「お前────お父様なんじゃねぇの?」
駆翔は凩にそう言った。彼は不思議そうな顔で、凩は「何言ってんだコイツは?」という目で互いを見る。そのまま数秒見合うものの、どちらも、何も口にしない。
鬨の声が遠くからしか聞こえてこない静寂の中、その静けさを破るように凩が鼻で笑う。
「フッ、何を言うかと思えば。お前、気は確かか?頭を強打したからか?医者にでも連れて行こうか」
「いや違ェよ。だって、お姉様の予言通りなんだ」
「何だと?」
「俺はレイチェルお姉様に『お父様の獲物を横取りして、1人でも敵の幹部をブッ殺せるよーに』ってお願いした。で、俺はお前……あ、いや、凩の獲物を横取りした。てことは、俺が横取りできたんだから凩は俺のお父様って事になる!」
「……はぁ。私は女だぞ。股でも見せれば満足か?」
「お父様は魔法で変身できる。性別だってチェンジできるだろ?」
「『エスカルゴ・スカーレットの魔力量は吸血鬼にあるまじき少なさ』。畜生界のヤクザに知られてはいないのだろうが、これは幻想郷では有名な話だ。ここ暫く、私とお前は共同戦線を張った。この時間全てを変身して過ごしていたとでも?」
「お父様は修行熱心だからな!鍛えたんだろ?」
「バカバカしい。ならば父の気配を感じるか?私の身体から感じるのか?」
「……いや……」
「変身しても、気配をもまるっきり作り替えるのは不可能だ。不可能に近いのではなく不可能なのだ。子供には分からんのだろうがな」
「……」
「あと、賢者様からの情報によると、敵幹部はあと3人居るそうだ。故にお前が父から横取りするのはそちらではないのか?」
「え!まだ居るのか!?」
「ああ。幹部はあと3人、それと組長。大物なら、この4人が残っているようだ。極彩組は小さい組。残りはそんなに大物ではあるまい」
「じゃ、じゃあ……山の裏側ってのに行けば!」
「レイチェルお姉様、とやらに言われたのだろう?ならば早く行け。お前が向かわなければ彼女の言う運命が始まらん。自分のせいで自分の獲物を逃す……そんなの、ドエレー
「……!そのネタ!外の世界の漫画のネタだぞっ!?やっぱお父様だ!!」
「お前がさっき『ドエレーCOOOL』とか言っていたのを聞いていたからな。その真似をしただけの事。それにしても、クールだのフールだのが通じるとは思わなかったぞ?何だ?近頃のヤクザモンは異国の言葉も堪能なのか?」
「お父様が言ったんだ。『ただのヤクザなんかよりインテリヤクザの方がカッコイイんじゃあねーか?勉強はいつか役に立つ時があるぞ』って」
「……ヤクザでもない奴の言う事を取り入れる必要があるのか?私には余計なお世話にしか思えないな」
「お母様はお父様の強さを認めてる。だから、俺が生まれた。組員の奴らもお父様の強さを認めてるし尊敬もしてる。だったら聞いた方が得ってもんだ。だろ?お父様?」
「私は陣風丸凩。ただの鴉天狗だ」
「でも目ェ紅いじゃん」
「鴉天狗は紅眼だ。お前は、姉の目を見ないのか?射命丸穹は鴉天狗との娘だろう」
「……あ……そっか、穹お姉様も紅だったな……」
「眼の色など何の判断材料にもならないぞ。ほら、さっさと向かえ。私は山の者を守らねばならん」
「あ!そうだった、山の奴を守んなきゃなんだっ!じゃ、俺は行くぜお父様モドキ!」
「次、私をそう呼んだらブッた斬るぞ」
「うげっ……じゃ、じゃーな凩っ!」
「ああ。二度と会うことはないだろうがな」
◆
「あっはっはっはっは!やっと見つけたぞ!極彩組幹部!」
「あぁ?空から飛び降りてくるなり何…………くッ、驪駒早鬼だとおおおおおおっっ!?」
「ほう、流石に私の顔は知ってるのか。お前、何の妖怪なんだ?ま、そんなのはどうでもいいがな!」
「なな、何しに来やがったッ!?」
「お前らをブッ潰しに来た♡」
「────ッ!?」
