「どうもこんにちはレイチェルちゃん、お忙しい中対応して頂きありがとうございます、急ぎながらで申し訳ないのですがお時間は大丈夫でしょうか?」
「う、うん、大丈夫だから落ち着いて?」
「ええ落ち着いてますとも、それでですね、えと、エスカルゴさんを探してるんですがね、行方不明、みたいな感じじゃないですか、だからあの人が再び幻想郷に帰ってくるよう、レイチェルちゃんのその能力でどうにかできないかと思うのですが、大丈夫でしょうか?」
「分かった、分かったからとりあえず一息つこう?ほら、美味しい紅茶もある事だし。ねっ?」
「……ありがとうございます」
紅魔館に到着するなり、はたてが止める間も無く矢継ぎ早に話し続けた文。しかしそれにほんの少し引き気味にレイチェルが言うと、流石にしまったとばかりに落ち着きを取り戻し、紅茶を口につける。
「色んな世界をフラフラしてるお父様だから、幾ら行方を晦ましているとしても、幻想郷に帰ってくる確率自体は0じゃない。多分、私の能力の範囲内。一先ず文さんとはたてさんに─────《今すぐ早くお父様に会える確率、100%》……っと。多分これで大丈夫だと思うよ」
「ありがとうございます!行きますよ、はたて!」
「でも……ホントに今ので大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。お父様が幻想郷に帰ってこないワケないからね。幻想郷内に居るのならたまたま会える確率だって元から存在する。私はそれを100%にまで引き上げただけ。きっと今頃、異世界に居たのなら幻想郷に帰って来る。そして元から幻想郷に居たら2人の近くに来るか、
「ふーん……?」
「しかもね、お父様ってかなり思いつきで行動するタイプだからね。『あ、ムラムラしてきた』なんて思えばその辺の妖精メイド捕まえてエッチするし、もしくはシャロンちゃん連れ込んで数時間くらいはパンパンしてるし」
「え!?自分の子に見られてるのにそんな事すんのあの人は!?」
「……?普通じゃない?」
「ですね。割と山でも妖精を襲ったりしてますし」
「絶対普通じゃないわよっ!」
「はいはいはたて、そんな事はいいのです。すぐに探しに行きますよ!」
「そ、それもそうね。こうしてる間にも、仲間達は傷付いて血を流してるんだから……っ」
こうして紅魔館を出た2人だったが、かといって何処に向かえば良いのか検討がつかず、手分けして探せば良いものを、2人一緒に飛んで今後について話し合っていた。
というのも「運命が引き寄せてくれる」とはいえそういう能力者ではない2人にとっては雲を掴むが如き話だし、まるで見当がつかないからである。
「どう……しよっか?これから……」
「どうもこうも、適当に何処かに行けば会えるはずですよ。私としては、あの人は危機察知能力が割と高いですから、妖怪の山に来る気がするんですよ。だから一度、妖怪の山に行ってみようと思います」
「……言われてみればそうね。確か、クレイドールの一派が山に侵入してきた時も、血の匂いで察知したらしいし、となればまた血の匂いを感じれば、山に戻ってくるはず……!」
「そしてレイチェルちゃんが言うには『今すぐ』に会えるそうなので……恐らく既に幻想郷に居ますよ、あの人。なのでとりあえず山を中心にして全方位に風を吹かせます、血の匂いを乗せてッ!!」
各地で悲鳴と血飛沫が起こっている妖怪の山の、噴煙立ち上る山頂から、全力で能力を使用し可能な限り遠くまで風が届くよう、文は本気で風を操り、風神の如き風を吹かせた。
「ふぅ……」
「今のでエスカルゴさんが気付いてくれればいいんだけど……」
「ですね。ではここからは手分けして─────」
彼を探そうとはたてに提案しそうになった所に、1人の天狗が目くじらを立てて2人の元に現れた。鴉天狗の如き凄まじい風を帯びて。
「おい、そこの貴様」
「はいっ!?」
「今の風を吹かせたのは貴様だな」
「そ、そうですが……」
「やはりそうか。やれやれだ。貴様のお陰で匂いで追っていた獲物を喪失してしまったではないか……。どうしてくれる?」
「いやすみません、こちらとしてもやむにやまれぬ事情があったものですから……」
