※この作品はR-18です。

オリ主探訪日記   作:mimick

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23.蒼の薔薇編※2

 漆黒のモモン達が先陣をきって悪魔の群れに飛び込み、その先に待つであろう魔皇ヤルダバオトの元へと急ぐ。

 

 そんな中、ラキュース達は残存していた悪魔の集団との戦闘が続いていた。

 

 先程の吶喊ではモモンの人外とも呼べる膂力やナーベやイビルアイの魔法もあり、悪魔の一団を相手取るのに戦力としては申し分の無いものがあった。

 

 だが、その3人を先に悪魔の首魁の元へと向かわせるためとは言え、切り札3人が一気に戦闘から抜けてしまうと、やはり苦戦は免れない。

 

 それどころか、モモン達が切り拓いたはずの道は小道や集団後方から新しく涌いて出てきた悪魔たちによって瞬く間に埋められてゆく。

 

 それはまるで、ヤルダバオトの元には先の3人以外、誰も通してはならないという命令でも働いているかのようであった。どうやら悪魔側もこの場所を簡単に明け渡すことはしたくないらしい。

 

 しかし、人間側も黙って涙を呑むばかりではない。この場所は広場に続く一本道でもある。目的地に至る最短のルートであるが故に、他の冒険者チームも付近の悪魔を駆逐し終えるとラキュースの元へと合流を果たしていた。

 

「膠着状態ね。この状態を打破したいわ。頼める? ティナ」

 

「了解」

 

 現状は合流した冒険者組が大通りに陣取る悪魔の集団に対して突破を図ろうとしており、乱戦、膠着状態。

 

 ラキュースとティナもまた、現状を打破するために攻めに加勢していたが、ラキュースが一計を図り、一時的に冒険者たちを後退させた。冒険者たちが後退したこともあり、悪魔たちの隙は塞がり、せっかく開けた活路は完全に埋まってしまったかのように思えたが──

 

「──ただのマジックアイテムだけど、こんな使い方もある《巨大焙烙の術》」

 

 ティナが陶器に火薬を詰めた焙烙玉を敵陣に向かって投げ──印を組むと投げた焙烙玉が二段、三段と倍々に巨大化してゆく。火のついた導火線が焙烙玉の内部にまで至ると凄まじい爆発が悪魔陣営を飲み込んだ。

 

 この一撃が再び突破口になる、と思われた。

 

 爆風から目を守るために腕を翳す。剣や槍、弓を携えた冒険者たちが悪魔の集団に対して、再び攻勢を仕掛けようと各々の武器を構え直した。

 

 爆風により舞い上がっていた土埃が晴れ、その陣容が明らかとなる。

 

 先ほどまで切り結んでいた、雑魚ともいえる悪魔──下等の魔鬼や地獄の猟犬はそのほとんどが排除され、今度は皮膚を全部剥ぎ取られ、代わりにヌルヌルとした黒い液体を付着させた人間のような外見をした朱眼の悪魔や、カエルと人間を混ぜ合わせたような外見の魂食の悪魔が前面に出ていた。

 

 両者とも先ほどまで相手にしていた悪魔とは比べるべくもない威圧感があり、冒険者の面々は迫る緊迫感に息を呑んだ。

 

 朱眼の悪魔の見た目の生理的な忌避感、嫌悪感もさることながら、魂食の悪魔にも内側から人間の顔を押し付けたような苦痛の表情をした顔が浮かんでおり、不気味さを醸し出している。それらは人や生き物の本能に訴えかけるような危うさを認識させる。

 

「みんな、呑まれないで! 《ライオンズハート/獅子のごとき心》!」

 

 ラキュースの支援魔法により、恐怖や不安に竦んでいた冒険者たちの心が再び沸き上がる。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 冒険者が勇気を奮い立たせて、朱眼の悪魔と魂食の悪魔に挑んでゆく。

 

 幸いと言えるかは不明だが、悪魔の数は先ほどよりも少なかった。数の利は人間側にあり、悪魔一体に対して、複数の冒険者がつけば確実にダメージを与えてゆくことが出来るだろう。

 

 自身も悪魔と戦いながらも、戦場を俯瞰しようとラキュースが周囲を伺う。

 

 冒険者の一人が魂食の悪魔の体表に浮かぶ人面の一つに剣を突き入れる。するとその人面は絶叫し、周囲へと甲高い声を響かせて消滅した。

 

 だが──魂食の悪魔が剣を突き入れたまま硬直している冒険者を赤い目で見やり、そのまま大口を開けて丸呑みにする。悪魔のその身に不気味な人面が一つ、数を取り戻した。

 

「ひぃっ」

 

 その周囲では、絶叫を間近で耳にした者は立っていることなど出来ないと、崩れ落ちて震えながら頭を抱えていた。絶叫にはどうやら生者の精神を萎縮させ悶絶させる効果があるようで、竦む人物は最早戦うことなど出来なさそうに見えた。

 

 

