「で?お父さんとモルモーは何処に居んの?」
「この教会の最奥よ。エッチして待ってるってさ」
「は?どんだけ舐めてんの、私の事……!」
(ま、それは嘘なんだけど♡)
エリスに唆され、霊愛は教会に入る。古ぼけて、けれど所々何故か掃除されている。教会自体は遥か昔に滅んでいるようだった。かなり苔むしていて、それだけを見れば誰かが今もここを使っているとは思えなかった。
そして、信者と教祖が一緒になって祈りを捧げるであろう広い部屋……礼拝堂に入る。長椅子に長机が並んでいて、広い教室のようにも見えた。
教祖が経典を置いていそうなその台に、ピンクのロングヘアーで、キャミソールのみを着た吸血鬼の少女が1人、足を組んでポツンと座っていた。
「モルモー……!!」
「εια σου、霊愛ちゃん♪」
「?」
「……。やっほー、霊愛ちゃん♪」
「お父さんはっ!?」
「さぁ?まずは私を倒してからね♪」
「ルール設定するようお父さんに言われてんの?」
「ええ、言われてるわねー。どうする?」
「スペルカード3枚、残機0。どう?」
「OK!それじゃあ始めましょう?」
「さっさと倒させてもら────」
「隙あり」
「っ……」
気が付いた時には既にモルモーの姿は無く、幼き巫女の柔らかな両手には、ナイフが貫通していた。
「がっ……あ、ああっ……ぎっ……うああぁっ……!!」
「はい、被弾〜。霊愛ちゃんの負けぇ〜♡」
「ふざけっ……ぎゃああああぁぁっ!!」
ドスッドスッと両腕に1本ずつ、ナイフが追加で刺さってしまう。未だ嘗て経験した事のない激痛に霊愛は悶え苦しむ。まず最初に手のひらのナイフを抜こうとするも、痛みで手は震え、溢れる血で指が滑り、抜きたくても中々ナイフが抜けない。
「痛い……痛いよぉっ……!た、助け……てぇっ…………お父さん……お母さんっ……誰かぁぁああああっ!!誰か助けてよぉぉーーーっ!!」
「コンティニュー?」
「……ッ!?」
「コンティニューするなら、このモルモーちゃんの時間魔法で『やり直し』の機会をあげる。……あっ、それじゃ霊愛ちゃんの記憶に残んないからぁ、治癒させるだけがイイかしら。うん、そうしましょ」
「こ、コンティニュー!コンティニューするから!早く治してよぉっ……!こん、こんなの、無理……!痛いよ、早く助けてぇっ!!」
「はいはーいっ♡」
モルモーが治癒魔法を唱えてやると、完全に貫通していたナイフはひとりでに抜け、傷は塞がり血は体内にて補填され、痛みは嘘のように消えていく。
「治った……」
「そりゃ治るでしょお〜、治癒魔法だもん」
「っ……よし……じゃあブッ倒す!!」
「はいはいナイフナイフ」
「ふぎっ……ぎっ……ああああぁああぁぁぁっ!!」
「あはっ、時間停止に対応出来てなさすぎでしょ。大丈夫?そんなんで私とエスカルゴくんに勝てる?無理だよねぇ、どっちも時間魔法の使い手だもの。さぁ、コンティニュー?」
「ッ……トーゼンでしょ!どんだけ痛い思いしたって諦める訳にはいかないの!!」
「はいはいカッコイイカッコイイ。でもね、何回も付き合わされるモルモーちゃんの身にもなってよ?コンティニューするのは良いけどさー、回数制限は設けさせてもらうよ〜?」
「なッ……」
「と言ってもまだまだ子供だし、今こうやって私が相手してるのは、vs時間能力者のチュートリアルが目的だしぃ……とりあえず、エスカルゴくん&私との戦いが始まったらコンティニューは3回まで!今は無制限コンティニューで構わないわよぉ♡」
「……無制限、か。子供扱いされてる……ね……」
「そりゃーねぇ……。呆気なく攻撃を喰らってんのはどこの誰よ?この程度じゃ、吸血鬼狩りしてた頃の血は騒がないわぁ。興奮できない♡」
「……後悔するよ。私に成長の余地を与えた事」
「ンフッ……ならもっと私を楽しませなさい。思わず昔の血が騒いでしまうような、ヒリヒリしたアツイ戦いをこの私相手に演じて見せなさい!」
