※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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弱小ヤクザ、動きます

 ある日、畜生界の某所にある勁牙組の本拠地に、焦燥が走っていた。畜生界の各地に散って敵情報を集めていたオオカミ霊達が一斉に帰ってきた上に、皆口々に畜生界と幻想郷の危機を告げるのだ。

 

「驪駒様ッ、ピンチですぜ!ずっと地方で燻ってたアイツがッ……“コウガ”の野郎が動き出しました!」

 

「何ィ?奴が動き出しただと?」

 

「ヘイ!しかも奴め、今度は畜生界の掌握ではなく幻想郷の乗っ取りに動くようでして。作戦会議でもするつもりなのか畜生界各地に散っていた幹部共が支部の兵隊もゾロゾロ引き連れて、完全に本拠地に集まりつつあるとの情報が……!」

 

 畜生界はつい先程まで完全な平穏を保っていた。というのも鬼傑組組長、吉弔八千慧はエスカルゴに辱められる直前まで追い詰められた事により完全に引き籠もり、鬼傑組は弱小組織と呼べる程に失墜。そしてエスカルゴのパイプを利用して手を組んだ、霊長園の埴安神袿姫と勁牙組の驪駒早鬼によって、畜生界はおよそ二分されていた。

 しかし、霊長園も勁牙組も完全に畜生界を手中に収めた訳ではなかった。何故なら畜生界には他にも幾つもの組織がある。饕餮を盟主とする剛欲同盟、その他様々な弱小組織が、畜生界に蔓延っていた。

 霊長園と勁牙組はその中でも「特に大きい組織」というだけで、実質的にはまだ畜生界は戦乱の世。これまでの平穏は全て「冷戦状態だったから」こそ得られたものである。今もそうだが決して真に平和だったのではない。

 

「はぁあああッ!?弱小組織だった(・・・)あの組が、遂に本格始動だと!?それはつまり……」

 

「勝算アリ(・・・・)という事です……どうしますか驪駒様ッ!こうなればもう、兄貴や紅魔館に助けを求めるしかないですよ!幻想郷の事なら俺達より兄貴達の方がずっと詳しいですぜ!!」

 

「チッ、出来る事なら勁牙組の跡継ぎを作る以外にエスカルゴに頼りたくなかったが……!だが幻想郷を巻き込むとなれば仕方ない……のか……!!」

 

「驪駒様ッ!」

 

「「組長ォ!ご決断をッ!!」」

 

「野郎共ォッ!戦争の準備だ!私は幻想郷に行く!駆翔、お前も来いッ!!」

 

「はいッ!!」

 

「ただしお前ら!忘れるな!剛欲同盟のモットーは

『漁夫の利』ッ!!私達が動いている間に、饕餮も動くかもしれん!!警戒は怠るなよッ!!鬼傑組の動きにも要警戒だ!!カワウソ霊を利用して情報を引き出せるだけ引き出して来い!多少ならこちらの情報を渡しても構わん、情報を引き出せ!!」

 

「「了解ッッ!!」」

 

「それからオオカミ霊、誰か1人でもいい、私達についてこい!道中により詳細な話を聞かせろ!!」

 

 

 ◆

 

 

「……まぁその、なんだ。エスカルゴに会いに来たんだが、居ないのか?」

 

「うん。お父さんは居ないよ。ここ最近、なんでか知らないけど来ないの。『暫く特訓する』なーんて言ってたけど、何処でやってんのかは知らないよ。ここ3日くらいは何処にも顔を出してないってさ」

 

「参った……博麗神社だけが頼りだったんだが……」

 

 驪駒親子とオオカミ霊は、幻想郷に来るなり博麗神社を訪れた。しかし当のエスカルゴはここ数日、幻想郷で姿を確認できないでいたのだ。

 これは、彼の家族の中ではちょっとした騒ぎにもなっていた。しかし驪駒親子は、ローテーションの中に入っていない上、幻想郷住まいではない為に、幻想郷に来るまで知らなかったのである。

 早鬼と霊愛がそんな話をしていると中々帰らない早鬼達を帰らせようと霊夢がノソノソと出てきた。

 

「なーにいつまでも居んのよ、ヤクザなんて居たら参拝客が逃げるでしょ。駆翔くんはともかく早鬼は帰りなさいよねー」

 

「エスカルゴに用があったんだが……居ないのか?」

 

「聞いての通りよ。ここ3日、エスカルゴはどこの家庭にも顔を出してないわ。昨日なんて、わざわざ永遠亭から巫月ちゃんとサグメが来たんだからね。博麗神社か紅魔館に居るんじゃないかって」

 

「参った……これは参った……ッ」

 

「何が?」

 

「……実は、畜生界のヤクザが幻想郷に侵攻してくる計画を立ててるんだ。幻想郷を乗っ取るらしい……」

 

