の余裕を見せる。
「どどっ、どーしよっ……ヤバいっ……穹お姉ちゃん速すぎるっ……!!」
「慌てない慌てない。落ち着けば勝てるよ」
「お姉ちゃんは何を……」
「私は『肉料理』。霊魔は?」
「僕は…………えっと、これ……読めなくて……」
「えぇ?……『眷属』?あぁー、これならエスカルゴ連れてったらいいよ。霊愛、咲夜さん、霊夢さんもアリだけどねぇ」
「えっ?わ、分かった!」
巫月に何か指示を受けたらしく霊魔が俺の迎えに来た。「眷属」とだけ書かれた紙を見せられ、手を引かれ、真っ先にゴールした。俺も一応は神の眷属なので、俺でもアリなのだろう。
「肉料理、かぁ。参ったなー、昼の後だからオカズだけでも残ってたら奇跡だね。でも、近くに料理の匂いはしないし……まずいね。……エスカルゴ!」
ゴールで霊魔と話していると、スキマにて巫月がニュッと顔を出す。何を言うかと思えば「肉料理を作って」などと言うので、鶏肉モドキを創造して、適当に皿の上でボウッと燃やして焼肉を作った。
「ありがとー♪」
「ほれ、早く行きな」
「はーい♪」
スキマをゴール前まで繋ぎ、巫月は霊魔に次いで二番手でゴールする──と思ったが、そんな巫月の直前に、超スピードで穹がゴールインを果たした。
「ふぅ、危ない危ない……♪」
「あっ……ああ〜っ!!穹ぁ!?」
「ふふっ、1番は霊魔に取られましたが、2番目は貰いましたよ♪」
「そッ、穹は何を借りてきたの……?」
「私は『強者の得物』でしたので、八雲紫さんから扇子をお借りしてきました。前に、あの方が扇子でビシバシ叩いているのを目にしましたので」
「……速すぎるよ穹はぁ……。ちぇっ!」
「ふっふっふ、幻想郷最速はこの私ですからねっ!ところで姉上は……肉、ですかね?」
「そ。肉料理。エスカルゴがね、魔法で作った肉を焼いたんだ。美味しそうな匂いでしょ」
「ええ、確かに。何の肉なんでしょうか。鶏肉とは違うような匂いですが……。謎ですね」
「だね。……で、後は……」
「姉上と霊麗だけですね」
巫月達もゴールした事で、あとは博麗姉妹の対決らしい。2人共、探している物を大声を出しながら探している。しかし中々見付からないらしく、俺達家族は勿論の事、観客席の方からもザワザワと声が聞こえてくる。
「袴〜、袴持ってる人~、居ますかー」
「さんぐらすっての、持ってる人居ますかー?」
この運動会には男の天狗も見に来ているようだが当然ながら着替えなんて持ってくるヤツは居ない。袴の所持者なんて居るわけがない。
娘が何処の馬の骨とも知れない男と話すのは少し嫌だ。仕方がないので俺が用意しよう。創造魔法が便利すぎてニヤケてしまう。尚、袴の着心地は保証しない。
「2つ共ここにあんぞ〜!取りにこ~いっ!」
「「!!」」
強化されたとはいえ、半妖と吸血鬼だ。どちらが勝つのかは明白だった。霊麗は飛び込むように袴を掴むとトンボ返り。風をも取り残したと思う程に、凄まじい速度でゴールを割った。
「くぅうう〜っ……速いぃ……!!」
かくして、白組は紅組に逆転を許してしまった。尤も、借り物競争は運要素の強い競技なので、仮に弦月姫と妖舞が同チームだったら即協力して、また違う結果になったりしたのだろうが……。
「えーと、ここでお知らせですっ!現時点での合計点数が出ましたっ!……今の競技も含めると、紅組、380点!白組……365点!!」
「おぉーっと、今度は大きく突き放したぞ紅組〜!次は3回勝負の綱引きだぞ、どうなる白組〜!!」
ここで、遅れていたあの人が、ある道具を携えて会場にやってきた。しかしその光景があまりにアンバランスで妙ちくりんだったもので、俺はまさに、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になってしまった。