直感の優れている霊夢の事だ。「そろそろ霊愛はこの異変の全貌について知った頃だろう」と察し、呑気に神社で茶を飲んでいるに違いない。そう考え霊愛はのんびり帰って行く。
「たっだいま〜……」
「おかえりー。早かったね、もう解決したの?」
「まーね。はぁ……疲れた……痛かった……。早く風呂入って休も……」
博麗神社に戻ると、妹の霊麗がいつも通り境内の掃除をしていた。そんな普段通りの妹の様子を見て安心したのか、霊愛は思わずその場にへたり込む。
しかしそんな様子の姉に、霊麗は、非情にも母の伝言を伝えた。「まだ休ませない」とも受け取れる母の言葉を。
「あ、お母さんから伝言ね。『池に来て』ってさ。戻ってきたら直ぐに、だって」
「は?池って、アレ?近くのアレの事?」
「そそ。直ぐにって言ってたから、早く行った方がいいと思うよ〜」
「えー……勘弁してよ〜……」
「気配で帰ってきてるのバレてるかもよ?お母さん相手に気配は誤魔化せないでしょ」
「いや、それもそーなんだけどさ。……ま、いーや。いってきまーす」
「いってらー」
ガックリ肩を落としながらもしっかり指示された場所へと向かう。博麗神社の近くには、池がある。ちょっとした水生生物が居る程度の普通の池だ、と聞いているが、霊愛は凄く幼かった頃にしかそこに行っていない。
霧の湖と違い生物がいるので、当然水は汚いし、ちょっぴり生臭い。水浴びとかをするのなら、断然霧の湖を選んできたからだ。
「おっと霊愛よ、この先には行かさねぇぞ〜」
「えっ?お父さん!?」
「へへっ、もうお目覚めだぜ?霊愛の夢想天生も、まだまだ優しいなぁ」
「……退いてよ」
「んーとね、簡単に言えば俺は道中のボスなんで、その辺把握ヨロだぜ。退けと言われても退かない。そういう契約なのでね。悲しいかな、悪魔は契約を履行しなくてはならない。その血の
「嘘でしょ……」
「あと今回はモルモーちゃんもそばに居ないから、遠慮無くガチらせてもらう。悪く思うなよ?」
「!!」
「という訳で、また俺を倒してから先に進んでな。今回の条件はユルいぜ?俺のスペカを全部回避するだけで通してやんよ」
「……ホントに?気絶させなくてもいい?殺したり、しなくてもいいの……?」
「おう。もしくは俺がギブするまで攻撃しろ」
「そう……それなら良かった。回避しなくても、全部耐久でもイイんだよね」
「構わねェ。んじゃ、ぼちぼち始めんぞ。真面目に対応してみろ。────眷属『擬似神化』」
「……ッ!?」
「言ったろ。
エスカルゴはの口元から笑みが消えた。同時に、霊愛も「本気で挑まないといけない」と思い直し、お祓い棒に霊力を込めつつ、霊力による身体強化も同時に行う。
「『擬似神化・雷神形態』」
エスカルゴは武甕槌命から力を借り、更に全身の帯電を強めた。頭上の輪からもスパークが迸り少し近付くだけでも感電しそうに思えた。
つい先程の敢えて我を抑え込んでいた彼と違い、闘争本能がジワジワと溢れてきているのが、霊愛の目から見ても明らかだった。
「始めよーか、霊愛ァ!せいぜい踊り狂いやがれ!狂乱『エネミー・イン・サンダーランド』ッ!!」
数多の落雷と一緒に、雷の弾幕がカーブしながら霊愛を襲う。普段は直線的な攻撃ばかりの雷の弾。普段とのギャップが凄まじいが故に、霊愛は何度も何度も掠る。それでもまともに被弾はせず、上へ、下へ、右へ、左へ、たまには後退しながら────縦横無尽に空を翔けては綺麗に回避していく。
「ふぅン、やるじゃあないか。これならどーかな?
