歯車の狂った世界【2次創作短編集】 作:堀 吉之助
きっかけは些細な事だった。
遠月学園は沸き返っている。今年入学した生徒のみで争ういわば新人戦、「秋の選抜」が開催されているからだろう。それは一流の料理人を目指す者たちの登竜門である遠月学園での最初の格付けとも言われている。
ここで優勝するものが未来の王者ともいえるかも知れない。
しかし、敗者は数多くいる。入学した生徒は世間一般から見れば才能あふれる者たちばかりである。しかし、その中でも優劣はあり秋の選抜に「出場すること」もできないような者は山のようにいる。
その日。廊下を歩くとある男子学生たちはいらいらしていた。彼らも遠月の生徒であるが、既に秋の選抜の選考にもれてしまったのだ。彼らは出場できる者たちの名前を口々に言い合い、その文句を言う。何故があいつらが出て、自分が出れないのかと息巻いている。
要するに傷の嘗めあいであった。
広がって歩いている上に話しながら歩く彼らはとても危ない。殆ど周りに注意を払っていないのである。だから、集団の端に居た坊主頭の学生がどん、と他の生徒の肩にぶつかってしまった。
「いてーな。気を付けろ!」
坊主頭が吠える。悪いのは彼だが、そんなことは斟酌しない。周りの仲間たちも彼に合わせるように「端を歩け」だとか「邪魔なんだよ」と叫ぶ。別に相手を見て行っているわけではない。単に共鳴しているだけである。
相手を見ていればそんなことは言わなかったのかもしれない。次の瞬間には坊主頭が廊下に倒れた。悪態をついた相手から突き倒されたのだ。
「いてぇ。な、なにしやがる」
「邪魔なのはあんたらなんじゃないかい?」
坊主頭の前に立っている彼女は彼をゴミでも見るような目をしていた。短く切った髪は、艶やかに紫がかっている。切れ長の目と整った顔立ちをした彼女。シャツに皺とシミもなく、ネクタイを締めた背の高い凛々しい少女。
坊主頭には直ぐに誰か分かった。
「ほ、北条……」
知り合いではない。北条 美代子と言えば一年の間だけでなく、彼の十席の一部からも知られている中華料理のエキスパートである。運悪く彼らはその北条に絡んでしまった。彼らにもチンケなプライド程度はある。
「何すんだよてめぇ」
「肩をぶつけてきたのはあんただろ、どうせ選抜にも漏れて」
チラリと北条は男達を冷たく見回す。興味なさげな顔は氷のようだった。
「息巻いてたんだろうけどねぇ。迷惑にならないところで慰め合ったらどうだい」
心底どうでもよさそうな声でしっしと手を振る。彼女から見れば彼らなぞ虫けらよりも価値がない。しかし、男子学生たちの小さなプライドは怒りを持って反発した。
「なんだとてめぇ」
「まぐれで選ばれたからって調子乗ってじゃねぇぞ!」
「どうせ、てめぇなんて本戦にも行けねぇんだ。予選で終わるだろ」
北条の眼がキラリと不敵に光る。彼女は適当に近くにいた金髪の学生のネクタイを掴み引き寄せる。凄まじい力で引き寄せられた金髪は悲鳴を上げた。北条は情けない彼の目の前で言う。
「言ってくれるじゃないか。アタシが本戦にすら進めないだって?」
「……そ、そうだ。す、進めたら、さん、ぱ、ぱんつだけで三回回って犬の真似だってしてやるよ……」
か細く、言う。他の男子も「ど、土下座だってしてやる」だの「なんでもしてやるよ」といらぬことを口走ってしまう。単に北条に負けたくない一心で言っている負け犬の遠吠えである。北条はますます面白そうに。
「そうかい。じゃあアタシが進めなかったら今言った事全部するんだね」
「て、てめぇがま、まけたらどうすんだよ……」
もう泣きそうな金髪である。ぎりぎりとネクタイを締め付けられている。北条の整った顔立ちが不敵に微笑む。
