『──レイナース。生きて俺と一緒にいてくれないか』
落ちてゆく水底で、そんな声が聞こえた気がした──
夢を見ていた気がする。とても幸せだが有り触れた、愛する人と一緒に日常を過ごすという、そんな夢。たわいもない話をし、ふとした時に視線を合わせる。それでどちらからともなく笑みを浮かべる。そんな日常の夢。
幸せな気分が溶けてゆくような寂しさと共に目を覚ました。そこは見慣れたレイナースの自室だった。異常に重たく感じる上半身を起こし、昨日の出来事を思い出そうとして少し記憶が混乱した。何故なら、意識が途絶える前、私は最後に自身の首を槍で貫いた筈なのだから、と。
「私は……」
首筋を撫でて、貫いたはずの場所を確認した。そこには傷も何もない。その時に気が付いたのか、いつも指に嵌めていた指輪が見つからずに慌てて視線を巡らせた。それからすぐに、その指輪を同居人だった男へと返したことを思い出した。何もない指を見つめる。どうやら意識の混濁が続いているらしかった。
小さく息を吐いて、ベッド脇のチェストから白いハンカチを取り出す。最近はやめた筈の、昔からの習慣。チェストから取り出したそれを顔に当て、呪いを受けた部位から滲み出る膿を拭おうとした。しかし……
「……?」
顔に当てたハンカチの柔らかな感触がフワリと伝わった。それは指輪を着けていた時と変わらない感触。そこには水気を含み、べたつくような不快な感触はない。空白がレイナースの脳裏を過ぎる。思わずもう一度指を見て、それからそっと指で肌を触り、その感覚が確かであることを確認した。
コンコン、と自室の扉をノックする音が聞こえた。恐らく侍女の婆やだろうと思い、声をかけようとした。だが、そのノックした人物はレイナースの返事を待つことなく扉を開けた。
「ん……目が覚めたか。体調はどうだ?」
扉が開き──そこで顔を見せたのは同居人だった筈の男。ドキリ、と心臓が跳ねた。複雑な感情だ。また会えた嬉しさ。関係を終えた寂しさ。裏切られた悲しみ。殺意を向けたことへの後悔。嫌われることへの恐れ。そして、未だ消えることの無い愛情と未練。
男はそんなレイナースの様子を気にした様子もなく、ベッド上にいる彼女に近づくと、脇に置かれた椅子へと腰を下ろした。
「ど、どうして……」
男は彼女の記憶にあるいつも通りの顔をしており、態度もいつもと同じ。昨日の記憶にある亡者のような顔はしていなかった。
男から声を掛けられたものの、レイナースは何をどう答えたらよいのか分からなかった。まともに目を見ることも出来ず、視線を落とした。
レイナースは混乱した様子で、──ここにいるの、という続きの言葉も最後まで出てこなかった。
「出て行けって言われていた期限は、言われていなかったからな」
「う……」
言葉の意味を推察したのだろう男は、レイナースの心情などいざ知らず、そうあっさりと返した。だが、聞きたかった言葉はそうじゃ無い。レイナースは伝えたい言葉を言い出せずに詰まらせた。
「……まずは、昨日のことからか。話してもいいか?」
「……ええ」
男が言うには、やはり自害したのはレイナースの記憶の間違いではなかったようだ。彼女が自害した後、一先ず、怪我人の治癒をして場を治め、男がレイナースの遺体を引き取った。それから、ここロックブルズ邸に連れて帰ってきたのだそうだ。その際、血濡れで息絶えたレイナースを抱きかかえていたことから、屋敷にいた婆やや使用人達が大騒ぎになったとか。
何とか使用人達を宥め、レイナースの蘇生に取り掛かることが出来たのは、昨日の夜のこと。レイナースの蘇生を誰が行ったのかと尋ねると、男自身がしたらしい。
「そうですか……まさかとは思いましたが……あなたは蘇生魔法すら使えるのですね……」
「まぁ最高位ではないがな。蘇生の方法は幾つか持ってるよ」
「複数……」
その事実に呆れたような感嘆の声を漏らすレイナース。レイナースとて自身の呪いを解呪する為に多少は信仰系魔法を学んだ身。蘇生魔法を使用できる者が帝国にはいない事も知っている。そして、蘇生魔法を行使可能な者の影響力の大きさも。