 向こう側では──中心部から流れてきたのか大型の犬を思わせる上位地獄の猟犬が猛然と駆け寄り、後衛の位置にいた冒険者に襲い掛かる。

 

 鋭い牙により、容易く冒険者の腕は貫かれ、食いちぎられた。それを目撃した仲間が駆け寄り、すぐに助けようとしたが、上位地獄の猟犬の口から漏れ出た炎の吐息が冒険者を飲み込み、人体を焼き焦がす。間に合うことなく、火達磨になって苦悶する様を目前で見てしまい、助けられなかった仲間の男は歯を堅く食いしばった。

 

 

 一瞬だけ影が差し、更なる敵の増援を予期したラキュースが空を見上げれば──そこには三メートル程の体高で、爬虫類の鱗に包まれた筋骨隆々の肉体に蛇のような長い尻尾、蝙蝠のような翼、山羊の骸骨の頭部には、ぽっかりと空いた黒い眼窩の中で青白い炎を猛り狂わせた悪魔が巨大な大金槌を頭上に掲げ振り下ろそうとしていた。

 

 間もなく、その鉄槌が下され──大きな衝撃波とともに粉塵が舞い上がり、ラキュースを毬のように吹き飛ばした。

 

「──げほっ……げほっ」

 

 咳き込む彼女が見た光景は、共にこの地獄を戦い抜いてきた同じ冒険者の戦友達が地に伏し、腹を鋭い鈎爪で貫かれ、苦悶の表情のまま息絶える姿。長い舌に絡めとられ、悲鳴を上げるも生きたまま丸のみにされる者の姿。飢えた獣に群がれ生き餌となった者の姿。嵐のごとき巨大な大金槌の乱舞、その嵐に接触してしまい体を抉られ、回避行動を取れないままに硬直、再び暴虐の嵐に直撃。弾け、ただの肉塊となった者の姿──

 

 

 こんなものは戦闘ではない。

 

 これはもはや虐殺ではないか。

 

 人とはこんなにも弱い存在だったのか。

 

 私たちは何のために命を懸け、文字通りすり潰してでも成し遂げなければならなかったのか。堅い意志があったはずだ。

 

 だが、その意味でさえ、理不尽に過ぎる暴虐の前には無意味に映ってしまう。ちっぽけに映ってしまう、と。

 

 人間は他種族に淘汰される運命にある、矮小な存在に過ぎないのかと、その光景を目にしたラキュースの胸に焦燥という名の靄がかかる。

 

 多人数で1体を相手取っているはずなのに、全く太刀打ち出来ていない。戦闘の意気は挫かれ、このままでは戦線が崩壊するだけだ。

 

「どうして、こんな……私たちはっ……!」

 

「ボスっ、一度撤退して、戦力を固めた方がいい。これを相手にするのは私達だけでは無理だ!」

 

 普段から冷静沈着なティナが焦ったようにラキュースの側に駆け寄り、冷徹に戦況を見極め退却を勧める。その言葉は、少なくともここを突破するには王国最強とも呼ばれる王国戦士長ガゼフの手が必要であると。言葉に出さずともラキュースには伝わった。

 

「でも、一度後退したらっ……イビルアイたちが最前線に取り残されてしまうわ! それに、いくら戦力を集めてもあれを迎撃なんて……」

 

 ──本当に出来ると思っているの? 

 

 だったら、このままいい様に嬲られるままに全滅を待つというのか。それとも、イビルアイ達を見捨てることも視野に入れて、一度撤退してでも戦力を集めなおし、総力を挙げて突破を図るか。

 

 いったいどうしたらいいのか……

 

 早急な判断が必要だった。

 

 

 ──はたと、表情を暗くして判断に思い悩むラキュースが何かの変化に気づく。ティナも周囲の違和感を落ち着きなく探っている。

 

 先ほどから少しだけ周囲が明るくなっているように感じたのだ。

 

 なぜ明るくなったのかと周囲を見回し、その原因に気づいたのだろう冒険者の一人が戦闘中にもかかわらずポカン、と空を見上げていたのを目にした。それにつられてラキュースも普段太陽を見上げるように空を仰ぐと──何もなかったはずの黒い空には明るく光る星があった。

 

 その星は太陽や月よりも地表に近い王都の上空の位置に浮遊しているようで、照らすという観点で言えば、おおよそ王都全域を範囲にいれることのできる高度にあった。

 

 突然出現したその星を見ていたのは人間側ばかりではなかったようだ。

 

 悪魔側もその星を見ては、困惑したり、より上位の存在に判断を仰ぐような仕草をしているように見受けられた。どうやら、星は悪魔側の仕業ではないらしい。

 

 ──そして、星から剥がれるように分かたれた一部が地表へと落下、その間にもいくつもの破片となって降り注いでゆく。

 

 降り注ぐ破片は彗星のように幾筋もの白い光の弾道を描く。それらは人間を害することはなく、落ちる対象を定められているかのように悪魔へとのみ落ち、悪魔たちを容赦なく貫いた。

