※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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5面:心に刻まれた詠唱(グレイヴン・アリア)

「……思い付きで来たはいいけど、本当にお父さん、ここに居るのかな……」

 

 霊愛が訪れたのは魔界である。彼女の「勘」が、この世界を示していた。魔界の入口は、博麗神社の裏山にある洞窟の奥にある。霊愛の擬似スキマは、紫のようなスキマ、隠岐奈の後戸のように世界間を往来可能なものではない。だから、足で向かう事になってしまったのである。

 先程まで全く来る気は無かったのに、それでも、彼女の勘が今回は魔界を示していた。

 向かう先は、魔界神の神綺含め彼の家族の住まうパンデモニウム────ではない。ただ思うがまま飛んでいる。

 因みにだが、紅魔館で勝負の決着がついた時点でアスモデウスの術は解除され、1日過ぎた体(てい)で陽は昇り、霊愛は全快した状態で半妖に戻っていた。

 

「……?」

 

「キィキィ」

 

 霊愛を観察するかのようにパタパタ、パタパタと彼女の周辺を飛ぶ謎の蝙蝠。そういえば、と霊愛はこの異変を思い返す。そもそも、この異変は蝙蝠が始まりだった。

 里の人々の血を吸い貧血にさせ弱らせた上で里を支配──そしてそれを足掛かりに幻想郷中をも支配しようと、エスカルゴは企んでいる。

 蝙蝠を見つめながら、霊愛は閃いた。コイツも、何かこの異変に関わっているのだと。

 

「待て!」

 

 捕まえようとするが、ヒラリヒラリと身を躱す。まるで霊愛を誘っているかのように、少し飛んでは振り返り、少し飛んでは振り返る。

 何処かに誘導されているのに気が付きながらも、その蝙蝠を追い掛けようと決めた。蝙蝠に始まり、蝙蝠に終わる。もうじき最終決戦が始まるのだ、と感じていた。

 蝙蝠について行くと、ちょっとした集落に到着。けれどもそこは遥か昔に滅んでいたようで、風雨に晒されボロボロになっていた。

 

「キィ……」

 

「!」

 

「うん、ここら辺でイイかなっ♪」

 

 とある教会の前で、蝙蝠は少女の姿に変身した。いや、蝙蝠化の変身を解いた。左頬に赤い星があり赤い花の髪飾りをつけて、蝙蝠のような翼を背中に宿した、金髪ロングヘアーの少女だった。

 

「……?あんた、確か……」

 

「……」

 

「誰だっけ?」

 

「期待させるだけさせといて思い出せないの!?」

 

「だって知らないもん」

 

「紅魔館の悪魔パーティで会ったでしょー!?君は唯一の半妖だったから嫌でも記憶に残ったよ!!」

 

「直接喋った訳じゃないから。……えーっと、アリスだったっけ?3人目のアリスかぁ」

 

「エリス(・・・)!!アリス(・・・)じゃないから!!」

 

「そうだった。あんたも吸血鬼なの?」

 

「ん、それは違うね。私は悪魔。蝙蝠に変身できる大悪魔様だよ」

 

「あっそう。で、その大悪魔様が、私をこんな所に案内してどういうつもり?」

 

「決まってんでしょう?あなたがダーリンの邪魔をする者だから、妨害に来たの♡」

 

「……あぁそう、そういう。じゃあ倒す」

 

「それは良かった。これで心置き無く戦えるねぇ。スペルカードは5枚……でイイかな?」

 

「何枚でもいいよ。その全てを捌いて、私は、次のステージに進むだけだから」

 

「えー……ダーリンから、『弾幕ごっこする時は枚数設定して戦って』って言われてたんだけどな……」

 

「!!」

 

「でも君からそう言うんなら大丈夫だよね?うん、無制限でいっか☆」

 

「……撤回。5枚ずつにしよう。残機は0。分かる?一度被弾したら負けだよ?これでどう?」

 

「何それ。殆ど先手必勝みたいなモンじゃん。私は構わないけど、君はそれでいいの?」

 

 クスクスと笑いを堪えきれないという風に笑う。その表情に霊愛はイラつきを隠さず、あからさまに眉をひそめて見せる。

 だがエリスの態度は変わらない。まるで、確実に自分が勝つからね、と言わんばかりの態度だった。

 

「あーはいはい構わないです構わないです、はい。余裕こいてるみたいだけどねぇ、私、こんなとこで負ける訳にはいかないの。だから負けないから」

 