「本当に……雲の上の存在みたいですね」
蘇生魔法すら行使可能で、仮想敵の中心人物の一人。加えて、自分では及びもつかない力を他にも持っている。一緒に生活していた身近な存在が、遥か遠くに感じてしまった。
「別にそんなことはないさ……まだ辛いだろ、もう少し寝ていろ」
「いいえ……まだ聞いてないこともありますから……それに、起きたら居なくなっていたでは後悔します」
「居なくならないさ。せめて横になるんだ」
男がレイナースの肩を押し、ベッドへと寝かせる。抵抗もなくレイナースは大人しく横になり、男は寝具を掛け直した。
「昨日は帰って来てからも大変だったんだ。婆やさんが卒倒してしまってな」
「それは大騒ぎになったようですね……」
「後で、顔を見せてやるといい」
それから暫し会話が途切れた。二人の間に横たわる気不味い静寂。その静寂をレイナースが打ち破った。男への問い掛け。それはレイナースがどうしても聞きたかったこと。
「……なぜ、私を生き返らせたのですか?」
「それは俺がレイナースと一緒にいたかったからだ」
その言葉にレイナースは少し期待してしまった。だが、急激に不安にもなる。
男のことは愛している。だが一方で迷ってもいた。レイナースは男に裏切られて絶望し、殺意を向けたのだ。今は殺意を捨てたとはいえ、その時の強烈な感情はレイナースの中に刻まれている。それはトラウマにもなり得る衝撃であり、心の傷とも言えるもの。また裏切られるかもしれないと思うと怖かった。本当に信じても大丈夫なのかと、どうしても疑心暗鬼になってしまうのだ。
それにレイナースは皇帝に仕える四騎士だ。皇帝が密かに敵対視する組織に所属する男の立場とは本来相容れない。皇帝に仕えながら男と暮らすなど出来る筈が無いとレイナースは思考した。
……男のことは愛している。でも不安になって逃げることを考えてしまう。レイナースは自分を守るために男とは一緒にいられない理由を探してしまっていた。
「わ、私は……」
「悪いが……レイナースはもう四騎士には戻れないだろうな。少なくとも」
「な、なぜですか」
しかし、レイナースが考えていた逃げ道は、男によって断たれようとしていた。
「同僚に槍を刺して、力を持った異種族集団の中心人物を殺そうとしたんだ。皇帝としても保身の為に四騎士の解任くらいは当然する」
「……」
男と一緒にいられない理由が一つ無くなった。今のレイナースは寄る辺のない女。社会との繋がりを断たれた存在は弱い。故郷は既になく、かつての急に野に放り出されたような心地。彼女には頼る対象が必要だった。
「というより、レイナースの身柄は現在、ナザリック地下大墳墓に所属する俺の元にあるからな。それは皇帝も認めるところ。皇帝としても生き返ったからって登城されてきても困るだろう」
周到、その言葉に尽きる。蜘蛛の糸で絡め取るように、男は初めから逃すつもりなど無かったということなのだろう。
「……私はどうあってもあなたを頼るしかない、ということですか」
「レイナースには悪いとは思うが……俺は欲しいものは逃さないつもりだ」
レイナースは退路を断たれ、諦めるように、呆れるように溜息をついた。そこまでされては女として覚悟を決めなければならないというもの。それに、強く求められるのは自尊心を擽られるような、悪い気分ではなかったから。
また裏切られるのではないか、という不安がないわけではない。ただ、ウジウジしているのもまたレイナースの性分ではなかった。
「……私は忠誠心の低い女です。出来る事も槍働きくらいしかありません」
「忠誠なんて求めていない。もうすぐ魔導国が建国される。忙しくなるからな、俺の側で手を貸して欲しい」
レイナースは初めて知ったが、アインズ・ウール・ゴウンが建国する国は魔導国と言うらしかった。魔導の深淵の探求、魔が導く国という意味では確かに合致しているのだなと彼女は思った。
