「クッソオオオ〜〜〜ッ!!壊せねえええ!!」
「妖舞、それ以上は結界内で刃に溺れます。危ないですよ」
「っせぇなッ!!姉上も、そーやって諦めてねェでさっさと出れるように暴れろよ!!」
「無理です。茜の結界は子供達の中で最強格です。霊魔の本気、霊愛姉上、巫月姉上の本気と並ぶ程。もう一つの二つ名である『妖怪の賢者の娘』とは、決して伊達ではないのですよ。私達如きにどうこうできるような問題ではないんです。頼みの綱である姉上は、先程、巫月姉上に敗北しましたし。正直、もう勝ちの目が見えません……」
「────ッ!!」
「せめて……」
「!」
「せめて、霊麗が居れば。霊麗が居れば、少しマシだったかもしれません。神降ろしで戦力増強が期待できますから。ですが、もうこの白組に霊力持ちは居ません。所謂『
「ちっ……くしょおおおぉぉぉっっ…………」
「────見くびられちゃ困るわ!!」
「「ッ!?」」
刹那、2人を囲む結界は爆発と共に消し飛んだ。何が起きたのかと、爆発による煙から逃れた2人は退避した後に有り得ない光景を目にした。
レイチェルが、燃え盛るバトルアックスを手に、茜ことメリーと渡り合っていたからである。しかし戦闘中に、レイチェルは2人の方へ笑いかける。
「2人共、無事そうで良かったっ♪」
「……まさかレイチェル、あなたがあの結界を?」
「そうそう!ま、見ててよ♪」
「そう何度も壊されてたまるもんですか!!」
レイチェルを結界で囲んだメリー。あッと驚愕の色に染まる穹と妖舞、しかし本人の顔色は全く変化無しである。それどころか、力を奮えるのが楽しいとでも言わんばかりにニヤリと口角を釣り上げた。
「『獄炎爆神撃』ッ!!ぜやあああああっっ!!」
バトルアックスを覆う炎がより一層ボウッと燃え盛る。それを思い切り叩き付けると凄まじい爆発と共に結界は砕け散った。
「何なのよその攻撃力、本気のお姉ちゃん達とほぼ変わんない……っ!!」
「燃え、爆発する私の妖力は誰にも止められない!フフフフッ、血が滾るわぁ!こんなに興奮するのはお母様と初めて戦ったとき以来よっ!妖舞お兄様、穹お姉様!今のうちに!」
「っ!お、おう!」
「ありがとうございます!!」
レイチェルの助けにより、穹と妖舞、スピード狂2人が解放されてしまった。妖舞はまず最も非力な妹、樹理愛を倒す事にした。とりあえずは居合いの射程内にとそちらへ向かう。それを見た穹は、別なターゲットを見付けた。阿弥である。彼女の手口は先日のリーグ戦で詳細を把握していたので、楽だと判断したからだ。
(私の鎌鼬でちょっと切り傷をつければ……!それで勝負は終わりです!!)
「────私は囮だよ」
「え」
「表とは、裏を覆い隠すもの。表を司る私は伏兵を隠す為の囮でしかない」
「何を言っ……ひゃあぁっ!?」
「僕の結界も強いんだよ、穹お姉ちゃん」
「ヒィィイイイッ!?り、霊魔、何故ここにっ!?虔魔と戦っていたのでは……!?」
「うん。戦闘不能にしたから戻ってきたの」
「まままままマジですかぁぁぁっ!!容赦無さすぎですよおお!!ていうか出してくださいいい!!」
「穹お姉ちゃんは、捕まえたゴキブリを部屋の中にまた逃がすのかな」
「逃がしません!てか、ゴキブリ扱いですか!?」
「じゃ、助けが来るのを待ってね」
「くううっ……!」
「……あと、念の為に……」
「ああっ!更に数を増した……!?」
「合わせて五重結界。レイチェルにも壊せないね。少なくとも5回は攻撃する必要がある。それまでに僕が間に合えばいい。結界を重ね掛けする事は時間稼ぎにも有効なんだよ」
「わ……私、捕まってばかり…………」