弦月姫相手に何年も何年も戦ってきた。だから、霊愛は時間魔法にもすぐ対応できると思っていた。しかし弦月姫とモルモーではレベルが違っていた。
時間停止のタイミングや攻撃の鋭さは勿論だが、特に容赦の無さなんて弦月姫の比ではない。
「そろそろ諦めたら〜?」
「うっさい、よ……ッ!霊力だって回復してきた……痛い思いはもうお終いッ!!」
「へぇ?ならどーぞ?」
ペロリと霊愛の血がついたナイフの刃を舐める。霊愛もモルモーの子孫なので何か通じるモノを血に感じられたのか、満足気に、先行を霊愛に譲った。
「喰らえ……『夢想天生』……ッ!!」
「……んー、これなら被弾してあげてもいいわ。てか被弾するしかないわこれ、ほぼ回避不能じゃない」
次の瞬間にはモルモーの姿は消えていた。時間を止めて、見事に逃げ仰せたからだった。霊愛は頭でそれを理解しつつ、枯渇した霊力を癒す為、暫しの休息を摂る事にした。
長椅子の埃を払って、力が抜けたようにドカッと腰を下ろしたまさにその直後。
教会の奥からキュッ、キュッ、とツルツルの床とゴムが擦れるような特徴的な足音が近付いてくる。霊愛はその足音の主が誰なのか気付きつつ少しでも霊力の回復をと思い、そちらを睨みながらも椅子に座ったままだった。
暗闇から現れたのはモルモーと腕を組んで現れた幻想郷で最強の男にしてハーレムの主、霊愛の父、エスカルゴ。
「……お父さん……」
「おめでとう、霊愛。よくここまで辿り着いたな。流石は俺と霊夢の子だ。これにて、霊愛には試験を受ける資格が与えられたってこった。おめでとう」
「試験……資格?何の話?」
「博麗の巫女を継ぐ資格だよ。正直なとこ、霊愛に博麗の巫女が務まるとは思えないんだとよ」
「……え」
「あぁいや、俺の意見じゃあねぇぞ。そこは勘違いすんなよ?あと霊夢の意見でもない。じゃあ誰の?そう、賢者さん達の意見なのさ」
「っ……」
「霊愛自身、分かってるんじゃあないのか?結界の強度は霊魔に劣り、攻撃性は霊麗にも劣っている。じゃあ霊愛の強みとは?……確かに、巫女の仕事には神降ろしなんかも必要だからね、霊愛のその溢れる霊力は必須なんだが……なんて言うのかな。じゃあ、霊力が多ければ巫女になれるんですか?……っていう感じかな?」
「……違う」
「そう、違う。霊力が多けりゃ巫女になれるなら、妖怪だろーと人間だろーと関係のない話だからな。だから1人で異変解決できるだけの技量を見せろと言われちまったワケよ。紫さんは気が進まなかったみたいだけど、霊夢がキレちまってな。『じゃあ、霊愛が1人で異変解決すればいいのよね!?それで霊愛を認めるのよね!?』って」
「そう、なんだ。それじゃあ、お父さんは……」
「流石にもう分かったろ。レミリアやさとり達には口裏を合わせてもらってただけだ。別に、紅魔館を支配するしないでレミリアと弾幕ごっこしてねーし地底の何とかを任されてたりもしてないよ」
「ならもう……」
「でもな?俺は霊愛を愛してるし、お前の強さには俺も自信を持ってる。俺の娘は強ェんだぞッ!って世界中に知らしめたいくらいには、ね。だからこそ賢者連中に霊愛の強さを見せなくっちゃならない。分かってくれるか?俺の気持ち……」
「…………うん」
「良かった。じゃあ、一度俺を殺せ。それで霊愛の勝ちとしようか。それで試験も
「…………………………えっ?」
「ほら掛かってこい。それともルールが必要か?」
「待ってよ……!何でそれでお父さんを殺さなくちゃならないの……っ!?」
「……?何でってそりゃあ、俺を殺せるかどうかが、ある種の強さの指標になるからだろ?」
「!?」