「あはっ、何それ、意味分かんない。負ける訳にはいかないから負けない?そんな理由なら、私だって負けないから。私が勝ったら何でも好きなご褒美をくれるって、そういう約束だもん♡」

 

「じゃあその約束は果たされないね。あんたは私に負けるから。今、ここで」

 

「……フーン。じゃあ、始めようかァ!!」

 

 大悪魔らしい、力強い大きな弾幕を放つエリス。霊愛も負けじと御札を放つが、2人の力量に大きな差があるようで、霊愛の弾幕は、一方的に消されてばかりだった。

 

「轟炎『微睡(まどろ)む林檎の守護者』ッ!!」

 

 10もの方向から炎のレーザーが放たれる。しかも互いに打ち消し合わないように少しずつその角度や高さが変わっているという配慮まで為されている。

 霊愛は暑さに苛立ちながらも回避を続ける。この炎のレーザーの前に御札は無力。弾幕も全く意味を為さないであろう事は、やる前から分かっていた。

 だからこそ霊愛は回避に専念して、霊力の回復に努めていた。

 

「6……7…………って、何回レーザー撃つワケェ!?しつこ過ぎんですけど!!」

 

「安心して、10回よ」

 

 ギリシャ神話において、黄金の林檎を守護すると言われているドラゴン、ラードーン。そして、このドラゴンは100の頭を持っている。

 レーザーの本数と回数で、100の頭を表現しているというエリスの第一スペル。角度を変え太さを変え霊愛を激しく攻め立てる。

 

「はーっ、はーっ……はぁっ……暑い、暑すぎる……!マジモンの炎とか何考えてんの……ッ!?」

 

「あれェ〜?もう疲れてるの?勝負はまだまだ序盤なのに?まだ入口に過ぎないよ〜?……そう、地獄はこれから始まる。君は私の地獄に耐えられる?」

 

「……やっ、て、みなよ……!はぁ、はぁ……」

 

「暑い……だっけ?じゃ、涼しくしてあげるね☆」

 

「!?」

 

「怪蛇『ギリシアの九頭竜』っ!!」

 

「なん……今度は水……!?」

 

「ほらほら、お水だよ!涼みな!」

 

「うッ!?……ちっ、霊符『二重結界』!!」

 

 9方向から竜の頭の形をした水のホーミング弾を放った。霊愛がそれを結界で防いだり相殺すると、防がれたり相殺された弾幕は1つにつき2つに分裂しながら再び追尾してくる。

 霊愛は少なくとも4つは防いだ。つまり、弾幕は9個から13個に増えてしまった。残りの時間はそのホーミングから回避して逃れるしかない。

 

「くおっ……危なっ……うひゃっ…………チッ!」

 

「君、表情豊かだから見てて飽きないわ〜♡」

 

「ッッ……いつまで余裕こいてられるかな!?」

 

「避けるので手一杯なのに吼えない方がいいよー?子供っぽく見えちゃう♪」

 

「消したりすると増えるからでしょーが!こんなにやりにくい弾幕は初めてだよ……!」

 

「なまじ力があるから、結界で防いだりお祓い棒で叩いたり、弾幕で相殺したりしてばっかりで、回避能力は並以下なんだよねぇ?そんなんで、この私の弾幕を回避できるのかな?」

 

「あ゙ぁ゙!?誰が並以下だって!?……わかったよ、意地でも逃げ切ってやる!!」

 

「その意気よ〜♪」

 

 水だからなのか、凄まじく流動性のある弾幕だ。どれだけ細かく彼女が動いてもカクカクと動いてはどこまでも追尾してくる。

 霊愛は一度、自身を全方向囲んで時間まで弾幕をやり過ごそうと考えた。けれども、それはやめた。弾けば弾くほど弾幕が増えるのでその分攻撃の数が増える。……いつかは押し負けるかもしれないから。

 

「うわっ……」

 

「おっ、当たった?」

 

「……ちっ、掠っただけだよ」

 

「ちぇー。……時間切れか」

 

「そろそろ終わらせるよッ……霊符『夢想封印』!」

 

「ははーん……これは確かホーミングの……だね?」

 

 エリスはバリアを展開。霊愛は弾幕のみで押そうという考えでひたすら弾幕の密度を増やす。そしてエリスは、夢想封印がホーミング弾という事を理解しているので、無理に動こうとはしておらず、己に向かってきた弾幕を受け止めて、消すだけに行動を留めていた。

