終わってみればすごい体験だった気もするし、どうってことないことだった気もする。
私は昨日の体験で大人の女になったわけだが、なんというか思ったよりも劇的でなかったのだ。想像の中にあった、すごい快感や達成感を味わっていない。興奮や気持ちよさはなかったわけではないが、興奮はじりじりとした背徳感、気持ちよさもどこか温かくじんわりとした物で、満足感こそあるが期待していた種類のものではなかったのだ。
「そういえば今日は遅かったっすね」
「授業も研究もないですしね」
私達は今、歌唱の競技の会場に向かっているところだ。後輩は出るわけではないが、付き合いというやつだ。
「うーん、やっぱりこの体育祭、なんか足りないっすよねー。町の祭りみたいにもっとハメ外せばいいのに」
まさか教え子とハメて来たとは言えない。
まあ、確かに盛り上がり自体はしているし、出し物のレベルも高いのだが、町の祭りに比べるとどこか上品というかまとまっている感じはある。
「確かにもうちょっと規模を大きくしてもいいかもしれませんが、そうなると今度は準備に時間がかかりますからね」
「あー、お金は何とかなるっすけど、研究室使ってるところもあるっすからねー」
お金は何とかなるみたいな言葉を聞くと、やっぱり坊ちゃん嬢ちゃんの価値観だなーっと感じで生まれの差を感じる。いつかは言ってみたいセリフだ。
「せんせーい!」
パタパタと女子生徒が駆け寄ってくる。昨日歌唱に出る約束をした子だ。
「競技はまだ先だったと思うのですが……もう時間でしたか?」
「いえ!まだ大丈夫ですよ!まだ客席も空いてますので自分の出番が近づくまでは普通に見ててもいいし、控室に行っててもいいらしいです!」
「……緊張してるんですか?いつもより声が大きいですね。そう固くならずにリラックスしたほうがいいですよ」
軽くほほ笑みながら彼女の手を包むように握り、指先が冷たくなっているのでもみほぐしてあげながら温める。
少しして彼女の様子を見てから手を放す。
「少しは落ち着きましたか?」
「……はい、ありがとうございます。何か知ってる人が多い中で歌うって初めてで……。知らない人なら気になんないんですけど」
私は知らない人の方が苦手だなぁ。
「それじゃあ、私達は客席で見ながら順番待ちますのでそれじゃあまた」
その後、彼女は入賞こそしなかったが友人と見事な二重唱を披露していた。歌い終わったあと、舞台裏で手を取り合っていた姿はとても楽しそうだった。
私は審査員特別賞をもらった。