ユリは動死体の種族レベルの高いアンデッドであり、心臓も動いていなければ血も通ってはいない。
一般的に動死体といえば、頭が非常に悪く、呻きながら徘徊し、動物の肉を貪るようなイメージがあるのだが、ユリは生きている人間のように言葉を話す知能を持っているし、実際には消化といった生命活動を行えないがために、水分を摂取することはあっても基本的には食を絶っているとも聞いた。
男はふと考えた。
彼女の頭は機能しているのだろうかと。いや、決して頭が悪いだとか、気が触れているとかの失礼な意味ではない。彼女は上位の首無し騎士の種族も取得していることから、頭と首が繋がってはいない。つまり、彼女の活動に頭の働きの有無は関係ないのだろうか、という意味だ。
それはつまり、ユリの本質とはゴーストや妖精といった超自然的な生き物や物に宿る霊魂的な存在にあるのかもしれないと。
そして、気になっていたのは、下世話な内容だが、ユリははたして濡れるのかということ。
ユリは死体と同じく生命活動が停止しており、セックスなどという生殖行為も本来は不要のはずであり、諸々の体の機能も停止している。
もし彼女がアンデッドとしての性質を発揮しているのであれば、陰部も濡れることもないので挿入は対策をしない限り困難だろうが……
実際にそんなことになれば、ユリが落ち込むことは明白。男はそのことだけが気がかりだった。
しかし、そもそもがここは魔法やら魂やらが存在する世界である。ナザリックだって、トップが動く骸骨なのだ。この世界は摩訶不思議な生物? で溢れている。
男がそれを確かめるために、躊躇なくユリの扇情的なショーツの中に手を入れ、柔らかな茂みを撫でつつ割れ目をなぞる。指を食い込ませて、ユリの膣を探った。
「ひゃあっ!?」
初めて誰かに陰部を触れられるという経験。
それは、くすぐったいような、気恥ずかしいような言葉にし難い感覚だった。
いきなりのことだったせいか、ユリは驚きの声を上げ、緊張で身を硬直させた。
「ん? 濡れてんな……」
そして……
男の予想とは裏腹に、陰部はまだ解れてはいないものの、しっとりと濡れ始めているところではあった。どうやら、アンデッドでも何故か膣分泌液は出るらしく、もしかしたら膣分泌液ですらないかもしれないが男は少し安堵した。
指を擦り合わせれば、ヌルリと滑った。これなら、分泌液の量さえもう少し増えれば大丈夫だろう。
「御方様……ひどいです……」
反面、ユリが眉を八の字に下げ、小さく呟いて顔を背けた。表情はあっても、血が通っていないためか赤面することもないので、男はユリの感情が何であるか、どうにも判断に困る時がある。
何となくだが、羞恥で涙目になっていたように男には見えた。
「まぁ、そう言うな。いきなりだったのは悪かったが……ユリの体の機能がどこまで働いているのか、少し確かめたかったんだ」
「体の機能、ですか……?」
ユリが少し訝しげに男に確認した。
「アンデッドが皆、股を濡らすかなんて、確かめてみないとわからないだろう?」
「あっ……も、申し訳ありませんっ。そこまで考えておらず……御方様は……アンデッドのボクを抱くのは嫌ではありませんか……?」
投げかけられた意外な疑問にユリは焦った。身を捧げることを考えるばかりで、実際の行為のことまで頭が回っていなかった。
「嫌なわけないだろう。綺麗な体だ。何度でも抱きたいな」
「そ、そぅですか……」
ホッと胸の内に広がる安堵。嬉しそうに、しかし恥ずかしげに顔を背けた。
「ただもう少し、ほぐしておこうか。自分でイジったりしたことは?」
「あっ、ありませんっ」
「そうか。なら、経験は──まぁ、ないよな」
再びの質問にやや反発するように答え、そして心外だとばかりに少し不満そうに視線を強めた。ユリに血が通っていたら赤面していただろう。男はその言葉と仕草で答えを悟る。
「ユリはアンデッドだから、どうだかわからないが……痛みがあるかもしれない。初めては任せておくといい」