「だって考えてもみろよ。戦闘で俺を殺せる奴ってそこそこ少ねぇんだぜ?霊夢、レミリア、フラン、美鈴、早鬼ちゃん組長、勇儀、幽香、依姫、豊姫、永琳、へカーティア……とまぁこんなもんなワケよ。他にも居るけど。だが、霊愛はこれから先こういうヤバい連中とやりあわなくちゃあならない……のかもしれない。なら、俺すら倒せないでどうする?」
「だからって殺すなんて……!」
「じゃあ俺を気絶させられるのか?言っとくが俺は中々気絶しねェぜ?まして霊愛の攻撃じゃあな……。殺す方がよっぽど簡単さ。強化したお祓い棒で頭をカチ割る。それで済むんだからな。気絶しそうなら俺は自殺して復活するさ。その方が、リカバリーが早いからだ」
「ま……っ」
「ん?」
「枚数とっ……被弾の数で……戦おっ?ねっ……?」
「……。賢者共はな。その優しさも含めて、霊愛には博麗の巫女を任せられないって言ってんだよ」
「えっ……?」
「今回は試験だったから、人里の人間の血を吸った程度の被害しか与えてない。けどもしこれが本当にヤバい被害が出たら?そしてその黒幕が顔見知りの場合、霊愛は非情になれるのか?……賢者共の答えはノー。霊愛は、優しすぎる。非情になりきれない。だからこそ霊夢は完璧な巫女であり続けてるんだ。これまでも……そして多分、これからもね」
「これからもって何なの……!?私に、博麗の巫女を継がせないとでも言うの!?」
「そうなるかもしれないって話だ。どちらにせよ、初見でもない時間魔法に対応できず、実父だからと不老不死の相手すら殺せないんじゃ……継がせるのは遙か未来の話だろうな。幸いにして、霊夢は吸血鬼だからな。あと数百年は博麗の巫女を続けられる。少なくとも賢者共はそう思ってるようだぞ」
「何で……何でよっ……!!私っ……これまでずっと、博麗の巫女になる為に……その為だけに、ずっと修行してきたんだよ……!?生まれてからずっと!!」
「……」
「なのに、ダメって……そんなのあんまりだよ……」
「だから俺を殺してみせろって言ってんだ。どうせ数秒で復活するんだ、簡単だろ?」
「ヤダよ!復活するから何だっての!?お父さんは私のお父さんだけどっ……大好きな人なのッ!そんなお父さんを殺せるはずがないでしょ!?」
「だがそれで自分の将来が閉ざされるんだぞ」
「ヤダよ……どっちもヤダよ……!」
「……霊愛。俺が好きだってんなら、殺して見せろ。俺を殺す事が、俺への最上級の愛情表現だと思え。俺は霊愛を博麗の巫女にしたいんだ。霊夢も、そう思ってくれてる。だけど幻想郷は俺や霊夢の考えでどうこうできない。だから力で示せ。見せてやれ。高みの見物を決め込んでいる賢者共に、お前のその想いの強さを見せ付けるんだ。モルモーもその為に協力してくれてるんだぞ」
「そーそー♪」
「……」
「俺とルーミアが組んだ……黒霧異変、あったよな。俺はアレだけで十分に霊愛の力を示せてると思って安心してた。でも足りなかったんだ。もっともっと本気で……有事の際に動けるか、そして容赦なく始末できるかどうかを示すのが必須だった。紫さんは、もう一度俺と霊愛を戦わせる事に反対してたけど。でも『幻想郷の未来の為』って事でOKしたよ」
「そんな……」
「強くなれ、霊愛。これが終わったら、俺に出来る範囲でどんなお願いでも聞いてやる。だから、俺を殺してみろ。できるなら気絶させてみな」
「そんなんで殺せると思ってんの?ホントバカだよ私のお父さんは…………………………でも、分かったよ、お父さん」
長い長い沈黙の末、霊愛は首を縦に振る。目元の涙を破れた袖で拭い、絞りカスのような霊力を手に持つお祓い棒に込め、力強く父に向ける。その手は震え、誰が見ても万全のエスカルゴを倒せそうには見えなかった。
「……良い目だ。よし、それじゃ改めてルール確認をしようか」
・スペルカード10枚、残機5
・コンティニューは三度まで
・吸血鬼コンビは合わせて10枚とする
・霊愛の勝利条件は父を殺すか気絶させること
・自殺やモルモーによる殺害はこれに含まない
