──静かな夜。
王都でも治安の良い地域に立地する館は、ナザリック勢が王国の情報を探るために定められた一時拠点だった。
そんな館の一室。
窓から射し込む月光に当てられた男女がいる。
一方は簡素な平服の偉丈夫で、ナザリックにおいては至高の四十一人に数えられ、御方と呼ばれる男。
もう一方は、場にそぐわない修道女の格好をしたクレマンティーヌという女性。
男はベッドの上で胡座をかいて座り込み、一方の修道女はその男の胡座の上にスカートをたくし上げて腰を降ろし、愛おしげに男の首に腕を回している。
互いに息のかかる距離。二人の間には、隠し切れない熱量があった。
互いの欠けたものを埋めるような男女の交わり──二人は対面座位の形で互いに繋がり合い、様々な欲望を満たす。
どちらからともなく、口を塞ぎ。快楽を煽るように、女の腰の揺さぶりが段々と激しくなってゆく。
「ん、ふ……あっ、んっ」
繋がり合う上下の口。女の嬌声は封じられ、ふぅふぅ、と漏れ出た息がどこか艶めかしい。
女を責める男の剛直は精強で、抽送の度に彼女の膣を広げるように隙間無く埋め、女の深い場所を打つ──それは女を容易く虜にする快楽を生み出す。
ビクンと女が快楽で身じろぐたびに、部屋には切羽詰まったかのような苦悩の吐息が溶けてゆく。
頬を赤らめて絶頂し、息荒く、しなだれ掛かった。女は男の首に腕を回し、しばし男を抱きしめると、心の深くから湧き出てくる欲望。愛しさのままに再び腰を振ろうとしたが──
男は対面座位の形で跨っている女の腰を押さえ、それ以上動けないようにした。
「っ? ……これ以上の奉仕をお望みではありませんでしたか……?」
「奉仕……いや、そもそも俺が望んだ訳でもないんだが……」
動きを止めさせた男は、目を反らし少しだけ言い淀んだ。
「?」
「いや……少し試したいことがあってな。お前は辛いのかもしれないが……」
「もしや拷問の類……?」
女は男の辛い、という言葉に真っ先に拷問を疑い、眉を顰める。彼女の過去には相当な闇があり、彼女は拷問を受けた経験があるという。
しかし、それは彼女を蝕むトラウマの一つであり、消せない精神的な傷として残っていたが、今の彼女は過去の悪夢を乗り越えつつあった。
「違う。お前はただ横になっていればいい……朝までこのまま繋がるだけだ」
男はどこか言いづらそうにした。それを聞いた女は黙り込み、そして呆れたように小さく息を吐く。
「……わかってはいましたが……朝まで繋がりっぱなしになりたいなど……主様は大変な性的嗜好をお持ちですね」
「おい」
そう、優しげな笑顔で男をなじった。
「それに意地悪です……ただ繋がり合うだけで、この火照った体はどうしてくれるのですか?」
「……」
一転して憂い顔。その様は弱々しく、何ともいじらしく映るが──
そんな今のクレマンティーヌの姿は、男の知る彼女のいつもの姿とはあまりに違うものだ。
その慈愛を思わせる穏やかな雰囲気が──
醸し出される、柔らかく全てを受け入れ包み込むかのような母性が──
全くの別人にしか思えず、その違和感が男を狂わせてゆく。
「……まぁ、それはいいのです。安心してください。我が主様がどんな変態的で異常な性癖をお持ちだとしても、私は受け入れてみせますから」
彼女の表情は本当によくコロコロと変わり、男の内心を掻き乱していった。
「それに──本当は女の人に甘えたくなってしまったのでしょう?」
深い、全てを受け入れるかのような瞳で言う。その女の甘い声音は毒のように沁み、言葉は心に積もる。
「最近は色んなことが立て続けにありましたし……少し、精神的に疲れているのですよ」
そう言って彼女は静かに男の頭を撫でた。
彼女の言うとおり──同胞との邂逅に、ナザリックへの帰還。そのナザリックでも多くの下僕達に傅かれ、同胞たるモモンガと様々な事柄に対して協議しなければならないこともあり、男が精神的に疲れていたのは間違いなかった。
そんな言葉を残した彼女は、仕方ありませんね、とばかりに静かにベッドへと仰向けに倒れ、服装の乱れを手早く直すと、胸の前で祈るように手を組んだ。
「私があなたを癒してさし上げられれば良いのですが……」
男はその言葉を聞き、衝動的に女を抱き締めた。
クレマンティーヌはそんな男の様子に柔らかく微笑みを浮かべた。
異常性癖と呼ばれる被虐性愛や加虐性愛、少女性愛などはそこらの非合法な娼館でも比較的よく聞くが、『入れっぱなしでいたい』などと、この世界では珍しい部類の可愛らしい嗜好を男は求めていたから。
それに、朝まで男の腕の中に居られることを想えば彼女にとっても魅力的ではあったのだ。
いつものような激しい交わりではないだろうが、それとはまた別の、生まれて初めてとも言える類いの満足感を得られることに彼女は内心、胸を高鳴らせている。