「は、はぃ……申し訳ありません、よろしくお願い致します……」
□
「あ、あ、あ、あ、あ、あの、御方様……こ、これは普通の行為なのですか!?」
男はユリの脚をM字の形に固定させ、腕で押さえ、閉じさせないようにした。自然とユリの股が強調される形になっている。
男の目に映るのは、白い肌に引き締まった臀部、薄い布地の黒のランジェリー。
ベッドに仰向けになっているユリは知的な銀縁眼鏡の奥で目を白黒させている。普段夜会巻きにしている髪が下ろされているとあってプライベートな印象が強く、また、ベッドに広がった黒の髪が扇情的だった。
「そうだ。誰もが通る道だ」
「そ、そうなのですか? ……あっ、まっ、まって──」
男はさも常識であるかのように答える。ユリの白い脚をスルスルと手で撫で、腿にまで至ると顔を寄せて触れた。ゆっくりと滑らせ、レースで透けた黒の生地に辿り着く。
「んっ」
鼻先でクロッチをつつき、鼻から空気を吸うと香水とはまた別の、複数のハーブや花の香りがした。恐らく、ユリはサシェとともにランジェリーを保管していたのだろう。
「や、こっ、こんな恥ずかしっ」
クロッチをグリグリと強めに鼻先で擦る。柔らかい花の甘く華やかな香りと、控え目なグリーンで爽快な印象のハーブの香りのブレンド。嗅ぎ慣れた匂いではないが、どこか男を安心させる香りだった。
そして、だんだんと女の匂いが強くなってきていることにも男は気づいている。
「ぁうっ」
敏感な部分に当たったのか、ユリがビクリ、と体を震わせる。その反応を見逃さなかった男は、確かめるように股を弄った。
初めての経験。羞恥で脚を閉じたくなる。しかし、ユリは忠実にM字を維持し続けた。言葉ではイヤと言いながらも、愛しい男の行為を許してしまっている。
「うっ……うぅ……」
股を弄られる度に一定のリズムで呼気が漏れ出、敏感な場所に触れる度にゾクゾクと背筋に震えが走る。
しかし、拒むことなく、ただただ与えられる刺激を受け止め続け、気がつけば黒のランジェリーには小さくない染みが出来ていた。
「ふぅ……ふぅ……」
荒くなった息遣い。当然のことながら、本来アンデッドのユリには呼吸すら必要ないのだが、彼女は大きく息を乱していた。
とはいえ、呼吸を必要としないのは通常の生活においてであり、戦闘の際には気を高めるために呼吸は必要だし、会話をするのにも肺は膨らませている必要がある。
この場で彼女が息を乱していたのは、混乱した精神や思考を落ち着けるため、息をすることで精神を落ち着けるリズムを作っていたからだろう。
「んっ……」
そんなユリを見た男は笑みを浮かべ、愛おしげに髪を撫でて彼女へと口づける。
互いの唇に伝わる柔らかな感触。
口づけを受け入れたユリの胸の内には、心臓を締め付けられるような、苦しいのに甘い、抗い難い衝動と身悶えしたくなるほどの心の高鳴りで満ちている。
ずっと慕っていた御方に抱かれている。ただ唇が触れ合っているだけで心は幸福感で満ち、脳がトロリと溶けるようで、何をされても簡単に許してしまいそうだった。
もしも心臓が動いていれば、破裂していたかもしれないと、ユリは真剣に思った。
「お、御方様……ボクばかりしてもらうわけには……」
「そうか? なら──」
二人は絡み合いながら、体勢を変える。手を取り、口づけし舌を絡ませ合った後に、男の指示のまま互いの位置を交換した。
男が仰向けに寝転がり、またユリが男の上で寝そべる形。それも男の眼前にはユリの臀部が極至近距離にくる位置。反対にユリの眼前には屹立した男の肉棒がある。
そして、先程との変化がもう一つ。ユリは銀縁の眼鏡を外し、素顔を晒していた。これから行う行為では、眼鏡が邪魔になると彼女が気づいたためだった。眼鏡はベッド脇のナイトテーブルに置かれ、男はそれを横目に少し残念そうな顔をしていた。
これから行うのは普段のユリであれば絶対に許さないだろう行為。しかし、尊敬し、愛する主に求められれば、その願いに応じない訳にもいかず──
