霊愛が妖怪の山の次に向かった場所は、姉の居る永遠亭だった。文や穹、龍及び典に会いに行ったのではないなら、突出して誰よりも溺愛している娘の居る、永遠亭が怪しく思えた。
霊愛はそう考え、簡易的なスキマで時折ショートカットをしながら永遠亭に向かうと、ズドドドドドドドン、と連続して雷が竹林に落ちるのを見た。
しかも雷の弾幕まで飛び交っていた。どう見ても雷の能力者同士が戦っている。少し遅かったか、と霊愛は舌打ちしながら更に速度を上げて永遠亭へと向かって行く。
しかしそこでは雷三姉妹こと巫月、魅玖、緋月の3人が三角形に広がり互いに弾幕を撃ち合っているだけであった。落雷は巫月が、ホーミングは魅玖、レーザーは緋月が放っているらしい。
「あれっ?霊愛じゃん、どうしたの?血腥いねぇ」
「おねーちゃん、くさーい……」
「お父さん探してんの。まだ来てない?」
「来てないよー。そもそも今夜は博麗神社じゃん。今日は永遠亭には来ないよ?」
「それよりも霊愛お姉様、その血は一体?お姉様の血じゃないのは分かるけど……」
「これは──何でもないよ。もしお父さん来たら、教えてくれる?お姉ちゃん、魅玖」
「やーだよっ。もし来たら一緒に遊ぶもんねーだ。色々とシたり?遊びたいもーん♡」
「ッ、今はそうも言ってられないの!どうしても、お父さんと話さなきゃいけない事があるの!!」
「……ふーん、じゃあ、どうしても阻止したいんなら私達と戦って倒してみなよ」
「「えっ!?」」
「いーよ、そうしよっか。でも3人のうち1人でも負けたら3人全員の負けだからね」
「ふんふん、了解了解。いくよ魅玖、緋月!特訓の成果を霊愛にぶつけてやりな!!」
「「ら、
3人が雷の弾幕を放ち始めた。前から、スキマを介して後ろから、そして上から。何とも多彩な、と霊愛は苦い顔をする。こんな事なら、事情を話して理解を得る方が早かったのかもしれない。
霊愛は今、後悔先に立たずという言葉を強く強く噛み締めていた。
「はあああああああっ……!!」
「────ッ!緋月!魅玖!アレやるよ!!」
「「はいっ!!」」
「「「姉妹符『電光雷光カーニバル』ッ!!」」」
霊愛が弾幕を放ちながら力を溜めるのを見るや、巫月はすぐ勝負を畳もうと決めた。プリズムリバー三姉妹のような、雷三姉妹が揃った時にのみ使えるこのスペカを、霊愛にぶつけよう──これでもしもダメだったら降参しよう、そう考えていた。
「容赦はしない!!これは3人の為でもあるのっ!霊符『夢想封印 夢幻』ッ!!」
霊力の密度、弾幕量、その2つで圧倒。相殺し、そしてその後は一方的に嬲るのみ。
移動制限をするレーザーを放つ緋月に、しつこいホーミングの魅玖。落雷の巫月だけは倒せなかったものの、2人はどうにか倒す事ができた。
「フーッ、これでいいでしょお姉ちゃん」
「はいはい、流石に勘弁。霊愛が私達の為だなんて言うなら、そうなんだろうねー」
「ありがと。じゃ、鈴仙達と話付けてくる」
「いてらー」
永琳と鈴仙は仕事中だったので、てゐ、サグメが霊愛の話を聞く事になった。詳細は話せなかった。父が幻想郷の支配だなんてバカな事を企んでいると言えば失望されるかもしれない。そう思うと霊愛は本当の事を2人に言えなかった。
「……そういう訳で、大事な話があるから、もし仮にお父さんが来たらどうにかして私を呼んでくれると嬉しいかな」
「うーん、どうも要領を得ない話だねェ。サグメ、どう思う?」
「霊愛、ちゃん。……さん?……本当の事を話して」
「!」
「言い難い事が、あるというのは……分かっている。でも、どうしても、納得がいかない。今日は、本来彼に会えない日。だから、もし会えたなら、やはり嬉しい。……とはいえあなたは娘なので、1日くらい我慢しようとは思う……」