そして、何より嬉しかったのが、男が彼女自身に甘えるような姿勢を見せたこと。それは、男が彼女に求める役割が変化しつつあるということだと思っていたから。
「……随分好き放題言ってくれる」
棘のある言葉を吐いたかと思えば、慮る様子も見せる女に男は翻弄されっぱなしだ。
しかし、気弱な面だけは見せたくないのか男は負け惜しみに近い言葉を溢す。
そして……
八ツ橋──仰向けになった女に対して、男は女の片足を腰に抱え、足を上げた方から寄り添うように、腰を密着させて陰茎を挿入した。
そして、挿入した剛直の亀頭をグッと膣の奥に押し付ける。
「んっ」
「……てか、別に性癖とかねぇから」
「ふふ……ご冗談を……主様は女性が快楽で苦悩するのを眺めるのが大好きという性癖をお持ちではありませんか」
「そのくらい普通だろ?」
「いいえ。女性を支配したがるのも、縛り付けるのも、過剰な快楽を与えるのも主様が心の奥底で何かを恐れ、求めているように私は思えてなりません」
「……」
「主様にも……何か、今でも心に深く刺さっている棘があるのではありませんか?」
ジッと、柔らかく男を見つめる赤い瞳。
男は知っている。性は無意識の欲求や過去の体験、日常の心的過負荷などに影響を受けていることを。
自身の嗜好の底にある無意識の願望について考えさせられ、男は黙り込む。
黙り込む男に、女はそれについて話す気がないと思ったのか、言葉を続けた。
「とはいえ……私などに主様の心に刺さったままの棘が抜けるかどうかは、わかりませんが……」
「少なくとも私は主様に『拷問』のように無茶苦茶に犯されるの好きですよ」
それは彼女が過去に拷問を受けた経験があるからだろうか。心がトラウマを乗り越えるために、快楽として苦痛の記憶を上書きしたのか。
「今はそれでいいではありませんか。主様と私の性癖の相性は良いようですから」
フワリ、と修道女は眦を下げて微笑み──
ドクリ、と男の心臓が脈動した。
その言葉を聞いて男は──
「お前は…………まぁ……まだまだ時間はあるんだ。少し付き合って貰おうか」
女を支配し、無茶苦茶にしたくなる衝動に耐えるため、気付かれないように小さく長く息を吐いたのだった。
□
男は女の足を腰で抱えながら挿入を維持し、空いている腕でサワサワと全身を弄る。または服の上から大きな乳房を揉んだり、その頭頂部を人差し指でなぞったり、軽く摘んで引っ張ったりしてみたり、腹部を温めるように撫で回したりした。
女はその焦れったい男の手付きに苦笑し、くすぐったさから身を捩ったりした。
しかし、男が女の体に触れる度に、女の声には色が籠もり始め、僅かに残る体の強張りや緊張は抜け、だんだんとリラックスした気分になり自然体に近づいてゆく。
二人はまるで恋人のように肌を重ねる。
感じるのは抱き締め合う互いの体温と、繋がり合った陰部の温かさ、そして圧迫されるような心地良い感触。
繋がっているという実感が性感を高め、僅かな緊張からも開放された女は薄っすらと発汗が進み、肌がしっとりとしていた。
「せっかくだ。朝まではまだまだ時間があるからな。少し実験をしよう」
「実験、ですか?」
「そうだな。精神と体の結びつきの実験」
「それは、もしや……」
「あぁ──前に少し試したことがあったか」
男が前に試したのは、精神の賦活。男から見て女の精神は病んでおり、体に宿っているという精神の要所──7つの門は汚れ、働きは鈍っていた。
男が思い出させるように修道女の下腹部から額にかけて指でなぞると、クレマンティーヌはゾクゾクと身震いした。
「あの時は精神が正常な働きに戻るようにソウルの業をもって丁寧に掃除してやったわけだが……」
「──覚えているか?」
「精神の自由さを。この苦しみに満ちた肉の檻から解き放たれた時の爽快感を」
修道女は思い出す。
熱く、火照った体を。
幸福感に満ち、茹だったように思考は鈍く、体が、心が男を求めていた。
思い出して興奮したせいか、下腹部がジワリと少し熱を持った気がした。
あの時のような快楽がまた──
「これからしようってのは、その続きだわな」
男の知識では、精神的な快楽は際限がないとされている。しかし、本当にそうなのか。どうすれば快楽の上限を高められるのかを試してみたかった。
「試すのは精神と精神の抱擁」
「魂の交わりとも言えるか」
無意識に女が喉を鳴らした。
如何にもスピリチュアルで、非現実的な響きではあるが、ここは異世界であり魔法の体系には魂の概念を基にした術も当然ある。
そして、『二人』はソウル/魂の扱いに長ける種族の不死人である。
だから二人にとってはやろうと思えば比較的容易に試せるものではある。
ただ……
「心は蔵とも言われるな」
