※この作品はR-18です。

吸血鬼人間の幻想生活   作:エスカルゴ・スカーレット

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か〜みさま〜♪
キリギリス〜♪(スマブラの空耳)


勁牙組、参戦!!

 妖怪の山を中心にして全方位に血の匂いを乗せた風が吹き荒れた。その風に真っ先に反応を示すのは吸血鬼の根城の紅魔館……そして博麗神社の面々。

 特に強く反応したのは丁度紅魔館に居た勁牙組の者達である。

 

「んっ……?何だろ、血の匂いがする……?」

 

「何ッ!?極彩組の奴らめ、動き出したな!?」

 

 吸血鬼の血を引いているお陰で血の匂いに敏感な駆翔は、文が吹かせた風により「風上で流血沙汰が起きている」事を察知。早鬼は息子のそんな呟きを聞くなり、遂に極彩組による侵攻が始まったのだと直感し、ガタンとテラスの椅子を吹っ飛ばす。

 

「えぇ、間違いないわ。早鬼の話によると極彩組は妖怪の山に攻め入る計画なのよね?今の風も丁度、妖怪の山方面から吹いてきた。……開戦ね」

 

 一緒に紅茶を嗜んでいたレミリアは呟く。

 自ら前線に立つ組長早鬼、そして息子の駆翔は、この数日間を、久しぶりに紅魔館で過ごしていた。ノコノコと妖怪の山に攻めてきた極彩組を潰して、畜生界を統べる上での不安要素を消し去る為だ。

 紫は、早鬼のこの提案を良しとしなかった。幾らヤクザが侵攻してくるからと言っても、この程度の相手なら幻想郷の面々で対処可能なレベル。早鬼の力を借りる事はヤクザに借りを作ることであって、賢者たる紫としては絶対に避けたいことだった。

 しかし早鬼はそんな紫をたったの一言で無理矢理捩じ伏せた。「借りとかどうでもいいから極彩組を潰させろ」。ヤクザにあまり良い印象の無い紫は、改めて「貸し借り無しよ?二言は無いわね?」とも念押しをしたが、早鬼は「くどい」としか返さず、こうして早鬼達の数日間の幻想郷滞在が決定した。

 そして遂に、来(きた)るべき瞬間がやってきた。

 

「また世話になったな、レミリア嬢!私達は行く!敵をブッ潰してくる!!」

 

「少し遅れての参戦だけどね。まだあなたが殺せる敵が残っているといいわね」

 

「だなっ!……まぁ尤も、さっき文がレイチェル嬢を尋ねてきたと聞いた時点である程度察してたがな!とうにピンチだったんじゃないかってな!」

 

「それだったら、遅れてでも文に続いて山に行けば良かったのに。ねぇ、レーテ?」

 

「そーそー」

 

「文は頭がイイ。後手に回ったんじゃなく、転ばぬ先の杖を用意しに来たのかとも思ったんだ。まっ、今となってはどちらでもいいがな!……あっ、そうだレイチェル嬢、私と駆翔(クルト)に能力(かくりつ)付与、頼むよ!」

 

 本心はどうか分からないが、ちょっぴり取り繕うように早鬼は言う。その様子に思わずスカーレット親子はクスッと笑い、駆翔は首を傾げる。

 

「いいよ、じゃあどんな内容にする?不可能な内容じゃなければ何でも叶えられるけど」

 

「そーだなー……駆翔、お前から言え」

 

「え、俺?……うーん、お父様の獲物を横取りして、1人でも敵の幹部をブッ殺せるよーに、お願い!」

 

「父親の戦果を奪うつもりか?この悪ガキめ〜ッ!だが、イイ!私に似て貪欲になってきたな!!」

 

「へへへっ!」

 

 ワシャワシャと頭を撫でられて、ウマ耳をピョコピョコさせ顔を綻ばせる。これだけを見ればただの親子なのに、実際は親子であり上司と部下であり、しかも、咲夜(メイド長)と弦月姫(副メイド長)とも違う特異な関係性とは、レミリアには思えなかった。

 

「駆翔くんは相変わらず元気いっぱいでいいわね。どう、レイチェル?叶えられそう?」

 

「……そうだね。文達と話した時もそうだったけど、どうやらお父様、もう山に来てるみたいだからね。多分、この後すぐに山に向かえば、割とスムーズに会えるかも。頑張って横取りしてね、駆翔っ!で、その時のお父様がどんな風に悔しがってたか、後で教えて!」

 

「オッケーだぜ!」

 

「早鬼はどーしたいの?不可能なこと以外だったら叶えられるよ」

 