「ありえないけどねぇ。本戦にすら進めなかったらアタシがやってやるよ」
ぱっと離す。金髪が崩れ落ちてげほげほとせき込む。北条は踵を返す。そして捨て台詞を言う。
「犬の真似でも練習しとくんだね」
男子学生たちは暗い気持ちになった。優勝ならともかく予選で彼女が負けるとは思えない。それぞれが肩を落として、一部始終を見ていた周りの学生からの冷笑が心にしみるほど、悲しかった――
数日後。
「それじゃあ土下座しようか」
何十とある遠月料理用の教室の一つで下卑た顔の坊主頭が言った。彼の手にはビデオカメラがある。
「く、……っ」
RECと共に画面に映るのは座り込んだ麗しい少女。秋の選抜の予選すらも突破できなかった負け犬、北条 美代子であった。彼女は男達に囲まれて床に座っている。顔は屈辱にまみれ、唇をこれでもかと噛んでいる。それでも睨みつける眼光は強い。
北条は裸だった。紅いパンツを一枚だけ穿いてその生意気に大きな胸を手で隠している。白い肌と豊な肢体。女子高校生としてはかなり大柄な彼女も服を「剥いて」しまえばよい鑑賞物である。
「ほらほら、ごめんなさいはどうしたよ」
「てめぇがやるって言ったんだろ、ああ?」
調子に乗った男子学生達が北条の頭の上でミネラルウォーターのペッドボトルを傾ける。無論北条はずぶ濡れになる。肌にしっとりと水を付け、髪が濡れて下を向かざる得ない敗北者。男子学生達は完全に興奮している。あの金髪も調子に乗って。
「はは、所詮女なんて口だけだな」
「……!」
ぎり、と唇をさらに噛む北条。それだけは言われたくない言葉であった。彼女は肩を震わせて、腰をゆっくりと曲げ、
「おらぁ。手をつけよ。床に」
さらに挑発が重なる。北条は震えながら両胸を離す。ピンク色の先が彼らに見えた。歓声が上がる。北条には屈辱の極みである。彼女は両手をついてから額を床に突ける。
「ごめんなさいは?」
「……ご、め。ん、な、さ、い」
怒りに震えた声で北条は言う。土下座は全て録画されている。金髪は後ろから彼女のお尻を軽く蹴り。
「おら、じゃあ三回回ってわんって言えよ。ろ、録画してやるよ」
「下種が……」
「勝手に自分もやるって言ったのはてめぇだろうが。てめぇが勝ってたら俺たちがやるはめになってたんだぞ、わかってんのか美代子」
「名前を気安くよぶんじゃないよ……」
はあはあと荒い息を吐く男子学生達。北条は胃が痛みそうなほどの状況で、まだ自分の危機を本気で感じ取れていない。金髪は「なまいきなんだよ」と呟くと後ろから抱き付いた。そして胸を掴んで揉む。大きなそれが柔らかく手で踊る。
「離しなっ!」
北条は振り払おうと動く。怪力を持つ彼女が暴れれば金髪などひとたまりもないだろう。しかし、それに辛抱できなくなったのか取り巻きも彼女を抑え込もうととびかかった。多勢に無勢である。
とたんに抑え込まれ仰向けに寝かされる豊穣。周りを血走った眼をした男子達に囲まれている。胸を隠すものはない。金髪は自分のズボンを脱いで、自分の男根を出す。北条は睨みつけながらも両手を別の者に抑えられている。まるで万歳の様な格好である。
強姦であった。股を開かされた北条の下着の隙間から金髪が挿入する。それから獣のような声と涎と汗を出しながら。北条を犯す。
「や、めろ。……ぬ、ぬけ」
哀れに胸を揺らしながら犯される勝気な彼女。誰かに唇を奪われ、声すらも発することができなくなる。
「ん、んん。ん」
「みよこぉ」
「やわらけぇよ」
「ふざけんなよ。こんな胸、しやがって」
「お、とこにかなうわけねだろ」
囲まれて輪姦される彼女の心が少しずつ、崩れていく。
二時間後、犬のように四つん這いで歩く姿を録画され。ずっと脅され続けることになる。