 

 悪魔を貫いた星の破片は鋭利な断面をしており、光を反射していた。それらが地面に当たると更に細かく砕け、細かい破片となって散らばる。

 

「これは……結晶? イビルアイの魔法なの……?」

 

「違う……ボス、アレ」

 

 

 ティアが指差す先には杖を掲げたボロボロのローブを羽織った何者かの姿。フードを目深にかぶっており、顔を伺うことは出来ない。ラキュースにもその姿に見覚えはなく、先ほどまでの戦闘中にはなかったものだ。

 

 周囲が降り注ぐ結晶の雨に呆然としている中、その流星雨は悪魔の集団をどんどん減らしてゆき、朱眼の悪魔、魂食の悪魔、そして鱗の悪魔までもが狂乱の中、体中を降り注ぐ鋭利な結晶によって貫かれて地に伏す。

 

 残っているのは、明らかに格上と思われた黒い翼を持った高位の悪魔のみとなるが──

 

 

「助力、感謝します。先ほどの魔法は貴方が……? いえ、今はそんなことよりも……あの残った悪魔は明らかに格上です。協力してなんとか撃退しなければ……」

 

 ラキュースは先ほどの魔法が不明の人物によるものなのかを確かめようとして、すぐに今はその時ではないと思いいたった。

 

 事態は、恐らく目前の人物の魔法により好転した。ラキュースは心の中に生まれた絶望を拭い去り、この好機を逃すまいとした。

 

 その為には、この人物の協力が必要不可欠だ。

 

 対する不明の人物はその言葉にフードの中で眉を顰めた。

 

「下がっていろ。その勇敢さは認めるが、小娘にあの悪魔の相手は荷が重いだろ」

 

「こ、小娘ぇ?!」

 

「私達は蒼の薔薇」

 

「……そうか。どけ」

 

 低い声の様子から、どうやらその人物は男であるようで、然程年を食っているような声質でもないように思われた。

 

 それよりも折角の協力要請を一顧だにせず断られた事のほうが彼女たちにとっては重要で、挙句、小娘呼ばわりと来た。

 

 協力しなければあの悪魔の排除は困難であるのに、それを拒む。それに冒険者のトップを自負している彼女たちとしては、小娘扱いされて侮られるのも部隊を指揮しなければならない立場上で困る事だ。

 

 確かに、直前の戦闘においては不甲斐ない結果となり、犠牲者も何人も出ることとなった。その窮地を目の前の人物が苦戦していた悪魔の集団を一掃し、助けられたのだとしても……作戦の要となっているのは彼女達であることに変わりない。

 

 一方の男はというと……蒼の薔薇──はて、どこかで聞いたような……と一瞬だけ思案するような様子を傍目見せたものの、すぐにどうでもよくなったのか追いすがる二人の娘の言葉を切り捨てた。

 

「ちょ、ちょっと! あなたこの状況がわかってるの!? あの悪魔を協力して排除しないと……ねぇ、私の話聞いてる!?」

 

 結局、男は彼女達がいつだったか冒険者組合で見かけたアダマンタイト級冒険者であると気がつくことはなかった。もし男がそれを後々指摘されていれば、だって五人組じゃなかったし……とでも雑に答えていただろうか。

 

 確かにそこらの冒険者よりも動きは良かったが……100レベルのプレイヤーに見慣れた男からすれば、アダマンタイト級もミスリル級もどれも大差無く、似たようなものだったから。アダマンタイト級冒険者が実際にどれ程のものか、関心を持てないでいたのは仕方ない事だろう。

 

 男は姦しい声を無視し、杖を黒翼の悪魔へと向ける。

 

 その杖を向けられた悪魔は、泰然自若としており、怯む様子など見られない。むしろ何をしてくるのか、と此方の行動を待っているようにも見えた。

 

「アビスデーモンか……」

 

 男がそう呼んだ悪魔はアビスデーモンという存在らしい。確かに深淵という言葉が相応しい威圧感を発している。その実力こそ未だ伺えてはいないが、警戒することは当然だった。しかし、男が呟くように口にした言葉を耳にしたラキュースに疑問が浮かぶ。

 

 ──どうしてあの悪魔のことを知っているのだろう。まるで、以前にも相対したことがあるかのような言葉だ。

 

 

《クリスタルソウルスピアー/ソウルの結晶槍》

 

 男が小さく円を描くようにして杖を振ると、空中に現れた結晶隗が鋭いランスの形を取って浮遊し、待機状態となる。

 

《スワーリングソウルマス/渦巻くソウルの塊》

 

 結晶塊の槍をそのままに、再度、青白い光の宿った杖を振るう。すると、杖の先端から青白い光が塊となって放たれ──大きな渦を巻くように回転、光の帯を引きながら悪魔へと迫ってゆく。

 

 その魔法は、道の幅を埋め尽くすほどの広範囲に渡り、悪魔の回避行動を制限した。

 

