---司波達也---
夜、呼び出しを受けた。言われた場所へいくと、魔装大隊の藤林さんが待っていた。
「どうしたんですか?」
「上からの指令…四宮ネギ太郎とその師匠を暗殺して…」
俺と視線を合わせないようにして、指令を伝えてきた。
「ふっ…俺には無理ですよ」
あの二人には、殺される気しかしない。
「マテリアル・バーストの使用許可も出ているわ」
「街中で使えば、どんな大惨事になると思うのですか?」
ネギのフルカウンター、アイツの透過、どっちにしてもダメージが入らないだけでなく、大惨事は免れない。
「出来無いのであれば、君を軍法会議に掛けないとダメなの。わかっている?大黒特尉!」
俺はあの沖縄海戦以来、魔法大隊で特尉という身分を持つ非常勤の軍人でもある。だけど…
「出廷します。無理ですから」
無理なものは無理である。
「残念だわ…うっ!何?何で…」
藤林さんが悶え始めた。それを確認したのか、暗闇から多数の影が飛び出して来た。
「特尉…何をしたんだね?」
風間隊長に訊かれた。この人達は、1個師団で来たのか?
「俺は何もしていないです。アイツが来たんでしょうね」
そう告げると、俺の隣に姿を現したシュウ。
「達也君が夜中に逢い引きって聞いてね。興味があって来てみたよ♪」
「特尉!彼は何者だ?」
再び、隊長に訊かれた。
「聖域の賢者様です。上から暗殺指令の出た的の一人ですよ」
「何?聖域の…」
「ツアーに行きますか?ご招待しますよ♪」
アイツと魔装大隊のメンバーが一瞬消え、直ぐに現れた。アイツ以外、恐怖で震えている。何を見せたのだ?
「この世界では一瞬であっても、向こうでは悠久な時を過ごしてもらったよ。奴隷としてね♪あぁ、僕はこれから、命令系統の一番上に挨拶してくるよ」
アイツの姿が消えた。俺もこの場を後にした。
翌朝、アイツは俺の家にいた。
「深雪さんに、モーニング珈琲をご馳走になっているよ」
「どうなったんだ?」
「う~ん…スターズのベンジャミン・カノープスと戦闘になってね、消えて貰ったよ」
スターズだと…USNAの魔法師部隊ではないか。
「端的に言うと、この世界の軍部は聖域と戦争をしたいみたいなんだよ。思い上がりもいいところだよ。魔法師の強化に走ったせいで、真夜が犠牲になったのに、あれは哀しい事件だったで、かたづけるんだよ。許せないよ。僕の依頼主を鼻で笑ったんだ。過去の遺物だってさぁ」
アイツの目は哀しそうだ。
「この世界は何回、リセットすれば、気が済むのだ?」
アイツは呟くように言った。何回?コイツは、この世界を何度も体験しているのか。
「この国以外の魔法師の魔法を無効化してきた。彼らは二度と、魔法なぞというまやかしは使えない。でも、油断はするなよ!」
そう言い残し、アイツは消えた。
---四宮ネギ太郎---
「先生、調整体って何ですか?」
雫が琴鳴に質問をした。言葉に詰まる琴鳴。
「言え無い事なんですか?四葉家は何を作ったのですか?」
雫は何かを知っているようだ。
「それは…不幸な産物です。元々は九島家で研究をしていた物だと聞いております」
「生物兵器だと聞きましたけど」
「どなたにですか?」
「言えません。ネタ元は、消されるとマズいですからね」
「ネタ元は、お前の親父か?立ち聞きは良く無いぞ」
賢者様がいつの間にか、琴鳴の隣に転移してきた。
「あなたは…」
「そうだな。関係者と思っていいぞ。どうせ、USNAのエドワード・クラークからの密告って形で聞いたんだろ?アイツ、昨日どこかに情報を飛ばしていたからな」
昨日?掃除したのか…
「関係者ってことは詳しいの?」
「あぁ、良く知っているよ。琴鳴には聞くな!土足踏み込んで良いことでは無い。もし、お前の家族がソレだったとしたらどうする?」
「まさか、琴鳴さんの家族が…」
「え?まさか、弟が…」
琴鳴が取り乱したように賢者様に訊いた。
「そうだ。琴鳴の弟は調整体だ。雫、本人、家族は人間だと思っているんだ。それを、土足で踏みにじる権利を、お前は持っているのか?」
「知る権利はあると思います」