ヒビキを手に入れた黒禅は、未だ山の天狗を懐柔しようと山中を歩き回っていた。そんな中、彼から程近い場所に驪駒早鬼が不時着。適当に天狗を探し勧誘しようとしていた黒禅の背後に立った。
「おっおっ、ど、どどどどうして勁牙組が山にィ……どうして邪魔をする!勁牙組の邪魔はしていない!何故だ、驪駒早鬼ィ!!」
「おや、知らなかったのか?幻想郷はとうの昔に、我ら勁牙組の
「はっ…………!?う、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!そんな話は聞いていなァい!!」
「当たり前だろ?幻想郷の有力者が私と
「……!そういえば驪駒早鬼は最近幻想郷によく来るなどという情報もあるにはあったが……!」
「そうそう、それだ。私と番になった男に会いに、はるばる世界を越えてやって来ているのさ♪」
「なん……だとォ…………!?」
「冥土の土産として、わざわざ私からご丁寧に説明してやったんだ……大人しく死んでくれるよな?」
「ひっ……く、来るなぁ!!」
「おいおい何言ってるんだ?お前もヤクザなら腹を括れよなぁ?」
「くっ……来い、犬走ヒビキィィィィイイイイ!!」
「なっ……!?」
黒禅が彼の名を叫ぶと、ヒュウウッと風切り音が響いてきた。何処かで戦っていたらしいヒビキが、黒禅の叫びに反応して早鬼の目の前に現れた。
「……何だよ鬱陶しい」
「う、鬱陶しいとはなんだ!ほら敵だぞ、さっさと殺せ!お前は俺の下僕なんだ、従ってもらうぞ!」
「あ?……女じゃねーか!アイツを殺せってのか?」
「そうだ!我ら極彩組の怨敵、勁牙組の組長、驪駒早鬼とはアイツの事だ!!」
「はぇー、驪駒早鬼ねぇ。どっかで聞いたなぁ〜。鬼……鬼形…………んー……?」
呑気に顎に手を当て、太刀をブラブラさせながら考え込むヒビキ。が、そんな彼の思考を遮るようにその名を知ったばかりの早鬼が彼に声をかける。
「おい、犬走ヒビキってのはお前か?白狼天狗の。犬耳だし間違いないよな?」
「おう、そうだぜ」
「ならエスカルゴの弟ってのはお前だな?」
「……あー、思い出した!お前、兄貴の
「なっ!?どういう意味だ!いやそれより、お前、どーして極彩組に従ってるんだ?山の敵なんだろ?それとも、会話も出来てるから少し考えにくいが、その男に操られているのか?」
「いや、そんなんじゃない。ただ、奥さんや同僚を人質に取られそーになったんで、仕方なく、ね……。不本意だが、しゃーねーよなぁ」
「!……そういう事か、やり方が汚いぞお前!!」
「ぐはははっ、何とでも言えよ驪駒早鬼ィ!忠実に働く天狗という兵隊を攫う、この目的を果たせればそれでいい!!それに、俺はこれ以上増やさずとも赤霈が兵隊を増やしている頃だろうさぁ……!」
「くっ……おいヒビキとやら!さっさと来い!!私と手を組み、その男を殺そう!!」
「うん、そうすっか」
「え」
「はぁっ!?」
あまりにも平然と答えるので、誘った早鬼は勿論唐突に裏切られた黒禅まで、面白いくらいに驚きを隠せなかった。
太刀を肩に乗せ、スタスタと早鬼の方へ歩む彼を黒禅はポカンとしながら見送るだけだった。そしてポジションを入れ替え完全に早鬼側につくと、漸くハッと我に返り、ヒビキに向かい唾を飛ばしながら叫び始めた。
「貴様、な、何を考えているッ!?」
「言ったろ?人質に取られそーになってた……って。過去形、つまりもう椛達の安全は確認済みなんだよこのクソボケがァ!!俺が『安全を確認したら降伏する』っつった意味、分かんねェか?安全さえ確保出来りゃその後はどう立ち回っても良いからだ!!当然だよなぁ、俺が降伏する条件がアイツら3人の身の安全なんだもんよォォ!!」
「なん……だと……!?」
「今頃テメーらの下っ端共を皆殺しにしてる頃だ!ザマーみろってんだ!ハッハァ!!」
「そんな……そん……」
「何だっけか、あの女?