・スペルカード数、残機数はコンティニューの度にリセットする
・もし限界までコンティニューしても負けた場合、霊愛は博麗の巫女の継承権を失う恐れがある
「最後に一つ言っておくぞ。今回の俺は黒霧異変の比じゃあねェくらい強いからな。何故かってーと、俺がより強さを発揮した方が、それを倒した霊愛の強さも明らかになるからだ。分かるな?」
「……うん」
「グッド。じゃあ始めようか。お待たせモルモー、漸く暴れられそうだ。全く、ワガママな娘ちゃんで困るぜ」
「それはいいけどぉ、テンション上がりすぎて娘を殺さないでよ?」
「大丈夫。テンションを抑制すればいいだけだし、娘を殺す事は死んでもないさ。例え狂っても、ね。
────堕心『暗がりへ身を堕とす吸血鬼』」
エスカルゴは闇の力を解放。闇に心を委ねると、真紅の瞳は漆黒に染まり、見るからに闇の力を使用していると分かるようになる。
彼はこの補助スペルを使うと感情の振れが極めて少なくなる。端的に言えば冷静になれる。しかし、長い時間これを使い過ぎると自傷してしまうくらい病んでしまうので、長時間の使用は禁物だという。
「ッ……お父さんがそれを使うって……」
「本気……って事だ。ほら、喰らえ」
「!!」
モルモーの魔力弾、エスカルゴの闇弾幕が霊愛を襲う。しかし直線的な動きしかせず、速度も一定で特に変化しないので、霊愛も回避は余裕だった。
「やるよ……モルモー」
「OK♪」
「「停止世界『魔法仕掛けの恋』」」
吸血鬼コンビの2枚目のスペルは時間停止のものだった。宣言と同時に時間を止め、霊愛の目の前に弾幕を配置。時が動き出せば霊愛も弾幕も動き出し一定時間経過で再び時間が止まる。
時間停止自体は先程までモルモーとの交戦で経験していた事もあり、霊愛もすぐに対応できた。
「いいか霊愛……俺は本気だ。使える力を全て使い、全力でお前を苦しめる」
「苦しめる……って……」
「せいぜい本気で抗って見せろ。重符『ループするスケルトンボーイ』」
2枚目のスペルが終わると間髪入れずすぐに次のスペルを宣言する。今回はエスカルゴの単独のものらしく、モルモーは一歩下がって観戦している。
エスカルゴは霊愛を囲むように弾幕を設置。だがその弾幕は動かない。固定されているかのように、微動だにしない。そして彼が霊愛に手を向けると、グンと何かの力に引っ張られるように彼女の身体が彼の手の動きに合わせて振り回されるようになる。
彼が手を下に向ければ下に、横に向ければ横に、上に動けば上に。好き勝手に振り回されてしまう。
「きゃっ……げふっ、ちょ、な、に、これぇっ……」
「第一波で既に2回の被弾か。ちゃんと避けろ」
「初見殺しにも程が……きゃあっ!?」
「3。結界なんて使わなくても回避できるぞ」
「くっ……む、無理でしょこんなのっ……ていうか、何なのその能力っ……!?」
「4。次で負けだぞ」
「あああぁぁっ……!!」
「5。コンティニュー?」
「こッ……コンティニュー……」
スペルカード数、残機、共にリセット。そして、霊愛がコンティニューできる回数は2回となった。
彼女の霊力は既に枯渇していた。それに気付いたエスカルゴは玉造魅須丸を強制的に神降ろしして、霊愛に力を分け与えるように秘密裏に交渉。事態を把握した魅須丸は快諾。霊愛に力を与えた。
補助系のあの闇のスペルは解除。しかしすぐさま再発動。
「あ……あれ?」
「……力が無くっちゃあ、勝てるものにも勝てない。そうだろ?」
「……うん。そうだね」
「じゃあ気を取り直して
「はいはーいっ♪」
「「輪廻世界『魔法仕掛けの恋』」」
ひたすらに繰り返される波状攻撃。単調、しかしそれ故の気が狂いそうになる程の疲労感。あまりに単純過ぎると、ストレスは、変化のある弾幕よりも数段高まりやすくなるもの。それを利用したスペルカードだ。