雫は賢者様に噛みついている。それがもたらす結果は、たぶん…
「わかった。体験させてやる」
「えっ!何をしたの?」
「お前を調整体にした。これからの人生、調整体として生きろ!お前にはエドワード・クラークの悪事の記憶を移植した。悪夢を見て楽しめよ。正義感を被ったハイエナ風情が!」
そう言い切ると、賢者様は転移していった。
---北山雫---
見たくも無い映像が脳裏で流れまくっている。こんな酷いことを…こんなことをしていて、四葉家だけを糾弾していたの。涙が止まらない。魔法師を洗脳して、核融合炉の変わりに使うなんて…核のゴミは出ない平和利用…その為には、この為の魔法師を量産していた。これが調整体なのか?遺伝子工学の成れの果てである。
「大丈夫?雫…」
ほのかが心配そうに、私を見ている。
「堤先生、ごめんなさい…」
先生は呆然としていた。まさか、自分の弟が調整体とは知らなかったのだろう。
「達也君、調整体って、結局なんなの?」
エリカが聞いた。
「大人の身勝手な都合で作られた子供だよ。彼らに罪は無い。作った大人が悪いんだよ。それなのに、作った大人は、子供が悪いようなことを言う。バケモノだと言うんだ。作った大人から見れば、それは単なる生物兵器だから…」
「生物兵器…ねぇ、達也君、何体くらいあるの?」
「おい!エリカ!その言い方は止めろ!物では無いんだからな!」
珍しく達也さんが激高している。深雪と琴鳴が僕を見つめている。悲しみのオーラを纏って…まさか…僕が…そうなの…
『ネギ!戻って来い』
賢者様の声に導かれて、僕は転移をした。
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賢者様が抱き締めてくれている。暴走しそうな僕の心を宥めてくれている。
「真実を教えてください。僕は調整体なんですか?」
賢者様の目が悲しみの色で満ちていた。
「お前は完全調整体だよ。真夜の遺伝子と弘一の遺伝子を掛け合わせて作った受精卵で、お前の母親は生まれた。その母親と僕の遺伝子で受精卵を作り、産まれたのがネギ、お前だ」
うん?普通に人工授精に思えるのだが…
「そう人工授精だよ。試験管ベビーとも言われるけど」
「僕の能力は作られたのですか?」
「いや、ネギのは違う。隔世遺伝がベースだよ。それに不出来な弟子、四宮凪を融合させ、雪姫の遺伝子で再生能力を活性化させただけだ。苦に病むことでは無い」
そうなのか…オトク感満載だし、別に問題は無いなぁ。普通は無い能力を持つと、化け物だと後指差されるのは、人間醜さだしな…
---司波達也---
また、ネギが闇の炎で燃えてしまった。半狂乱の深雪を琴鳴が抱きつき、落ち着かせる。
「まさか、ネギは…」
エリカが哀しそうな表情をしている。
「アイツは知らなかったのに…なんで、放っておかないんだ?人間だと思って生きていたのに…いいか…調整体は20歳まで生きられないんだ…アイツは後5年で終わるのに…」
達也君が泣いている。後、5年…それがネギに残された時間なのか…
「ごめんなさい…」
雫が謝って来た。
「謝って済む問題では無い。どうしてくれるんだ?あいつは人間として、寿命を閉じたかっただけなのに…さっきも言ったけど、作ったやつを糾弾しろ!アイツは産まれたくて産まれた訳では無いんだからな!」
感情が暴走していく。母さんが死んだ時でも、暴走しなかったのに…
---司波深雪---
家に帰ると、私のベッドの上にネギ君がいた。私の枕を抱いて寝ていた。
「深雪の臭いを嗅いで落ち着いたようだな」
お兄様がほっとした表情になられた。
「えぇ♪」
ネギ君の隣に添い寝をした。
「そいつは、あまり気にしていないようだぞ」
賢者様がお兄様の隣に転移してきた。
「しかし…」
「オトク感が満載で喜んでいたし」
ネギ君らしい気がした。悪い方向へ考えをしないものな。
「コイツは生物では無いので、最終的には僕が引き取る」
うん?生物では無い?どういうこと?
「完全な防御システムを持つ魔法ランチャーに過ぎない。ネギの人格は付録程度にすぎないんだよ」
付録?
