※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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3面:思い付きの托卡塔曲(トッカータとフーゴ)

「……やっぱ地底は暑いなー……」

 

 暑さへの愚痴を垂れ流しながら霊愛は地底の天蓋付近を飛行している。余計な争いを避け、真っ直ぐ地霊殿へと向かう為だ。

 道中、土蜘蛛のヤマメ、釣瓶落としのキスメから絡まれたものの、ほぼ手加減無しのお祓い棒による一閃で彼方へ吹っ飛ばされた。

 時たま、怨霊にも絡まれる。妖怪ではないので、もし奴らに取り憑かれてもそこまで大きな被害にはならないと軽く考えていたが、普通に考えて肉体を誰かに乗っ取られるというのは不快でしかないなと思い直し、以降は視界に入ったらすぐにブッ飛ばす事に決めた。

 

「あれあれ〜?霊愛ちゃんじゃん、1人で地底(こんなとこ)まで来るなんて、どういう風の吹き回し?」

 

「っ!?……こ、こいし……いつの間に……!?」

 

「お兄ちゃんの邪魔をしに来たのかな?と思って、先手を打ちに来たんだよ〜。……あっ、これ言っちゃダメなんだった。無意識だったわ。無意識ギャグ!なんちゃって♪」

 

「……」

 

「あれ、ウケない?」

 

「ギャグセンス無いよ」

 

「ふーん。まぁいいや。あなた、お兄ちゃんの邪魔しに来たんでしょう?追い返させてもらうね?家族団欒の邪魔なの」

 

 戦闘態勢に入る霊愛。しかし次の瞬間、彼女達は地霊殿の前で、しかもさとり、お空、お燐、姫含む5人と対峙していた。

 霊愛にとっては瞬間移動。何が起きたのかと混乱するが、そんな様子が可笑しいようで、クスクスと笑いながら、こいしが解説をする。

 

「────無意識。誰しも、意識と無意識の境界を持ってる。私はその境界を自由自在に操作できるし行き来できる。自分だけでなく他人の意識すらも、今の私には操作できる。私、あなたの事を誘拐とかしてないからね?あなたが自分で私についてきた。ただ、それだけなのよ」

 

「……厄介すぎでしょ……」

 

「ふふふっ……成長するのはあなた達『エスカルゴの子供達』だけじゃないって事よ。ね、お姉ちゃん」

 

「そうね。────エスカルゴさんの件ですよね?お察しの通りですが地霊殿は既に彼の手中にあると言っても過言ではありません。というより、当主の私と彼が恋人関係にあるのですから、これまでも、そしてこれからも、あまり大差無いのですがね」

 

「違う!さとり!目を覚まして!お父さんは全てを自分の思い通りに支配しようとしてるの!地霊殿を足掛かりにして地底そのものを支配しよう、とかも考えるかもしれない!何か、事情はあるとは思うんだけど、とりあえず支配は良くないから────」

 

「……?それ、今まであの人がやってきた事とさして変わらないのでは……?」

 

「……へ?」

 

「明確に『支配する』などと口にしなかっただけでやってる事は『血縁』を使った各地の入手及び支配だと思うので、私としてはこれまでと変わらないと思うのですよ。都合のいい時に血を吸われるなどと言いたいようですが、それもこれまでと変わりないですから……」

 

「……」

 

「どうやら霊愛さんは、日本史の勉強はしていないようですね。有力者に自らの娘を嫁がせ、そちらの家での影響力をも得る。古来より行われてきたごく普通のことです。相手に捧げるのが娘か己自身かの違いだけで、彼のやっている事は、時の権力者達と変わらないのです。不利益は無いですし私としても彼の申し出を断る理由もありません。私、そして、家族への後ろ盾にもなってくれるのは変わらない。なので喜んで彼の支配を受け入れましたよ。口約束ではありますが簡単に破棄できない────そう、あなたの考えている通りです。彼と、悪魔の契約を結びました」

 

「血迷ったの……さとり!?閻魔からも任されてるんでしょ!?それを、安全に暮らせるからって私達のお父さんにまで背負わせる気!?」

 