『擬似神化・土着神形態』」
「!?」
今度は洩矢諏訪子から力を多めに借りる。帯電は収まり、一瞬攻撃の隙が生まれたので攻めようともしたが、彼女はすぐにトンボ返りする事になる。
地面から唐突に超高熱のマグマが噴出し、霊愛と彼との間に壁を作ったからだった。
「あっぶなっ……あっぶな!!」
「危ないねぇ、もしもコレに触れてたら治癒魔法を掛けるしかなかったねぇ。ほら、攻めてごらんよ。回避ばかりで、これからの異変もそうやって逃げるばかりなのかな?」
「言われなくとも攻撃っ……うひゃっ!?」
「おっ。不意討ちも回避か、イイねェ!」
地面から急速に伸びてきた植物をも回避していき少しずつ反撃する余裕が生まれた事を感じ取って、エスカルゴは満足気に頷いた。
「『擬似神化・風神形態』」
「……あれ……風が……」
「次は普通の攻撃じゃあないよ。少しキツいけど、霊愛だったら大丈夫だと……信じているよ」
「?何でもいいけど隙ありッ!!」
お祓い棒を振り上げ接近する霊愛。エスカルゴは回避する素振りも見せないし、かといってバリアや結界を張る素振りすら見せない。
見るからに怪しい。誘い込まれている。そうだと気付いてはいるものの、霊愛は攻撃しようと接近を続ける。御札より弾幕より、直接攻撃の方が効くと判断したからだった。
しかしその瞬間、霊愛はカッと目を見開き、首を手で押さえるのだった。
「俺に近付くのかい?」
「カハッ……あっ……か、あ゙っ……!?」
「言ったろ。普通の攻撃じゃあないってね」
今の彼は、八坂神奈子から力を借りて風神形態になっている。そして風とは即ち空気の動きである。その空気の動きがピタリと止まればどうなるか。
無風になる。確かにそうだ。けれども、彼の風神形態は決してそれだけではなかった。神奈子と違い残酷な手段をも手軽に使ってしまうエスカルゴは、風神の力を応用し、空気そのものを操作している。空気中の酸素濃度を、徐々に薄めているのだ。
「な゙、に゙……ごっ…………え゙っ……………………」
「急に環境が変化した際にすぐ対処できるかを少し試してみたかったんだ。ごめんね。とりあえずは、気絶しなかったから及第点かな」
少し申し訳なさげに謝ると直ぐに解除する。一瞬頭がクラリとしてしまうがすぐに持ち直し、霊愛は新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。
「すーっ……はーっ……。言っとくけど、私は半妖で吸血鬼じゃないから、急に私の周辺が暑くなったりしたとしても、そんなんで大きな隙は作らないよ。空気が薄くなっても警戒はするし……」
「クスッ……そうだね。実は今の攻撃は、下手したら一呼吸だけで気を失う程度の酸素濃度にしたんだ。でも大丈夫そうで良かったよ」
「!?」
「じゃあ次だね。『擬似神化・────」
「ううん、私の番!霊符『夢想封印 夢幻』ッ!」
「────魔術神形態』」
エスカルゴの形態移行中に夢想封印による弾幕が幾つもヒット。霊力は大抵の妖怪にとっては特効。けれどもエスカルゴ自身も霊力を扱えるので効果薄だった。
散々攻撃を浴びながら変身を完了。鼻血を拭い、それでもニィッと娘に笑いかける。
「変身中に攻撃はタブーじゃあねーかなァ?なぁ、霊愛よ?」
「そう?ちんたらしてんのが悪いんだよ」
「あっそう、ならもっと強気でいいね」
「!?」
「今日は素敵な日だ。マグマが噴き出し草花は燃え尽きている。こんな日には、お前みたいな生意気な娘は────地獄で焼かれてしまえばいい」
「────ッ!?」
「『
形態変化をする程にへカーティアから力を借りたエスカルゴは、普段よりも強力で大きくなった炎の弾幕を発射する。チリチリと焼かれながらも霊愛はしっかりと回避。時たま結界で弾いたり逸らしたりしながらだが、少しずつ回避している。
「あっつ、何なのこれ、本物なワケ!?」
「ああ。そして色んな神様が……霊愛、お前の成長の為に俺に力を貸してくれているんだ。有難いね」
「……うん」
同心円状に広がる炎弾に、直線的な炎のレーザーまでもが加わる。にこやかな彼の表情からは想像もつかない激しい攻撃だった。
「4回だよ、霊愛。4回勝て。それで終わりだ」
「あと……4回もっ……!?」
「
「うん……!」
「攻め入れ、霊愛ッ!力強く!赤い通り魔の渾名を受け継ぐくらいに強く!」
「はああああああぁぁっ……!!」
燃え盛る弾幕をお祓い棒で相殺し、少しずつ彼に迫る。レーザーは大きめに回避、弾幕は発射直後に叩く事で広がりきる前に消す事ができる。
「トドメだッ!!」
