「間欠泉かぁ、あんな所で誰が待ってんの?まさかお母さんなんて事は無いだろうしなぁ……賢者の誰かなんだろうなぁ……」
待ち受ける相手は誰だろうかと予想を並べながら湯けむり立ち上る熱湯の間欠泉へ向かう。しかし、あまり候補は上がらない。せいぜいが霊夢、または魔理沙くらいだった。
するとそんな霊愛の前の空間がフラッと正円型に歪んで、中からエスカルゴが出てきた。
「この先には行かせんぞ〜」
「今度は誰……またお父さん!?」
「道中のボスと思ってくれ」
「しつこいって!てか自己主張が強すぎ!」
「今度は効かねーぞ。昔ながらの俺の技を喰らえ。雷符『Midnight☆Thunder』!!」
「ッ……!?」
エスカルゴを中心に闇が広がった。霊愛の視界は極めて狭くなり、視力を強化してもなお、数センチ程度しか見えない。一寸先は闇とはこの事だ。
視界が塞がれた数秒後、霊愛は雷の弾幕に被弾。微ホーミング性の雷に集中攻撃を受け、霊愛は既に身体の一部が痺れて感覚が無くなりつつあり、もう殆ど動かせなくなっていた。
「なっ、なんなのこのスペカ!?闇と雷の合わせ技なんて……まさかこの短時間で開発したの!?てか、何が昔ながら!?」
「いや、これは俺が幻想入りしたての頃に開発した昔懐かしのスペカさ。2枚目か3枚目くらいにね。あの頃は闇を制御できてなかったからな。因みに、かなりの初見殺しだぞ」
「だろーね……!こんなのどーしろと……」
「適当に動けば回避できるんだぜ。ホーミング性の弾幕ではあるけど、俺のホーミングなんて、スゲェ微弱なもんだからな」
「あっそう、マジで役に立たない情報ありがとう。片足が死んだからバランス取れないよ……!」
「ジン、ジン、ジンジンジン、片方の足がジンジンジン♪」
「……霊符『夢想封印』!!」
「霊符『夢想封印』」
「……はぁっ!?」
霊愛の夢想封印とエスカルゴの夢想封印が衝突。完全に相殺し合う。エスカルゴは当初、神綺の薬によって吸血鬼化した。その薬に霊力が混入していたお陰でエスカルゴは霊力持ちの吸血鬼になったが、それを利用しようと考えた彼は霊夢に師事し、本来巫女しか使わないこの技を習得したのであった。
霊愛もエスカルゴの夢想封印は見た事があった。では何故、そして何処に驚いているのかと言うと、その威力にある。
まさか彼の夢想封印が自身の夢想封印と張り合う威力だとは、露ほども思っていなかったからだ。
「霊夢から教わったんだぜ?威力だって霊夢並み……とは言わないけど、博麗の巫女みてーに妖怪退治を生業にできる程度の強さはあるのさ」
「っっ…………お父さん、万能すぎるよ……!」
「器用貧乏ってんだ。万能でも強くなけりゃ意味は無いって前にも言ったろ」
「それでもお父さんは強いよ……。私じゃ、まともに戦ったら勝てないくらい……」
「なら霊愛が強くなればいい。それだけの事だな。さぁ掛かってこい」
「いや何処に居んのか分かんないんだけど!?」
「ははっ、闇はまだ消さねーぜ?なんたって、このスペカ……まだ終わってねーから♡」
「え?」
「5波。残り4波、避けきれ。そんで回を経る毎に弾幕量は増える。数センチ程度でも見えるはずだ。制御できなかったあの頃とは違うからな。とはいえ瞬発力が求められるぞ〜」
「ウソウソウソウソ!?もう1発喰らってんのに、2回目なんて喰らったらっ……きゃうっ!」
「あーらら、被弾した音が聞こえたな。次は何処に喰らった?」
「……」
(気配を消しやがったか。流石、妖怪退治の訓練を受けているだけある。対象に悟らせず接近、一気にカタをつける────悪くない。けどなァ、霊愛。生まれた頃からオメーの面倒を見てる俺に対してもそんなんだから、まだまだガキなんだ……!!)