ユリは内心でそう言い訳しつつ、行為の正当性を何度も自身に言い聞かせた。しかし、その行為を自身から望んだことでは無いと言い訳しつつも、確実にユリの心理には背徳的な興奮が植え付けられている。
ユリの眼前には猛々しい塔が立つ。初めてマジマジと観察する男根に彼女は息を呑んだ。はちきれんばかりに膨張し、筋が浮いている。性経験のないユリには、その状態が酷く辛そうに見えていた。
「お、お辛くはありませんか?」
「ん? ……あぁ、そうだなぁ。少し苦しい……早く楽にしてくれないか」
ユリが心配げに尋ねたのに対し、男はニヤリと笑いその心配を煽るようにして答えた。当然、男としては苦しいなどの感覚はないのだが。
「は、はい。ですが……お慰めしたいのですが……ボ、ボクに上手く出来るのかどうか……」
プレッシャー。知識、経験もないのに楽にして欲しいと言われ、真面目なユリは臆する。どうしたら……と、気後れし、今からでも眷族の彼女を呼んだ方がいいのでは──と思って口に出しかけ、すぐにグッと口を噤んだ。
彼女にまた御方を独占されるのは、嫌だった。本当ならば、自身の気持ちよりも、主を優先すべきという考えはあったが、今だけは……今だけはどうしても自身を見てもらいたかったから。
そんなユリの様子を見てか──
「俺はユリにして貰えたら満足だ」
と男は言った。
だから、気楽にしろ──お前がいいんだ、と。彼女は男のその言葉は聞いて泣きたくなった。そして、男の言葉は彼女に不思議な力を与え、新たな挑戦をする勇気を再び思い起こさせる。
きっと上手くは出来ないだろう。しかし、御方のためにと、心を込めてユリは全身全霊で向かい合う。
「──っ、はいっ! 精一杯、ご奉仕させていただきます……!」
「そこまで気合い入れるほどのことなのか……?」
顔に当たる肉棒からは熱を感じる。体温の低いユリからしたらとても熱く感じ、長く触れているだけで低温やけどしてしまいそうだった。
「そっ、それでは、失礼します」
緊張からか、ぎこちなく小さく咥えるように剛直へと口づけし、両手で優しく丁寧に上下に愛撫する。
拙いながらも一所懸命に口淫や手淫を始めるユリの姿に男は愛おしく感じた。
男もその姿に応え、眼前に広がる白い桃と唾液と愛液が混じり染みを作った股に再びむしゃぶりつこうとする。
ユリの臀部を掴み、黒のランジェリーを摘んでズラす。そこで顕になった女陰は澄ましたような表情のまま、蜜を溢していた。
そっと唇を女陰へと口を寄せ、舌で蜜を絡めとる。
「んんっ!」
先程よりも鮮烈な刺激。直に触れられている気恥ずかしさ。驚き、体をビクつかせたユリが悲鳴をあげた。しかし、男は驚きで反射的に逃げようとするユリの体を無理矢理に抑え込み、何度も割れ目に口づけ、蜜を啜る。
「は、はふっ……」
時には柔らかな大きなヒダを甘噛みし、ユリの肌を楽しむように丸い尻に手を滑らせムニムニと形を変えさせた。
性感を伴うマッサージのような心地良い快感の波にユリの口からは震えた吐息が漏れる。
与えられる刺激が気持ちよくて、触れられているのが嬉しくて、こんなことをしている自分が自分ではないようで恥ずかしくて。そして、そこでユリはハッとして気づいた。
自身が男から齎される快楽を、自ら求めだしていることに。
気がつけばもっと気持ちよくなりたい、男に気持ちよくして欲しいと自ら尻を微かに揺らしている。下僕としての立場を忘却し、また自分の快楽に没頭しようとしていた。
そんな卑しい願望を振り切るようにして、ユリは主への奉仕のため、口淫に集中した。
思い切りよく口を大きく開き、男の大きな男根を口へと収める。口の中でモゴモゴと舌をからませて、歯が当たらないように上下に扱いた。
幸福感。主への奉仕こそが彼女の存在意義であり、生の実感と喜びが得られる唯一の道。ずっとそう思っていた。
だが、こうして肌を重ねているともっと大きな幸福感が溢れ、充実感に満たされることを身を持って知った。