「じゃあその前にあんたら勁牙組が潰せば?」

 

「無理なんだ!」

 

「?」

 

「ここに来る前にそれを思い付いた。そしてすぐに奴らを止めようとしたんだがな……八千慧が、組長のコウガに負かされ、傘下に入らされていた……!」

 

「はぁ!?八千慧って……あの吉弔八千慧が!?」

 

「そうだ……。極彩組(ごくさいぐみ)の組長、虹牙(コウガ)は、《喰った者の能力を七つまで使える程度の能力》を持っている。八千慧は、どこかで誰かに喰われたらしい尻尾を、更に虹牙に喰われ、能力をコピーされた……ッ!」

 

「それで、逆らう気力を無くされて……傘下に……」

 

「ああ……もし私が虹牙と戦おうものなら、私のこの翼を一部でも喰い、そして私の最強の脚力をコピーするのだろうな」

 

「つまり一撃で殺す必要がある……と?」

 

「そうだ。だからこそエスカルゴの力を借りたいと思っていたんだ」

 

「そんな能力を持った奴がまだ埋もれてたのね……。でもおかしいでしょ。わざわざ、畜生界という地獄みたいな世界に堕ちたってのに、今更出てきて強者蔓延る幻想郷を乗っ取るとかさ」

 

「確かにそうなんだがな、奴らが幻想郷に侵攻するという話は間違いないみたいなんだ。そうだろ?」

 

「ええそうですぜ!三途の川を経由し、中有の道を通り現世に出てくるとか計画してました!」

 

「前に私達が通ったルートじゃないの!!」

 

「奴らも、各地に間者を放っていた。お前達が侵入してきた経路を同じように使うつもりなんだろう。既に使われている経路なら自分達が使っても他者に怪しまれまい、と。私達もそのルートで来ている。なんなら八千慧が虹牙に情報を流した事も有り得るから、なんとでもやりようがあるんだ」

 

「……紫!エスカルゴは何処!?今すぐここに連れて来なさい!!」

 

 いつもなら無視されるこの呼び掛け。霊夢は全く期待せずにそう呼びかけた。しかし紫は、意外にもこの一度の呼び掛けで、ヌゥッと顔を出した。

 

「今は無理よ。特訓中よ」

 

「だァから、幻想郷がピンチなんだって!詳しくは知らないけどヤバい奴が攻めてくるってのよ!?」

 

「ふぅ。……驪駒早鬼」

 

「なっ、なんだ?」

 

「情報を持ち込むなら正確な情報を寄越しなさい。極彩組は、幻想郷を乗っ取る計画は立ててないわ」

 

「え?」

 

「はっ?……おいオオカミ霊!」

 

「ひぇっ!?俺は何も……」

 

「最後まで聞きなさい。極彩組の虹牙は、幻想郷に来るつもりはあるらしいわ。そして何処に攻め入るつもりなのかと言うと────妖怪の山よ」

 

「「な……っ!!」」

 

「そして天狗組織を乗っ取り、畜生界に戻るのよ」

 

「何だと?何の為にだ?」

 

「畜生界を支配する為。これ以外にある?」

 

「……成程。乗っ取りも侵攻も、事実ではあるのか。その矛先が少し違うだけで……。いや待て。逆に何故妖怪の山だけ(・・)なんだ?」

 

「簡単な話よ。程々の強さの幻想郷イチの兵力(・・・・・・・・・・・・・・)を、一気に手に入れやすいからよ。それに加えて、山は三途の川なんかにも結構近い。侵攻するにも人員を回収するにも、かなりうってつけなのよねぇ……」

 

「な、成程……。幻想郷には極彩組の兵隊を増やしに来るのか……」

 

「ならどーすんのよ、紫。妖怪の山は天狗をはじめ多くの妖怪の拠り所となってる。そんな妖怪の山が畜生界のヤクザの手に落ちたら……」

 

「問題無いわ。既に手は打ってあります」

 

「……どうして、こちらから向かうのではなく受け身なんだ?早めに叩いた方が、楽なんじゃないのか?いや、私のように能力を奪われる事を憂いていると言うならそれは正しいと思うが……」

 

「早鬼。それだからあなたは脳筋と言われるのよ」

 

「ムッ」

 

「妖怪の山は、様々な種族が住んでいる。そして、さっきも言った通りだけど『幻想郷イチの兵力』を有しているわ。つまり山を制圧するにもそれなりに優秀な戦闘員をこちらに連れてくる必要があるの。そこを待ち構えていて殲滅した方が後が楽なのよ」

 

「そういう事か。だから敢えて後手に回るのか……」

 

「ええ。後手に回る事全てが悪い訳ではないのよ。作戦の上で後手に回るのは、正解とさえ言えるわ」

 

「でも、それで天狗に被害が出たらどうするのよ?恨まれるのは紫じゃないの?」

 