「ッ!?」
凄まじい勢いで頭に振り下ろされたお祓い棒を、彼は素手で掴み、一本背負いのように霊愛を投げ、吹っ飛んだ彼女に雷弾を連続でぶつけた。それには多少の違和感を覚えるも、構わず第5波まで攻撃を続行した。
「ククッ、さぁ終わりだ。止めるか霊愛、それともまだやれるか?」
スペカの効果時間を終えると闇は消え去り、彼は地面に転がる娘を見下ろす。結界を張って途中から攻撃をやり過ごしていたようだった。
「フン!そうでなくてはな、霊愛」
「ッ……まさか……本当に私を倒す気?」
「おう。そうでもしないと、俺の可愛い娘が異変が起こる度に死地に赴くようになるワケだからなぁ。いや、博麗の巫女になるっていう夢は叶えてほしいけど、やっぱ危険なのはやめてほしいっていうさ……矛盾しちまってるこの想い、分かってくれるか?」
「あのね……お父さん、私を大好き過ぎ!過保護!!子供扱いしないでよね!!」
「過保護なのは自覚してる。そんな事を言われても今更ダメージは負わん」
「ちぇっ」
「更に……絶技『天翔雷霆零槍』」
「!?」
「今日の天気は────雷のち槍、だったかな?」
ニヤリと笑うと手元に作った槍を投擲する。更に何本も何本も連続で作っては投げ、作っては投げ、霊愛を苦しめる。何度も掠った事で、痺れが治ってきていた足にまで再び被弾した。
かつては全力を尽くさなくてはいけなかったこのスペカ。力量が無制限となった今だからこそ、連発できる。
「ふぅン、当たらないもんだな……」
(本気だった……お父さん、本気でこのスペカで私を貫くつもりだった……!!)
「それじゃあ、これで最後としようじゃあないか。もしこれを避けられたら、とりあえず降参しよう。けど、もしダメだったら────勝負は続行だぜ。召喚『武器庫の解放、出血大サービス』」
「…………えっ!?」
天空に開かれた巨大な大穴。そこから降り注ぐは大量の武器。刀剣、槍や斧など、大小問わずに只管降り注いでくる。雷武器シリーズの武器なので少し掠るだけで短時間ではあるが痺れてしまう。
霊愛は顔面蒼白になりつつ天空に向けて幾重もの結界を展開。
「無駄無駄無駄。そんな結界は俺が壊しちゃうぜ。
『霊力遷移』」
手元にスキマを開き、墨汁のように綺麗な漆黒の妖魔雷霊剣を取り出すと、彼はその中に込められた霊力を引き出す。
そして高々と飛び上がると、武器に混じって彼も落下、いや真下に急加速する。しかもそこに自らに能力を掛けて、重力加速度を倍以上にしながら更に威力を増した斬撃を、霊愛の結界に加えた。
「あぁっ!?ウソ、私の結界が……ッ」
「この俺を相手に慢心するとは、まだまだ甘いな。言っとくが俺ぁ、最強には程遠いだけで……結構場数踏んでるし、それなりには強ェからな?」
「ハァ!?慢心なんてし、してないし!?」
降り注ぐ武器の雨を回避しながら反論する。だが彼はその反論を、瞳に冷たい光を湛えて一蹴する。
「ならどーして俺の攻撃を結界で防ごうとした」
「っ……回避できないって、思ったから……」
「成程、それは確かに結界に頼りたくもなるわな。けどそれって、私の結界でなら防げる……とか思ったから、結界に頼ったんだろ?何重も張れば防げる……とか、とにかくそんな事を考えたんだろう?」
「っ!」
「あのよー……
自分の攻撃を防げると娘に思われて憤慨しているのか、それとも敢えて突き放そうとしているのか、彼は酷く鋭い視線を娘に向ける。
そんな彼の鋭く冷たい視線を受けた霊愛は思わず背筋を震わせ……。
「わ……私だって!博麗霊夢の娘だもん!」
「そうか、なら、俺を倒せなくっちゃなぁ」
「……うんっ……!!」
「まっ、本当の意味で倒せるようになるのは何年も先なんだろーけどなっ!」
「ちぇっ、言ってくれるよね、この父親は……っ!!