そのまま霊魔は穹を放置。妖怪退治の時のように気配を殺して樹理愛を守りに向かったが────、やはりそこは冥王の曾孫であった。樹理愛も日光の反射などで目眩しをして反撃しようとしたようだが妖舞により討ち取られてしまっていた。
「っ……樹理愛……間に合わなくてごめん……!」
「しゃあッ!見たか紅組ィ!!……あ?あっ、姉上、また捕まったのかよ!?」
「助けてください妖舞ぁ〜……」
「無理だろ!霊魔の結界、死ぬほど硬ェもん!!」
「うう〜……あっ、妖舞……」
「?」
「油断大敵」
「え」
背後に現れたるは最強の長女、巫月だ。サクッと雷刀を妖舞に突き刺すと、内臓を焦がさんばかりに感電させ、気絶させた。その静かな登場やトドメの刺し方たるや、まるで闇夜に潜むアサシンのよう。
「そ、そんな、妖舞まで……」
「穹はまだ諦めてないワケ?降参は?」
「しないです!きっと助けが来ます!何なら、私が本気を出せばどうにかして壊せるはず…………!!」
「あっ、そぉ。じゃあ私が倒すね」
「え」
巫月は霊魔の五重結界の中に直接スキマを開き、放電。しかも穹が脱出できないようなサイズだったお陰で、そのまま結界の中で気絶してしまった。
一方、結界を張った本人の霊魔は、この世で一番大事と言っても過言ではない程の、大事な人と対峙していた。無論、シガレットである。
「……お姉ちゃん」
「……私達……敵同士になっちゃったね」
「うん。でも、今だけだよ」
「そうだね。……どうする?戦おっか?」
「それは……嫌だけど……同じくらい負けるのも嫌」
「……だよね。霊魔くんはそういう子。お姉ちゃん、よく知ってるよ」
「……」
口篭る霊魔。考えを見透かされているのがどこか気恥ずかしく感じていた。シガレットは、彼が何か発言するよりも前に、続けざまに言う。
「だから、もう戦わない」
「え?」
「降参する。そうすれば霊魔くんと傷つけ合わずに済むもの」
「でもッ……」
「分かってる。霊愛お姉様の指示があるから。でも霊魔くんと傷つけ合うのだけは嫌なの」
「……僕もだよ。…………僕も降参する!お姉ちゃん、2人で降参しようっ!」
「それはダメ。あなたはダメ。そんな事をしちゃ、あなたの為にならない。私は元々成熟してるけれどあなたはこれからも成長する。しなきゃいけない。ここで経験を積まなきゃダメ!」
「でも……っ」
「いいから。……もし霊魔くんが抜けたら、紅組は、いよいよ余裕が無くなる。もう誰1人として脱落は許されなくなっちゃう。霊魔くんが居るなら、まだ1人分の余裕はあるの。無駄にしちゃダメ」
「でも……でも、僕はそれでもお姉ちゃんとっ……」
「じゃあ……こうしよ、霊魔くん」
「?」
「2人倒して。そうしたら1つだけ、普段言えないような大きなお願いを聞いてあげる」
「……」
「ねっ?お姉ちゃんと約束、シよ?」
「……分かった。その『お願い』、考えとく」
「ありがとう。じゃあ……行くね」
「うん」
小さく手を振り合い、互いに背を向け歩き出す。シガレットは降参を宣言。霊魔は決意を新たにして戦場に飛び込んで行った。
その頃。レイチェルとメリーの戦いは相変わらず結界を張る、割る、張る、割るを繰り返していた。レイチェルは果敢に攻めるが、次から次へと結界を張られているので、この数分間、一進一退どころか一進も一退もしていなかった。
(壊すのとほぼ同時に結界を……!敢えて耐えないで壊させて、力の消費を抑えて……。多重展開でもいいはずなのに、わざと後手に回って生成速度アピールするなんて……!となれば連撃が必須、なんだけど……無理ね、私にはできない。それなら……こうするしか方法は無い!!)
(……笑った!?レイチェル、何をするつもり!?)
「いい加減、決着つけてやるんだから!悪魔召喚!
『レミリア・スカーレット』!『アスモデウス』!