「どういうことだ?」
「そういうことだよ、達也君♪普通の調整体は魂を持って産まれる。だけど、ネギは魂が無かった。だから、僕の弟子の魂を与えたんだよ。魂を持って生まれないってことは、生物では無いってことだ」
あっ…そんな…
「達也君の知識外の産物なんだよ、ネギはね。普通、調整体は精子と卵子を用いて、受精卵を作る。その過程で魂が宿るんだけど、ネギは、遺伝子同士を掛け合わせて受精卵すら、人工で作りだしたんだ。真夜の卵巣は死んでいるから、卵子は取れなかったんだよ。これは真夜にも知らせていないことだ」
叔母様の卵子で無い?
「真夜の魔法演算領域の遺伝子を使ったんだ。だから、子供では充分な領域は取れなかったが、孫世代のネギになる頃には、領域は定着して、膨大な魔法演算領域となったんだ」
魔法演算領域を卵子にしたの?
「そういうことになる。後、ネギが女性の谷間に顔を埋めると、睡魔に襲われるのは、母体から産まれ、母体の乳を飲んでいないから…種族回帰のような物だ。そこが人間という生き物が一度は通る道だろ?母親に抱かれて、初乳を飲むって行為はさぁ」
母親の乳房に憧れている…そして、初乳を飲むと寝るように、谷間に顔を埋めると、寝てしまうのか。母親に抱かれた気分になって…
「どうして、ネギを作ったんだ?」
「色々やったよ。何度も時のレールの分岐点を変えてね。でも、どれも上手くいかなかったんだ。で、真夜の孫という分岐に切り替えたんだよ」
何度も?この世界の結末が破綻しないように、何度も、同じ時を行き来しているのか。
「そう、深雪ちゃん、正解だよ。でもね、介入時期をずらしても、真夜の狂気を減らしても、この世界の行く末は、最悪なケースばかりなんだ」
賢者様の経験した数々のこの世界の行く末を聞いた。中には、私が暴走して、滅ぼしたこともあったらしい。
「ネギが最後の希望ってことは無いけど、真夜を一度くらい幸せに天寿を全うさせらいんだ。だから、どんな事態でも、死なない介入者を作り出す必要があったのさ」
真夜叔母様の為に作られたネギ君。彼はその事実を知らない。その代わり天寿を全うするまで、叔母様を見届ける使命を与えられたそうだ。
「今後、この世界はどうなるんだ?」
「分からない。レールの先に何があるかなんて、時の気まぐれで、変化自在だからな。わかったことは、今回も失敗だってことだ。真夜を救っても、消す物が多すぎた。まぁ、次があるならば、真夜の誘拐前に介入だな。産まれない者が出そうではあるが」
一瞬、お兄様の顔が歪んだように見えた。
「じゃ、九校戦で会おう♪」
賢者様が消えた。
---七草真由美---
北山さんのお父様傘下のテレビ局が、USNAの闇なる物を放映すると、一般の人の見る目による、魔法師に対する見方が変わった気がした。
核融合の代わりに、洗脳した魔法師を使い、核融合炉の代わりをさせていたと言う。その為の魔法師は調整体という技術で、そういう能力者を作りだすことで、教育育成を経て、炉の中に埋め込まれてしまう、
自走戦車に、魔法師の脳を装置化した物を設置して、人命を失わない戦争を模索していたというコーナーでは、非人道的な武装として取り上げられていた。
そう…魔法師は権力者達の道具に過ぎなかったのだ。師族では無い家系は、一攫千金を狙い、子供になんらかの遺伝子操作をしていた闇世界の話も放映されていた。
総て、エドワード・クラークの記憶を移植された雫さんが、情報源であった。
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時は流れ…真夜さんが旅立たれた。その死に顔は、幸せそうであった。
「ネギ太郎のおかげだな。コイツがこんな笑顔を見せるとは…」
父さんの目に涙が浮かんでいたかは、黒いグラサンに隠されて見えなかったけど、きっと…
この国以外では魔法師と言う者はいなくなっていた。この国でも、産まれる子供に魔法を使える者はいない。私と達也君の子供でさえ使えない。
ネギ君は、死の間際の真夜さんの手を握り締め、真夜さんの死と共に消えた。深雪さんも、琴鳴さんも水波さんも一緒に消えた。彼らの寿命は5年で尽きることは無かった。真夜さんと共に生き、真夜さんと共に楽しみを分かち合っていた。
「この世界は良い終末を迎えるのかしら?」
「ダメなら、シュウが、また来てくれるよ。ネギを連れてね」
達也君と真夜さんの火葬の煙を眺めている。どこまでの天高く昇っていく煙、あの先にネギ君達がいるのだろうか。