「……もう一つ気がかりがあります。何故、最後のあの時、私に手を下してくれなかったのですか?」
それがもう一つの気がかり。
あの時、目の前の男はレイナースの覚悟を踏み躙ったのだ。憎しみ続けるくらいなら生を手放すという悩み抜いた決断。せめてこの先ずっと忘れられることのないよう、男に消えない傷をつける為の願いだったが、それを男は不意にしたのだ。
それはレイナースの好意と願望を無視した行為には違いない。だが……
「情の沸いた女を手に掛けるなんて、出来る訳ないだろ……それに、俺は元々皇帝と交渉してレイナースを連れ帰るつもりだったんだから……それが皇帝に会いに行った俺の目的だ」
「え……?」
「正直に言えば、あの時レイナースを治療することは出来た。だけど、それでは皇帝に、帝国に俺の、ひいては魔導国側の弱みがレイナースであると知られる可能性があった。そうなれば帝国はレイナースの離脱を認めず、身柄も渡さなかったかもしれない。だから、それだけは本当に悪かったと思っている……」
男はレイナースが自害などしなくとも身柄の譲渡を迫るつもりでいたらしい。その為の圧力であり、飴も用意していたのだから。あれだけ誘導すれば建前だけでも同盟国として友好を深める路線を取る可能性は高かった。その上で、皇帝との繋がりを作り、更に圧力を強めるつもりだったと。それもレイナースの身柄を手に入れた今では、最早どうでもよくなったのだが。
「そ、それならそうと初めから言ってくれれば良かったものを……」
「話をしようとしても拒絶して聞いてくれなかったからな……あの後、この部屋の前まで来て呼びかけたけど、ずっと部屋に引き篭もってただろ」
「……」
あの後、というのはレイナースが男に家を出ていけと言った日の事だ。彼女は一人絶望を背負い込んでいたかと思うと少し恥ずかしくなった。あれだけの秘密だ。話をするのにも準備が必要だったのだろう。それを彼女の方が焦れて爆発した。
「ただ、もっと早くに明かしていれば良かったというのはレイナースの言う通り……レイナースと過ごした日々は穏やかで、満ち足りていた。俺の間違いは何時までも居心地の良い場所に居座って、深まる関係を清算するタイミングを完全に見過ごしたことなんだろう」
「本当にその通りですね」
少し元気が出てきたのかレイナースはフフ、と笑った。それを見て男も笑みを浮かべた。
「……今思えば、初めて会った時からレイナースに惹かれてた。呪いを受けて絶望する中、解呪の為に諦めることなく足掻くその姿は尊敬に値する。見惚れたよ」
「その足掻く様は、さぞ滑稽に映ったことでしょうね……」
自嘲気味にレイナースが言った。
「まさか! その姿を見て気高い女性だと感じた」
「また馬鹿なことを……」
自尊心を擽られ、レイナースの頬に赤みが差す。
「前に両親を断罪した話をしてくれたと思うが……それだけレイナースが大きな愛を持っていたという事なんじゃないか。愛しているが故に、どうしても自身を見捨てたことを許せなかったんだろ」
男の記憶にある、レイナースとの会話。両親の断罪がどれだけ彼女を苦しめたのかは男には理解出来ない。だが、その後悔は何となく理解できる気がしたのだ。
そして今、男の肯定の言葉を聞いている彼女の瞳には涙が浮かんでいた。男はその涙をそっと拭う。
「俺は、その愛を向けられる存在は果報者だと思う。出来れば俺に向けて欲しいとも」
「……あなた、そんな気恥ずかしい事を言う人だったのですね。私は正直、重い女ですよ。いいのですか……?」
もちろん、と男がいった。それから場に沈黙が漂う。だが、それは気不味いものではなく、穏やかな空気だった。
「……それで、秘密はこれで全てですか? 包み隠さず話すなら今の内ですよ」
「う……あー、その……会って欲しい人が……」
男が動揺を顕にし、レイナースから顔を逸らす。それから言い訳をするように呟いた。
「ハァ……そんなことだろうと思いました。その褒め殺しも怒られたくないからですかね……あなたは女を見捨てられなさそうですから、私の前にも誰かがいそうだとは思っていました。……本当に欲張りです」