「はぁ!?」
なんと、敵幹部の1人、魅緑は殺したとヒビキは言う。その衝撃の発言に黒禅は目を丸くさせつつ、ワナワナと口元を震えさせる。
「う、嘘だろ……!?アイツの誘惑に……」
「負けそうになったよ。でも悪ィな、俺は犬耳好きなんだよ。好みでもない女に誘われてもそう簡単に負ける事はない。どっかのクソ兄貴と違うしな!」
「くっっ……白戸!白戸ォ!!居ないのか!?白戸!来い、白戸ォオオオオ!!」
「はくど?」
「極彩組の古株の幹部で、実質的なナンバー2だ。どっちにしろそいつも殺さないといけないからな、黒禅にこのまま叫ばせてもいいんだが……なにぶん、そいつの能力が不明だ。不安要素を増やしたくないから、そろそろ黒禅を殺したい。手を貸してくれ、ヒビキ」
「問題ない。因みに早鬼、お前は黒禅の能力の事は把握してんの?」
「勿論。コイツはよく前線に立ってたらしいから、それなりに戦闘能力に関する情報はあるんだ」
「ほーん。じゃあ、その白戸ってのは参謀みてーな立ち位置なのかな」
「私達はそう見ている」
「成程ねェ。なら、さっさと殺しますかァッ!!」
「そうしようッ!!」
「くそったれがああああああああああああ!!!」
ヤケクソになったか、凄まじい怒りの声を上げて黒い霧を発する黒禅。彼の出す黒霧はまるで、彼の分身の如く彼のと同質の気配を発している。
逃げられる。そのように感じた早鬼は真っ直ぐに突っ込むのをやめ一旦飛び上がると、霧の発生源を一瞬で特定。その場を踏み付けにしようと急降下し黒禅にダメージを与える。
「ハァッ!!」
「ぐぶぎゃっ……」
「そこか!ぜやあっ!!」
「ぎっ……」
早鬼の蹴りが黒禅の頭を潰す。そしてヒビキは、霧により視界を奪われながらも、早鬼の落下地点を匂いで特定しその場に鋭い斬撃を浴びせて、黒禅を一刀両断。
彼の死により黒霧は晴れ、やっと2人はクリアな視界を取り戻した。
「ふぅっ、これで良し。よくやったなヒビキ」
「いやぁ、お前の援護のお陰だぜ。サンキューな!これで天魔様にも椛にも褒めてもらえるかもなぁ、ギヒヒヒッ……♪」
「うわ、気持ち悪っ」
「な、なんだとっ!?」
「ところで、一つ提案がある。お前もウチの組員にならないか?」
「ならない」
「見れば解る、お前の強さ。山ではトップクラスの強さだな?他の天狗とは動きが段違いだった」
「俺は如何なる理由があろうとヤクザにはならん。兄貴はどうか知らねーがな」
「組員にならないなら────もういいや」
「え?」
ヒビキは「組員にならないなら殺す」と言われるだろうと身構えていたが、早鬼は意外にもさっさと興味を失い、この場をあとにしようとする。
そしてその去り際、得意げに言ってみせた。
「せいぜい死ぬな。兄貴を悲しませるなよ?戦友が死ねば私も悲しくなるしな。じゃあな!せいぜい、命に気を付けて戦え!」
ウインクしてそう告げると、早鬼はどこか遠くへ飛び去って行った。まだ見ぬ敵を屠る為に。
「……俺が死んでもクソ兄貴は悲しまねーっつーの。子供の為、女の為、そんで自分の為に戦い続ける。それが俺のクソ兄貴だ。……ケッ、クソッタレ」
◆
凩が生み出した流派は2つ。最初の1つはとうに極めた────彼女自身はそう思っている。しかし、この流派には1つ大きな弱点があった。
棒術と剣術を合わせたような流派だったせいで、他の剣術よりも個性によるクセが強すぎて、強敵に通用しにくいという点だった。
とはいえ、イチから鍛え上げた凩の剣術を捨てるなどという事はできない。だから彼女は剣術のみの彼女だけの第2の流派を生み出す事にした。
それがこの陣風丸流。1つの流派の名前としてはイマイチな響きのような気もしたが、陣風流よりは名字をそのまま使った方がいいと感じたので、実はそれなりに気に入っていたりする。
第1の流派の名前は────。
「陣風丸『望月ノ断頭台』」
上から下へ、無数の斬撃を放つ。射程距離は凡そ10m有るか無いか、大体その程度。己を中心とするその半径10mに居る者は斬られる。立っているなら唐竹割りに、身体を横たえていたならみじん切り、良くても斬首だ。ただ、かなり妖力を消耗するし、単純に疲れるのであまり連発はできないという。
「ふぅっ。……幹部は何処に居るんだ?紫さんからはあと3人だと聞いてるのに、気配すら────」
「朗報よ」