 次第に溜まる鬱憤。バリアを壊せない苛立ち。

 次第に霊愛の中では抑えきれないドス黒い感情がモヤモヤと湧き上がり、渦を巻き始めていた。

 

「ちょっ、本体に届きすらしない……何でよ!?」

 

「フフッ、フフフフッ!イラついてるねぇ!!ならこれはどうかな!?怪水『覇波夢宇斗(バハムート)』!!」

 

「魚ッ!?」

 

 巨大な魚型の水の塊の弾幕を幾つも放ち、それを噛み付かせんと霊愛に向かわせる。微弱ではあるがホーミング性能があるようで、霊愛の動きに合わせヌルヌルとカーブするのが、絶妙に弾との距離感を狂わせてくる。

 先程と違いガッツリ追尾しないので、ある意味で距離感が測りにくい。引き寄せてから避けるというホーミング弾のやり方が通じにくい。

 しかも、先程のスペルの事もあり霊愛は自主的に結界などでの防御をしていない。また相殺や防御をすると弾が分裂し、攻撃の手数を増やすのではと。

 霊愛は勝手にそう思い込み己を追い詰めている。そしてエリスは、それを狙ってやっている。だから敢えて連続して水属性のスペルカードを使用した。また分裂するのではと思わせる事ができるからだ。

 

「っ……避けるのばっか……!ああもう鬱陶しいな!霊符『夢想封印 夢幻』ッ!!」

 

「!」

 

 弾幕が分裂するのを覚悟した上でエリスと同じく3枚目のスペルを使用する。幸いにして、今回のは分裂しない。一方的に相殺していくばかりだった。霊愛はそれを見るや一気に攻勢に転じ、お祓い棒に霊力を込めると、エリスを直接殴ろうと弾幕と共に接近を図る。

 負けじと巨大な魚型の弾幕を放つエリスだったが霊愛の攻撃力の前に分裂しない弾幕は無力だった。ヤケになったのではなく、思い切った攻撃の方が、敵に有効打を与えられるのではないかと考えての事だった。

 そして今回の夢想封印は霊愛オリジナルのモノ。しかも弾幕の密度を増やすバージョンだった。数が増えればそれだけ相殺もしやすくなる上に、霊愛が突撃しやすくなる。勝利はもはや目前────そう思えた。

 

「これで────」

 

「これならど〜かしら♡」

 

「ッ!?」

 

「土金『黄龍行軍(ドライグ・ドライヴ)』ッ!!」

 

 輝く魔法陣が地面に複数現れたかと思うと、その魔法陣一つ一つから赤い竜と黄の龍が首から上だけ何体も召喚された。

 ドライグとは、ウェールズ……ブリテン人の守り神こと大地の守護神の事を指す。そしてこの守護神は土を司る能力を持っている。

 霊愛はまず近い龍に迫り、さっさと龍を倒そうとお祓い棒を振るう。その龍は攻撃前に倒せたはいいものの、他の龍が一斉に霊愛に向けて炎のブレスと共に土の槍を放つ。

 

「きゃっ……!?」

 

「あ!被弾!」

 

「ちっがうしィ!?掠っただけだし!?」

 

「うっそォ、じゃあ腕見せてみなさいよ!その袖?みたいなのも切れてるじゃない!」

 

「袖に掠っただけですー!私本体には全く当たってませーーーん!!」

 

「あっそうじゃあいいよ、集中砲火だッ!!」

 

「ンなモン、もう見切ったよ!!守備しつつの攻撃だったら……夢境『二重大結界』!!」

 

「んふっ、早速4枚目使うのかぁ。イイねイイね、追い詰められてる感あるぅ☆」

 

「あんたが先に4枚目使ったし!追い詰められてるとか、それはあんただから!」

 

「あらそォ、ならもっと私を追い込んじゃおっか?私には魔法があるからねェ〜♡」

 

「ちっ……ズルすぎるよ……」

 

「それにしてもこれ……二重大結界だっけ?まだまだチョロいねぇ、単調な動きで避けられる。これならさっきの夢想封印の方が難しいかもぉ〜♡」

 

「そ……そんな事、ないし……!!」

 

「経験豊富な大悪魔様を舐めないでくれるかしら?レミリアちゃんの方が強かったわ〜♪」

 

「ッッ……くっ、何で……!私の方が強い!」

 

「いやぁ、それは無いと思うけど。でも、そこまで言うんなら自分で証明してみなさい。このエリスを倒してみなさいよ、ほらァッ!!」

 