頭が疲れるとそれだけ判断力も鈍り、ストレスも高まり、そしてやがては────。
「1。霊愛ちゃん大丈夫ぅ?」
「っ、しっかりしないと、また……っ!」
「2。集中しろ。何考えてるんだ」
「分かってるよッ!……霊符『夢想封印 夢幻』!」
「あらら、終わるタイミングに合わせてきたわね。どーするの、エスカルゴくん?」
「どうもしない。3枚目だ、モルモー」
「「断続世界『魔法仕掛けの恋』」」
弾幕を直線的に、一定の速度で放つ2人。しかし時たま時間が飛び、奥にあったはずの弾がすぐ目の前に、もしくは近くにあった弾が通り過ぎていたりなど、時間がスキップした感覚に陥る。しかしその感覚は間違ってはおらず、実際、2人の魔法により時間はほんの少しずつスキップさせられている。
霊愛にとっては初見のスペルカードであったが、エスカルゴは、好んで時間をスキップさせる魔法を使っていたので、これまでのものに比べたら比較的容易に突破できた。
掠る事すらせず、初見でノーミス突破。これには思わずエスカルゴも頬を緩めた。
「……流石だね。でも、これはどうかな?4枚目だ」
「「加速世界『魔法仕掛けの恋』」」
4種類ある時間系の複合スペルの、最後の1つを宣言・発動させる2人。弾幕の並びや動きは単調、しかし動きは徐々に速くなってくる。
しかも回避するパターンは決して単調ではなく、しっかりと見極めなくてはならない。弾幕の時間が加速され最早レーザーに見紛う程の速度になった。
しかし霊愛は回避した。どんどん回避した。中々弾幕を当てられずエスカルゴは内心喜んでいるが、モルモーはそれがどこか面白くなく、このスペルが終わるのと同時に宣言する。
「ちょっと下がっててエスカルゴくん。私がやる」
「え」
「いくわよ。時符『クロノス・アナミクティル』」
5枚目。大粒と小粒が入り交じった弾幕を放つ。当然すぐ回避の体勢に入る霊愛だったが、その瞬間時間の流れがこれでもかと狂い始めた。
「ひゃっ!?」
「ふふっ……ほらほら、3回目の被弾よぉ♡」
まだ遠くだったはずの弾幕は、弾幕のみの時間が加速した事によりいつの間にか霊愛の目の前に接近していた。咄嗟に対応できず霊愛は三度目の被弾。
とはいえ同じ動きなので、さしもの霊愛も被弾は免れた。以降は、通常通りだったり、何らかの時間魔法の効果が現れたりと、交互に弾幕のパターンが変化して霊愛を苦しめた。
それでも
「はぁっ、はぁっ……次は……何なのっ……!!」
「……チッ。このモルモーちゃんのスペルを、初見でワンミス突破とはねぇ。思ったよりやるじゃない。さっすがモルモーちゃんの子孫だわ〜、しっかりと優秀な遺伝子は受け継がれてるのね」
「言っとく、けど……昔過ぎて、モルモーの遺伝子、薄まってると思う、けどね……!!はぁ、はぁ……、そんな、ずっと残ってる程、遺伝子って、強くないはずだもん……っ!」
息も絶え絶えながらも、霊愛はしたり顔で反論。モルモーとしては面白くない返事だったので、更に舌打ちを追加。
「フン、何とでも言うがいいわ。そんな事なら私とエスカルゴくんで遺伝子まぜまぜ〜♡……して濃ゆい遺伝子の最強の子供でも作っちゃお〜かしらね♡」
「そんなの許さないッ!」
「何でよ?エスカルゴくんが私と子作りしようが、子供の霊愛ちゃんには関係ないでしょぉ?」
「くっ……そうだけどッ!でも血縁でしょ!!」
「そーだけど、霊愛ちゃんと違って遠いからねぇ。クスッ……ほぉら、すぐそうやって敵に惑わされて、お・バ・カ・さんっ♡」
「しまった……あぐぁっ……!!」
「4回目。そしてとうとう6枚目ね。おめでとう、霊愛ちゃん。磁符『スィデロ・アナミクティル』」
霊愛を中心に竜巻が発生する。風の刃の如きその竜巻は石の床を鋭く抉り、そこから巻き上げた砂や小石などの礫を帯びていく。やがてその小石などは彼女の周辺で風に乗って回転しながら集まり始め、少しずつナイフの形を作っていく。