「正も負も、全ての感情を納める蔵だ」
「当然中には汚い部分、触れられたくない部分だってある」
「だが、魂の交流には、それらを曝け出す必要がある。だから──」
もしも、お前が心を曝け出すことを恐れるなら止めておこう、と男は言う。
しかし……
「──この身も、心までも。全て捧げると誓いました」
「……私の心は昏く、歪で、利己的なのです。だから、決して綺麗なものではないでしょう。ですが……それでも主様が望まれるのであれば、全てを委ねましょう」
「それよりも、気づいておられますか? 主様の御心もまた私の前に曝け出されてしまうことに」
女はイタズラっぽく微笑む。
「……俺にとっても魂の交流など初めてのことだが、覚悟くらいある」
男はその言葉に驚き、女の言を鼻で笑った。
「まして知られて困るような暗部などないし、どうでもいい。恐れることなどないな」
「新しい挑戦には危険が付き物なのは仕方ないことだ。だが……それよりもワクワクするだろう? 新しい発見をしたり、知らない世界を見られるかもしれないというのは」
そう興奮気味に話す男に対して、呆気に取られていた女は優しく笑みを浮かべたのだった。
□
女と男。
陰と陽。
二つは相反しつつも、一方だけでは成り立たず、二つが合わさることで、太極を成す。
それが世界の在り方だという。
自然界において、あらゆるものは陰陽のニ気に分けられ、それらが繁栄と衰退を繰り返し、調和することで秩序が保たれるというのが陰陽思想だった。
男がいた元の世界には、そうした思想の流れを汲んだ房中術の技法がある。それらは男女間のエネルギー/気を入れ替え、高めることで、良好な健康状態を保ち、長寿を目指すことを目的とした思想だったのだという。
絶頂を迎えることや、精を放つことを最終的な目的とせず、互いのエネルギーである気──男の陽気、女の陰気を交換することで、目には見えない精神や肉体の不調を正し、調和を図る。
今、二人の行っていることは、そうしたエネルギー/気の交換にも似ていた。
しかし、男が目指しているのも、それと似た物ではあったが、興味自体は調和のその先にある。
男の興味──それは、目には見えない魂と魂の紐帯。絆などとも呼ばれるもの。
──それを知り、目指すということ。それは、男もまた精神的な触れ合いや結び付きに飢え、憧れる者であることを意味していた。
男もまたモモンガと同じく身寄りがなく、唯一の肉親たる存在は今は異郷の遥か宙。故郷に至っては帰れるかもわからない遠い場所にあるから。
そのことが、どうしようもなく孤独感を感じさせ、自身には身近な存在がいないことに寂しさを覚えるさせるのだ。
……ただ、男は一人でいることなど苦でもなく、感じている孤独感もむしろ嫌いな感情ではなかった。
彼がかねてから望んでいた一人旅を楽しめているし、この世界でも様々な出会いがあったから。だから孤独感は少々のスパイスのようなものだ。
……それでも、寂しい時は寂しいし、逃避のせいなのか都合のよい女の肌の温もりが、愛が欲しくなる。
そして事、行為に及んで自嘲する──所詮は快楽で無聊を慰め合う一時の関係。これまでと何も変わらないとわかっていても、孤独感を進んで消そうとも考えない。刹那的な生き方は気楽だが虚しいものだ、と。
女が話していた、男が肉体を物理的に拘束することや過剰な快楽を与えようとすること。それは男の孤独感からくる支配欲から齎されたものなのかもしれない。
俺を見てくれ。
離れていかないでくれ、と。
──だが、そんな男も変化を望み始めている。男は肉体的な関係よりも、精神的な繋りや、秘密を共有する理解者を求めていたことを自覚し始めたのだから。
その一端を彼女はいち早く感じ取っていたのだろうか。
□
長らく密着していたせいか、二人の体温は上昇。汗ばんだ肌に服が張り付き不快感をもたらす。
故に、お互いの衣装は既に脱ぎ捨てられ、ベッド周辺の床へと無雑作に放置されていた。
ベッドの上には、裸体の男女──屈強な肉体の男に、シミ一つない白い肌を晒す女。
汗ばんだ肌と肌が直に触れ合い、接触した箇所がペタリ、とくっついたりもするが、二人にとってはそれすらも快感となり、感情を昂ぶらせる材料となっていた。
──場の雰囲気が感情を伝心し、どちらからともなく口づける。男が青白いオーラを接合部から流し、口から女の赤黒いオーラを強引に吸った。
もしも魂が非物質的な存在で、生命や精神の根源であるとしたら──オーラとは魂から発せられているエネルギー。
互いのオーラがぎこちなくも循環し、混じり合い、融け、調和する。
それはまるでアライメントの調和ともとれる。
善よりの中立だったカルマが、悪のカルマに影響されて完全な中立に近づくように。男はより悪に鈍感になり、利己的に近づいてゆく。