「誰かに渡すなんて考えたくもない」
子どもみたいな言い分にレイナースはおかしくなり笑った。元々、妾の文化には慣れがあるし、彼女の学んだ神殿の教義も産めよ増やせよに近しいものだ。他の女と上手く付き合えるかどうかは不安だったが、協力して男を支えるのは吝かではなかった。
「そうですか……分かりました。同じ人を愛した者同士、会って話し合ってみましょう」
「一人、癖の強い奴がいるから気をつけて欲しい」
「……一人? いるのは二人以上ですか」
「……はい。二人です」
男はバツの悪そうな顔をし、レイナースは深い溜息をついて諦めた。それでも関係を断つよりはまだマシかと。
「……全く、ヒモをしていたくせに。……分不相応とまでは言いませんが、しっかり甲斐性は見せてください。二人だけの時間はちゃんと作るようにしてくださいね」
「はい……!」
男はレイナースに宜しくお願いします、と頭を下げた。その姿はどう考えても昨日の化け物と同一人物には思えなかった。
□
「そうでした。お願いがあるのですが、鏡を持ってきてくれませんか。何だか顔に違和感があるような気がするのです」
「そう言うと思って、ちゃんと持ってきてる」
レイナースの目の前に、男から鏡を差し出される。
「見て驚くなよ」
男がニヤリと意味ありげな笑みを浮かべた。レイナースは恐る恐る鏡で己の顔を確かめ、目を丸くした。
「ぁ……」
そこには少し疲れた顔をした自分が写っていた。指輪をしていないのにも関わらず、そこには呪いの痕は何一つ残っていない。左右とも同じ、普通の肌をしている。呪いが跡形もなくレイナースの顔から消えていた。
しかし──レイナースは鏡を持ったままジッと鏡の中の自分を眺めているだけ。歓喜の声をあげることも、涙を零すこともしなかった。現実感がなく、呆然としているのかと男は思ったがどうにも違う。右の頬を確認し、左の頬を確認する。ただありのままの現実を受けているようにも見えた。
「顔の呪いが解呪されたんだぞ? 嬉しくないのか?」
「嬉しいですよ。でも、実際に呪いが解けてみるとそれほどでもありませんでした。それよりも嬉しいことがありましたから、解呪の嬉しさが半減したのかもしれません」
そういうものか、と男が呟いた。
顔の呪いが解けた喜びよりも、男とこれからも一緒にいられるようになった方がレイナースの心に響いたということなのだろう。それだけ、彼女の中での優先順位が変わっていたということの証だろう。
それからは男はレイナースの顔の呪いが解呪された経緯について話し始めた。
「蘇生時には解呪されていたんだ。恐らく、レイナースが一度死んだ事で呪いの効果が消えたんだと思う」
「……」
対象の死とともに呪いが効果を失うことはままあることだ。全てに当てはまることではないが、レイナースにかけられた呪いの場合はかつて彼女が狩った魔獣と同じく、
「これで呪いをかけた魔獣との縁は切れた」
「え、ええ……そうですか……」
レイナースは歯切れが悪そうに答えた。それから、男から視線を外して再び鏡を覗く。その鏡に写った自分の顔を見て、彼女は一つ溜息をついた。その溜息には様々な感情が篭っていたが、最も強かったのは無事に解呪を終えたことへの安堵。それから、大嫌いで憎んでいた筈の呪いに対する僅かな寂しさ。
そして、男の呪いを差し置いて、自分だけが解呪に成功してしまった虚しさも。彼女にとって呪いの苦しみは、男と共有する対象になっていたのだ。それがなくなった今、彼女には男と共有するものは何もない。それは、嫌だった。
「まぁ、これで顔をさらけ出して、やりたい事が出来るようになった訳だ。何をしてみたい? 前に二人で出かけたいって言ってただろ」
「え……そうですね……私はあなたがいればどこでもいいのですが。夏には北の海沿いの街が避暑に良いと聞いたことがありました。そこは一度行ってみたいとは思っていました」
