「先生、ちょっと良いですか?」
「どうしましたか?」
「今度の休み空いてますか?良かったら劇を見に行きませんか。良い席を取れたんです」
ラミン君と出かけた次の週、今度はシア君に誘いを受けていた。
用事はないし正直行きたいが、ちょっと気になることがある。
「その席どうしたんです?急に友人予定ができたとか?」
「あー、そうです。なので一緒に行ってくれませんか」
「……そうですか、なら一緒に行きましょうか、いつ行くんですか」
「夕刻に開始なので……お昼頃に会いましょう。劇だけっていうのも寂しいですし、色々回りましょうよ。ご飯食べたりしましょう」
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ということで、ブラブラと回りながら色んな物を見ている。
どちらかと言うと出不精な私とって、二週続けてのお出掛けは少し疲れはあったが、楽しんでいるうちにあまり気にならなくなっていた。これなら明日を休みにしなくても良かったかもしれない。
彼との会話は楽しい。彼は幅広い知識を持っているようで、何にでも話を合わせてくれる。
私が本屋で曖昧なこんな本が欲しいと言えば直ぐにピッタリの本を進めてくれるし、私が好きな本の名前を挙げれば気持ちよく聞いてくれたり、読んだことのある本であればどこが良かったかを熱を込めて話してくれる。
私が靴屋で流行りがわからないと言えば、どんな形でどんな色が主流なのか、個性を少しいれたいといえば直ぐに幾つかの案を出してくれるし、迷っていても急かすことなく一緒に選んでくれる。
私は少なくともこの世界では教鞭をとれる程度の知識を持っているが、それはほとんどが専門分野だけで他の部分はあまり知識があるとは言えない。そんなコンプレックスをシア君は刺激せずに、気持ちよく過ごさせてくれた。
そして気がつけば劇場、ここでも彼は私の手を引きながら特別な通路を通って特別な席へ案内してくれる。
「どうですか?夫婦、家族単位で見るための席で、やや狭いですが飲食しながら見れるんですよ」
彼は説明したあと、近くの店員にお酒と軽食を注文すると椅子に深く座り直した。
席はテーブルと椅子が置いてあり、大体五、六人程で一杯になるくらいの空間だ。椅子は2つしかなく、横並びで座ることになる。椅子には柔らかいクッションとひじ掛けが付いており、正直普段使っている椅子よりずっと座り心地が良い。
彼は届いたお酒と軽食をテーブルに置かれると、何かを店員に小声で話して下がらせた。
「先生、どうぞ」
「ありがとうございます」
渡されたお酒を一口飲み、そのまま軽食を摘まんでいると劇が始まった。
今回の劇は分類的にはアドベンチャーで、亡国の王家の隠し財宝を探す話だ。世界に名を残すことを夢見るならず者達、元尊き血筋のご令嬢と武者修行の剣士、貧乏だが博識な貴族と、その友人の心優しいな商人の三つのチームが繰り広げる、時に笑えて時に泣けるメリハリの効いた展開は、前世を含めた中でも上位にはいる面白さだ。
夢中になって見ていると、劇の中でご令嬢が剣士の手を握るのを見て、ふと私の手の手を見て見ると、彼の手が近くにあるのに気がついた。私はいたずら心から彼の手を握ってみると、意外なことに大きな反応がなかった。劇を見ているときに悪いことをしたかな?と思っていると、彼が私の手を握り返してきた。
私は、私達はそのまま手を握ったまま劇を見続けた。
とても心地よくて、気持ちが満たされるような気がした。
ーーー
「いやぁ面白かったてすね。私的にはもう少しハッピーエンドなほうが良かったですけど、これはこれで綺麗な終わりかたですよね」
「僕はこの終わりかた好きなんですよ。この皆が別々の道を歩んでいくっていう終わりかたが色々考えれて」
感想を言い合いながら道を歩く。この世界の夜は暗くない。この世界には特殊な鉱物、植物が存在しており(といってもこの世界ではありふれた性質なのだが)、その性質を利用した電灯…いや、電気を使っておらず水により発光することから水灯と呼ぶべきかな。とにかく水灯により町は明るく照らされており、また警備員が手持ち式の水灯を振りながら巡回している。
町中なら大声を出せば、誰かが何時でも十数える間に飛んでくるような状態だ。
「先生、さっきの劇に出た星ってわかりますか?」
「わかりますよ。あれがオルソであれがティーグ、あそこには…見えないですがラーンがあるはずです」
小さな頃に習った事だが、案外覚えているものだ。
「雲がかかってるわけじゃないのに見えないんですね」
「あれはかなり光が弱くてですね、水灯が赤色なら見えたかもしれませんが…」
「赤色なら見えるんですか?」
「たぶんですけどね……。昔、先生が……先生って私の恩師の先生のことなんですけどね、星を見るのが専門で良く連れていってもらってたんですよ。他の研究室の学生と一緒に町離れに行くと大分違ってラーンも裸眼で見えて……。まあ自衛策は用意しないといけないんですけどね」
「そうなんですか……」
その後も話ながら歩いていく。酔いからか火照ったからだが夜風に冷えるのが気持ちいい。暫く歩いていると、気がついたら見覚えのある宿の前にいた。ここは……
「先生、明日は先生休みでしたよね」
「……シア君は?」
「休みですよ」
「…………」
私はそのまま彼に引かれるままに歩いていった。