『夢想天生』ッッ!!!」
「オイオイ霊愛よ、奥義ってぇのはそう気安く使うモンじゃあねーぞ?……『夢想天生・邪』」
霊愛の大量の御札の夢想天生とエスカルゴの闇と霊力の弾幕がぶつかり合う。霊力の総量は、やはりどう足掻いても霊愛の方が多い。最終的には、彼の夢想天生は押し切られてしまい────。
「あー、降参降参。霊力が尽きちまった。こりゃあ対抗できそーにないかもしれ……」
「宝具『陰陽鬼神玉』ッッ!!」
「……そーそー。そういう容赦の無さが大事なんだ」
巨大な陰陽玉をぶつけられて吹っ飛ばされると、彼は満足そうに博麗神社へと帰って行った。そして霊愛は最終決戦に向かう。
間欠泉にて待つ、最後の敵を倒す為に。
◆
「……来たわね」
「……」
「思ったよりボロボロになってるわね。まさかとは思うけれど、エスカルゴにやられたの?それとも、エスカルゴとモルモーコンビ?」
「……」
間欠泉の根元に居たのは霊愛の実の母、博麗霊夢だった。霊愛としては賢者の誰かなんだろうなどと思っていただけに、少々意外だった。
しかし思い返せば、この異変そのものが試験的な意味合いを持っていた。なら、乗り越える壁として母が……現博麗の巫女が立ち塞がるのは、当然の事に感じられた。
昔の巫女は、スペルカードルールも無かった故に異変解決中や妖怪退治中に命を落とす事もそこまで珍しくはなかった。だから、博麗の巫女は、特定の血筋でありながらも「どこかから連れてこられた」者すら存在すると言われている。
言わば、今回のコレは、現在の博麗の巫女が存命だからこそ可能な試験の方法なのだ。
「何とか言ったらどうなのよ?それとも、実の母が相手だと
「……そんな事は、無い……けど……」
「あっそう、なら始めましょ。あんたと別れてからずっと待機してたのよ?暇で仕方なかったわ」
「……」
「あんたが私に勝てたなら、賢者の連中も首を縦に振らざるを得ないわ。あんたが本当に博麗の巫女になりたいなら、この私を今ここで倒してみなさい」
「うん……分かった」
「そして今の私は、敵というよりはあんたの鏡よ。未来の自分を超えるつもりで掛かって来なさい」
「未来?……よく分かんないけど分かったよ」
霊愛にとって、どう足掻いても油断も隙も作れやしない絶対的な強さを持つ博麗の巫女、霊夢。今、戦闘態勢に入っている母を見て、霊愛は改めて母の強さを……歴戦の猛者である事を感じ取っていた。
「……霊符『夢想封印』」
(さっさと勝負を決めに来たわね。そして、半妖の霊愛は吸血鬼の私には身体能力においては絶壁にも似た越えられぬ壁がある。そんな相手に接近戦は、自殺にも等しい悪手。弾幕で押すのが鉄則。うん、基本通りの戦い方ね。……基本すぎて読みやすいわ)
当然の事だが、霊愛に妖怪退治の術を教えている霊夢が霊愛の夢想封印に被弾するはずがない。掠りすらもしない、完璧な回避を見せ付ける。抜け穴が存在するかのような、完全な回避が当たり前であるような……そんな美しすぎる回避行動だった。
「当然……そりゃー当たる訳ないよね……」
「ええ、当然よ。霊符『夢想封印』」
今度は霊夢が夢想封印を使った。霊愛が一方的に回避をさせられるが、先程の霊夢のようには上手く回避できない。霊愛は知らず知らずのうちに自分と先程の霊夢を重ね合わせ、上手く回避できず掠りが増えている。それだけでも自己嫌悪するのに、更に一度でも被弾してしまっては……。
霊愛は奥歯が砕けてしまうのではと思う程に強く噛み締め、悔しさを全面に出す。
「〜〜〜〜〜ッ……最ッ悪だ、私弱すぎ……」
「あんたはゴリ押ししすぎ。ほら、構えなさい」
「え」
フッと霊夢の姿が消えた。この消え方には霊愛も見覚えがあった。頭上にワープしての────!