または、悪のカルマが善に影響を受けて中立に近づくように。女は悪を自覚し、悪行を避けるようになってゆくのか。
──そうした、互いの『色』が交わり変化してゆく。
男はそれを幾度も繰り返し、一方の女はそれを蕩けた表情でただ受け入れた。
包み込むような心地良い波動。陰と陽、赤黒と青白のオーラが二人を循環し、流れがだんだんとスムーズになってゆくのがわかる。まるでその状態こそが人としての完成形なのではないかと錯覚してしまうほどに。
そして、慣れてしまえば、わざわざ男が口で吸い出さなくともオーラの交換は容易になった。ただ男女が手を繋いでいるだけで、自然と円が保たれ、循環は働く。
──ついには、互いの魂の波長までもが近づき、二人が一つになってしまえば、互いの快楽、昂ぶる感情、心が手に取るように分かってしまう。
抱いているであろう恐れも、人に隠すべき利己心まで。二人を包む雰囲気が自然と共有してしまう。何となくで、相手の考えや気持ちが分かってしまう。
時として、『受容』とはひとつの愛の形として示される。誰かを愛するには、相手の全てを受け入れなければならず、そのためにはまず、自らの全てを受け入れている必要があると。
それは自らを受け入れていない者が、誰かを受け入れられるだろうか、という論理であるが、しかし、『誰かに受け入れられる』ことで、自らを受け入れることもある。
男が女の苦痛を受け入れ、影響を受けたことで自身の孤独に気づいたように。
女が男の恐れを受け入れ、影響を受けたことで自身の過ちを顧みたように。
──自身の良いところ、悪いところ全てを見抜かれた上で、『受け入れられている』と実感出来てしまえば、そこには大きな安心感と奇妙な気恥ずかしさ、そして信頼感が残る。
そして、一度相手を受け入れてしまえば、理解する。そこにあるのは肉体的な快楽ではなく、安心感を伴う精神的な悦び。それはまるで、青く燃える火が、少しずつ熱量を上げていくような情熱にも似ている。
肉体を重ねるほどに、相手が愛おしくて仕方がなくなり──上昇、上昇、上昇。止むことなし。男は困惑し、それが一時の感情であることを願いつつも感情に身を任せ、女は既にその感情がずっと本物であると知っていた。
その興奮は精神が刺激されたことによる効果。互いのオーラが体と精神に溶け、二人がもはや赤の他人同士の関係ではなく、精神的な繋りを持った間柄に変容しつつあるせい。
いわゆる、ソウルメイトやソウルシスターの間柄のように。
口づける度に、視線を交える度にお互いの魂がまるで触れ合うかのように、跳ね、弾み、遊び、踊るのを想像する。
「んっ……あっ」
何時までもそうしていると、だんだんと女の全身が震え、吐息に混じって艶のある声が漏れ出てくる。
それでも男は繋がり合ったまま、女の性感を煽るように全身を愛撫し、何度も口づける。舌と舌が絡み合い、愛しているという感情が心の源泉から溢れる。時間をかけ、もはや撫でていない場所などないのではないかと思われるほどに、くまなく弄った。
細く、無防備な首筋──
発情し、ツンと張った乳房──
白い肌の艶めかしい腰のクビレや背筋──
柔らかく、手に吸い付くような臀部──
しなやかな筋肉のついた腿──
それら肌を指でなぞっただけだというのに、体がビクビクと艶めかしく反応するのだ。
女の余裕のない荒い息が男の興奮と嗜虐心、支配欲を煽る。
当然、男はその反応を楽しむために、更に愛撫に力を入れた。
「〜〜っ!」
体を落ち着きなくモジモジさせたかと思えば、息を荒くさせ、体を硬直させて絶頂を迎える。
女の体が弓なりにしなり、足の指先がピン、と伸びた。女の奥に挿し込まれた剛直をグググと絞り、更に奥へと誘うかのようにキツく締め上げた。
──そして脱力を迎えるも、女の体の疼きは一向に止まなかった。
痙攣するようにきゅうきゅうと剛直を抱きしめる膣。
たった一度の絶頂でスイッチが入ったかのように息の荒い女の頬は桜色に上気し、全身から汗が吹き出してベッドのシーツを湿らせる。
彼女の目尻は垂れ下がり、トロンと惚けているかのような印象があった。
男女が口づけた場所からは唾液の橋がかかり、女の蕩けた視線が男から離れることもない。
「主様……体が……お腹の奥が熱くて……」
媚びるような声音。彼女が手で抑えたのは──臍の下あたり。ちょうど子宮の位置にあたる場所にはエネルギーの要所たる門。
男はそこにエネルギー/オーラを循環させるために、際限なく送り込み続けていたから。ただ、そこにはちょうどチャクラの要所があり、チャクラが活性化したのは当然のこと。
そして、魂や精神への刺激は、肉体にも影響を及ぼす。腹の奥が熱くなったのは──生物としての本能。男の子種を求めるようになっていたためだった。