「……ありがと」
「問題ない。てゐも、それで大丈夫……?」
「問題は無いけど、それじゃあつまんないなぁ〜」
「「え?」」
「サグメは納得いったみたいだけどさぁ、私ゃ納得してないんだよ。アイツとは遊ぶ約束もしてるから予定返上で遊びに来てくれるかもしれないじゃん?なのに、いつでも彼と会える娘に引き渡すのは少しヤダなぁ〜ってねぇ?」
「じゃあ弾幕ごっこで決着をつけよっか?」
「フン、そんな見え透いた挑発に乗るのはバカだけだよ。私がそんなバカに見えたのかなぁ。正攻法で霊愛相手に勝てるとは、誰も思ってないウサ」
「じゃあどうするの?議論でもしようか?」
「いやぁ弾幕ごっこでいいよ。ただし、3vs1だ」
「構わないよ。今だけは負ける気がしない」
「OK、準備しよっか。サグメ、準備してきてよ」
「えっ?あ、うん……うん?」
てゐは仕事中の鈴仙を呼び出し、軽く説明をし、サグメは準備を済ませる。その結果、3vs1という構図が出来上がる。多勢に無勢ではあるもののつい先程も3vs1の戦いをした事もあり、霊愛の中では立ち回りのビジョンがとうに出来上がっていた。
「って事で、ウサギ3人vs霊愛の始まり始まり〜!楽しもうねぇ!」
「私とてゐは分かるけどサグメ様はウサギじゃないでしょ」
「んー?ウサギはウサギでも右と鷺でウサギウサ。言葉遊びみたいな?」
「はぁ……なんかもう、何でもいいや」
「……///」
「サグメ様も何でホクホクしてるんですか……」
「……ウサギ……私もウサギ……ピョコピョコ……♪」
(……サグメ様が嬉しそうならなんでもいっか)
楽しそうなサグメを見て、霊愛はどこか不思議な気持ちになっていた。月の民は揃いも揃って厄介で一筋縄ではいかない強かな奴ら。両親からは、大体そのような事を言われて育ってきたからだ。
目の前の彼女は元月の賢者。そんな彼女からは、全くそんな感じがしないように思えた。
しかしそれはそれとして、もし本当の事を話せば3人、特に鈴仙とサグメを悲しませる可能性があるかもしれないので、真の目的は隠したままで、場を収めるしかないと霊愛は考えていた。その考えは、きっと負けても変わらないのだろう。
「それじゃいきますかっ!兎符『開運大紋』!!」
「……!流石、悪戯が得意なだけあるね。不意打ちも何のそのって?」
円形の弾幕が、バウンドするような軌跡を描いて四方八方から迫る。サグメの高密度な御札の弾幕、鈴仙の幻覚混じりの弾幕、普通に張り合っていれば物量で押し込まれる。
しかしそこは博麗霊愛。次代の巫女とも称されるだけあり、威力が控えめの高密度な弾幕への対処は殆ど教科書通りという完璧さだった。
「────霊符『夢想封印 集』」
「これは……!」
鈴仙が反応した。鈴仙、てゐ、サグメの中では、鈴仙が一番霊夢との関わりが多い。なんせ、娘達の共通の父親だ。てゐやサグメと比べて争い、互いのスペカを見る機会だってふんだんにあったはずだ。
「……初見。一先ず回避に専念」
「サグメ様、これは引き付ければ大丈夫です!」
「了解」
そう、この夢想封印は御札を弾幕、弾幕を御札に変換させながら放つ技であるが、変換の際に弾幕は一時停止、そして再始動する毎に標的をホーミングする。しかしそれだけ。引き付けて回避するだけで簡単に避けてしまえる。
極端に言えば、変に気張らずとも、カクカク動くだけでも避けてしまえる。
とはいえこれはあくまでイージー。つまり術者が手を抜いた状態での話である。ほんの少しだけ力を入れれば途端にレベルは跳ね上がる。
「……鈴仙」