 このままでは不可避と、悪魔が黒翼を羽ばたかせ範囲外となる空中へと逃げようとするが……男が悪魔に向けて小さく指を振ると、浮遊していた結晶塊の槍が高速で打ち出された。

 

 それは羽ばたかずとも鳥が滑空するように軽やかに。しかし、鋭く、敵対する存在の中心を貫くことを目的として生成された結晶槍の魔法には追尾性能まであるらしく、結晶槍を警戒し、羽ばたきながら大きく後退したアビスデーモンの後を追い縋る。

 

 その追尾を嫌ったのかアビスデーモンが手に持つ斧槍を側面から叩きつけると、結晶塊は小さな破片までに粉砕したが、飛び散ったいくつかの鋭い破片がアビスデーモンを傷つけたらしい──その筋骨隆々とした肉体には赤い線が幾筋も走っていた。

 

 それでも追撃の手は止まない──

 

《ホーミングクリスタルソウルマス/追尾するソウルの結晶塊》

 

 このまま逃がすことはしないとばかりに、男の背後に円状に現れた幾つもの結晶塊が弾丸の如き速度で次々と打ち出されては、絶え間なく彼の背後に生み出され続けている。見る人が見れば、それはまるでガトリングのように思えたかもしれない。

 

 さしもの高位悪魔も絶え間なく放たれる高速の弾丸には近づくことなど出来ず、飛び回りつつ、回避に専念しなければならなかったようだ。

 

「すごい……」

 

「水晶騎士槍に……結晶の雨……イビルアイの魔法に似てる、けど」

 

「えぇ……もしかしたら、イビルアイの魔法よりも強力かもしれないわ」

 

 小さく眉間に皺を寄せた。

 

 その魔法の威力は驚嘆に値するもの。明らかに尋常の悪魔とは思えないアビスデーモンという存在に対して、男の魔法はその効果を発揮した。仮に、イビルアイの水晶騎士槍をぶつけていたらどうだっただろうか。イビルアイには悪いが、ラキュースには通用している場面を想像することができなかったのに。

 

「本当に、いったい何者……?」

 

「……ボス。今は拠点の制圧を優先すべき」

 

「……そうね。私達は彼の邪魔にならないように回り込みましょう」

 

 男の謎めいた魔法など今は関係がない。驚きの連続で忘れていたが、今は作戦の只中。達成すべきは王都からの悪魔の排除、そのためにはあの悪魔を倒し、新たに拠点を占拠しなくてはならないのだ。

 

 

 □

 

 

 その後、男の猛攻に形勢の不利を悟ったのか、悪魔は一つの策を取った。

 

 戦場を移そうとしたのか、大きな黒翼を活かして暗い空高くへと躍り出たのだ。男もそれに続こうとフライの魔法で後を追おうとしたが、そこでラキュースから待ったがかかる。彼女としては今、稀少な戦力が離脱し、みすみす分断されてしまうのは避けたかったのだ。

 

 そして──男が後を追ってこないことを察すると、アビスデーモンはあっさりと拠点の防衛を投げた。

 

 あっさりと彼女達に拠点を明け渡したのは、彼女としても釈然としないものがあったが、そのお陰で重要な場所を人間側が押さえることが出来たのも事実。これで、仮にイビルアイたちが撤退する事態になったとしても、完全に孤立することは防ぐことが出来たとラキュースは一つ安堵した。

 

 しかし、あの黒翼の悪魔が再び拠点を奪い返そうと襲撃してくる事態も考えられる。そのためにも、拠点の再構築を急ぎ、最前線に位置する防衛ラインを万全なものとしなければならないのだったが──

 

「よぉ、ラキュース、ティナ。生きてたか?」

 

「ガガーラン!」

 

「青い忍者もいる」

 

「ティアも無事でよかった」

 

 新たな拠点となる場所には、防衛ラインを敷くための戦力が到着していた。

 

 新たな戦力とは、冒険者たちを支援する役割を担った本隊──後方支援部隊の面々。ガガーランとティアもまた、後方支援として配置されていたメンバーだった。

 

「しっかし、順調じゃねぇの。イビルアイたちはヤルダバオトの元に送り込めたし、最前線に近い拠点を得たことで悪魔どもを駆逐する冒険者たちの支援も容易になるしよ」

 

「……ここを制圧するのに、犠牲は大きかったけどね」

 

「多少の犠牲もなくこんな穴だらけの作戦、真っ当に成功できっかよ。むしろ、オメーらはよくやったさ」

 

 決して順調などではなかった。現に先程までは失敗することしか見えない未来を悲観して、絶望感がラキュースの心に広がりかけていたのだから。

 

 苦い顔でラキュースは反論を試みるも、ガガーランは良くやってると言い、平気な顔をして王女ラナーの立案した作戦を批判する。どうやら彼女は、配置された後方支援部隊が名ばかりのもので、本質的には有事の際に悪魔が王都中に拡散しないようにするための餌としての役目にあることがわかっていたらしい。