「……ま、まさか……」
「そ・の・ま・さ・か・よっ♡」
「おい……モルモー、やり過ぎないでくれよ?」
「ハイハイわかってるわ、大丈夫」
「くっ……耐久しかないな……霊符『二重結界』!」
「言っとくけど、フツーのナイフじゃないからね?結界で全部防げると思わない事ね」
「ッ……な、ななななんでよッ!?ひゃあっ!?」
霊愛は結界でナイフを防ぐが、モルモーの宣言の通り、放たれたナイフの一部は結界を通り抜けて、結界に囲まれた霊愛を襲い始める。
とはいえナイフの軌道は直線だった上に、結界を通る際に速度を落としているようなので、霊愛とて被弾はしなかった。
「くっ……全方位危険だし発射地点も読みにくいし、結界は貫通するし、何なのこれ……ッ!!」
「あーあ、残念。視野が狭いよー、上下にももっと視野を広く持とうねぇ」
「へ?……んぐぅうっ……!!」
ふくらはぎにナイフがヒットする。それは最早、掠りどころではない。深めに切れてしまい、鮮血がダラダラと流れてきていた。
霊愛は空中で静止しながらも足を押さえ、痛みに悶えていた。
「5。はいはい残念でしたー。さぁ、もう二度目のコンティニューしちゃいますぅ〜?」
「するに決まってんじゃん……!」
「治癒『
「大丈夫、ていうかお父さんも私に気ィ使わないで掛かってきなよ」
「負けてるのに強気な発言はあまり良くないな……。それもまた可愛いが、今のままだと昔の妖舞とかと変わらないぞ」
「っっ……」
「『口だけ』って妖舞によく言ってたよな。けど、今の霊愛もそれになってきてる。気を付けるんだ。分かったな」
「……わっ……分かったよ……」
「良い子だ。よし、じゃあ気を取り直して三戦目、いってみよう。とりあえずは……堕心『暗がりへ身を堕とす吸血鬼』」
「また補助系……っ」
「頑張って避けろ。でもって俺を倒してみなさい。とりあえずは────おさらいでもしてみようか。重符『ループするスケルトンボーイ』」
「────ッ!!」
霊愛の身体はまたエスカルゴによって操られる。今度は、先程何度も被弾した事もあり霊愛も弾幕をしっかり見て、振り回されながらもきちんと回避は出来ていた。
それを見てエスカルゴは満足気に頷きながらも、時間までは適当に娘を振り回し続けた。
「お……時間だ」
「フーッ……ていうか、何なのその能力……っ!」
「何ってそりゃあ《重力を操る程度の能力》だぞ。父親として、姫に負けてられないからね。隙を見て鍛えに鍛えたのさ。対象の重力が掛かる方向を操作できるこの能力……今までどうして鍛えなかったのか自分で疑問だよ。こんなに伸びしろがあったのに」
「……」
「でもま、こんなに鍛えても幻想郷で二番目にさえなれないんだけどね〜。あっはっはっは〜……はぁ、笑えないねぇ」
((
「俺は俺の目的の為に鍛える。それだけだ。それは今も昔も変わらん。けど、霊愛が博麗の巫女を継ぐことも、俺の目的でもある。だから俺に勝て」
「分かってるよお父さん。……もう、コンティニューなんてしない」
「フフ……ま、あと1回はコンティニューできるし、そこまで気張るな。だが本気で来い」
「うん」
それから暫く、鎬を削る両者。モルモーは自身の持てる技術や魔法を駆使し、ある意味でエスカルゴよりも霊愛を苦しめ……。
両者の使用したスペルカードは、とうとう8枚を突破した。エスカルゴは霊愛を優しく仕留めようと重力の能力を多用していた。けれども7枚目を消費する辺りからは神の力を使い始めた。
「そォら、風の刃だ。喰らえや喰らえ、ほいほい」
「っ……」
「まだ緩い方なんだから耐えろな」
「分かってるよ、でも……っ」
「ほぉ〜ら、モルモーちゃんのナイフよ〜っと♪」
「風で軌道が歪められてっ……!!」
「あはっ、また当たった?ねぇねぇ当たったぁ?」
「ギリ、掠った程度だよ!」
「あっそォ、まぁいいけど」
