※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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1面:忌み嫌われた独唱(アナテマ・ソロ)

「霊愛。とりあえず帰って異変解決の用意よ」

 

「……うん」

 

「しっかりしなさい。今回は急を要する。見習いのあんたにも動いてもらうからね」

 

「うん」

 

「いい?この異変のボスはエスカルゴよ。見付けてボコるの。邪魔する奴もボコる。自分の勘に従って動きなさい。いい?」

 

「うん」

 

「聞いてんの?」

 

「聞いてる」

 

「……そ。じゃあ、さっさと動きなさい」

 

 言うなり、霊夢はゴオッと凄まじい風音を上げて博麗神社の方角へ向かった。今の霊夢は吸血鬼だ。彼女の《空を飛ぶ程度の能力》との併用なら、群を抜いた速度で飛行する事ができる。

 霊愛が博麗神社に到着した頃には、既に霊夢は、どこかへ出発した後のようだった。下の子の2人に改めて留守を言い渡し、続いて霊愛も出発した。

 

 

 ◆

 

 

「お父さん……幻想郷を征服だなんて何をバカな事を考えてんの……!絶対に止めなきゃ……。下手すればお父さんが幻想郷に居られなくなるかも……」

 

 何だかんだ言っても霊愛は彼が好きだ。だから、殴ってでも止めようとしていた。あのように啖呵を切られても、怒りはすれど、しっかりブチのめせば溜飲は下がる。何か事情があるに違いない。霊愛はそのように考えていた。

 そして幸か不幸かその想いは現実のものとなるのだが、今の彼女はそれを知る由もない。

 父が目を付けそうな、尚且つ手中に収めそうだと予想した場所を、手近な順に狙っていく事にした。そこで父と出会う事が出来れば万々歳。もしそれが叶わなくとも、そこに居る者に父の来訪を断るよう告げればいい。

 そう考えていた霊愛は、妖怪の山に来た。ここは多くの関係者が居るからだ。文、穹は勿論のこと、2人の上司や、厄神の雛、河童のにとりなど、その関係者を列挙すれば指が何本あっても足りない程とまことしやかに囁かれている。

 

「む?……おや、次代の巫女様ではありませんか」

 

「退いて」

 

「はい?」

 

「退けっつってんの。お父さんを探しに来た」

 

「英雄様ですか、本日は山にはいらしてませんよ。それに本日は里で催事があります故、次代の巫女様でも通すワケにはいきません。申し訳ありませんが日を改めてまたお越し下さい」

 

「話になんない。言っとくけど今のお父さん、気配断つの上手くなってるからね?しかも、バカ正直に飛んで来るとでも思ってんの?時短にスキマ使うに決まってんでしょ。あんたみたいな末端の天狗に、私のお父さんの何が分かるっての?」

 

 この言葉に、哨戒任務中の白狼はムッとするが、それが原因で起きたのが、約20年前のエスカルゴの大暴れである。自分が引き金になっては、と白狼は深呼吸し、いかにもな営業スマイルを顔面に湛えて霊愛の対応をする。

 

「本当に申し訳ありません。ですが本日はあの方のご家族の射命丸親子も催事に出向いておりますし、英雄様が山に滞在する理由が無い、と言いますか。何にせよ、今あの方はここに居ません。ですから、どうか巫女様もお引き取り下さい」

 

「末端はスッ込んでな。話にならないから、もう、天魔と話をつける。入らせてもらうよ」

 

(里へは天狗しか入れない結界がある、だから別に通しても構わないが──博麗の巫女は、結界術にも精通していると聞く。とすると破られて侵入される可能性があるな。さて、どうしたものか……)

 

「何考え込んでんの?天魔とやらを連れて来なよ」

 

「申し訳ありませんがそれは無理です」

 

「じゃあいいよもう、実力行使させてもらう」

 

「消え────ええっ!?」

 

 

 ◆

 

 

「────で、あるからして〜……何じゃ騒がしい、儂が話しとるのだぞ、聞いとらんのか」

 

 里の催事にて、天魔がスピーチをしている時に、それは起こった。

 外の見張りをしていた者が、負傷した腕を庇って血だらけになりながら催事の中に割り込んできた。これには参加者は全員焦りと驚きを隠せなかった。それは天魔も同様だった。

 

「緊急事態!緊急事態でありますッ!!」

 

「何事じゃ」

 

「申し上げますッ!!次代の巫女が哨戒中の天狗の制止を無視し、山に侵入!止めに入った天狗達を、容赦なく倒していきます!この里に攻め込んでくるつもりのようです!!」

 

「して、目的は?」

 

「そ、それが……『天魔様に会わせろ』との事です!催事の最中ですので私共も止めなければと……」

 

 天魔は手に持ったマイクをガシャンと叩き付け、

「あー!」と喚きながら、ガシャガシャと頭を掻き毟っている。周りの天狗達は何をしているのか全く分からず、ギョッとするばかりである。

 

「こンの馬鹿者共がァァアアアアアアアアッ!!」

 

「「「ひぃっ!?」」」

 

「柔軟に対応しろとッ!!山の英雄の関係者は敵に回すと面倒な事になるから特に気を付けろとッ!!どれだけ儂が口を酸っぱくして言ってきたのかッ!貴様らには響いておらんのかァッ!また妖怪の山を血に染めるつもりか貴様らはァ!話が通じぬのか!幼子の方が話が通じるぞッ!!」

 

「お、お言葉ですがっ、此度は天魔様が主催である催事であります故、万全に万全を期して……」

 