「ハッ!!」
「ふぐぅぅっ……」
思い切り足を振り抜いた霊夢は、霊愛の頭を強く蹴り飛ばした。霊愛は強化したお祓い棒でどうにか受け止めるが、ミシミシと骨も棒も軋む。
「身体強化が甘い。全身を強化するのは当たり前。でもこうして攻撃を受ける時はさっさとその部位を特別に強化させなさい。でないと────!!」
「ひゃっ」
グッと脚を強化した霊夢は、受け止められた脚をそのまま振り抜き、霊愛を間欠泉へ吹っ飛ばした。噴水のように吹き上げられた霊愛は全身びしょ濡れだったのだが、構わず霊夢へ立ち向かおうとする。しかし、視界が開けた時には既に霊夢の姿はなく。
「どこ……!?お母さんッ!?」
吹き上がる間欠泉の上部にて、周囲を警戒する。しかし霊夢は霊愛の予想の遥か上を行く攻撃方法で霊愛に更なる追撃を加えてきた。
「ギャッ!?」
轟々とうるさい間欠泉の流れに乗って、真下から霊愛を蹴りあげた。こういう場合は、大体が頭上や後ろから襲ってくる。だから霊愛はそう思い、そう身構えていた。しかし霊夢はその裏をかいて、真下からの攻撃を仕掛けてきたのだった。
「────ここまでよ」
「っ!」
かと思えば、今度はお祓い棒のスキマにて霊愛の上にワープすると、強烈すぎる踵落としで、霊愛を地面に思い切り叩きつけた。
「……きゅぅ……」
「あらあら、まさかこれでノビちゃうなんて。まぁいいわ。……エスカルゴ!」
「はいよん」
目を回してダウンする娘を尻目に、霊夢は旦那、エスカルゴを呼ぶ。わざとらしくスキマで顔だけを覗かせ、ひょっこりと帰ったはずの彼が現れる。
「……えー、まさかとは思ったがマジで倒したの?」
「当然。あの程度じゃ絶対に満足してくれないわ。隠岐奈の事だもの、あーだこーだ文句言うわよ」
「そーだなぁ……俺がフルボッコにしたのにそれでも首を縦に振らないくらいには、隠岐奈って凄く我が強いからな」
「え?アンタ、まさかまたブッ飛ばしてきたの?」
「まーな。霊愛が博麗の巫女になるの反対しやがるから、2人目を孕ませる勢いでヘロヘロになるまでブチ犯したのに、それでも認めねーんだもんよぉ。俺が根負けしちまったよなー」
「そっちか」
「そっちだよ。だって正当性は隠岐奈にあるしな。説得に応じないのなら俺が折れるしかねーだろ?」
「アンタ……正当性とかそういうマトモな事、考える脳ミソ持ってたのね……」
「え!?何年も連れ添ってて今更ですかァ〜!?」
「チンコでモノを考えるアンタだから言ってんのよこのバカ!さっさと霊愛を連れて帰れ!」
「えー。霊夢はここで待機か?」
「仕方ないからやり直しの機会を与えるわ。誰しも失敗はするものだからね。ね、エスカルゴ?」
「耳が痛いです。あ、夕飯は用意してあっからよ、さっさと帰って来いよな」
「霊愛が私を倒すまで私は帰らない。魔理沙の家で過ごすわ。事情は説明してあるからね。霊愛が出発したら教えなさい。24時間、常に動けるように準備だけはしておくから」
(え、それってまさかお風呂に入らないって事か?すんごい匂いしそう……あ、興奮してきた……♡)
「あともしその時に私が風呂だの食事だのしてたらアンタが粘りなさいよね」
「えっ!?また俺も相手するの!?」
「当たり前。道中にスキップは存在しないわよ」
「りょ〜かい。……いやぁ、まさか、久しぶりの夫婦共同作業が娘の試験とはな。人生とはよく分からんモノよのぉ、霊夢?」
「幻想郷の為である前に、これも子育ての一環よ。博麗流のね」
「ははっ、違いねェ。んじゃまたな」
「ええ。あと食事はさせなさいよね」
「マジ?格闘戦もするのに?霊愛が吐く姿を見ても興奮はしねェよ?可哀想は可愛いじゃあねーんだ。娘に限ってはね」
「アンタバカァ?『腹が減っては戦ができぬ』って言うじゃないのよ」
「へいへい」
「へいは1回」
「へ〜い」
「……ったく……」
霊愛は、なまじ生まれつき霊力が多いせいでずっとゴリ押しで戦ってきています。巫月やエスカルゴ、霊夢以外の相手なら大抵勝ててしまうからですね。魔理沙相手でさえ、(五行の相性があるとはいえ)勝ててしまいます。
それによって、霊愛は己の勝ちパターンを無意識に掴んでしまっています。普段ならば喜ばしい事ではありますが、ゴリ押しで勝てない相手にゴリ押しで挑むのは悪手だと言わざるを得ませんね。
一度掴んだはずの勝ちパターンを上書きする必要がありますが、果たして、彼女にそれができるのか。それとも、ゴリ押しをレベルアップさせて無理矢理勝ってしまうのか。