「っ!今度はどうしましたか、紫さん?」
「ヒビキが敵幹部を殺したわ」
「……。あの甘ったれのヒビキが、ですか」
「ええ。見境なく誘惑して、着実に極彩組に天狗を増やしていた筆頭メンバーである魅緑を殺したわ。そしてその後、早鬼との戦闘に陥った黒禅に呼ばれ参戦、しかし魅緑を殺していた事により椛含む仲間全員が解放されていた事でサラッと黒禅を裏切り、早鬼と手を組んで殺したようよ」
ヒビキの活躍を聞き、あからさまに不機嫌になる凩。紫はその理由を知りながら敢えて挑発でもするように、ニヤついてしまった口元を扇子で隠して、言ってみる。
「まさか嫉妬してる?」
「いえ。私よりずっと弱いクセに……私と並ぶ戦果を挙げているのが許せない。紫庵は駆翔に殺された。魅緑と黒禅はヒビキに。そして、私は赤霈、青矢の2人しか殺せていない!戦果が並んでいる!」
「ならさっさと白戸や虹牙を見付けて殺しなさい。確かに正面戦闘なら凩が上だけれど、戦場では運も1つの要素だからねぇ。エンカウント率がいいとはこの事ね。さっさと白戸を見付け、殺しなさい」
「それが出来たなら苦労しない……!クソッ!!」
「ふふ、面白いわね。まさかあなたがこうも動きが悪くなるなんて思わなかったわ」
「っ……」
「でもそろそろ虹牙が動き出す頃よ」
「ええ。問題は、厄介過ぎる奴らが残ってしまったという事でしょうかね」
「そうね。ま、厄介な赤霈を早めに消せたのは最高だけどね。同じくらい厄介なのが……白戸ね」
赤霈は体外に出た血液を操る事ができる。完全に吸い取れば相手をゾンビ化させ、赤霈が操作できるゾンビ群に加えられてしまう。
だから紫の言うように、赤霈を序盤に殺せたのは文字通り幸運でしかなく、最高の流れだと言える。戦争は、時間が経つにつれて怪我人が増えるもの。つまり赤霈の能力の対象下に置かれるものが続々と増えてしまうからだ。
しかし、参謀的な立ち位置である白戸も、そんな赤霈と同レベルの厄介な能力を有しているという。紫の表情が決して明るいと言えないのは、恐らく、そういう意味もあるからなのだろう。
「話を聞く限りではそうですね。少し前に幻想郷に来た敵……のような能力を持っているんですよね?」
「そうよ。エスカルゴならサクッと殺せるけれど、あなたは……どうかしらね、多分無理だと思うわ」
「舐めすぎでは?」
「いいえ。あなたとエスカルゴにはあまりにも差がありすぎます。まさに月とスッポンです。あぁ勿論あなたがスッポンよ。自惚れないでね?」
「…………………………はぁ」
紫に睨まれ、思わず溜め息をつく。そして遂に、極彩組の古株が動き出す。
敵を仲間として取り込むのに最適な
◆
「なぁ白戸。私達だけに……なっちまったな……」
「そうですね。残りは雑魚のみ、けれどもその数も尽きつつある。どうしましょう?そろそろ私も誰か1人でも勧誘に行きましょうか」
「勧誘はきっと無理だろうな。魅緑の能力があまり通じなかった時点で察するべきだったかもしれん。黒禅、紫庵の脅迫も通じていなかったよな?何だ?肝が据わり過ぎじゃないか?かなり引いたぞ……」
「先程、天狗達の会話を盗み聞きしました。それによりますと、度重なる悪魔の襲撃があったようで、それで鍛えられているようです。魅緑の誘惑が通用しなかったのも悪魔レベルでなく小悪魔だったからであり、力が弱い故に通じなかったのでは……?」
「仲間を悪く言うのはやめなさい。敵が強かった、それだけの事だよ」
「そうですね、すみません。……では次は、私が敵を殺してきましょう」
「いいな。私も『標的』を決めたぞ」
「おお!それでは……虹牙様っ!」
「ああ。此度は見事に粒揃いだったが、一番見所があるのはあの女だな。フフフフッ……」
「では虹牙様、次に会うのは────」
「奴らの
「貴様ら────我の山で何をしている?」
「「ッ!?」」
拳を打ち付け合い別れようとした2人の背後から幼気な男児の声が聞こえてくる。
背後から────顔すら見えていないのに、全身が総毛立つ程の凄まじい寒気が2人を襲う。
極彩組崩壊まであともう少し……かもしれない。
もしエスカルゴが魅緑と出会っていたら、今度こそ犯した上で殺したか殺した上で犯したと思います。モルモーと違って手に入れたいとは思わなかったと思いますね。
魅緑の容姿としては、ハガレンの「ラスト」を想像して頂ければ。