「だから、そこを柔軟に対応しろと言っとるのだ!日本語が通じんのかッ!この馬鹿者が!阿呆たれ!どれだけ罵声を浴びせても足りぬわ!阿呆ゥッ!!優先順位は!儂が第一ではない!!面倒事の回避!それこそが妖怪の山における優先順位一位である!これより肝に銘じよッ!もし次に面倒事を起こせばその者は死罪とするッ!よいなッ!!」

 

「も……申し訳……」

 

「もう遅いわ!!仕方ない、儂自ら出向くしかこの騒動を収める手立てはあるまい。おい、飯綱丸!」

 

「はっ」

 

「適当に仕切ってなさい。儂が戻るまで天魔代行に任ずる」

 

「御意」

 

(次代の巫女も次代の巫女だ。唐突に儂に用だと?藪から棒に……。それだけ急用なのだろうが、かなり迷惑な事には変わりないな。やれやれじゃ)

 

 溜め息をつき、そして念の為に刀を引っ付かみ、天魔は里を飛び出した。風の流れを読んで、騒ぎが起きている場所を特定。風に乗り最速で向かった。

 現場では2人の鴉天狗を相手に見事な立ち回りを見せながら霊愛が暴れに暴れている所だった。

 

「て、天魔様ッ!?」

 

「者共、控えィ!ここは儂が引き受ける!」

 

「「はっ、はいっ!!」」

 

「逃がさない。霊符『夢想封印』」

 

「あぎっ……ぎががああがああああああ!!!」

 

「ぎゃあああああああああっっ!!」

 

「ぬぅっ……何だと……」

 

「これで……天魔……あんた、1人……っ!!」

 

 天魔の鶴の一声により血塗れの天狗達は下がり、その場には刀を腰に佩く天魔、返り血で紅白でなく赤と紅になりつつある霊愛が残った。

 

「はぁっ……はぁっ…………あんたが天魔……天狗のボスなんだよね?」

 

「如何にも、我こそは天魔である。止められたにも関わらず強行突破する程とは、何の用かの?次代の巫女よ」

 

「お父さんを探してる。……出せ。もしくは、探せ」

 

「それで無用な血が流れないのであればそうする。だから巫女殿も、これ以上、幼子以上に非力な我が部下をいたぶってくれるな。我々はか弱い。あまり虐めるな」

 

「……分かった。天狗はお父さんを隠してない、その認識でいい?」

 

「天狗どころか山の妖怪全体だと思うぞ。彼が山に侵入する折は、厄介払いの為に敢えて(・・・)気配を全開にするからな。彼の居る所に天狗は居らぬ。逆に言うならば、天狗が居る所に彼は居らぬ。今は、天狗の里にて催事を執り行っておってな。警備は普段の倍以上に強化しておる。全体に天狗が居るというのはお主なら気配で分かるであろう?」

 

「うん……確かに山全体に点々と居るね」

 

「そうであろう。それこそが、彼が山に居ない事の何よりの証拠なのじゃ」

 

「……ごめんなさい」

 

「よいよい。これから気を付けてくれるなら、な。次はちょいと罰するぞい?」

 

「分かった。じゃ、もしこれから山に来たら、私に来た事を伝えるよう穹に言っておいてくれる?」

 

「あいわかった。しかと伝えておこう」

 

 

 ◆

 

 

 霊愛がまた別な目的地へ向かい始めた、その頃。異変の犯人であるエスカルゴとモルモーは、幻想郷ではない某異世界の某所にて……。

 

「あ〜あ、あんな風に啖呵切っちゃってぇ……もう、大丈夫?そろそろ泣き止みなさいよね」

 

「うう……霊愛ぁ……う、うぅっ、泣かした……泣かしちゃったよぉ……俺って奴は……!父親失格だもっと他にやり方あったろーがぁ……俺のバカぁ……!もうヤダよ、助けて霊夢ぅううう……!!」

 

「よしよし、霊夢の代わりだけどモルモーちゃんが慰めてあげるから。ほら、おいで?」

 

「うぐぅ……モルモー……しゅきぃ…………」

 

「はいはい、よしよし……ホントにもう、子供ねぇ」

 

「んふー……モルモー温かい……。ね……霊愛、俺の事許してくれるかな……?」

 

「そうねぇ、接戦を演じた後にコテンパンに負けてあげたら許してくれるんじゃない?」

 

「無理……わざと負けるんじゃダメなんだ……これはあの子にとって必要な事なんだよ……うう〜っ……」

 

(ホントに20児の親なのかしら、この子……。霊夢はこれでも大人になった方って言ってたけど、マジ?これで「大人になった方」って、幻想入りしたてのこの子はどんだけ精神的に子供だったのよ……)




天魔が彼の家族に異様なまでに寛容なのには幾つか理由があります。
・敵に回すとガチ面倒
・何か起きると後々まで影響が続く
・自身が彼に敗れた過去があるせいで、これ以上の失態は更なる支配力の低下を招く

あのクーデターは、後手に回る(下手に出る)天魔が不甲斐ないと思った大天狗野郎が「ならば」と一念発起した事件でしたが、天狗社会を太く短く繁栄させるなら彼が正解でした。間違いなく戦力増強は出来ました。
ただし今以上の独裁になるので本当に「太く短く」です。なので、細く長く繁栄させられる紗那の方が結果的には正解と言わざるを得ません。

天狗にとっては「急に(ここ数年の事)そんな事を言われても……」となるので、毎度の如くこうなってしまいます。仕方ないんです。習慣とはそう簡単に変えられないのです。
天魔様はこれからも部下の強すぎる忠誠心によって苦しめられる事でしょう。
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