『フランドール・スカーレット』ッ!!」
「……あら、この私を召喚するなんて」
「我が主の仰せのままに」
「レーテってば、お姉様だけじゃなくて私まで?」
(…………4対1ってこれマズくない?ボコられるのだけは勘弁してほしいなぁ……蓮子も見てるし……)
「はぁい茜、お邪魔しま〜す」
「私も参加するよ〜っと」
「やっ、と、追い付いた……巫月、お姉様ぁっ……」
「巫月お姉ちゃん……霊麗お姉ちゃんに魅玖まで?」
「これなら問題ないでしょ。4対4だしね」
「……!うんっ!巫月お姉ちゃん、指示お願い!」
「指示?今回はそんなの無いよ。全力で暴れるッ!ただそれだけ!!」
「「「はいッ!!」」」
何だかまた大変な事になった。えらいこっちゃ、戦争だ。……見ている俺としてはもうそんな気分だ。
メリーが結界を張れば4人全員が束となり攻撃を仕掛け、コンマ数秒のほんの僅かな時間差によって四重結界を破る。しかし、その先に待ち受けるのは巫月の反撃壁。初見のアスモデウスが感電している隙に霊麗が本気の夢想封印にて場外に吹っ飛ばし、見慣れているレミリア、フランは壁を回避し、直接4人を叩こうとする。
「弦月姫お姉ちゃんッ!!」
「任せて!!」
フォンとスカーレット姉妹の前にスキマを開き、スキマの向こうにいる弦月姫に声を掛けるメリー。彼女はそれだけで意図を察し、スカーレット姉妹を狙って多数のナイフを投擲する。
「チッ!」
「厄介な……ッ」
レミリアはほんの僅かにグレイズをミスした事により軽く被弾。流血した事によりリタイア。対するフランは身軽に回避を続けていて、今にもその拳はメリーに届かんとしていた。
「んぬおぉぉおおおおっ……!!」
(なんて強さ……ッ!真っ向から受けたら、それこそ身体が一瞬で弾けかねない!この馬鹿力……、これがフランドール・スカーレットの強さ……っ)
「なんて硬いのよ、この結界ィィィ!!」
「何度も張り直してるよ、壊されまくってるもん……なんて強さしてんのよ、あなたは!……魅玖!!」
「はいっ!雷符『萬雷招雷』ッ!!」
魅玖が初めて目の前でスペルカードを使用した。巫月からは、魅玖はホーミング弾ばかり使っているという話を聞いていたが、目の前の彼女は俺で言う雷神系統のスペカ、つまり雷を大量に降らせているので、彼女らしくないと言える。
しかし威力はかなりあるようで地面にそれなりの大きさの穴を作っていく。とはいえ、フランは長年俺と
そしてそんな混戦の中アスモデウスが帰還した。
「あなたがエスカルゴ殿の長女ですか。成程確かに可愛らしいお方だ」
「アスモデウス、だっけ?レイチェルの部下って、ホント?よくレミリアさんが許したねぇ」
「レイチェル様の配下をやらせて頂いております、七つの大罪が1つ色欲の担当悪魔、アスモデウスと申します。以後お見知りおきを」
「巫月・優曇華院・スカーレット。レイチェル達のお姉ちゃん。とりあえず宜しく。……で、そんな由緒正しい悪魔と戦うなんて聞いてないんだけど」
「私も聞いておりませんでした、まさかこの戦いに駆り出されるなんて。しかし我が主が召喚したのであるならば、全力で力を奮うのみ────」
その瞬間、アスモデウスの背中に開いたスキマの中から、通り抜ける雷刀が飛び出した。死角からの突然の襲来。俺達とそれほど手合わせをしていないアスモデウスには、それに対応できるはずもない。
「カハッ……な、にを……ッ!?」
「ごめんねぇ?私、不意討ちが得意なの」
「……不覚ッ……」
アスモデウスは、白目を剥いて気絶した。七つの大罪は伊達ではないはず。一瞬で気絶するなんて、巫月の本気具合が伺い知れる。
「霊麗お姉様の
「それは良かった、早く倒せそうだね!」
「ぬぬぬぬぬぅ〜〜〜〜っ……『獄炎爆神撃』!!」
ボウッと燃えるレイチェルのバトルアックスは、霊麗の弾幕を斬る度に、爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる。爆発の威力は回を経る毎に増していき、ジワジワと霊麗も押され始まった。
「っ、何なのその能力、爆発するとか意味不明……!はあああああっ!!」
「ッ────!?」