「うぅ……もう、動いてください……このままでは……頭が可笑しくなってしまいそうです……」
その欲望は彼女の忍耐を食い破らんとする程には大きい。現に、下半身──女の結合部からは潤沢な水分が湧き出ており、互いの性器を濡らす。
奥の奥まで膣を貫かれ、腰を支えられていることで女から動くことも出来ないが、女陰はヒクヒクと痙攣しており、男根が動き出し精を吐き出すのを今か今かと待ち望んでいるようだ。
始め、女の下腹部には内側から押し広げるような圧迫感があったが、今では解れたのか、男根全体をピッタリと優しく包み込むようになっている。
しかし、時折ビクリと脈動する剛直の感触や振動がリアルに下腹部に伝わることにもなり、より微細で生々しい刺激を女に与えていた。
女もその僅かな振動が起こるたびに無意識に反応してしまい、下腹部に力が入ることで剛直が締められ、男へと心地よさを届けてしまい、またビクリと脈動するというループに陥っていた。
「まさか……本当に朝までこのまま……?」
男は女の言葉に反応することなく、動くつもりはなさそうだった。
□
──もはや後戻り出来ないほどの熱を孕んだ、女の甘い吐息。
修道女クレマンティーヌにとって、こんなにも心地良い居場所は他にないものだった。
男の腕の中におり、吐息がかかるほどに密着している。この時ばかりは女は男の視線を独り占めできる。この世界には二人しかいなくて、二人だけの世界は狭くて、優しく、甘い──
現状を振り返り、男を見つめれば、心の源泉から溢れ出すのは愛しさとどうしようもない幸福感。心が震える。
狂おしいほどに高まる欲望。
──この人の全てを受け入れたい。
──激しく求められたい。
──たくさん精を吐き出して欲しい。
──共に絶頂に登りつめ、同じ幸福感の海に溺れたい。
しかし、彼女の主の望みは朝まで繋りっぱなしであることのみ。激しい交わりもなく、自ら乱れることも許されてはいないのだ。
自身の欲望と男の望みとの葛藤。
快楽への渇望は彼女の理性を容易く溶かそうとするも、その度に男の顔が浮かび、理性を再び固めるのだ。
「……ふ、へへ……」
──そんな茹だるような意識の中、ふとそんな葛藤がとても幸福なことだと気付き、女はだらしなく笑みを浮かべてしまう。
そんな何時までもこのままでいたい、時が止まってしまえばいいと思えるほどの充足感に、彼女は自身の幸運に感謝した。
そんな女が目の前にいる男を熱の籠もった視線で見つめると──
男は気恥ずかしく思ったのか、表情を隠すように女の首筋に埋めると深呼吸した。鼻息が首もとをくすぐる。
男のこそばゆい行動に、女は表向き微笑みを浮かべていたが……
(はぁんっ……なにこれ……すっ……すきすぎるぅ〜!)
(あ、あ、あぁぁぁぁぁぁ! すきすきすきすきすきすき! しゅき! 笑)
(あっ、イッてる。あたまイッてる! バカんなりそう!)
茹だる思考。熱を孕んだ、重い体。女は全てを受け入れるような、柔らかい笑みで男の抱擁を受け入れた。
(てか、これってホント現実? 実は夢とか? もしかして、ここあの世?)
現実感のない、あまりの幸福感に今を信じられず、彼女は心の中で意味不明な言葉を羅列する。頭はフワフワ、体はカッカ。今の彼女は通常の状態からはかけ離れていた。
(こんなに甘えて来ちゃって……わたしの神まじかわいいんですけど!!)
彼女の思考能力はもう既に限界を迎えつつあるが……
月はまだ高い位置にある。
□
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
長距離走を走り切った後のような息づかい。実際には激しい動きなどしてはいないのに心臓が激しく脈動し、体中に送る酸素を求めている。
汗で濡れ、束になった金色の髪が頬に張り付き、白い肌に上気した頬が艶めかしく映る。
豊満な胸元から珠のような雫が肌に弾かれて流れ、女の鳩尾に小さな水溜りが作られていたのを男は見た。
──時間の経過とともに、彼女の体はどんどん敏感になっていった。
「うっ、ぐ……」
寒くなどないのに芯から震える体に、胎はどうしようもなく熱を孕んでしまっている。ちょっとした刺激で訪れるオーガズム。それはまるで熱病に苦しむ病人のようだ。
その原因──胎には未だ貫ぬかれたままの堅く、熱い、太い杭が一本。
クレマンティーヌは気が狂いそうになり、気を紛らわせるために鼻息荒く男の首筋に吸い付いて耐える。
その行為は既に何度も繰り返されたのか、男の首筋にはすでに幾つもの赤い点がついていた。
「ふぅー……ふぅー……ふぅー……」
ドロドロに発情した体。熱を患い、消耗した体には力が上手く入らず、動かすのにも気力が必要だった。
「も、う……もう……むり、です……」