「どんな事情があろうと、今の行為は私だけでなく白狼天狗の鼻をも狂わせかねない行為だ。そちらの事情は知らないがもう少し加減をしろ」
「すみませんすみません……」
面倒な事になると判断した文はペコペコするが、一方ではたては、彼女達の事情を無視した一方的なその物言いに腹を立てる。
「ちょっとあんた、その言い方は無いんじゃない?今は山がピンチでしょう?少しでも敵を殲滅できる戦力を呼ぶ為にやってるんだけど?」
「……私が追っていた獲物は実に厄介な妖怪だった。体外に出た血液を操作する。言ってしまえば、ただそれだけの能力。だが皆が血を流す今のこの山では奴が山で無双しかねないんだ。だからどうにかしてさっさと仕留めなくてはならなかったのに……!」
「だから、そいつも含めてすぐ殺せる人を呼ぼうとしてるんでしょって。山の皆はもうこういった異常事態には慣れっこよ。今更、余所者に無双されても簡単には折れない強さがあるわ!」
「……話にならないな。簡単に折れないからなんだ。そんな気持ちの話をしてるんじゃない。これ以上に仲間を減らしたくないなら、新聞記者共は大人しくしていろ」
「……へぇ。新聞記者の腕章も付けてないし、名前も名乗ってないのに何で私達が記者と分かったの?」
「!!」
「言われてみれば変ですね……。私達の新聞は妖怪の山の中ではかなり弱小新聞の部類。お世辞にも有名ではないが、何故あなたはそれを?」
「射命丸文と姫海棠はたては有名だッ!あの英雄の関係者なんだから!」
「へぇ〜、名前は広まっているにしても、顔まで?写真付きでバラ撒かれてるみたいで不快ですねぇ。ところであなた、所属と名前は?」
「……天魔様の直属の部下だ。名は陣風丸凩」
「ゑ、天魔様直属?……確かヒビキさんもですよね。どうしますか、はたて。私、てっきり山の関係者に成り済ました敵の間者と予想していたんですけど」
「そんなの天魔様に確認すれば一発よ。私、天魔様直通の通話機能をカメラに搭載してもらったの」
「ええ!?」
「ほら、私、天魔様の使者になる事が多いじゃん」
「あぁ……」
「あ、もしもし、天魔様ですか?天魔様の部下に、陣風丸凩って子、いましたっけ?確か鴉天狗は6人全員が男だったような?……え、数日前に加入?あ、成程、そうだったんですか。いえ、分かりました。はい、失礼します。…………えっと、なんかごめん」
「誤解が解けたようで何よりだな。そして山の英雄ならば既に山に居る。貴様らが探してるのは奴なのだろう?」
「「えッ!?もう山に居
「先程、敵を殲滅してるのを見掛けた。あの翼だ、見間違えようがあるまい」
「しかし変です、彼が暴れているにしては雷が全く落ちませんよ?」
「飛び道具を操作してくる敵も居てな。弾幕もダメだから、己の雷を敵に使われないよう、恐らく自重しているのだろう」
「「な、成程……」」
「ともかく。これ以上は戦闘の邪魔だ。大人しく、子供と一緒に避難してなさい」
「「は……は〜い……」」
「では私は前線に戻る。子供達は任せた」
「あ、はい。ご武運を!」
「気を付けてよね!」
「……ありがとう」
(でも、なんだろ。あの天狗、どこかで見た事ある気がする。文が気付いてないのなら、私の気のせいかもしれないけど……)
◆
「さて、と。あのクソ野郎は……
凩の読み通り、極彩組の兵隊と天狗達が大人数でぶつかり合っていた場所に、全身を返り血に染めた妖怪のようなものが天狗達を踏み潰して現れた。
「もういいぞ雑魚共……貴様らの仕事はもう終わり。あとは私がこの天狗共の血を吸い取ってくれる!」
「ひぃっ……なんだコイツ、身体が崩れ……」
「怖気付くな!殺せぇぇ!隊長達なら来てくれる!きっと俺達を助けに戻ってきてくれるっ……ぐあっ、あああぁぁぁああっ!?血が……血があああっ……」
「ククッ……私は吸血鬼のなり損ね……所謂ゾンビ!しかし吸血鬼の要素を継ぐ私は血を吸えば吸うだけ強くもなるし、流れ出る血を操作できる!少し傷を付けるだけでこのザマよ!あーっはっはっはァ!」
「ぢぐじょおおおおっっ……がっ……あ゙あ゙っ……」
「安心しなよ。血を吸われ切ってもお前達に死など訪れない。私のようにゾンビになるだけ……!そして私に忠実な下僕となるのだ!畜生界を統べるまでは肉体が滅んでも従ってもら─────」