「んうぅっ!」
肉棒を頬張るユリの口から艶かしくも、くぐもった喘ぎ声が漏れた。
□
男はユリの女陰への口づけを止ませ、舌をくねらせて大きなヒダを掻き分け、小さなヒダを舌で滑らせて溜まった愛液を舐めとっていた。
そして、滑りの良くなった舌を伸ばし、膣の入口をグルリと一周、二周と舐め、暫くユリの反応を伺っていたのだ。
しかし、ユリは男から与えられる刺激に溺れないようにと、男根を頬張るのに没頭し始めていることもあり──刺激への慣れもあるだろうが、反応はやや緩慢になっていた。
ユリの反応を楽しんでいた男は、それを惜しみ、もっと喜ばせるためにと、どんどん過激になってゆく。
両の手で割れ目を開き、二枚の小さなヒダの合流点にある陰核を広げる。そのまま指をブイの字に作り、陰核を挟んで押し上げるようにしてズラした。
現れた小さな肉の豆。初めは、優しく舌先で突くように、次いで円を描くように優しく嬲り刺激し、ユリは弾けるような刺激に喘ぐこととなった。
「んうぅっ!」
ユリのくぐもった矯声があがり、刺激から逃げようとイヤイヤと尻が振られる。
それでも男はしつこくユリの陰核を舐る。舌で優しく押し潰し、擦り上げ、舌先でグリグリしてみたり、再び円を描くようにして焦らした。
先程のマッサージのような柔らかい刺激ではない強い刺激にユリは腰が引けたのか、はたまた女の本性が快楽に反応しているのか、腰が前後にカクッ、カクッと揺すられる。
男はそれを精強な腕で無理矢理に抑え込む。そして、男が陰核に吸い付き──
「〜〜〜っ!!」
ユリの下腹部が男の顔に押し付けられ、ギュッと尻の筋肉が固められた。ユリの尻が男の顔いっぱいにプレスされ、眼前が柔らかな白の塊一色になる。
何かに耐えるかのように身を固め……ガクガクと身悶えした後に脱力──フルフルと尻が震えた。
始めての絶頂。
ユリはたまらず口から男根を引き抜き、骨抜きにされたように脱力する。はぁはぁ、と荒い息をつき、ユリの口からは呆けたような艶のある声が漏れ出た。
「もっ……もうひわけ、ぁりましぇん……」
位置的に男から見えないユリの表情は眉尻を下げ、羞恥から顔を俯かせていた。顔色こそ変わらないものの、雰囲気は女の喜びを知った雌に近づいてきていた。
「気持ちよかったか?」
「わ、わかりません……ですが、からだが……」
「その感覚を覚え込ませるからな」
「……ぇ?」
絶頂を味わったためか、ユリの女陰はトロトロに濡れそぼっていた。しかし、それでも尚、男はユリに快楽を教え込むために舐陰で陰核を刺激し続ける。
何度も、何度も。
「あ、あっ、ああぁぁあぁ、だめぇぇぇ──」
余裕の無い矯声が部屋に響く。屈強な腕でガッチリと腰を固定され、ユリは逃げるどころか身動きもままならない。もはや、ユリに成すすべはなく──与えられる快楽をただ享受するのみだった。
□
「んっ、あっ、ぁひぃっ……」
合舐の形で執拗に責められ、ユリの体はどんどん敏感になっていった。
時折、フルフルと体を震わせ、痴態を晒す。男が下品な音を立てて吸えば、ユリは媚びを含む切なげな声を上げて反応した。
ユリも肉棒をモゴモゴと頬張ってはいるが、体に巡る快感に邪魔されて行為に全く集中することが出来ないでいる。よって、男からしてみれば多少の気持ちよさはあっても、射精感が得られるほどのものでは無く余裕があった。
だからか、少し悪戯したくなった。
「──なぁ、ユリは排泄しないのに何で尻の穴があるんだ?」
「ぇ……? しっ、しりませんっ……そんなっ、はずかしいこと、おききにならない、でくださいぃ……」
男はしょうもない問いを投げかける。それにユリが余裕がないながらも律儀にも答え、ふーん、と男は気の無い返事をした。
と、唐突に唾液と愛液で濡らした人差し指をユリの尻穴に少しずつ、ゆっくりと押し入れていった。
「えぇっ? あっ、そっ、そこはちがいま──」