「あたま、おかしく……なってるぅ……」
苦悶の表情を浮かべ、ドロリとした瞳で男を視界に収める。
「朝方までには、まだ時間があるぞ?」
「でも……もう、からだが……」
意識が朦朧とし始め、腰が意思に反してガタガタと揺れ始めていた。その振動で股が擦れ、またオーガズムが高まってしまう。
「う、うぅ……」
「もう少しだけ頑張れ。そしたら、いいものを見せてやるからな」
そう言って男は再び強く腰を抱くとともに、女の髪を優しく漉き、宥める。
しかし、快楽に流されないよう我慢に我慢を重ねた女にとってその手つきも、言葉も絶望に近いものであった。
「う、あっ」
ズチリ、と──無雑作に再度、腰が強く押し付けられたことで、子宮が圧迫され、脳に星が瞬くかのような快楽が流れた。
足の指先が伸ばされ、体が強張る──与えられた刺激を余すことなく享受するために顎を仰け反らせて体を硬直させる。そして、クレマンティーヌは長い絶頂を必死に呑み込むと、硬直した体を脱力させ、再び震えさせた。
それが緊張が切れる原因になってしまったのか──
「……も、も、ぅ……むりぃ……」
「まだいけるだろ?」
「……い、いやぁ……もう、がまん、いやぁ! うごいてぇ! なんでもしますからぁ!」
女は息が絶え絶えとなり、髪をめちゃくちゃに振り、男に抵抗する。欲望と自制の狭間で彼女は狂いそうになって絶叫した。
体はずっと震えっぱなし。長く男の剛直を咥え込んだ彼女の秘部は赤く充血し、もうずっとドロドロに濡れたままで、動くことのない剛直に対してフワフワと包み込んでいたが……
「うごいてくれなきゃ、しぬっ! わたし、しぬからぁ!」
とうとう自制が切れたように狂乱し始める女──男は慌てて女を抑えるために体勢を変え、彼女の正面から覆いかぶさった。
「──ぅ、ひっ!」
体勢を変えるために動いた時に粘膜が擦れ、のしかかられ、体重がかかり全身が圧迫されると彼女は再び体を硬直させピクピクと震わせた。
「……まぁ、そろそろいいか」
「は、ぇ?」
茫洋とした意識の中、女は男の声を聞いた。
「……ほーら、もう我慢しなくていいぞ〜? ……イキまくれよ」
男は一度、剛直を引き抜き、女の奥へと叩きつけた。
「あ゛っ? ……か、ひっ」
突然の衝撃に一瞬女の呼吸が止まるも、固まった体を無視するように男は何度も腰を打ち付ける。
発情しきった体は生殖行為を待ち望んでいた。熱を孕んだ子宮が突き上げられ、押し潰され、揺らされるたびに尋常ではない快楽が体に走るのだ。
女の鼻息は荒く。剛直が引き抜かれる度に何か大事なものまで一緒に持っていかれるような気分を味わった。
腰を打ち付けられては、快楽と男の肌の温もりを感じる。そして、体の中に入ってきた何かが胎の深くで暴れ狂うような感覚がして、自身が内側から塗替えられてゆくのを自覚する。
激しい一突きごとに子宮に熱が溜まってゆき、頭の中で靄がかかったように何も考えられなくなる。体がフワフワと今にも浮かびそうな不思議な感覚を味わい、女は意識を繋ぎ止めるようにして、男にすがりついた。
──ガクガク、と体が芯から震えた。
容易く迎える絶頂の波濤。爆弾と化した熱が解放されるような、爆発的な快楽の衝撃。あまりの衝撃に何度も意識が漂白されそうになった。
「だ、だめ、ぇ……いま、いって、いってるからぁ!」
焦りを含む媚びた絶叫。
それでも男は止まらない。
腰を振り、剛直でメタメタに打ち付けられた子宮がまちに待ったとばかりに精を受け入れようと、子宮口を開き、膣が肉棒を吸い付き、蠢き扱く。
腰が打ち付けられる度にパチュパチュ、と水っぽい音が響き、女の余裕のない喘ぎが男の耳朶を打つ。
「だめぇっ!!」
「あっ、あっ、あっ、あっ、あ、あぁぁぁ!!」
激しいピストン運動。
絶え間なく絶頂の波を迎えていることにより、膣は痙攣を繰り返すように強く締め付ける──しかし、抽送は多量に分泌された女の愛液によって、抵抗なく進んでしまう。狭まった隙間を無理矢理に割ってゆく逞しい肉棒が、膣壁を容赦なく抉ってゆく。
抽送の途中から堰が切れたように、ピュッ、ピュッ、と彼女は潮を吹き二人の体を濡らした。
「あ゛あ゛あ゛あ゛う゛う゛う゛ イグッイグッイッ、イックイクイ゛ッ……!」
体を重ねてから数時間──最も大きなオーガズム。快楽に快楽を重ねたせいか、意識は既に朦朧とし、ただただ与えられる喜びを享受する。
彼女の様は嵐に遭遇した船が碇を降ろして船体が流されないようにするよう。クレマンティーヌは男にしがみついて、嵐が過ぎ去るのを堪えようとする。
ギュ〜と、膣が男の剛直を布を絞るように絞め上げた。
「……っ! っ! っ!」
女はニヤケ顔になるほどにビクビクと震え、顔を真っ赤に紅潮させ、蕩けた表情をしていた。そして、空気を求めるようにパクパクと喘ぐ。