「そうですね。本来は、地底の安全も怨霊の管理も一手に私が引き受けていましたが、流石に安全など私の手に負えない問題が山積みでして。勇儀の力も借りてはいますが、鬼などのゴロツキにしか彼女の顔は通用しない。彼にはそれ以外を任せています。あくまでこれも、これまで通り(・・・・・・)、ですがね」

 

「ッ……!」

 

「支配って聞くと悪い風に聞こえるけど、実際は、手助けだよ。新鮮な死体をよく見付けてくれるし(・・・・・・・・・・・・・・・・)、あたいとしても助かってるんだ〜♪」

 

「それって……っ……ねぇお燐、それの出処は!?」

 

「さぁ?死刑に処された罪人じゃないの?人里より悪党が多いからねェ、地底(ココ)はさ。でも、出処なんてどうでもいいのさ。仕事が進めばそれでいい」

 

「……」

 

「えっと……えっとね、霊愛ちゃん!お兄さんが支配してくれた方が、地霊殿の周辺で姫を安全に遊ばせられるの!何だかんだ危ないし……さとり様、あまり外に出ないから、仕事中のお守りはお燐に任せきりなんだけど、そうするとお燐の仕事も進まないし。かと言って、お兄さんを毎日毎日地底に呼ぶ訳にはいかないでしょ?だから、姫を安全に外で遊ばせるにはお兄さんに地底を支配してもらって安全にしてもらわないとなの。さとり様は引きこもりがちだしこいし様は消えるし、私達は仕事だもん」

 

「…………それでも支配なんてダメ!これまで、皆で持ちつ持たれつでやってきたんでしょ!?」

 

「ええ、これまではそうでしたよ。ですが、そうもいかなくなってきた。それだけの事です」

 

「……皆、お父さんの甘い言葉に負けてるだけだよ!目を覚まして!!」

 

「確かに……あれは悪魔の甘言です。ですが、現状が変わるのなら縋りたいのです。安全に、スクスクと子供に育ってもらいたい一心で。お空の子は私の子同然。姫には安全に、健康に、そして健全に育ってもらいたいですからね」

 

「あぁそう、どうあっても聞かないのね!それじゃお父さん以上の力でブン取ってや────」

 

 次の瞬間、ズシャッと霊愛の足が地面に埋まる。姫が霊愛の足を固定しようと、地上の数倍の重力を掛けたのである。

 

「ぱぱ、わりゅくないのっ!おにさん、とんでったけど、わりゅいから、とんでっていーの!ぱぱね、わりゅいの、たおしゅから、いーの!ぱぱ……ぱぱ、ぱぱぁ…………ぱぁっぷわぁあああああっっ!!!」

 

 どうやら姫は、エスカルゴが悪い鬼を吹っ飛ばす様を見ていたらしい。地底はゴロツキが多いので、まだ幼い姫も父の戦う姿を見た事があるのだろう。

 人一倍懐っこい姫は、姉からとはいえそんな父を悪し様に言われたのが癇に障ったか、霊愛に掛かる重力をグンと強めた。両足のみならず、身体全体が重くなってしまい、膝をついてしまう。

 

「ふぐっ……何、この重さ……ッ!?」

 

「姫っ!!強すぎよ!!こいし、抑えて!」

 

「……抑えられない。多分、意識してやってるよ(・・・・・・・・・)」

 

「姫ダメだよー、お姉ちゃんなんだよー?」

 

「やーや!ぱぱ、わりゅくないの!!」

 

「グッ……おイタが過ぎるよ姫ェ……!!でもっ……!これも姉妹喧嘩って事でイイかな……ッ!」

 

 全身を霊力にて強化して、何とか立ち上がった。しかしそれを見た姫は更に能力を強め……ブチギレた霊愛は末の妹を相手にお祓い棒を振り抜く。

 

「ああああああああああああっっ!!!」

 

「ちょっとっ……!」

 

 お空が咄嗟に割って入り、お祓い棒を制御棒にて受け止める。それを振り払い霊愛を吹っ飛ばすと、彼女の身体はその強烈な重力に引かれて、通常では考えられない速度で地面に墜落する。

 

「くっ、やっぱ娘を守るよね……でもさっさとコレを解除しないと、痛い目見るよ……ねぇ、姫ェッ……」

 