ユリが違和感に静止の声を上げるも、男は構わずに穴をほじくる。汚れなどが付くことはなく、ただギュウギュウとキツく締め付けてくる。中は強い圧力があるがグニグニと柔らかい。当然だが膣の感触とは全く異なる。
「ううぅっ!? は、あっ、ぁ」
人差し指を尻穴に突き挿し、口では舐陰、陰核を執拗に捏ねる。もう一方の片手では腰を抑え込んだ。
一方のユリ自身も最初はささやかな抵抗をしていたものの、成すすべなく挿入を許してしまった。彼女としては拒否以前に状況が掴めていない部分があったのか混乱が大きかったようだ。
そして、だんだんと恥辱を受けていることを理解すると、肛門を指で押し広げられる感覚と異物感が気になりだし、してはいけないことをしているという背徳感と罪悪感が彼女を同時に襲う。
しかも、男の舐陰による陰核への刺激は強制的に彼女を絶頂へと押し上げてゆくのだ。
「ぁ……ぃや、……ぃや、あ、あああぁぁぁ──」
先程までとは異なる、より大きな快感の波が押し寄せる。ユリは同時に責められたことで、あっさりと絶頂に辿り着き、ビクビクと体を震わせて艶かしく喘いだ。
「あ……あ……ぁ……」
それはまるで、お尻で絶頂に達したかのようで、複雑な心境になる。お尻から感じる男の指は熱く、悶えるような快感を確かに伝え、ユリの中では未だに罪悪感と背徳感、そして興奮と快感がせめぎ合っている。
しかも、それが御方と慕い、尊敬する相手から受けたとなれば、喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、もはや自分がどんな気持ちなのかもグチャグチャだ。
「うぅっ……」
男が指をゆっくりと引き抜いてゆく──が、それすら快感を呼ぶ。罪悪感の残滓のせいか、ユリはボクは尻の穴で感じる変態だったのかと泣きたくなった。
男から降り、へたりむユリに顔を寄せて尋ねた。
「こんなこといきなりされて、幻滅したか?」
「えっ……あ、いえ、そんなことは……」
至高の御方に幻滅するなど有り得ない。しかし、ユリは男の顔がまともに見れなかった。尻穴と女陰を同時に責められ絶頂するという痴態を見られ、変態の気があると思われるのが怖かった。そのせいで嫌われるのが怖かった。
「喘いでいる姿、可愛かったぞ」
「すっ、すこし……てかげん、していただきたく……」
しかし、ユリの想像とは反対に可愛いと言われた。ユリは羞恥から俯く。
「ユリ……もっと悶える様を見せてくれ。一緒に気持ちよくなろうか、俺たちはきっと体の相性も良い」
「う、ううぅ……?」
断れる訳がない。その言葉は恥ずかしくも嬉しかった。こんな浅ましい女にも御方様は慈悲をくださる。投げかけられた可愛い、相性がいいという言葉が、ユリの心をどうしようもなく高揚させてしまう──
我ながら単純だとユリは男に向けて困ったような、喜ぶような、または媚びるような、いくつもの感情が入り混じった笑みを浮かべる。
男はその笑顔を可愛いと感じた。普段の仕事第一のできる女とは異なる、プライベートなユリのありのままの表情。妹達や友人達はおろか、誰にも見せたことのない、恋慕う男だけに見せる顔。
普段のユリからは見ることの出来ない、複雑な感情を顕にした顔は、とても人間味に溢れているように見えた。
□
ユリをベッドへと押し倒し、その肢体へと被さる。ルプスレギナからスイカと称された胸へと顔を埋め、男はユリの香りを堪能した。
そんな男の様に、ユリは心の底から湧き上がる喜悦を堪えきれなかった。
恋慕う御方が自身を求めてくれている。のし掛かる重みを感じると心身まで任せられている気がして、分不相応ながらボクが御身を守らなければという想いが強くなってゆく。それは母性なのか、承認欲求や保護欲の顕れなのか、彼女には判然としない。
豊満な胸に埋めた男の髪をユリは優しく指で漉くように撫でる。彼女や、彼女の妹達とは異なる髪質。太く、少しゴワゴワした、大人の男のもの。頭を動かす度にチクチクして擽ったくて、でも確かに幸せで、笑みが溢れた。