「答えはノーだ。『擬似神化・埴安神形態』」
「!?」
セラミックスの鎧を纏うとお祓い棒による攻撃を軽く弾いてしまった。しかし霊愛は慌てず陰陽玉を彼にぶつけていく。
彼は埴輪を地面の土塊から作り出すと、そこから矢のような弾幕を大量に放ち、霊愛にぶつける。
霊愛は後退を余儀なくされた。
「チッ!お父さんしつこいよ!!」
「ッ……!?」
苦し紛れに霊愛がそう叫ぶと、エスカルゴ及び、埴輪達の動きがピタリと止まった。
「し……しつ……」
「……あっ。いや、その……ね?大丈夫だよ?」
「………………ギブ」
「ええっ!?」
「ギブアップしまぁす!!」
そう叫ぶと、エスカルゴは何処かへスキマを繋げその中に飛び込んで行ってしまった。霊愛はそんな彼を追いかけようとするも、直前でスキマは閉じ、追跡は叶わなかった。
仕方がないので、当初の目的地である池へ行く。するとそこには大きな亀が居た。
「うわぁ、すっごい。コレもしかして亀?へぇー、本でしか見たことなかったから新鮮だねー……あれ?甲羅叩いても手足引っ込めないじゃん」
「はっはっ、
「うわっ!?亀が喋った!?」
「その程度でビビるのは……若造だけなのです」
「っ……な、何なのあんた!?亀!?妖怪亀か!」
「おや、御主人様から何も聞かされてないので?」
「御主人様?……あんたの御主人様って誰よ」
「あなたの母君である博麗霊夢様ですが」
「えっ?」
「もしあなたが博麗の巫女を継ぐことになれば次はあなたがこの爺の御主人様になるのです」
「えっ?えっ?何なの?話が見えない……」
「現博麗の巫女の2代前……第4代博麗の巫女である博麗靈夢様に連れてこられたこの爺は、以降、この池に住む事になりました。そうして、以降の博麗の巫女にも仕える事になったのです」
「そ、そう……」
「申し遅れました。儂の名は
「名前からして爺なんだ……」
「──して、霊愛様は博麗の巫女の職を継ぐことを希望していると霊夢様から聞き及んでおりますが、間違いないのですな?」
「う、うん……」
「ならば、爺と一戦交えましょうぞ。それで最後の見極めとさせて頂きます。その後は、最後の大戦に挑んで頂きます」
「い、一戦交えるだって!?ややっ、やだよ、私はお父さんとしか交わんないもんっ!!いや、もう、何なのこのスケベ亀はっ!?歴代の巫女に仕えたか知らないけどブッ倒されたいの!?」
「……。弾幕ごっこですじゃ」
「あ。……スミマセン……てか亀だしどうやって弾幕ごっこするの?当て放題?それとも結界使い?」
「問題はありません、爺は飛べます」
「うわっ!?……あ、妖怪亀ならおかしくないか」
「……。昔の巫女様は飛べない時期もありました故、爺の背中に乗せる事もあったものです」
「へー、最初から飛べたわけじゃないんだ。あっ、私もそっか。少しは訓練したもんなー……。ふーん、案外そんなもんなんだね」
「爺のスペルカードはたった3枚。これを全て対処出来た時点で霊愛様の勝利とします。宜しいですね霊愛様?」
「爺の勝利条件は?」
「霊愛様に弾幕を当てる事ですじゃ。そうですな、スペルカードが3枚なので、3回までは被弾しても許容範囲内としましょう。因みに、こんてぃにゅ〜などというモノはありませんぞ。当然ですな。普通異変解決に『やり直し』はありませぬ」
「……!」
キッと厳しい目を向ける。霊愛は先程の魔界での戦いの事を思い出し、思わず目を逸らしてしまう。玄爺は小さく溜め息をつき、戦いの始まりを宣言。
「それでは始めましょう。それから、そこまで力がある訳でもありませんので、通常弾幕は割愛させて頂きます。では────亀弾『亀は兎より速し』」
白と緑の弾幕がバラバラと放たれる。白の弾幕は空中や地面をピョコピョコと跳ねるように動いて、複雑な動きで霊愛を苦しめる。
対する緑の弾幕は極めて遅く、動いては消えて、動いては消えていく白い弾幕と違って、着実に数が増してきている。霊愛は徐々に追い込まれてきた。
「霊符『夢想封印』!……あぁっ!?」
「フフ」
霊愛の弾幕は、何故だか方々に散ってしまった。霊愛にとってこれは初めての経験で、ホーミングの機能に頼りきりだった彼女は酷く狼狽してしまう。
その間も玄爺の弾幕は溜まり続ける。しかも彼の弾幕は弾幕で相殺できない。ついに霊愛は一度だけ被弾してしまった。
「嘘でしょ……
「しかし回避はお見事でした。最後だけ惜しかったですな。────霊亀『蓬莱山の七色の玉』」
七色の光り輝く弾幕を降らせる玄爺。極めて高い密度の弾幕、しかしその速度は蝸牛……いや亀の如くノロノロとしていて、霊愛の元に到達するまで酷く時間が掛かるかに思われた。