「陣風丸『善し悪しを決す
「……あ゙?んぇ?……かかっ……か、かりゃだがぁ……ぐじゅれれれぇぇぇぇ……」
「魂を斬った。魂を失いし肉体はただ崩壊するのみである。……往生せよ」
凩は上空から大人数が戦っている場所を見付け、そこに、自身が逃がしてしまった赤霈が現れたのを見付けた。
敵はルールなど無視しているのだから凩も宣言をする必要は無いにも関わらず、
地面を抉るような凄まじい風と共に赤霈を斬ると元からボロボロだった彼の肉体は弾けるかのように飛んでいき、蒸発するように消えてしまった。
「仲間に余計な血を流させてしまった。すまない」
「あ……あなたは……?」
「……ただの鴉天狗だ。それより、お前達に頼みたいことがある」
「はっはい!」
「弓部隊を下げさせろ。前線に出られぬ戦闘員は、邪魔でしかない」
「そんな!今は戦闘員が1人でも惜しいのに!」
「だからこそだ。敵の中に飛び道具を操作する者が居る。もし奴が弓部隊を見つけたなら格好の標的になってしまう。矢を跳ね返されるか、最悪、自身に降り注ぐ矢の雨を全て『保存』するだろう。まるで曹操から10万本の矢を集めた諸葛孔明のようにな」
「しかし……!だとしても、自分達のような末端に、一部隊に指示を飛ばせる権限はありません!」
「天魔様の直属の部下である私の名を使えばいい。
『陣風丸からの命令だ』と言え。それで済むなら、それで敵の戦力増強を抑えられるのなら……幾らでも私の名を貸そう」
「直属って……10人しか選ばれない、あの……!?」
「いいからいけ!
「「ハッ!!」」
「……チッ。『二兎を追う者は一兎をも得ず』とは、よく言ったもんだ。赤霈と青矢を同時に追うのは、流石に無理があったな……。私にあの速さがあれば。いや無い物ねだりをしても意味は無いな。まだまだ自己研鑽が甘かった。やれやれだ」
文の風に匂いが掻き消されるまでは、凩は赤霈を追っていた。しかし狙いを赤霈に絞るまでは、その青矢の事も追っていた。
鴉天狗の戦闘員の多くは、刀の他には風を操って鎌鼬のように攻撃する。しかし青矢はそれら鎌鼬を全て操り返しては天狗達を襲ったりして、ひたすら暴れ回るのだ。
下手をすれば即座に命を奪われる分、ジワジワとゾンビ化させてくる赤霈よりタチが悪いが、凩は、極彩組の目的が「天狗を取り込むことだ」と紫から聞かされていたので、精神から乗っ取られかねない赤霈の方を優先したのであった。
そして下っ端に指示を飛ばし青矢を追おうとする凩だったが、そんな彼女の元に本人がやってきた。天蓋に見紛う程の超大量の矢を天空に備えて。
「クックックッ……このクソ女め……さっきはよくも俺を傷付けてくれたなぁぁああああ……!!」
「あぁ……既に弓部隊を発見していたのか……」
「そうさ!そして矢を集め終えたッ!全ては貴様を針山にする為だ!これまで俺は無敵だったのにッ!無傷で戦場を駆け巡っていたのにッ!!」
失われた左腕からは未だ流血が止まらない。凩の刃は鋭く、肉を抉り、そして己の力を流し込むのでよほど再生に特化していなければ再生は不可能だ。
雑魚な妖怪ならそれだけで死に、並の妖怪ならば自壊が始まり、それなりに強ければ治癒はしない。流し込まれてしまった己と違う相反する力により、ただただ苦しめられるのみ。
「それはただ、貴様が極彩組にて後方支援且つ盾役だったからだろう。ろくに活躍もせずそれを誇りに思うとは、片腹痛い」
「なん、だとぉ……!?」
「いいだろう。この矢、全てを一斉に放つといい。避けはしない。我が剣の刃餌食にしてやる」
「フンッ……俺を傷付けた恨み、思い知れェ!!」
「祈れ。貴様に、祈るべき神が
「ッ舐めんじゃねえええええええええっっ!!!」
「─────陣風丸『小望月に吹く微風』」
集中砲火的に浴びせられる矢の雨を、凩は傷一つ作らず斬る、斬る、斬る。風に吹かれて散ってゆく木の葉のように、あるがままの自然な姿だった。
「なな、なん、だとっ……あれだけの矢だぞ……!?」
「
「ヒッ……」
「もっと楽しめ。血湧き肉躍る戦闘を……!!」
やがて悲鳴を上げなくなった青矢はただの肉片と化した。返り血を全身に浴びた凩はどこか憐れみを含んだ目で青矢を見下ろす。