男が身を起こし、ユリへと何度目かの口づけを落とす。
血も流れず、汗もかかない、肌が白磁のように白いユリは、生命活動が停止しているため当然の如く体温が低い。触れ合う男の肌の体温は、ユリには高すぎ、まるでカイロに触れているかのように感じている。
別に火傷する訳ではないのだが、男が触れた場所はジワジワと熱が籠もっている気がした。それは心地良い温かさだ。生命を持たないアンデッドが捨ててしまった輝かしい生命の発露や、アンデッドが焦がれる生命への憧憬を思わせる。
「可愛いぞ、ユリ」
そっと耳元で囁かれ、ユリの背がゾクゾクした。
彼女は身を持って理解する。
のし掛かる重みが心身を委ねられているなどとの想像は間違いだったことを。ユリはその重しによって体の動きを支配され、心も服従したがっていることに気づく。心身が消えることのない隷属と忠誠の証を刻んで欲しがっているのだと。
男に漉かれた髪の一本までもが、触れられたことを喜んでいるかのようで、心が逸り、もっと触れて欲しいと、甘えるように自ら男の背に腕を回して抱き締めた。
そして目が合い、ユリは男と視線が重なり、初めて至近からまじまじとその瞳を見た。
男の瞳の中にあるもの、それはまるで闇の中に浮かんだ日蝕の如き輪。不死人にだけ現れるダークリングであり、いつか世界を闇に染める黒い太陽の象徴。
それが眷族の彼女が言っていた闇の王の証たる、昏い魂の徴。男の瞳を間近で見たユリは、自身の何かがその輪に引き込まれようとするのを確かに感じ、抗えない引力に目が離せなくなってゆく。
その瞳にある火の揺らめきは、それだけで負の熱量を発しているように思えた。闇の世界の存在であるユリにとっては、とても優しく、安心感を抱かせるもの。
幾許か、時を忘れてボーッと男の瞳の中で踊る火の揺らめきを見ていると、何故だか涙が流れた。
「ユリ?」
「あれっ……あっ、お、可笑しいですね、申し訳ありません」
男もユリも、流れた涙に驚いた。
彼女が安心感と共に感じていたのは郷愁。遠い過去への羨望。もう、帰ることの出来ない場所への心残りに近い感情。
つまりは、彼女の創造主であるヤマイコとの思い出を。記憶にあるヤマイコの姿を思い起こしていた。
今はもういないユリの創造主であるヤマイコ。ユリは彼女が何者よりも大好きだった。しかし、自らを創造した神であり、母のような存在の元へはもう二度と辿り着けないのだろう、と──
「……少し、やまいこ様を思い出してしまいました」
「やまいこさんを?」
暫くの間、男はユリを宥めるように腕を枕にするようにして抱き締める。ユリは涙をハラハラと零していたが、彼女が落ち着いた頃には少し気分が落ち込んだような顔をしていた。それは諦めの表情ともとれた。
そして、ユリは腕の中で男に尋ねた。
「……御方様はご存知でしたでしょうか? やまいこ様が御方様をお慕いしていたことを」
「ん? ……あぁ」
もう会えないと諦めていても、ユリの中では燻るような感情が残っているから。母の元に帰りたい。帰れない。母は何処にいるのだろうか。きっとボクの到底、手の届かない場所にいるんのだろう。そこにボクが行く資格はないし、しかも、その術すらないのだと。
そうした思いが消えてなくならない。
ユリが尋ねたのは、やまいこを思う気持を原点とした問い。
「そう、ですか……申し訳ありません。不敬かとは思いますが、どうしてもお聞きしたいことがあります」
男はただ静かにユリの言葉を聞いた。彼女はいかにも平静を装っていたが、男には未だ心が揺れているように見えた。瞳の奥にある燻り、ジクジクと胸を焼く苦しみの原因を想像出来たから。
「……御方様は、何故やまいこ様を伴侶としてお選びいただけなかったのでしょうか?」
躊躇いながらも口にした。瞳が揺れている。そこにあるのは葛藤。仕えるべき御方への不敬の意識と行き場のない感情の発露──両者がせめぎ合うも、ユリは問わずにはいられなかった。