 

「……で、こんな無茶な作戦押し通しちまったラキュースに聞きたいんだけどよ。ありゃ、何モンだ?」

 

 ガガーランが鋭い目で指さす先には、多くの冒険者たちの中心として周囲に囲まれながらも、どこか浮いているボロボロのローブ姿の男。

 

 ガガーランが気にしたのは、その男が作戦説明の場にも、マジックキャスターであるというのに後方支援の部隊で見かけることもなかったことを気にしてのものだったのか。

 

 それとも、空高くから降り注いで悪魔を一掃してみせた強力な結晶の魔法や、悪魔の迎撃に協力している目的が何なのかが気になったのか。

 

 当の本人は有志の協力者を名乗ってはいても、周囲に容貌は頑として見せることはないし、名を名乗ることも無いようだ。丈夫さとはかけ離れたボロボロなローブをこんな場で態々身に着けているくらいだ。変人であることには違いあるまいが、奇異にも、怪しくも映っている。

 

「さあ? ……でも彼がいなければ、この拠点を制圧することは出来なかったわ。それに顔を見せないのも何か理由があるのよ、きっと」

 

「しっかしなぁ。どう見ても怪しくねぇか、ありゃ」

 

「裏のある匂いがプンプンする。暗殺者……忍者の勘は馬鹿にできない」

 

「確かに見た目は怪しいと思うけど……」

 

 ラキュースは反論する事も出来ずに口籠る。

 

「外見だけの話じゃねぇさ。出自もはっきりしちゃいねぇ。後方支援の奴等に聞いてみても、だーれも知らねぇんだとよ。衛士は勿論、神殿関係も、魔術師組合も、錬金組合もだ。……あんなタマ、いったい何処から現れやがった?」

 

「……それは……」

 

 確かに、あの人物の出自はラキュースも気にはなっていた。あの人物は蒼の薔薇の自分のことも知らないようだったから。

 

 ラキュースは王国では知らぬ者はいない貴族、アインドラ家の令嬢であり、蒼の薔薇は最も有名な冒険者チームの一つでもある。

 

 他のチームのメンバーも一癖も二癖もあるような者ばかりで奇異の視線が向けられることもあれば、彼女達の冒険や活躍は広く知れ渡っていることから尊敬と憧れの対象にもなっているのだ。

 

 それを知らない、という事は明らかにリ・エスティーゼに慣れた人間ではない事を意味していた。

 

「ついでに目的もな。俺ぁ、思ったんだが、もしかしてよぉ……情報が漏れて、アレが狙われてんじゃねーか? 仮に、エ・ランテルであったズラ何たらみてぇな危険な組織が狙ってっとしたら……」

 

「ガガーラン、ズーラーノーン」

 

「……」

 

 ガガーランの懸念は当然のことだ。この場にはある意味、選ばれた人員しか正式には動員されてはいない。それは、高位の冒険者、街を警邏する衛士、魔術師組合の魔法詠唱者、錬金組合の薬師ぐらいだということだ。

 

 ただ、有志の協力者も皆無では無い。炎の壁に続く道は完全に封鎖されている訳ではなく、何処からでも入れるようにはなっているのだが、明確な目的もなしに危険な領域に足を踏み入れる者などいまい。

 

 そう、例えば家族や恋人が今回の襲撃に巻き込まれて、救助を目的としている者など。

 

 ……しかし、男にはそんな焦燥の念も、誰かを探すような素振りも見られない。必死さもなく、ただ淡々と悪魔を処理しているように見えた。それを目敏く見抜いたガガーランはアレ──悪魔を召喚するアイテムが目的なのではないかと勘ぐる。

 

「……な〜んてな、流石に穿ち過ぎだ。オレとしちゃ、怪しかろうが、目的が何だろうが、悪魔どもをやっつけんの手伝ってくれんなら、何でもいいんだけどよ。……ただ、蒼の薔薇のリーダーとして、前線を預かる指揮官としては気にかけておいてくれや」

 

 そう言って、ガガーランとティアはラキュースの肩を軽く叩くと後方支援の部隊の方に戻って行ったのだった。

 

「ボス、どうする?」

 

「……ティナは一緒に来た冒険者達から話を聞いて貰える?」

 

「了解」

 

 ラキュースの指令を受け、ティナがシュパッと消える。

 

 この先の戦いでも、あの男が戦力の中核となる線は濃厚である。黒翼の悪魔が再び拠点を襲撃してこないとも限らず、戦力から遠ざけるなど出来るはずが無い。怪しい人物であるからと、今、敬遠する余裕はどこにも無いのだ。

 

 それならば──やはり確かめておくべきだろう、とラキュースもその場から移動したのだった。

 

 

 

「少し、話をいいかしら」

 

 男達が数人、宙に浮かぶ不思議な魔法の火を囲んでいる。その中には件の男もいるが、男の他にも顔を隠している者が数人おり怪しいことこの上ない。そんな集団に向けて、ラキュースは声をかけた。