「極彩組の滅亡。やっぱり今はこれ以外に叶えたい事は無いな」

 

「おっけ〜」

 

「早鬼はヤケにその極彩組とやらを気にするのね。過去に何かあったの?」

 

「何も。ただ、組長の虹牙(コウガ)の能力が、下手をすれば畜生界どころか幻想郷をも手に入れられるような、言葉では言い表せない程にヤッバイ能力だからな。これから畜生界を統治する上で、邪魔でしかない。だから完全に消したいだけさ。幹部連中も厄介揃いだからな、降伏も許さず全員を殺す。それだけだ」

 

「そう……極彩組については分かったけど天狗の事は助けてあげてね。山にはエスカルゴの弟が居るの」

 

「え?アイツに弟なんて居たのか」

 

「そう。名は犬走ヒビキ。種族は白狼天狗。まぁ、白い犬耳の天狗だから、極彩組とやらとの見分けはつくだろうし、間違って殺さないでね」

 

「了解した。種族と見た目、名前さえ分かれば後はどうにでもなる。よし、行くぞ駆翔!殲滅戦だ!」

 

「っしゃあ、狩るぜェッ!!幻想郷に駆翔様の名を広めるチャンスだぁ!!」

 

「気を付けて。2人共、死ぬ可能性は0じゃないんだからね。何なら0にするけど?」

 

「「いい!ピンチくらいが丁度いいさ!!」」

 

 2人は綺麗にハモリ、お互いに顔を見合せると、ガッハッハと豪快に笑う。

 やっぱり親子だなぁ、とレミリアとレイチェルはこれまたそっくりなホンワカしている温かい笑みを浮かべ、2人を見送った。

 

 

 ◆

 

 

 その頃の妖怪の山では、相変わらず一匹狼の凩は1人で敵幹部を探しながら敵兵隊を殲滅していた。しかし、如何に雑魚の寄せ集めとはいえ数の暴力は凄まじいものがあり、疲れ知らずとも言えるくらい体力の溢れる凩も疲労が目立つようになってきた。

 

「クッ、雑魚は雑魚だが数が多い……!」

 

「凩にしては苦戦してるじゃない」

 

「紫さん、そうやってちょくちょく顔を出すのなら少しは手伝ってくださいよ。今もどこかで天狗達が血を流してるんですよ?」

 

「……?血液を操る赤霈(セキハイ)はあなたが滅したのだから、血を流してるからってどうして慌てる必要が?」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

「言わんとする事は分かるけど、これもまた、山の天狗達にとっては試練なのよ。大体、極彩組程度の末端のヤクザ相手に手を焼いてたら、もし勁牙組が本気を出して山を攻めたら滅亡しかねないわよ?」

 

「─────っ!」

 

「妖怪の山も確かに実力主義の社会構造ではある。でもね。所詮は、『殺すか殺されるか』の畜生界のヤクザとは『実力主義』のレベルが違うのよねぇ」

 

「……でもこの前、次代の巫女がこの山を攻めて……それで今は戦闘員が少なくて……」

 

「だから言ってるでしょう。これも試練なのだと。こんな末端のヤクザ程度、あなたが助力(・・)せずとも、彼らだけで処理できなくてはいけないのよ」

 

「……」

 

「……分かった?」

 

「まぁ……はい。仕方ありませんが…………はッ!?」

 

「タイムオーバー、ね」

 

 空を見上げ、紫は大きな溜め息をつく。そして、雲を貫き山に降り注ぐ2つの黒き流星。それに続く赤黒い流星。それは山に墜落すると凄まじい爆発と振動を巻き起こし、凄まじい雄叫びを上げた。

 

「この気配……まさか勁牙組が……この山にッ!?」

 

「あーあ、凩がさっさと敵を屠らないから……戦争が始まっちゃったわ♡」

 

「誰かさんが話しかけてきたからでもあるでしょ!全く、これじゃ三つ巴だ……!!」

 

「三つ巴?……へぇ、まさかあなた……山に感情移入でもしてるの?慣れない集団生活に身を置いて山の天狗達に愛着が湧いたのかしら。珍しい事もあったものねぇ。自分を天狗側にカウントするだなんて(・・・・・・・・・・・・・・・・・)、面白い冗談だわ?」

 

「─────っっ」

 

「この戦いは三つ巴ではない。あくまで四つ巴よ。剛欲同盟の饕餮は今のところ動きを見せないから、なんとか四つ巴で済んでいるけれど……もしも饕餮が動けばその時は世界規模の大戦争になるでしょう」