男はその姿に満足し、焦点が合わぬまま見開かれた瞳の端から流れ出た涙を指で拭うと、喘いだまま開かれた口を口づけで蹂躙した。
顔を離せば唾液の糸の橋が二人を繋ぐも──
女は呆けたように、荒い息をつくばかり。
「気持ちよかったか?」
そう、問いかける。
「はーっ……はーっ……はーっ……」
しかし、女には男の声が聞こえていないようで、荒い息をつき、脱力したまま。今も小さな快楽の波が襲ってくるのか体をピクピクと痙攣させるばかりで、言葉も返せない。
それほどまでに余裕がなく、絶頂の余韻を鎮めるのに全神経を使っていた。
目を閉じて呼吸を整えようとすると、心臓が早鐘を打つように鼓動しているのを彼女は感じた。それとともに体に満ちているジワリとした心地良い疲労感と確かな満足感、未だ波打ち甘く身を苛むオーガズムも。
クレマンティーヌはそれらの余韻を余さず受け止め、味わう。そして、深く息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
「おぃ? 何かもう終わった感出してないか?」
女の閉じた黒い視界。聞こえてくるのは男の声。その言葉に女は気怠げに目を開く。
「ずっと我慢してたからな……たくさんご褒美あげちゃうぞ?」
「な? 遠慮はいらないからな」
そこには邪な笑み浮かべて彼女を見下す愛する男/神の姿。
「ご、ほうび……?」
疲労のせいか頭の働きが鈍く、男が話す内容を理解するのに時間がかかった。
「朝まで挿れっぱなしっていったよな」
「……ぇ……」
「日が昇るまではまだ数時間はあるぞ、良かったな」
「やっ……そっ、そんにゃの、むり、ぃっ……!?」
男は絶望の表情をした彼女の言葉を遮るようにして、動き出す。
体力も厳しく、妙に敏感になった体を長時間に渡り弄ばれるのは辛い責め苦となるだろう。女はそれを予感し、抵抗を試みようとしたものの──
「もちろん、受け取ってくれるよなぁ?」
「だめぇっ、すこし、やすませ、てぇっ!?」
「嫌ならもうちょっと我慢してりゃあ良かったじゃねぇか」
未だ痙攣を続ける女の腰を男は掴み、無理矢理に抽送を続ける。
ぶつかり合う腰と腰。勢いよく連続でぶつかり合う度に、水気を含む破裂音が響く。
「うっ……あ、は……はひ……ひっ……ずっと……ずっと、いってるぅ──」
女は何が可笑しかったのか、狂ったように嬌笑をあげた。
衝突とともに激しく揺れる豊かな乳房──その先端は興奮と齎される快感でピン、と立っており、揺さぶられるたびに円の軌道を描く。
そして、一突きごとに脊髄を駆け抜ける甘い電流。
押し寄せる快楽の津波は、脳の神経を焼き焦がさんとする。
「し……し、ぬっ……しん、じゃ……」
頭が働かない。彼女は自身がなぜここに居るのか、どうしてこんなにも責め苦を与えられているのかも、何もかもわからなくなった。
ただただ、茫洋とした頭で快楽を処理し続ける。
「う゛、う、うぅぅぅ……」
イヤイヤと首を振りながらも、無意識にか女の腰は浮きあがり、もっと気持ちよくなれる場所──
即ち、子宮口へと一物を誘い、イキやすく、絶頂を余さず受け止められる体勢を作り上げている。
「あ……あ……あ……っ、いいっ、また、イ゛グ、ッ……」
再びの絶頂で膣が脈打ち、腰が仰け反る。髪を振って乱れ、しなやかな脚がピン、と硬直した。
膣が力一杯一物を絞め上げると奥でグポリ、と空間ができあがり、子宮口の位置をずらす。精を受けるために更に奥へと一物を引き込もうと膣が蠢動を始め──
「んおっ? お゛っ、お゛、お゛ぉぉ、ぉぉぉぉ」
男はそれを躊躇いなく侵略し、子宮口を突くと彼女は獣のように喘ぐ。女の淫らな奥を占領せんと、門を早く開けろとばかりに何度も何度も槌を下す。
クレマンティーヌは赤面し、体を強張らせている。彼女の顕在意識は既に働いていない。あるのは通常時には働いていないはずの変性意識で、彼女はいわゆるトランス状態にある。
「イグッ……イグ……イグ……イ゛、グッ──」
それでも男は女をまるで物としてでも扱うかのように、またはオナホールやラブドールを使っているかのように自分勝手に腰を打ち付け続けた。
長い時間に渡り、我慢してきたのは女だけではなかった──
男は表面上は何でもないように振る舞っていたが、我慢は当然のこと辛く、何度女の体を貪りたいという衝動に襲われたか。
──始め、女に寄り添い悪戯心が勝った。
──少しすれば、女の包容力に身を委ねている自身がいた。
──それからまた少し後、初恋のように胸が締め付けられるような感覚がし、ドキドキし始めた。
そこからが地獄。
頭の中では獣ががなりたてる──今すぐにその身を、心を蹂躙し、犯し尽くせ!