 足がもつれ、転倒。立ち上がろうとするも貧血のようになり、力が入らない。倒れてしまう。重力の能力が体内にも影響を及ぼしている。血液の分布や静脈還流量の急な変化により頭に血液が行きにくくなってしまった。

 

「……相手を無傷で戦闘不能に追い込むには、私達の中の誰よりも、姫の能力が合っていますね」

 

「……霊愛ちゃん。お兄ちゃんが地底を支配するって言っても、別にこっちは不便しないどころか、色々運営する上で助かるんだ。だから、そんな目くじら立てて怒らないでさ、スルーしてくれない?」

 

「っ……ダメだよ……っ、お父さんには、そんな事、させられないんだから……っ!!」

 

「あーあー、無理に立ち上がると血管が切れるよ?急な重力の変化は身体に『毒』でしかない。だから姫も、まだそこら辺は特訓中なのに……。思い付きでこんな事するから……」

 

 霊愛は半妖。普通の人間より身体が強いとはいえベースはかなり人間寄りである。貧血にも弱ければ他の肉体的な負担には更に弱い。頑丈でも、所詮は妖怪に比べればずっと貧弱だ。

 

「姫、お姉ちゃんが危ないよ、能力緩めて!」

 

「やーやぁ!ぱぱ、わるく、にゃいのっ!!」

 

「ぐっ……う、ぐぅっ……懐くにも程があんでしょ……何なのよ……可笑しいと思わないのッ!?みんな!?どーして急にそんな事を言い出したとか!妙だとは思わないワケ!?」

 

「妙っちゃ妙だけど、そんなのどうでもいいかな。お兄さんの意見に納得したからね。お兄さんがよく言ってるでしょ?『納得は全てに優先する』って」

 

「……、あっそう、分かったよお燐、じゃあ、私も、そうするよ……『納得』を優先させてもらうよ!!」

 

 瞳に強い闘志を秘め、立ち上がろうと四肢に力を込める。風邪で身体が怠いときなんか比にならないくらいに身体が重く、どうにも立ち上がれない。

 精一杯霊力で強化しようとも、少しも動けない。それでも霊愛は足掻く。地面を強く掻き毟り、爪が剥がれても、足掻くのをやめない。指から血が溢れ地面を赤く濡らそうとも抵抗をやめない。

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっ……!!!」

 

「ダメだよ。今、無理に立ち上がれば……人間の血が強い霊愛ちゃんじゃ……最悪、死ぬよ。私らだって、妖怪だからこそ助かったってコトが何度もあった。今の霊愛ちゃんは、まさにその逆なのさ。悪い事は言わないからさ、少しでも動ける内に射程範囲外に出なよ。私らも姫を離すから」

 

「誰が……死ぬ、だってぇぇぇ……!?逃げてちゃ、博麗の巫女は勤まらないッ!全員、シバくんだ!!邪魔する奴は全員!それでこそ博麗の巫女だから!霊符『夢想封印 夢幻』ッ!!」

 

 立ち上がらなくとも弾幕自体は放てる。霊愛は、渾身のオリジナル夢想封印を放つ。こいしは霊愛の意識せぬ領域へ姿を消していたが、さとり、お燐は回避、お空は姫のガードをする。

 姫は唐突の攻撃に驚いたからか能力を解除する。一旦距離を置いて呼吸を整え、改めて宣言する。

 

「私があんたらの目を覚まさせてやるッ!お父さんみたいな余所者による地底世界の支配なんて絶対に間違ってるって!思い知らせてやる!!」

 

「娘への敵対行動と確認。処理に移る」

 

 機械的に呟いたお空は、さとりやお燐よりも早く次の行動を起こす。ゴオッと粉塵を巻き上げながら飛び上がると制御棒による一閃を喰らわせる。が、霊愛は強化したお祓い棒でそれを受け止める。

 

「あなた、お姉ちゃんなんだよね。妹のワガママに付き合ってあげなきゃいけないんじゃないの?」

 

「許すばかりが姉じゃないの!甘えん坊なお空には分かんないだろーけどッ!」

 

 受け止めていた制御棒を弾き返し、陰陽玉による攻撃を仕掛ける。力を吸収されるからかお空は少し防御がちになるが、それを見たさとりは姫をお燐に任せ、空中の2人に迫る。

 