しかしそんな爆発すらも、爆発的に増えた霊麗の弾幕の前には無力同然だった。圧倒的物量で彼女のバトルアックスでの連撃は封じられ、全身に被弾しアザを作って吹っ飛ばされる。残るはフランのみ。
「全員、集合ォォ〜〜〜〜〜〜ッ!!」
「「!!」」
メリーの呼び声によって、アスモデウスを倒した巫月、レイチェルを倒した霊麗が集合し、フランと戦っているメリーと魅玖に合流する。
「フフッ……多勢に無勢。エスカルゴの子供達は強いもんね、仕方ないね。ほんのちょっとだけ、本気、出してあげる!禁忌『フォーオブアカインド』!」
「……考えられる限り最悪のシナリオだ……これ……」
本気の霊魔の結界やA.T.フィールドすらも壊せる4人のフランの攻撃力は、最早、語るまでもない。霊魔の防御力は折り紙付きである。それを、4人で壊した。メリーの結界も同様の結果になるのは火を見るより明らか。巫月が後ずさるのも仕方がない。
「あと2人倒せば白組の勝ちなんだよねぇ?可愛い姪っ子に召喚されちゃあ、頑張るしかないねぇ♪」
「……ッ、茜、本気も本気で防御して!」
「無理だよ、私は多重展開は得意だけどそこまでの防御力は無い!何だかんだで霊魔の方が防御だけは私より上なのはリーグで確認したし────」
「
「「「「ッ────!?」」」」
4人と4人の間に割り込むように現れて、瞬時に4人のフランを五重の結界で囲む霊魔。急な展開に誰も流れに乗れず、誰も反応できなかった。唯一、巫月を除いて。
「……!今だ、ぶち込め魅玖ゥゥッ!!!」
「ッ!は、はいっ!!」
「「「あばばばばばばばっ……」」」
「回避不能のハメ技なんて卑怯だよ……っ!」
「でも禁止されてない。勝つ為なら反則スレスレの攻撃だって!!」
穹を倒した時のように結界の中にスキマを開く。そして魅玖と力を合わせ2人でバリバリッと電撃を流し込んでいく。フランはハメ技だと言うが実際はそうではない。現に対処法はある。スキマの出口にバリアを張れば防げるのだ。
そんな事も思い付かないフランではない。きっとレイチェルが脱落したのでこれ以上自分が残っても意味は無いと思い、しかし降参するのも────と考えた結果、このように敢えて負けてあげるという手に出たのだろう。
「よ、よしっ……!フランさんを倒せたっ……!!」
「ナイスファイト、魅玖!」
「巫月お姉様もっ!」
パチンとハイタッチをする巫月と魅玖。癒しだ。とても可愛らしい。そして結界だけを張った霊魔はフランとの勝負を見届けずにどこかへ向かった。
行き先は、阿弥&弦月姫vs恋愛コンビの戦場だ。
「────その戦い、待った」
「「「「ッ!?」」」」
再びぶつかり合いそうだった2組の間に、綺麗なA.T.フィールドが形成される。据わった目の霊魔に思わず4人は顔を引き攣らせ、後退る。
特に弦月姫などは、普段のフワフワオドオドした霊魔を紅魔館という職場でよく見てきているので、阿弥や恋愛コンビより彼の変貌ぶりに驚いていた。
彼の落ち着いた顔付きからは、普段の顔見知りの彼ならではの様子が読み取れないし、まるで「全員僕の敵だぞ」とでも言わんばかりの冷たい目付き、気配。どこか普段の霊魔ではないのは、誰が見ても明らかだった。
「ど……どうしたの、霊魔……?」
「僕がやる」
「え?」
「僕が2人を倒すから2人は休んで。逃げ回ってる緋月を捕まえてもいいし」
「でも1人じゃ……」
「シガレットお姉ちゃんとの約束なの。退いて」
「は、はい……行こ、阿弥」
「え?う、うん……」
どこか納得のいかなそうな顔をしつつ、弦月姫に手を引かれて渋々場を離れる阿弥。恋愛と綺愛羅は霊魔を舐めているのか、それとも相手が1人だけの方が楽だと考えているのか、彼のこの行動を止めることは無かった。
「カモネギだな綺愛羅、カモネギ!」
「『鴨が葱を背負って来る』ってヤツだね。でも、これでやっと勝ち星を挙げられそうっ♪」
「よーし、勝負だ、霊魔兄ちゃん!!」
(弟でも妹でも容赦しない。いや、容赦しちゃダメなんだ。僕は僕の願いを叶える為に戦って、2人を倒すだけ。そうでしょ、お父さん────!)
博麗家の末っ子霊魔の本気の戦いが、今始まる。
十六夜虔魔、東風谷樹理愛、魂魄妖舞、射命丸穹、シガレット、レイチェル・スカーレット、脱落。