 

 男達の顔が一斉に同じ方向に向けられ、ラキュースはジロリと見られた。

 

「……へぇ、冒険者のお嬢さん。俺らに何か用で?」

 

「用があるのはそちらの魔法詠唱者さんよ」

 

 ラキュースはローブ姿の男に声をかけたつもりだったのだが、返事をしたのはスキンヘッドの面長の男だった。面長の男もまた不思議な火を囲んでいたが、ラキュースが話し掛けたと言うのに矢鱈と態度の悪い座り方──所謂、ヤンキー座りを改めることもないでいた。

 

「……なんだ」

 

「旦那。相手は有名な冒険者で、しかも本物のお貴族様らしいって他の奴等から聞いたぜ。もちっと愛想ってもんを出した方がいいんじゃねぇのか」

 

 やはり顔も見せないまま、ボロボロのローブの男は無愛想に応えたが、面長の男はそれをニヤニヤと揶揄った。

 

「……あなた、少し黙っていて貰えるかしら?」

 

「おっと」

 

 面長の男はあまりラキュースが好ましく思わないタイプの人間のようで、彼女は冷たく言い放つと、それから視線すら合わせなかった。

 

「まずは、さっきはありがとう。お陰で重要な拠点を手に入れることが出来たわ」

 

 拠点を得ることが出来たのは男の魔法による助力があったからというのが大きい。まずは、その成果について彼女は感謝の念を述べる。

 

「──でも、あなたには忠告しに来たの。知らなかったのかもしれないけど、王国の命でここの指揮をとっているのは私」

 

 しかし、感謝の言葉の次に出たのは不穏なもの。

 

「あなたは先程、私の指示を無視して敵に攻撃を仕掛け、更には追い掛けて戦線を離脱しようとしたわね。それでは指揮下にある皆の足並みが揃わないし、混乱してしまうの。この場では命を左右する重大なことよ」

 

 ラキュースの視線は鋭い。厳しく男の行動が集団での規律を乱すものであることを指摘し、それが皆の命を危険に晒す可能性があったという。

 

「幾ら腕に自信があると言っても、今後、ここでは私の指揮下に入って貰う。それが出来ないなら、ここから先、戦闘には参加しないで」

 

 指揮を乱す存在であるならば、そもそもがいない方がマシだ。いちいち反発して、命令に逆らわれては作戦を遂行する事もできない。

 

 ──ただし、その言葉は建前であり、ラキュースの望む結果ではない。彼女の望む結果とは、優秀な戦力となる彼を自身の指揮下に収めること。

 

 だからこそ、初めに格付けを行った。感謝から始まり、間違いを指摘。自身の指揮下につく正当性を説く。この場で私の指示に従うことは正しいことだと。指示に逆らうことは正当性に欠くのだと。

 

「……」

 

「不満かしら? でも、道理よ。……正直に言って、あなたは怪しすぎる。私はあなたが何処の誰なのか、ここにいる目的も知らない。実は他国の人間で、危険な人物かもしれない。人を助けるフリをして、唐突に混乱に巻き込む狂人なのかもしれない。そんな人物を重要な作戦に組み込むのは本当は反対なのよ。それとも──あなたは聞けば答えてくれるのかしら」

 

 しかし、男は何も言わない。

 

 もしもこの場で指揮下につくことを拒むのであれば、それは人品に疑いがあるか、従う訳には行かない目的があるかではないかと暗に問いかける。

 

 ただ、ラキュースはもし仮にそうだとしても男の魔法という戦力が今だけは欲しかった。それだけ悪魔の相手をするのが厳しくなって来ているということだ。

 

 だから先に疑われていることを匂わせて、男の出自や目的を聞き出したかったのだ。

 

 相手が疑われていることに驚き、焦ることで出自と目的を吐けば万々歳。言えず、疚しい事があるようであれば、その目的を抑え込んだ上で駒として動かせるようにしなければならない。

 

「……」

 

 男はまたしても沈黙。あまりの無反応にラキュースもだんだんと苛立ってくる。

 

 つまりは、男はラキュースに明かせない目的を持っている可能性が高い。もしかしたら、ガガーランが言っていたように、悪魔が回収しようとしているアイテムの情報が漏れていた可能性もあるのかもしれない。

 

「……何も言わないのはどうしてかしら? 私をまだ小娘だと思って甘く見てるなら認識を改めるべきよ。これでもアダマンタイト級冒険者なの、死線を潜り抜けたことも一度や二度ではないわ。……素性や目的が話せないのなら黙って私の指揮下に入ると了承して。そしたら、余計な詮索はこれ以上しないようにしてあげる」

 

 先程よりも強い口調で言い放つ。何か反応してくれなければ、状況は悪くなるばかりだろう。

 

 もしやまだ舐められているのかと、私が上で、あなたは下であると告げる。そして、もしもの場合の逃げ道もちゃんと用意した。

 