 

「世界規模の大戦争、つまりは、勁牙組&霊長園&

幻想郷(妖怪の山)vs剛欲同盟vs極彩組&鬼傑組vs私、だと?」

 

「確かにそうだけどナチュラルに勁牙組と霊長園と

幻想郷(妖怪の山)の手を組ませないでよ」

 

「……しかし事実なんでしょう?」

 

「まぁねぇ……。エスカルゴのおかげ(・・・)と言うべきか、それともエスカルゴのせい(・・)と言うべきかは、私にも分からないけれど」

 

「……」

 

「だからさっさと終わらせなさい。これは命令よ」

 

「私があなたに命令される筋合いはありませんが。賢者は幻想郷の全妖怪の上司ではないでしょう?」

 

「あら生意気」

 

「フン。生イキしたのはあなたではないのですか?子を成すという目的があったとはいえエスカルゴに喘がされたのでしょう?英雄紛いのエスカルゴに」

 

「……減らず口もその辺になさい。もたもたしてると本当に戦争が起きるわよ。それは、あなたとしても阻止したいのではなくて?凩?」

 

「じゃあどうしていちいち声を掛けてくるんです?その度に集中が切れるんですよ」

 

「その集中を切らす為よ」

 

「……は?」

 

「だってあなた、昔っから集中しすぎると何するか分からないんだもの。加減というものを知らない。だからわざと集中力を切ってあげてるのよ」

 

「ッ……」

 

「何が起きてもいいって言うなら凩の監視をやめて声もかけないけど、それでもいいのね?その場合、責任は誰が負うのかしら」

 

「……すみませんでした」

 

「それでいいのよ、凩。さて、これからあなたは、どう動くのかしら」

 

「私は─────」

 

 

 ◆

 

 

「うっひょおおおおっ!!敵か!?敵か!?これ、ぜーんぶ敵なのかぁっ!?」

 

「行け勁牙組ィ!敵を殲滅し山と天狗を守護せよ!できなければ、今この場にて腹を切り、岩盤で頭を砕いて死ねッ!輪廻から未来永劫消え去れッ!!」

 

「「「「了解ィッッ!!」」」」

 

 早鬼の号令で、勁牙組の面々は一気に動き出す。最速最強の呼び声は伊達ではなく、参戦した組員は少数のはずなのに、劣勢だった山の天狗達は勢いを取り戻した。

 

(よーしっ、ここまで来たからにゃ、俺もお父様を探しながら殺しまくっちゃうぞ〜っ!にしても一体何処にいるんだぁ?気配とか感じねーけどなぁ……)

 

「驪駒駆翔ォオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

「うおぉっ!?」

 

 野太い雄叫びと共に上空から急降下してくるのと同時に、駆翔に向かってダブルスレッジハンマーを仕掛けてくる大きな人影が1つ。

 駆翔は爆風に乗るようにそれを皮一枚のところで回避し、敵が何なのかを確認しようと距離をとる。

 そこに居たのは、手足のみが妙に筋肉質で、それ以外が平凡な人間のような体型をした、紫色が主な体色の謎の妖怪だった。駆翔を只の視線で射殺(いころ)さんばかりに睨むそれ(・・)を見て、彼は思わず笑った。

 

「……プッ!」

 

「あ?」

 

「ギャッハハハハハッ!なんでぇお前、すっげぇ〜ブッサイクな身体してやがんの!アハハハハハッ、ヒャハハハハハハハッ!!」

 

「な、なにィ!?何だと、このガキィ!!」

 

「だってよー、腕と足ばっか太くって身体はてんで細っこいじゃねーか!そんな身体、初めて見たぜ!少しキックしただけで折れそーな身体だなぁ!?」

 

「こっ、こっ、こここっ……」

 

「こっこ?何言ってんだお前、そんな格好して実は鶏の妖怪なのかぁ?」

 

「このクソガキがぁぁああああああああああああああああああああッッッ!!!貴様には恨みさえあるという事を忘れるなよ!ガキがあああッッ!!!」

 

「ふふん、あんましおっきな声ではしゃぐなよぉ。余計に雑魚に見えちまうぜ?」

 

「あぁ!?」

 

「お姉様達の方がよっぽど、強くてカッコ良くて、そんで─────ドエレーCOOOL(クール)だぜ!!」

 

「ほざけ!!」

 

 極彩組幹部・紫庵は、筋肉質で太い腕を振り回し山の地面に巨大な足跡を残して駆翔に迫る。駆翔はその小柄な身体を活かして、ホイホイと余裕綽々な様子で回避していく。

 紫庵は大柄だからか、小柄な駆翔とは相性が悪いようで、拳では敵わぬと見るなり、蹴りや踏み付け攻撃に移行した。

 