「彼の支配の邪魔はさせません」

 

「あんたこそ、こっちの邪魔しないでよッ!!宝具

『陰陽鬼神玉』!!」

 

「────想起『エスカルゴ・スパーク』」

 

「え──」

 

 手の中に小さな魔法陣を出したかと思うと、その魔法陣から見覚えのある光線を放ったさとり。つい霊愛は結界を張るのも忘れ身を縮めてしまい、その光線に貫かれてしまう。

 

「あがっ……がっ…………く、そぉっ……なんて痛み……さとり、あんた…………!!」

 

「私には雷は操れませんので、あくまで模倣です。感電はしないですよ。ですがダメージはしっかりと受けている様子……」

 

「くっ、このォッ……」

 

「さとり様、避けて!爆符『メガフレア』!!」

 

 自身につきまとっていた陰陽玉を、野球のホームランのように制御棒にて吹き飛ばすと、その先端を霊愛に向け、極熱の光線を放った。

 

「霊符『二重結界』!!」

 

 今度は冷静に対処できた霊愛だったが、さとりはお空の攻撃を僅かながらに喰らい結構なダメージを負う。それでも、少しの犠牲は覚悟の上だと言わんばかりにお空は攻撃をやめない。

 

「んぬぬぬぬぅっ……焼け焦げろぉぉ〜っ……!!」

 

「言っとくけどね……負ける気はサラサラ無いから!これでも喰らえ!!さとり!!」

 

「────ッ!?」

 

 お空に弾き飛ばされた陰陽玉は、今度はさとりを襲い始める。遠隔ながらもまるで手足のように操り相手の力をゴクゴクと吸収する。

 

「ち、力……が……抜け、る……っ」

 

「最近、この修行ばっかりしてきたんだからね……!早苗から妖怪の力を吸収するコツを教わってッ!!妖怪じゃない私だからこそ掴めたこのやり方でッ!邪魔者をブチのめす!喰らえ────お母さんから受け継いだ奥義ッ!!『夢想天生』ッッ!!!」

 

 カッと青白い光を放つ陰陽玉。霊力を御札に変換すると、さとり、お空へ凄まじい攻撃を仕掛ける。受け継いだ技をそのまま放つだけで勝てる。普通の奥義ではない。霊夢の血統だからこそ、なせる技。人間寄りだからこその技の構成。今の霊愛は、真に無敵だった。

 

「……フーッ、フーッ……これで私の勝ちだよ……ッ!支配なんてされちゃダメだよ……さとり……」

 

「……分かりました。とはいえ既に各方面にその旨を伝えてあります。撤回する方向で考えていこうとは思いますが、要検討ですね……」

 

「それでいいよ。……お燐、姫を宜しく」

 

「はいよー!」

 

「うぇぇええん!おりんんんんんんーー!!」

 

「おーよしよし、大丈夫だよ姫様〜、お姉ちゃんは優しいから直ぐに2人共起きるからね〜」

 

「んぅぅ……そぉなの……?」

 

 ────釈然としない。倒しても、勝ってもだ。妹と喧嘩したのは仕方ないし、自分の言い方が少し悪かったのはあるのだろう。

 けれど、それでも。

 どこか気持ち悪く、モヤモヤした気持ちが彼女の心の中に渦巻いていた。今、霊愛の「勘」は地上の某所を示していた。地霊殿と同じく「嫌な予感」がしていた。

 地上に向かって飛びながら手当をする。絆創膏の替わりに御札を貼りつけ、その上を手持ちの包帯でキツく締め、人差し指から小指までの4本を固定。これで、右手はもう使い物にならなくなった。

 お祓い棒は左手で持つしかない。というよりも、以降は弾幕を主に使うしかなさそうだ。治癒魔法を使える知り合いは今回の騒動の犯人である父のみ。魔理沙が治癒魔法を使うというのは聞いた事がないという判断で、仕方なく次の目的に向かって行く。

 

「あーあ、最悪。物も満足に持てやしない。吸血鬼だったらこんな傷……秒で治るのにね」

 

 そう独り言ちる霊愛。現実は非情である。現在は昼間。そして悲しきかな、今夜は満月ではない。

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