「大丈夫ですよ、この白いのだけ回避して後は全く同じやり方ですから」
────ハード。
「鈴仙!」
「大丈夫ですって!」
────ルナティック。
「難しい!」
「ああもうっ……てゐ!サグメ様!一旦下がって!!狂符『
「うっ……!?」
視界がグラリと歪む。弾幕がダブり交差したかと思えば数を増して迫ってくる。ダブっている間のみ弾幕に当たり判定が無くなり、前進を許される。
それ以外は、ただただ後方に下がるのみである。
「……ここは物量で押すべき、だろうか」
「そこはサグメ様のお好きにどうぞ、ただあんまり多すぎても打ち消し合うと思うんで、スペカ選びも慎重にお願いします」
「………………どれもダメ。合わない」
(そりゃそうでしょ……私とサグメ様じゃあ、弾幕の系統が全く別だもの……)
鈴仙は苦笑い。サグメはおっちょこちょいな面があるので、戦闘においてのそのおっちょこちょいを無くす為には鈴仙がサポートしなくてはならない。もし言わなかったら相性が悪いのも気付かずに味方同士で相殺していたんだろう、と耳を萎びさせる。
「うーん、これは無理だわ!私、イチ抜け!」
「あっ!こら、てゐっ!?」
「フツーに考えて無理だよ!リトル霊夢じゃん!?数年前ならいざ知らず……今は無理!」
「このッ……後で覚えてなさいよー!!」
鈴仙に弾幕の相殺を任せていたのをいいことに、余計な力を使う前に戦線離脱。別に、霊愛としては鈴仙とサグメに話を付けられるなら構わないので、わざわざ追う必要も無い。
とはいえ、言い出しっぺがこのザマであるので、2人の戦闘意欲が低下してしまっているのもまた、間違いなかった。
「でもね……一度勝負を受けた以上は、子供相手に、そう簡単には負けを認められないのよ!ましてや、それが自分の子の妹なら!散符『
同心円状に広がる座薬のような弾幕。隙間は酷く狭い。鈴仙の紅い眼が光る度にその弾幕は消えて、代わりに青い弾幕が現れる。かと思えば、眼の光が収まると座薬の弾幕が現れる。
ギリギリの隙間を縫って回避していくが、霊愛は本来脳筋である。このようにじれったい弾幕を回避していたり見ていたりすると、段々頭に血が上ってきてしまう。
「ほんっと、難しい弾幕はストレスが溜まる……!!お母さんもお父さんも、よく回避する気になるよ、弾幕なんて……ッ!!霊符『夢想封印 夢幻』!!」
「きた……!サグメ様、ホーミングですよ!」
「承知」
霊愛が力を込めた弾幕は、鈴仙とサグメの弾幕を掻き消しながら突き進む。霊愛はその弾幕の後ろを高速飛行して追い掛けるが、当然鈴仙は波長を視てそれに気付いていた。
けれども霊愛も、鈴仙が読んでいる事の更に裏を読んでいた。ある程度接近しお祓い棒でのスキマの射程圏内に入ると、お祓い棒で空間を割き、鈴仙の背後に移動する。
「しまった────!!」
「私の方が速いよ」
「へぷっ」
鈴仙の頭をお祓い棒で叩き、意識を刈り取った。霊愛とて人間ベースではあるが半妖。人間の力より強い。まして妖怪への特効がある霊力で強化されたお祓い棒だ、とうの昔に地上の兎となった鈴仙には毒のように効いたことだろう。
「……さて、次はサグメだね」
「いいえ。私は降参する。これ以上は無益且つ無謀だと分かった」
「あ、そう。それならいいや。お父さんが来たら、どんな手段でもいいから私に教えて。あと、もしもお父さんに変な事を言われたら絶対に断って」
「変な事?……分かった」
サグメや鈴仙からすれば、来るであろう父親より今の自分の方がずっと変で、滅茶苦茶な事を言っているんだろうな、と霊愛は飛び立ちながら溜め息をついた。
霊愛はまた勘に任せて飛び始める。しかし今度は本当にヤバいかもという本能的な危機感を抱いて。