「わっ!うひゃわっ!?クソッ、チョーシ乗ってんじゃねーよクソ妖怪!」

 

「どっちが!貴様、俺の親友らを殺しただろうが!他の組と争いもなく和気藹々とするだけの組だったあの組を!これは、極彩組の強化計画の一環だが、驪駒駆翔ォ……貴様ら勁牙組が出てくるんだったら、話は別だァ!!友の弔い合戦とさせてもらう!!」

 

「どこの組の事か知らねーが、俺ら『最速最強』についてこれない雑魚なんて邪魔なんだよ!吸収する価値すらねェ雑魚共さ!!俺らと仲良くするなんざ

同盟相手(霊長園)だけで俺らには十分なのさッ!必殺『超・ハイパー・ウルトラ・メガ・シューティングスターキィィィック』ッッ!!!!」

 

「甘いわァッ!!」

 

「ぎゃあっ……!?」

 

 幾ら勢いがあってもまだまだ駆翔は子供。紫庵は若干押されながらも、駆翔のキックを、大きな手で足を掴む事で受け止めてしまった。

 当たれば強い。が、蹴りの勢いより紫庵の受けが上回ってしまったらしく押し切る事は無理だった。

 そもそも駆翔の蹴りは勢い重視で、実はそこまで速くはない。例えば去年のクリスマスリーグ戦にてこの技が使われた際は、相手は恋夜だったが、妹の綺愛羅が恋夜を救出し距離を取れる程度には回避の時間があったくらいだった。

 

「このまま握り潰してもいいがそれではつまらん。貴様の心をズタボロにして、それから殺すッ!!」

 

「んぎゃっ……」

 

 足を掴んだまま振り回すと彼を木に叩き付けて、得意気に胸を張る。立ち上がった駆翔は、足が痛むからか掴まれた左足を引き摺ってしまっている。

 

(クソッ、振り解けなかった!力が強えのは見た目だけじゃなかったのか……だがコイツは俺が殺す!)

 

「ククッ……勝手な奴らには時々─────見せ付けてやるんだ。何か、圧倒的なものをな……!!」

 

「!?」

 

「脳ミソ散らしたれやァ!クソガキがァァァ!!」

 

「やべっ……」

 

 ドッと土煙を上げて飛び出してきた紫庵から一旦距離を取ろうとする駆翔。けれども痛む足がそれを許してはくれず、頭から踏み潰されそうになった、まさにその瞬間。

 

「─────陣風丸『望月ノ断頭台』」

 

「「……ッ!?」」

 

 踵落としを仕掛けようとしていた紫庵の右足が、ボトリと重い音を立てて地面に落ちた。足の持ち主こと紫庵は、顔に似合わないキョトンと顔をする。少し間を置き痛みで叫ぶが2人は気にも留めない。

 踵落としを喰らいそうになっていた駆翔もまた、思考停止して動きまで停止していた。

 そして凩は冷徹に言い放つ。

 

「退(ど)け、ヤクザの倅(せがれ)。足でまといだ」

 

「……!な、なんだと、割って入って来やがってっ!この戦いは俺とこの木偶の坊との戦いだぞ!お前が退け!天狗に用はねェ!」

 

「邪魔だと言っている。そんな怪我した足で、どう戦うと言うのだ……。感謝こそすれ、邪険に扱われる謂れは無いのだがな」

 

「っ……えと、助けてくれたのはありがとう!でも、これは俺の戦いだから言ってんだよ!次こそ、過去最高に強い蹴りでアイツを……」

 

「ほう?過去最高に強い蹴り、だと?」

 

「!」

 

 妙に強い口調になる凩。凄まじい圧力を感じて、駆翔は思わず肩を震わせてしまった。

 

「そうかそうか、『過去最高』か。お前は、『過去最高に強い蹴り』とやらを出し惜しみする程、強い男なのか?もしもそうなら、何故出し惜しむのだ?子供と大人、しかも敵は四肢のみとはいえ筋骨隆々だろう。体格差から見てもお前が不利だ」

 

「っっ……」

 

「違うのだろ?お前は『出し惜しみ』した事にして

『次の攻撃で本気を出す』と、暗に己に言い聞かせ継戦しようとしているだけ。つまり、先程の攻撃が本気……『過去最高の蹴り』だったのだろう。んん?違うか?ヤクザの倅よ」

 

「……そう、だけど……」

 