霊愛は強化したお祓い棒で相殺を図るが、やはり今回も相殺は叶わず、仕方がなく超高密度な弾幕をチマチマ回避せざるを得ない所まで追い込まれた。試しに二重結界を張るもそれすらも効果が半減されあまり意味を為さなかったからだった。
「め……目が回るぅ…………」
「耐えるのです」
「速い弾幕って……キツイなって思ってたけど…………遅い方がずっとキツイ……集中力……保てない……!」
「そうです。忍耐力と集中力が鍵なのです。これはなにもあなただけに言えた事ではありませぬが……、あなた方は、なまじ力があるのでそれに頼りすぎるきらいがある。以前、父君にも言われたでしょう」
「うっ」
「ですからこうしてこの爺が指導するのですじゃ。遅い弾幕は得意ですからの」
「〜〜〜〜〜ッ……一直線のはずなのに、こんなにもキツイなんて思わなかった……!!」
「一直線のこの弾幕で苦戦していては、次で確実に被弾しますぞ」
「消せないんだからしょうがないじゃん!」
「しょうがないで失敗されては困りますな。博麗の巫女は継がせられませんぞ」
「あう……」
霊愛はより一層気を引き締めて回避に専念する。すると、あくまで一方向にしか動かない弾幕が急に簡単に思えてきた。
霊愛も妙だとは思いつつ、気を引き締めて弾幕を見切り、掠る事もなく回避しきった。
「ほっほっ、流石は霊夢様のご息女。まだ幼くともこの程度ならば余裕という訳ですな。ではそろそろこの爺の
「!!」
「『鶴は千年、亀は万年』」
紅白の弾幕と緑の弾幕が霊愛を中心に同心円状に展開されたかと思うと、徐々に縮んでくる。紅白の弾幕は速いが緑の弾幕は速度を落とし、最終的には霊愛の周囲で停止してしまう。
弾幕同士に隙間があるので、まだ包囲から抜ける事はできるものの、抜けようとしても紅白の弾幕がその隙間を縫うように動いてくる。
試しにお祓い棒で叩いてみた霊愛だったが当然のように相殺は封じられていた。よって今回の弾幕も凄まじい耐久となるのであった。
(とりあえず、緑の弾幕の包囲さえ抜けられれば、紅白の弾幕の回避に集中はできる…………んだけど、そうなると緑の弾幕に前後が挟まれる……ダメだな、普通に逃げるしかないかぁ)
「フーム、何だかんだで土壇場の集中力は凄まじいモノがありますな。感情の起伏さえ抑えられれば、これ程の強さを発揮できるのですね。……流石です。ではこれにて、爺の試験は合格としましょう」
「え」
フッと弾幕は消えた。玄爺は着地すると、フゥ、フゥ、と荒い息を繰り返す。霊愛はそんな彼を少々気にして、スカートの中を警戒しつつ、ソロソロと歩み寄る。
「……大丈夫?」
「これ以上は……ちと老体には堪えますわい」
「それだけ?死にかけとかじゃないのね?」
「ええ。ですが弾幕ごっこは慣れませんな。何せ、まだ付け焼き刃なものですから……」
「付け焼き刃で私は被弾したんだけど」
「初見ですから仕方ない部分はあるかと。お見事な戦いぶりでしたぞ、霊愛様。では最後に、間欠泉へ向かいなされ」
「え?まだあんの?」
「博麗の巫女を継ぐにあたって、まずはあの方から認められる事が最低条件です。現博麗の巫女が存命である以上は、ですが」
「えー……」
「あの方は既に霊愛様を認めておられます。しかしその
「うぇー、もう疲れたー……」
「我慢なさい。もしこれが本当に異変だったならば丸一日飛び回るのですぞ。世界を股に掛ける事すら稀ではない。博麗の巫女とはそういうものです」
「股に……掛ける……!?やだもー、このスケベ亀!お母さんに怒られちゃえ!」
「……」
「……スミマセン」
「はぁ……仕方がありませんな。今日だけは爺の背に乗る事を許可致します」
「あ、それは結構です。私、ずっとお父さんにしか乗らないって決めてるの♡」
「……」
「じゃ!またね玄爺!」
「お気を付けて。最後の壁は極めて高く、分厚い。用心する事です」
「ありがと。気を付けるよ」
「こんてぃにゅ〜」表記なのは、封魔録の魔理沙のセリフからです。「らすとわ〜ど」なのも、それが元になっています。
玄爺のセリフは封魔録にしか無い(その他、作品のエンディングの事は知らん)ので、口調やキャラを掴むのがとても難しいですね。
エリスやサリエルなどの靈異伝キャラと違い、少しだけとはいえ本編でのセリフがあるから……。
因みに、三月精にて「池に棲む亀」の話題があったので、神主の発言にもある通り、Win版でもちゃんと存在はしているようです。
夢想封印の弾幕が逸れちゃうのは、幾つかの原作のEX既プレイ勢には伝わるはず……いや伝わってくれ頼む。