霊愛の集中力も高まってきている。それを感じ、エスカルゴはそろそろ負けてもいいのではと思い、手を抜きはしない程度に、一気に仕上げるつもりで動き始めた。
「いくぞ9枚目。魔砲『
「レーザー系はもう見慣れたよッ!!」
「本当かぁ?本当にそれだけか?」
「!」
彼の意図に気付いた霊愛は、レーザー安置に移動するなりモルモーの攻撃に警戒し始める。
すると思い通りにナイフが背後から飛んできた。霊愛はそれを回避し、レーザーの安置を転々として遂にエスカルゴに一撃を加えんと接近してきた。
彼はそれを嬉々として迎え入れ、いよいよ霊愛がエスカルゴの脳天にお祓い棒を叩きつけようとしたまさにその瞬間。
「まだまだヌルいな。動きに鋭さが足りないよ」
「きゃあっ!?」
霊愛の目の前にスキマが開くと、そこから2本の手が伸びてくる。それに捕まり引き寄せられると、気が付けば霊愛は彼の腕の中に居た。
「あーあ、捕まっちゃったねぇ……♡」
「あーらあら、エスカルゴくんったら相変わらず娘ラブなのね〜」
「いやーそれ程でも。俺を倒そうと躍起になってる霊愛がどうにも可愛くてねぇ」
「ちょっ、離してよっ!戦闘中なんですけど!?」
「ダーメ、このまま俺を倒してごらん?ゼロ距離の攻撃だって時には必要かもしんねーよ?」
「ろくに振りかぶれないでしょーがッ!!」
「霊夢ならこの程度でも俺を殺せるぜ?十中八九」
「もしこの距離で私がスペカ使っちゃったらぁ〜、霊愛ちゃん、回避できないねぇ♡」
「!!」
「まだ霊力余ってんだよな?ならデキるよな?」
「……!」
「あー、次はどのスペカ使おっかなー」
「そーねー、次は何にしようかなー、迷っちゃう♡もし今やられたらまずいわねー♪」
(今攻撃しろって言ってるんだ……2人共……!でもお父さんを殺すなんてできない……ッ!!)
「5……4……3……」
「────隙ありッ!『夢想天生』!!」
ドガガガッとエスカルゴに陰陽玉を連続でぶつけ彼の力を少しずつ吸収。その上で己の霊力を上乗せした霊愛は、残り全ての力を振り絞る勢いで奥義を放つ。
殺せない。それなら気絶させるしかない。そして自殺をも視野に入れているエスカルゴを一瞬で気絶させられる技はそう多くはない。
だからこそ霊愛はこの技を選択したのだ。多くの御札にてそばに居るモルモー諸共吹っ飛ばし、彼を気絶させる為に、敢えて離れずゼロ距離のままで、夢想天生をぶっぱなした。
結論としては、こればかりは霊愛の思いどおりになったと言わざるを得ない。モルモーは蝙蝠となり被ダメを最小限に抑えていたのだが、エスカルゴは霊愛を抱き締めていたので、そのまま全身に御札を浴びたのだった。
「はぁ……はぁ……勝った、よね…………?」
「最後はほぼ舐めプだけど♡」
「それを言わないでモルモー……余計に自分が惨めに思えてきた……」
「ふふっ、それもそーかもね。じゃ、霊愛ちゃんはさっさと霊夢に異変解決の旨を報告してきなさい。エスカルゴくんの面倒は私が見るから。ほらほら、さっさと出て行きなさい、ここは私達の愛の巣よ♡娘ちゃんはお呼びじゃないわ〜♡」
「……」
こうして半ばモルモーに追い出されるようにして教会を出た霊愛は、出口にて待機していたエリスと暫く何気ない会話をして羽休めをした後に、悠々と博麗神社を目指して魔界の空を飛んで行った。
コンティニューはしたけどグッドエンドに向かうと思います。
クロノス:ギリシャ語で「時間」
スィデロ:ギリシャ語で「鉄分」
アナミクティル:ギリシャ語で「ミキサー」
時間をゴチャ混ぜ、地面をゴチャ混ぜにして鉄分を抽出……のような意味合いですね。
クロノス・アナミクティル、STGとしては初見殺しすぎる最悪な部類の弾幕だと思います。もしこれをUNDERTALEで例えるならフォトショップフラウィのセーブ&ロード攻撃に近いものがあるかもですね。