「なら大人しく引き下がり、母親でも私にでも任せ避難でもして……」

 

「でも!」

 

「!」

 

「過去最高ってのは(・・・・・・・・)今の限界っつーことじゃねェ(・・・・・・・・・・・・・)!俺の強さは、まだまだこんなモンじゃないッ!俺は強くなって!いつか、畜生界に君臨するッ!!」

 

「やってみろガキがァ……畜生界の頂点に立つのは、俺ら極彩組の虹牙様だッッ!!」

 

「……貴様、まだ動くか。宜しい、次で殺す」

 

「やってみろ、女ァ!!」

 

 再び動く紫庵。凩は目にも止まらぬ速度で回避。少し遅れて駆翔も回避。しかし今度の紫庵の目的は凩なので彼の目は彼女を探そうと宙を泳ぎ始める。

 

「─────愚鈍。鈍重。貴様の脳は鉛か何かか?」

 

「な」

 

 そんな煽りの言葉と同時に、紫庵の首に凩の刃が滑り込む。音も無く斬られた首は数秒間胴体とのバランスを保っていたが、遂にはドチャリと倒れ、頭は己の血の海に落下する。

 

(み……見えなかった!感じもしなかった!何だッ、何なんだ、この女は……!?)

 

「は、はえぇ〜……お前、凄いんだな!」

 

「お前が平凡なだけだ、ヤクザの倅」

 

「駆翔!俺ぁ、驪駒駆翔ってんだ!」

 

「陣風丸凩。好きに呼ぶといい」

 

「おう!へへっ……」

 

 ハイタッチしようと歩み寄る駆翔だったが、まだ生きていたらしい紫庵は負け惜しみとばかりに酷く耳障りな怒号を上げ始めた。

 

「おおおぉぉッ……貴様ら……き、さ、まぁらぁぁ!俺をこんな無様な姿にしてええええ……タダで済むと思うなよおおおおおっっ!!必ず、必ず虹牙様に、虹牙様に殺されるんだ!!ギャハハハハハハ!!」

 

「うるさい」

 

「ぶげっ」

 

 凩により蹴り飛ばされた紫庵の頭は木にぶつかりゴツッと間抜けな音を立てる。駆翔も、思わずクスクスと笑ってしまう程、紫庵は間抜けな姿だった。

 

「私の名は陣風丸凩。三途の川の船頭に、よろしく伝えておいてくれ。私に殺されたとあらば、如何に悪辣な外道であろうとも、彼女なら少しは哀れんでくれるだろうさ」

 

「ぢぐじょお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙ぶっっ」

 

「!」

 

 刀を振りかざし、頭に突き刺してやろうと構えた凩だったが、そんな彼女と紫庵の間に割り込んで、駆翔が紫庵の頭を踏み潰してトドメを刺した。顔も何もかもを弾けさせ、紫庵は今度こそ死んだ。

 更に、2人の背後に紫庵の胴体が歩み寄っていたらしく、頭が潰れると同時に胴体も倒れ、今度こそ死んだらしかった。

 

「へへ、トドメ刺してやったぜ!アイツ殺したの、凩じゃなくて俺な!」

 

「……フン。所詮、子供のやる事だ」

 

「んじゃーな!俺、そろそろ行くよ!お父様、早く探して合流しねーとなっ!」

 

「そうか。エスカルゴなら裏の方に居るぞ。お前もそこに行くなら、気を付けて行け」

 

「おうっ!じゃーな、凩!」

 

「……ああ」

 

 痛む足をペンペンと叩いて、駆翔は飛び立った。しかし数mも飛ばない内にピタリと止まって、怪訝そうな顔をして振り返る。

 

「待てよ?」

 

「どうした駆翔」

 

「もしかしてお前─────」




紫庵(シアン)
種族:妖怪
性別:男
能力:一撃が重い程度の能力
かつては英雄とされた「怪力の男」。しかし相手を殴り殺す事に快感を覚え、妖怪へ身を堕とす事に。その際、全身に染み付いた返り血が黒ずんでワインレッドになったような奇妙な体色になる。見た目の通り近接戦が得意。でも胴体は貧弱なので、妖怪化してからよく腰が痛むらしい。
噂の「怪力の男」を求めてはるばるやってきた虹牙一行だったがそこに居たのは紫色の化け物だった。噂より強化されてるのではと喜んだ虹牙はスカウトするが、紫庵はそれを拒む。力で屈服させられて、虹牙の強さに惚れたという形でついて行く事に。

活動報告にてリクエスト募集中です。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=277313&uid=220894
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