ユリの言葉は続いた。彼女は答えを求めてはおらず、男に感情を受け止めて欲しかったのだろうか。
「やまいこ様が醜いとされるネフィリムだったからですか?」
「それとも、殴ってから考えるノウキンだったからでしょうか」
言葉が溢れる。何かに怯えるように震え、知らず涙がまた流れた。投げかける言葉に帯びている毒は罪悪感。刃を持った言葉が、ユリを自傷させ、男は腕の中にいるユリの感傷にいたたまれなくなる。
溢れ出でゆく記憶。
ユリがヤマイコに創られた日のこと。
妹達や同僚に初めて会った日を。
賑やかで楽しかったナザリックの日々。
ヤマイコとその友人達の談笑が。
いつものお茶会の風景の尊さ。
主のいない部屋の虚しさ。
数を減らしてゆく至高の御方々。
創造主であるヤマイコとの別れ。
そしてナザリックは火が消えたように静かになった──
悲しい……大切な存在が次々にいなくなり、皆、心に傷を負った。見捨てられたのかと思い、ユリは狂ってしまいそうだった。
「ボクは……もしも……もしも御方様とやまいこ様が互いの伴侶となれば、やまいこ様はナザリックを旅立つこともなかったかもしれないと……どうしてもそう思ってしまうのです」
だがそれは、もしもの話だ。
逆に言えば二人でナザリックを旅立っていた可能性だってある。そして、ユリの想いは男の事情や意思すら何ら考慮していない妄想でもある。
それが良くない類の妄想であることをユリはわかっていた。だが自身に都合の良い想像を止めるのは難しかったのだ。
「お二方がいれば……そうしたら、ボクはもっと……」
──幸せでいられたのかもしれません。
何故か涙が溢れて仕方がない。顔を歪めて、言葉を吐き出し、慕っているはずの男へ突き付けてしまった。
吐き出したその言葉に意味などない。しかし、ユリ自身、それがわかっていても、感情はもはや言葉を留めることを許してはくれないのだ。
「やまいこ様に……あの方にもう一度だけでも会いたくて仕方がないのです……」
──寂しい
それらが口にしてはならない言葉なのだとしても、ユリの口は今更止められないとばかりに、躊躇い、怖れながらも言葉を紡ぎ出してゆく。
そして……
「御方様も……いつかいなくなってしまうのでしょうか……?」
──やまいこ様のように。
怯え、大きな不安を孕んだ疑いの言葉。
吐き出してしまった後には、どうしてこんなことを口にしてしまったのかと、深い後悔の念が襲ってくる。
それは仲間たちから八つ裂きにされても仕方のない主を疑う言葉。忠誠を疑われて当然、普段のユリであれば絶対に選ぶことのないものだった。
「……申し訳ありません。ご不快にさせたことを心からお詫び致します。この処罰は如何様にでもお受けいたします。ですから……ですから……どうかボクたちをお見捨てにならないで──」
悲しみと寂しさを湛えた雫が流れ──
「んっ」
男はそれ以上、ユリが何か言葉を紡ぎ出さないように口を塞いだ。感じる温かさ。しかし、彼女は唐突の出来事に驚くばかりで、ジワリと沁みる、寂しさが少し癒やされたことには気づけなかった。
そして、男はゆっくりと悪しき呪いを上書きするように、新たな呪いを重ね掛け、言葉を紡いでゆく。
「見捨てたりしない」
「寂しい思いをさせて、すまなかったな……」
「安心するかはわからんが、俺は少なくとも会えなくなる場所に行く予定はないよ。今のところ」
男はその言葉をはじまりとし、彼女へと語りかけ始めた。
「ユリは寂しいと言うが、俺はやまいこさんに感謝しなくちゃならない」
何にだろうか。ユリはその続きを待った。
「ユリを創り出し、残してくれていったことにな。ユリがここにいなければ、こうして触れることは出来なかった。お前のような女に慕われるのは光栄なことだ」
ユリの体に触れる。男の触れたユリの肌は冷たく、体温を感じない。反対に、ユリが触れられた場所にはジワリと心地良い熱を伝える。まるで凍えた心身を温めるように。
「それに、俺はユリのことを好ましいと思っているぞ」