「言ったでしょ。手は打ってある、とね」

 

 

 ◆

 

 

「やぁやぁ陣風丸、相変わらず1人で修行に励んでおるのだな」

 

「天魔様……!何故あなたが九天の滝(このようなところ)に……」

 

「たまには他の者と刃を交えてはどうだ?」

 

「いえ。私の剣術はまだ不完全です。自信を持って他人に見せられません。強さを示せ(・・・・・)と仰るのなら、そのようにしますが?」

 

「いやいや……。まぁ、お主がそれでいいと言うなら無理強いはしないがな……」

 

「……まだ何か?」

 

「いや何、お主のその太刀筋、どこかで見た覚えがあってな。見ていると、何やら寒気に襲われるよ」

 

「ッッ……見覚えがある……ですか」

 

「あぁいや、剣術は極めれば行き着く先は同じだ。誰かと似てしまうのは仕方のないことだよ、そんな気にしないでくれい」

 

「いえ。ありがとうございます。お陰様で私の剣がまだ不完全である事が証明できました」

 

「え……」

 

「失礼致します」

 

「あ、おい……」

 

 天魔に浅く一礼すると凩は何処かへ飛び去った。部下にこのような対応をされたのは初めての事で、天魔は思わずシュンとしてしまう。ある意味では、裏切られるよりもショックだったに違いなかった。

 

 

 ◆

 

 

「どう?山での生活には慣れた?」

 

「紫さん……」

 

「フフ、天魔にあんな態度、怪しまれるかもよ?」

 

「……今更、私を怪しむような事はないですよ。私の潔白はあなたが証明してくれたのでしょう?なら、天魔様は私を疑いませんよ。私を疑うのであれば、天魔様はあなたを疑うということだ。違いますか、紫さん?」

 

「相変わらず鋭いわね。……敵はそろそろ動き出す。心して動くように」

 

「はい」

 

「それにしても……浮かない顔ねぇ。恋人が恋しい?特訓中だもの、会えないわよ?」

 

「……いえ。天魔様に私の未熟さを見抜かれました。まだまだだな、と自分に呆れています」

 

「そりゃあね……あなたのやってる事は無茶そのものだもの、未熟で当たり前なのよ?」

 

「……」

 

「普通、剣術などは1人1つよ?元が同系統の別の流派を極めるという例ならあるわ。でもあなたは、それとは全然違う。方向性が全く違う2つの流派を極めようとしている。それに加え、2つ共が我流。1つ目の流派で己に染み付いた癖を完全に抜こうとしているけれど、それはそれは本当に長い道のり。一朝一夕に極めようとする方が無謀なのよ?」

 

「……ええ。でもそうでもしないと片方の流派に対応された際に私の剣術では対応が不可能になる」

 

「ええ、その通り。でも、決戦の日は近い。もしもそのままの策で挑むのなら、急ぎなさい」

 

「勿論……分かっています」

 

「それなら良いのだけど。……幻想郷を、妖怪の山を頼んだわよ。ヤクザの抗争に、博麗の巫女は決して巻き込めない。となれば決戦の地である妖怪の山で全てを終わらせるしかないからね」

 

「はい。では決戦に備えて準備するので、紫さんもそろそろ帰って下さい」

 

「あら、酷い塩対応ね。涙が出そう」

 

「私の修行の時間を邪魔したくはないのでしょう」

 

「フフ、それもそうね。じゃあね、凩。あなたには他にも、極彩組には消えてもらわなくちゃならない理由が……ヤクザと戦う理由が、あるものね……♪」

 

 不敵に笑うと紫はスキマに身を落として消える。紫の気配も消えて、周囲に誰も居ないのを気配から感じ取り、凩は小さく呟く。

 

「妖怪の山は…………たとえ死んでも守ってみせる」




極彩組
様々な種族、様々な能力を持つ妖怪が「世界を支配してやる」という欲望の下、その中で最強の妖怪の
「虹牙(コウガ)」に従う形で集まってきた。
これまで勁牙組、鬼傑組の勢いにやられていたので陰で組織力を高めていた。
畜生界には虫や動物などの霊しか居ないはずだが、極彩組は妖怪が主な組織なので、極めて異質な組織である。
剛欲同盟と違いボスだけが強いワンマンチームでもないので、幾つかの勢力での総力戦になるのは殆ど間違いない。

虹牙(コウガ)
肩書き:極彩組組長
能力:喰った者の能力を七つまで使える程度の能力
性別:女
種族:妖怪
能力の詳細は不明。とにかく、七つまで能力を使用できるという噂が上位の組織の中で出回っている。紫はこれを「不知火麗葉の下位互換。エスカルゴは勿論、麗葉との戦闘経験がある者なら負けるはずが無いだろう」と鼻で笑う。エスカルゴには変わらず特訓をさせ、凩に相手をさせようとしている。
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