男はレイナースの気持ちも知らないで、嬉しそうにしている。その顔を見るのが辛くなった。そんなことは有り得ないとは思いつつも、内心では自分だけ解呪に成功したレイナースを恨んでいるのでは、嫉んでいるのではという後ろ向きな考えが頭から消えてなくならない。
「そうか。暑い時期になったら行ってみようか」
「……はい」
そしていつか、男がレイナースから離れてゆく未来が彼女には容易に想像できた。呪いを持つ者と持たない者。両者は対等ではない。レイナースにとっての拠り所が男であっても、男にとっての拠り所はレイナースではなくなる。それは再び孤独になるという恐ろしい未来だった。
だから──
「あの……あなたの呪いを、少し私に逸らすことは出来ませんか?」
「は?」
レイナースは男に提案した。男の呪いの負担を少しでも軽くする為に、
「お願いします。私はあなたとの繋がりが欲しいのです」
「せっかく解呪できたのに? また呪われるってのか? また苦しみたいのか? 正直に言って、それは馬鹿な考えだぞ。俺を憐れんでの言葉なら今すぐ撤回しろ。そういうのは嫌いだ」
男が珍しく気分を害したかのような反応を見せた。それもそうだろう。男視点、レイナースが呪いの肩代わりを申し出たのが、男に対して憐れに思ったからであると考えたからだ。
「憐れみなんかじゃありません! 私はただ……あなたと同じ苦しみを背負いたいだけです」
「何で」
「……何でですって? あなたと生きていく為に必要だからに決まっているでしょう! 私の覚悟を察してください鈍感!」
レイナースの懸念に少しも気づいていない男は、逆に怒鳴られて目を丸くした。それから少しトーンダウンしたように声を絞り出す。
「えっと……すまない」
「……構いませんが。それで、出来るのですか?」
「出来なくはないが……俺と同じくアンデッドになるぞ。それに死にたいと思っても簡単には死ねなくなる」
あの時見せた醜い姿になるのだと男が脅しても、レイナースの覚悟は揺るがなかった。
「あなたと一緒にいられるのなら。それに、死ぬことが出来ない訳ではないのでしょう? もしもいつか、私が死にたくなったら、その時は今度こそ殺してください」
「そんなことできないな……」
レイナースが冗談を交えて返した。一度目でレイナースの願いを断った男だ。二度目があるとしても、きっとレイナースの願いを聞くことはないだろう。そんなことわかっているだろうに。
「……でもまぁ、そこまで言うなら分かった。呪いを分けるには少し準備が必要だ。それに
血の呪い。それはかつて男がクレマンティーヌに施したものと同じものだ。薪の王もしくは闇の王──最初の火に闇を見出したダークソウル/昏い魂を持つ者だけが許されるスキル。邪神殿の神官や信者の貴族にかけたような下位スキルによる『不死人化の呪い』ではない。魂を永久に縛り、支配する上位の『眷属化の呪い』。それは吸血鬼がしばしば用いるようなファミリアの呪詛とも言える。
しかし、男にとってそれは、嬉しいことでもある。血の呪いを施す相手は永遠を共に生きる伴侶だということに他ならないのだから。
「なら、はやく体力を戻さないとな。やっぱり少し寝た方がいい」
「分かりました…………抱きしめていてくれたらちゃんと寝られると思います」
「……わかった」
何を甘えたことを、と言いそうになったが、ここ最近は別々の部屋で寝ていたので人肌恋しいのだろうと考えた男は、仕方ないといった様子で横になるレイナースの隣に潜りこんだ。
そして当のレイナースは男の側面から抱き着き、男に言った。
「我慢出来なくなったら、してもいいですからね」
「……病み上がりというか、死に戻り後なのに流石にしないよ」
「いいんです。ここ数日は大きすぎるストレスで全くしてませんでしたから。そのせいか今も少しムラムラしています」
「いや、やめとけ?」
いつもの調子に戻った彼女に安心した男は苦笑いを浮かべた。それから二人の顔が自然と近づいていく。そして二人の影は重なり、一つとなった。