「…………いいだろう」

 

「……そう、賢明な判断ね。あなたには悪いけど、また黒翼の悪魔が襲撃してきた際に相手をして貰うわ。勿論、出来る限り支援はするけど、先程みたいにまた私を小娘扱いしたり、指示を聞かなかったりしたら此方にも考えがある。戦場で混乱を招いた賊として、捕らえられたくはないでしょう?」

 

 ラキュースは強い眼差しで命令した。そして、この怪しい人物をすり潰しても問題ない戦力に位置づけ、最も危険な役割に充てた。その上で命令無視は許さないと脅迫を持って念を押したのだ。

 

 ──首筋の裏がチリリ、とざわめく。ラキュースにはその感覚に覚えがある。それは殺気。それも、リ・エスティーゼでも、そうそういない強者からのもの。

 

 焦りとともにバッと、殺気の行方を探れば、それは集団内にいた顔を隠した複数の冒険者らしき者達からだった。ある者は荒布でグルグルに顔を覆い、またある者はロビンフッドハットに似た鉄兜と黒革製の高い襟のベストで顔を隠している。他にも異国の頭巾を被っている者や黒いフードとマスクをした者などもいた。

 

 彼らは冒険者証こそ付けているものの、皆階級はバラバラで同一のパーティにしては一貫性がない。そして、冒険者組合で見たことのある者が一人もおらず、明らかに王都所属の冒険者では無かった。

 

 ──何者なの、彼らは……

 

 不安が過る。彼らからは、顔こそ見えないが確かにドス黒い感情の籠もった視線を確かに感じていた。

 

 

「──まぁまぁ、そんなイキんなって。生きてさえいりゃ、いつだってノーカウントってもんだろ? あんたがあまりに若々しいから旦那もついついそう言っちまったってだけさ」

 

 そこへ、ヘラヘラと薄っぺらい笑いを含んだ面長の男の言葉が挿し込まれた。小娘に小娘と言って何が悪いんだか──そんな嫌味が聞こえてくるような仲裁の言葉だ。

 

 ふと、周囲からの殺気が弱まり、ラキュースは訝しむ。

 

「……あなたは?」

 

 ラキュースは目を細めて、相手を観察する。そういえば、この人物も怪しいのだ、と。

 

「俺か? 俺はパッチ。鉄板のパッチでも、信頼できるパッチとでも好きに呼んでくれていいぜ。俺は不屈のパッチってのが気に入ってんだけどよ」

 

「……信頼できるね……そう、分かったからもういいわ」

 

 その名乗りに彼女は理解した。こいつは詐欺師に近い悪党なのだろうと。何が『信頼できる』だ。明らかに皮肉でしかないではないか。

 

「ウヒャヒャヒャヒャッ! ────なぁ、ところでよ、あんた聖職者か?」

 

 ラキュースの反応は、下品な哄笑で返された。

 

 そして、スン……と急に真顔になると、ガラス玉のような目をして問いかけた。

 

「……ええ、私は水神の神官でもあるけど。それがいったい何──」

 

「あ゛あァ? ……チッ……なんだ、ド腐れ尼かよ……俺は聖職者ってのが蛆虫よりも嫌いなんだ。お前ら、表じゃいい顔してても、どうせ裏じゃ悪どく儲けてるんだろ?」

 

「は?」

 

 訝しげにするラキュースが返答しきる前に、低い威圧感のある声が漏れ、大きな舌打ちが聞こえる。その後に怒涛の勢いで小馬鹿にした口調で罵詈雑言が並べたてられる。

 

 突然の罵倒に呆気に取られ、口が半開きとなった。というか、こんな下品な罵倒を受けたのは彼女は生まれて初めてだった。お転婆娘やら、じゃじゃ馬とはよく言われたものだが、まさかのド腐れ尼に蛆虫以下扱いである。

 

「……彼女は貴族なのだろう。貴族相手にそういう言葉は良くないのではないのか」

 

「ケッ……」

 

 ラキュースが何を言われたのか理解出来ず呆然としている内に、ようやくローブの男がまともに口を開いた。

 

「ハァ……貴女も、小娘という言葉が感に触ったのなら謝ろう。すまなかったな…………さぁ、用事が済んだのなら、指揮官がこんな所で時間を潰している訳にはいかないだろう。貴女には他にすべきことが幾つもあるはずだ」

 

 呆れたような、疲れたようなため息を一つ。それに続く、男の予想外にまともな言葉にラキュースの脳裏に嫌な予感が走る。

 

 ──あ、あら? もしかして私……対応を間違えたのかしら……

 

 表情が伺えないため如何とも言えないが、正体不明の男は傍目には冷静なように見えたが、その隣のパッチは未だに侮蔑の表情をこれでもかと顕にしていた。

 

 周囲の男たちも表向き何も言わなかったが、苛立ちや不信感を隠そうとはせずラキュースに向ける視線も険しい。

 