「傷か。別にいいじゃないか、初めて大怪我をしたその日の内に死ねたのだから。──────私なんて、数え切れないほど、この命を散らしているのにな。或いは、私に足りないのは……死ぬまいと努力する、その必死さなのかもな」
グッと下唇を噛む凩。病的なまでに向上心が強い彼女は、己に足りないものを今の一戦で痛感した。勝ったのに、完勝したのに、それでもなお、彼女は強く求める。更なる強さを。そして更なる進化を。
危うさを感じた紫は、またひょっこりと現れては凩の頭を軽く扇子で叩いてみる。
「……こらこら。今のあなたは充分すぎるほど必死になって頑張っているわ」
「……紫さん……」
「あと、そろそろ勁牙組の連中が到着するわよ」
「─────ッ!!」
「分かるでしょ?そうなれば、天狗と極彩組だけの問題ではなくなる……!」
「チッ、これだからヤクザは……」
「頑張りなさい。死なない程度にね」
「分かっています。けれど、次は誰から倒すか……。極彩組の雑兵程度なら下っ端の天狗でも対処できているみたいではありますが……」
「そうねぇ。組織としてあまりに弱すぎるせいか、計画通りに天狗を勧誘できていないみたいだから、そろそろ幹部の中の上澄みも動く頃よ。とりあえず敵の出方を見ましょう。皮肉な事に、天狗の動きがこんなにスムーズなのは、これまでにエスカルゴが暴れた過去があるからなのよねェ……」
「……」
「ふふ、面白いわね。過去の教訓が活かされると、こんなにも対応がスムーズになるのに、頭のカタい連中はそれを拒む。紗那が、時間をかけて近代化や平和に向かうよう働きかけたからこそね……」
「紗那……?」
「今代の天魔の名前よ」
「そうでしたか。覚えておきます」
「情報源が私なのは秘密よ?」
「分かってます。……とりあえず敵の動きを見ます。本格的な対応はその後に。宜しいでしょうか」
「構わないわ。にしてもあなたにそういう話し方をされると、どこかムズ痒いわね」
「私も同じ気持ちです」
能力:体外に出た血液を操作できる程度の能力
種族:ゾンビ
性別:不明
肉体が既に崩れかけているゾンビ。過去に繁栄したあるデイウォーカーによりゾンビにされてしまう。その吸血鬼がたまたまデイウォーカーだったので、その者にゾンビにされた赤霈にも日光耐性があり、不死身のバケモノになってしまった。
遂には海に身を投げようと思っていたが、不死身のバケモノの噂を聞き付けた虹牙にスカウトされて、忌むべき不死性が役に立つのならと従う事になる。
なお、血液操作能力に関してはゾンビ化の後に会得したものであり、吸収すれば強くなるし、硬化させ武器のように操る事もできるはずなのだが、赤霈は専ら自身の肉体の強化にばかり使っている。
それはボロボロな自身の見た目にコンプレックスがあるから……なのかもしれない。
ただしボロボロなのはあくまで見た目だけ。動きはそこそこ機敏。(凩から逃げられる程度には)
能力:飛び道具を操作する程度の能力
種族:妖怪
性別:男
矢、投石などが一切通じないという一方面において無敵の防御力を買われて、虹牙にスカウトされた。しかし虹牙は青矢を重用する気は無い。ただただ、
「敵に回したら面倒だから抱き込んでおけ」という考え方である。
己が認識した範囲の飛び道具を全て支配下に置く。見えているものは勿論、背後からの攻撃でも、彼が一度「攻撃されている」と感じればそれは支配下に置かれてしまう。
ただし飛び道具だけなので拳や武器類などでの攻撃ならば防ぎようがない。
そもそも、極彩組において彼は鉄砲玉を受け止める盾役でしかなかったので、最前線での戦闘経験は、実は殆ど無い。
飛び道具ではない攻撃は防げない事は彼自身もよく分かっている弱点なので、逃げ足は早い。(凩から逃げられる程度には)
極彩組での戦闘の流れ(事務所に突撃の場合)は、主に下の通り。
青矢が敵ヤクザの事務所に奇襲をかける
↓
能力を警戒したヤクザ達が鉄砲類で攻撃する
↓
敵が弾を打ち尽くすまで青矢は待機
↓
青矢の後ろで待機していた極彩組員が事務所を潰す
ただし、どのヤクザも「主となる事務所」には大抵組の中での有力者(強い能力者など)が居るので、極彩組のこのやり方で潰せるのは敵ヤクザの中でも末端中の末端くらいである。
だから極彩組は強くて大きいヤクザになれない。