「っ!?」
抱き締めたユリの耳元で囁く。耳にかかる息のこそばゆい感覚に、ユリの口から驚きの声が出かかる。そして、遅れてその内容を理解した。
「ユリの料理が好きだ」
「長い黒髪が似合っているところが好きだ」
「その涼やかな心地良い声が好きだ」
「おっ、御方様っ……!? そ、そんな、突然何を……」
突然の言葉攻めにユリは目を瞬かせ困惑した。そんなあたふたし始めたユリが、男の目にはやはり可愛らしく映る。
続け様に囁かれた言葉の威力にユリの背中にゾクゾクと快感が走り、胸に風が吹き込んだように苦しくなる。
「メイド服が似合うところが好きだ」
「シミ一つない白い肌が好きだ」
「その大きな胸と引き締まった尻が好きだ」
「う、うぅ……はっ、恥ずかしい……」
あまりの羞恥に目をギュッと瞑った。これはどんな天国だ。もしかしたらアンデット特攻の攻撃で、これ以上、聞かされたら浄化してしまうのではないかと思った。
「やまいこさんが好きなところが好きだ」
「真面目で手際の良いところが好きだ」
「でも、脳筋で可愛らしいところも好きだ」
「あ、ありがとう、ございます……で、ですから、もう……もう……」
自分の中の何かが暴れ、弾けそうになって、頭を抱えようとしたが、その腕は男に無理矢理抑えられた。
「よく案じてくれるところが好きだ」
「何事にも全力なところが好きだ」
「仲間のために無茶をしたところが好きだ」
「〜〜〜っ!!」
延々と、ユリへと言葉を尽くし、ユリが声を出さずに悲鳴をあげる。
そうして──百の好きなところをユリに伝えると、言い終えた頃には彼女はしおらしく、神妙な面持ちになっていた。刺激が強くなりすぎたのか、ユリは瞳を潤ませて責めるように寄り添って横になっている男を見つめていた。
気づけば、彼女の心を覆う鬱々とした感情は晴れていた。
ユリも男が彼女を励まそうとしてくれているのだと当然気づいていた。ただ、その気持ちが嬉しくも、気を使わせてしまったことに申し訳なく思う。
「俺はやまいこさんの代わりにはなれないし、ユリもそんなこと望んではいないんだろうが、寂しさを和らげてやることは出来る」
「やまいこさんを想うのはいい。だが、悲しんだり寂しがるばかりなのはやめた方がいい。いつか、楽しかった思い出まで悲しくなってしまうからな」
「それと……何か勘違いしてるのかもしれないが、やまいこさんと俺は全くそんな関係じゃなかったからな。申し訳ないが」
「え?」
目を開き驚いた様子を見せるユリ。
「そ、そうなのですか?」
「そうだが? やまいこさんとの関係が友人から変わったことはないな」
男は不思議そうな顔で言う。モモンガから下僕達にはユグドラシルの記憶があるとは聞いていた。しかし、自身とやまいこのどこを見て、そのような噂になったのか理解出来ていなかった。
「で、ですが、やまいこ様とぶくぶく茶釜様との会話で、やまいこ様が御方様をお慕いしていると話しているのを聞いたことが……」
「んん? 慕っていたとは言っても、そんな雰囲気になったこともないしな……アレはどっちかというとなぁ……」
「?」
思い出すのは、オフ会の風景。やまいこにそういった内容の愚痴を聞かされ、冗談気味に誘われたことはあったが、他にアプローチらしいアプローチをかけられた記憶もない。
男はやはりユリの勘違いだろうと、一人納得する。
「うん……まぁ、あの時は酒も入っていたし、からかう気持ちの方が大きかったんだろう」
反対に、本当にそうだったのだろうか、とユリは眉を困ったように下げ、疑問に思った。ユリが創造主から引き継いだ感情には確かに男への好意があったし、お茶会ではそれらしき会話も聞いていたのに。
しかし、男はその好意をからかっていたのだと疑わない。他に否定できる材料もなく、ユリはモヤモヤしたまま口を閉じたのだった。
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