「言われなくとも!倒してみせる!!」

 

「次は私の極意(ラストワード)を見せてあげるわ。このスペルを、ちゃあんと避けきれたらねぇ!!」

 

「……!」

 

 土の槍は、尚も霊愛に降り注ぐ。結界に細い穴を穿ち、向こう側の霊愛を貫かんと迫る。あまりにも鋭く、そして多数の槍が襲い来るので霊愛の自信はこの結界のように壊れ掛けてきていた。

 既に結界の強度は弟の霊魔に抜かされているし、単純なフィジカルでも博麗三姉弟の中で最弱。更に獰猛さでも妹の霊麗に叶わない。霊力の多さだけが唯一の霊愛の取り柄だった。

 しかしその溢れんばかりの霊力を注ぎ込んでも、エリスの土の槍は霊愛の結界では防げない。既に、霊愛の目には涙が滲み始めていた。

 

「ふぅん、避け切った、か。イイねイイね、少しは楽しませてくれるじゃない。でもね、この程度じゃダーリンとモルモーのコンビには勝てないよ」

 

「っ……」

 

 二重大結界が時間切れになってからも弾幕を放ち攻撃するが、エリスはピンチになると蝙蝠に変身しほんの僅かな隙間に身を捩じ込んで回避する。絶対被弾しない、という強い意志を感じられる。

 

(私もエリスも残るスペルカードは1枚ずつ──。トドメを刺すには夢想天生だけど、当てられてないせいで全く力が溜まってない!夢想天生が使えるかどうかこの状態では五分だ。賭けには出られない。私の霊力を普段以上に注ぎ込めば発動できるけど、もし仮にここで霊力を使い果たしたなら次の戦いは絶望的──どうすればいいっての……!?)

 

「……そろそろ頃合いかな?」

 

「!?」

 

「刮目なさい。これがこの私、エリス様の極意(ラストワード)よ。魅せてあげるわ────『黄金の林檎』」

 

 同心円状に広がる金色の弾幕。その弾幕の速度はこれまでの弾幕の比ではない。短調、単純。しかし速度が違うだけでも攻略難度はグンと跳ね上がる。先程の土の槍よりも、遥かに速かった。

 これと比べて遅い弾幕に慣れていた彼女の目は、一気に数段速くなった今回の弾速に慣れるのを中々許してはくれない。

 掠り、掠り、掠りまくる。巫女服はどこも傷つきリボンさえ解けかけ、霊愛本人が被弾するのも最早時間の問題かに思われた。

 

「ほらほら、ちゃんと避けないと当たるわよォ!!ちょこちょこ逃げな!禁断の果実を盗み、逃げ惑う泥棒のようにねェ!!」

 

「誰が泥棒のように逃げるってぇ!?逃げんのは!あんたの方だよ!!もうこうなったら後の事なんて考えない!あんたを倒す事だけに集中してやるッ!覚悟しろ!!大悪魔エリス!!」

 

「んふっ、掛かってきなさぁ〜い♡」

 

「全霊力を注ぎ込んでッ!強化も何もかも解いて……この一撃に……!『夢想天生』ッ!!」

 

「……うーん。それ使われたら終わるよね……やっぱ強いなぁ……」

 

 自分の夢想封印では、絶対にエリスを倒せない。先程までの弾幕のやり取りで、霊愛は察していた。奥義を使わなくては決して倒せないと。

 これまで、大抵の敵は力押しでも倒せてきたが、そろそろ限界が見えてきたからだ。これまでなら、夢想封印の力押しで十分だった。しかし敵の強さに自分の強さの成長が間に合っていない。だからこそ夢想天生での力押しが必須になってしまっていた。

 このままだと夢想天生での力押しすらも通じなくなるのだろう。そこまで思い至った霊愛は、また、静かに涙を滲ませてしまった。

 まだそこまで飛び抜けて強くないからこそ単調な攻撃でもどうにかなったが……。

 

「まだまだ成長しなくちゃ……。今から奥義に頼ってどうすんの……。私、こればっかだ……」

 

 掠り(グレイズ)が多すぎる。今の段階でこのザマでは、次はどうなるか分からない。それこそ惨敗する可能性が高いだろう。相手は父。そして吸血鬼の始祖であるモルモー。勝てる可能性は限りなく低い。

 エリスとの戦いで沢山掠った霊愛は、そう考えて少々憂鬱な気持ちになってしまったのであった。

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