支配しろ。その身体に、その精神に他では得られえぬ快楽と記憶を刻め、と。
妙な汗が吹き出し始め、体が熱くなった。
──ついに衝動に堪えられなくなったのは、女が子どものように狂乱しそうになった時。その時、男はもう我慢が無理だということを悟った。
涙を零して男を見る赤い瞳も。
肌に貼り付いた金糸の髪も。
熱病に侵されたかのように弱り、疲弊した表情も。
吹き出た汗で、濡れた白い肌も──
全て『愛しく』感じてしまったから。
それに気付いた時には、男はその精強な肉体で女を蹂躙していた。
──だから、全力で『愛』を込める。この感情が一時的な物であるのか、持続的に抱くものなのかは男にもわからない。しかし、それが例え刹那的なものであろうとも、ここにある『愛』は確かなものだから。
荒々しく、獣のような盛り具合は女自体が男の所有物や玩具にでもなっているかのようだった。男を受け入れるのに精一杯で、既に思考能力を放棄した女には現状を俯瞰することなど出来やしないだろうが、女はそんな扱いをしていたと知っても受け入れてしまうのだろう。
何故なら……
──『愛している』
感情が男から女へと伝播し、魂を震わせる。
それは劇薬の如き感情。
甘く、熱く、柔らかく、優しく、苛烈に身を包み込む。
『イ゛、グゥッ……!』
その感情が伝わるだけで女は絶頂を突き抜けてしまう。
『愛』とは彼女が今まで受けられなかったもの。彼女は男の側にいられることで強い至福感を得られる。
例え、獣のような欲望を持つ男に玩具のように扱われようとも、知ってしまった『愛』を持ってすれば受け入れることなど何ら容易いこと。
そう、彼女は既に心を縛られているのだから。
「ぐぉっ……出、すぞっ!」
「あ゛あぁー! あぁー! ……ぁ、っ! っ! っ! ──」
そして、欲望を受け入れ女もまた獣となる。本性が曝け出た女の声は低く、腹から響いた。
そして──
二人は互いの口を塞いで、手と手を繋ぎ合わせる。荒々しく互いの『愛』を確かめながら、未だ整うことのない息を混ぜ合う。
何度も何度も剛直が子宮を殴りつけ、腰を打ち付け合う淫靡な音が響いていた。
──ドクリ
精液がドクドクと子宮口に向けて吐き出され始めると、女の体は果てのない喜びに身体と心を震わせる。無意識にか、腰に回された脚でガッチリと男の腰を固定した。
それは男の精を自身の内から逃さないようにするためか。幸せが溢れ落ちてしまわぬように、全てを貪欲に呑み込もうとする。
押し付けられた腰と腰は密着し、男根は女を孕ませるために精嚢に貯め込んだ精液を『全て』吐き出し続ける。
通常時では有り得ない長い射精は男に極度の疲労を対価とし、天にも昇る忘れがたい快楽を与えた。
一方で、女も胎を焼くように熱い男の精に悶え、喘ぎ、しかし、もっと寄越せとばかりに貪欲に剛直を力一杯抱きしめる。
そして──熱を孕み、精をずっと待ち望んでいた子宮は、男の精液を呑み干したことで、ようやく満足したかのように疼きを止めたのだった。
──天に昇るような快楽を味わった二人は、天から墜ち、今度は深い奈落へと落ちてゆく。二人の意識が白い靄に包まれていくように薄れ、ついには絶たれる。
折り重なったまま深い眠りへと落ちてゆく。
徐々に明るくなりかけてきている部屋に残ったのは力が抜け落ち穏やかに寝息をたてる女と、彼女を抱くように覆いかぶさる男の姿。
繋がれたままの手が『愛』の残滓となった。
□
強すぎる幸福感に溺れるとともに意識が途切れ、彼女はそのまま夢の世界へと落ちてゆく。
多大なる幸福感のなかで見た彼女の夢とは、遊離した自身の魂が姿を型取り、同じく遊離した男の魂に手を引かれ宙に昇ってゆくものだったという。
──宙と空の間。
そこで彼女の見た世界の真の姿。男が指差す先には僅かに丸みを帯びた地平線の彼方から朝日が登り、大地を明るく照らす瞬間。
この世界の住人である人間では初めて目にしたかもしれない光景。
そして、そこで彼女は理解する。
大地が実は丸いということを──
今まで彼女の知る世界は小さい範囲で、ほんの一部に過ぎなかったことを──
ただ無言で見つめたその光景は彼女達の魂を震わせ、同じ感動を共有させる。
ふと、気になって隣を見れば男も照らされた世界に笑みを浮かべ、眩しそうに見つめていた。
──世界には未知が溢れている。女には男の心の声が聞こえた。
『To see the world/世界を観よう』
『things dangerous to come to/危険でも立ち向かおう』
『to see behind walls/壁の裏側をのぞこう』
『to draw closer/もっと近づこう』
『to find each other/お互いを知ろう』
『and to feel/そして感じよう』
『That is the purpose of life/それが人生の目的だ』
そう、心の声を聞いた女は男の笑みを守るために側に寄り添う。
──そして彼女は理解する。男の望みを。男は世界をその瞳に映すことを求めているのだと。