「オイオイ……善人ぶった上っ面に騙されんなよ。損をすんのはあんただぜ。聖職者ってのはどいつもこいつも皆そうだ……クソの癖にしぶといからよ。卑怯者共が……生きてて恥ずかしくないのかよ。死に腐りやがれ」

 

 昏い目だ。もしかしたら、パッチは過去に聖職者と何かあったのかもしれない。それこそ、聖職者全てを憎んでしまうような出来事が……

 

 ただ、もしもローブの彼がただの善意の協力者であり、何も反論しなかったことに真当な理由があるのだとしたら、ラキュースが並べ立てた言葉は卑怯者と取られても可笑しくない事だ。

 

 何しろ、ラキュースは最も危険な配置を脅迫でもって押しつけたのと同義であるのだから。

 

「落ち着け」

 

「相手は心の狭い売女だぜ? アンタが庇うこたねぇ。神がどうしたか知らねえが、祈りで幸せになったら、誰も苦労しねぇよ」

 

 そう言ってローブ姿の男は、ラキュースがパッチの視線から遮られるように間に立ち、後ろ手でパタパタと数回振った。

 

 それは早く行けという合図に他ならなかった。

 

 

 

「もう……なんなのよ……」

 

「リーダー」

 

 頭の可笑しいハゲから逃れ、もと来た場所へ戻るとそこには既にティナが待っていた。

 

「ティナ……それで、何か分かった?」

 

「一緒にここまで来た冒険者たちもやはり素性は知らなかった。だけど、興味深い話を聞けた」

 

 ラキュースが疲れたように、収集した情報の開示を促す。ティナはその様子に何かあったのかと訝しんでいたものの、彼女の興味深い話という言葉にラキュースが片眉を吊り上げたことで、一旦、違和感を流した。

 

「ここに来る途中までもう一人、修道女がいたらしい。だけど、仮面の悪魔の一体が待ち構えていて交戦状態に。その修道女は一人でその場に残ったみたい」

 

「一人で仮面の悪魔の相手を!?」

 

 声を上げて驚く。同じ蒼の薔薇の仲間の話では、仮面の悪魔は非常に強力な存在だと聞いていたから。ガガーランとティア、イビルアイが交戦したが、イビルアイが参戦するまではアダマンタイト級冒険者二人がかりでも苦戦していたと。

 

「……冒険者によれば修道女は悪魔の威圧にも動じることなく、舌戦ではむしろ優勢だったって。直接のぶつかり合いは見てないらしいけど、双方初対面の様子では無かったと何人かの冒険者が話してる」

 

「……彼らは以前に仮面の悪魔に遭遇していた……?」

 

 ティナは無言で頷いた。そして続ける。

 

「多くの冒険者が、何処かの神殿の聖職者だと思ってる。修道女もあのフード男の事を『先生』『尊き御方』って呼んでたって。それと冒険者本人達も何処で聞いたか覚えてないようだけど、修道女が『生命刈り』で、男が『尊き火の伝承者』とか呼ばれてるって」

 

 ──そして修道女が別れる際には、人を救って欲しいと請い願ったとか。

 

 修道女が先生や尊き御方と呼ぶ──それはつまり、あのボロボロな如何にもなローブを身に着けた男が、どこかの神殿関係者だということに他ならない。それも二つ名が囁かれるような高名な聖職者である可能性が高い。

 

 そして、ラキュース達のことをアダマンタイト級冒険者だと知らなかったのは、彼がリ・エスティーゼの聖職者ではなく、二つ名が届かぬほど遠方の他国の出身だったから──もしかしたら聖王国あたりから来たのかもしれないとラキュースは思った。

 

「何よ、あなたこそ聖職者なんじゃないの……」

 

 ラキュースはパッチから散々に罵られたというのに、男は自身が聖職者である事を明かしていなかったということに気付き、憮然とした。そしてその腹芸の出来に、確かに神殿関係者らしいわ、とも納得した。

 

「……リーダー。あと、気をつけるべきことがある。集団内にいた顔を隠した冒険者からは死臭がした。上手く隠してたみたいだけど、忍者は誤魔化せない」

 

「ゾンビとかのアンデッドだと言うの?」

 

「……わからない。でも、ゾンビにはあんな普通の人間のように思考して動く事は出来ない」

 

 

「はぁー……」

 

 わからない事ばかりだ。男の目的も出自も結局は予測に過ぎない。ラキュースは自身の失策を悟った。

 

 遠方では名のあるかもしれない人物にあんな失礼な物言いをしてしまったことに、大きなため息をついた。誤解していたと謝りにも行きたいが、男の近くにはパッチがいる。ラキュースが近づけば、また罵りが始まり、謝罪どころではなくなるだろう。

 

 それに、ティナの言っていた事も気になる。

 

 ──今は諦めるしかないわね……

 

 悪魔の襲撃を警戒している今、パッチを宥め、誤解を解き、更に事情を聞くために説得するのに割ける時間など彼女達には無かったのだから──

 

 

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