準決勝、第一試合。
かたやアフリカ、ジャングルの王者ターちゃん。
こなたユンケル帝国国防軍戦士カシオ。
どちらも目立つ戦いをしてきたので、観客は大いに盛り上がっている。
観客達でもはやいつも通りの感じで見守るヂェーン、こうが、エテ吉。
ポテトチップを頬張りながら試合開始を待っているヂェーン、彼女へ二人の大男が話しかけてくる。
「隣いいかい、ヂェーンさん」
「あっ、あんた達は」
スキンヘッドと、タンクトップの男。全米1の悪役レスラー、“狂える猛牛”の異名を持つバックス・ベイカー。元マーシャルアーツスーパーヘビー級チャンピオン、ラリー・スコットの二人だ。
「あっそーか、二人とも予選落ちだっけ」
「「……言わんといて」」
容赦なくストレートに言ってしまうヂェーンに落ち込む二人。けどその通りなので言い返せず、ここに来た目的を伝える。
「まあ飛行機の中で会った縁だ。ターちゃんの応援に来たんだよ」
「そういやプロキオンにやられたナパも目を覚ましたそうだぜ。格闘家は無理だろうが……ターちゃんに頑張れよ、だってさ」
「あらーありがとう二人とも。以外にいいやつじゃなぁ~い」
応援が増えた所で闘技場に目をやる。
東側よりまだ片手片足に包帯を巻いたターちゃん。
西側より既に筋肉を肥大化しターちゃんより大きくなったカシオ。
二人が中央で向かい合う。
「いいかカシオ! 足を攻めるんだ、そいつは片手片足が使えないままだ!」
「はい」
「……ふむ」
西側にはいつもマハラー・ポポの側で観戦しているマハラジャがいる。カシオのサポートに指示を伝えている。
それを見ていたターちゃん。何を思ったのか、左腕の包帯をほどき始める。
「包帯がうっとーしいや」
「な、なんだと! 傷が!?」
「化け物かあいつは!?」
撃たれた筈の傷が塞がっていた。驚きを隠せないカシオ、それにマハラジャ。これぞ超人的な身体能力。回復能力を持ったターちゃんのなせる技。右足も包帯を外すと治った足がある。
これで、ターちゃんは全力で戦える。
「父さん……!」
「さあ、やってやりなさいターちゃん」
「か、構うなカシオ! 叩き潰してしまえ! 相討ちでもターちゃんを亡き者にしろぉ!」
「はじめっ!!」
「ぬおおらぁああ!」
試合開始、先手はカシオ。豪快な右ストレートがターちゃんに繰り出される。
「はっ!」
「ーー何ィ!?」
「「「と、跳んだっ!?」」」
そう、ターちゃんは跳んで回避。それも10メートル近く!
あまりの高さに全員が言葉を失う。
「ムササビ飛び~」
「「「金玉の皮で降りてきたーっ!!」」」
「ふざけた真似を!」
確かに降り方はふざけているが……。
そこからは違う。
着地と同時、地面を蹴りターちゃんはカシオに肉薄。その速さを、カシオは捉えられず一瞬で距離を詰められたようにしか見えなかった。
「は、速すぎる! これがターちゃんの全力なのか!?」
「ターちゃんパンチ!」
「ぐっ! このぉ!」
「ほっ、ほりゃ!」
「おらおらおらおらおらおらっ! おらぁっ!!」
「ふにふにふにふにふにふに~っ! ふにっ!!」
「出たっ、父さんのふにふに避けだー!!」
「「うわー……気持ちわりぃ……」」
カシオのパンチラッシュをふにふに避けで回避するターちゃん。距離を取るが頬に一発かすっているのに気づいた。
「やるなお前。私にかすらせるなんて」
「ちぃ、なめるな!」
帝国の戦士として負ける訳にはいかない。このままでは勝てないと踏んだカシオは、早々に切り札を切る決意をする。
「ぬあああああああっ、ハアアアアアアッ!!!!」
ボコン、ボコン、ボコンッ!!
「筋肉が膨れ上がった!」
「しかも前より大きくなったわ!」
「よしカシオやってしまえ! あと5分だ、畳み掛けろ!!」
「……はい」
ステロイド投与によって強化されたカシオの筋肥大。それによって今のカシオはターちゃんより三回りは大きくなる程のスーパーマッチョとなった。パワーは以前の1,7倍、筋肉強度は1,6倍と数値上では大きくパワーアップした。しかしパワーアップの代償として、肥大化し過ぎた筋肉に体が、靭帯や腱がついていくことが出来ない。
5分。それがパワーアップしたカシオが戦える、ギリギリの時間。
「おらあああっ!!」
「ふっ! ーーえ!?」
カシオの右ストレートを屈んで避けたターちゃん。
だと思われたが。
避けた筈なのに、右頬から血が流れ落ちた。
「うおおおおぉぉぉぉ!! ぜあああっ!!」
「くっ! う!?」
上体を反らしてパンチを回避。
ーー出来なかった。ターちゃんがの胸にパンチの跡が、大きな切り傷として刻まれた。
ターちゃんでもかわしきれない程、カシオはパワーアップを果たしたのだ。
「まずい、父さんが!」
「ターちゃん、落ち着いて! 落ち着いて戦いなさい!」
「食らええっ!!」
カシオが大きく左腕を振りかぶってくる。腰を入れた大きな一撃。
対し、ターちゃんも拳で攻勢に出る。振りかぶり、腰を入れての右ストレート。
カシオの左、ターちゃんの右が交差。
叩き込まれたのは、果たして!?
「ぐぼっ……!」
「クロスカウンターだーっ!」
「ええどターちゃん! こりゃ大ダメージじゃ~い!!」
絶妙のクロスカウンターがカシオに炸裂。石床へ吹き飛ばした。
普通なら、これで決まる所。
だが、
「ううぅぅぅ」
「カシオが起き上がったぞー!」
「すげぇぜアイツ!」
筋肉強度1,6倍は伊達ではなく、ターちゃんのパンチすら耐えきった。
今度は、カシオの攻撃だ。
「うりゃあああ!!」
「ぬっ、うわーっ!?」
直前の攻防では決まらなかった左の一撃。ターちゃんは十字受けで防御した、しかし防ぎきれない。筋肥大した筋肉よる体重差。防御姿勢のまま、ターちゃんは空中へ吹っ飛んでいった。
しかしそのままやられるターちゃんではない。空中で体を縦に回転、捻ってカシオと向かい合う姿勢で着地。直ぐに攻撃を迎え撃つ態勢を整えた。
「カシオ、あと4分だ急げ!!」
「は、はい……!」
「ならば、こちらも」
カシオのパワーの凄まじさをその身で味わったターちゃんは、戦法を切り替える。正面から打ち合う正攻法ではパワーでねじ伏せられる。
ならば、スピードで翻弄する。
ひざまずく態勢を取るターちゃん。それを見てヂェーンとこうがが叫ぶ。
「父さんの動物パワー! また動物が乗り移るんだ!」
「今度は何がくる!?」
「はあああっ……てやあああーーーっ!!」
「「速い!」」
「カンガルーキーック!!」
「「だあっ!! カンガルーかよっ!?」」
見た目は可愛いカンガルー、だからといって侮ってはいけない。キック力は食らった人間の内臓が破裂することもあるくらい強力。跳躍で出すスピードは時速70㎞にもなる。
カンガルーのスピードで駆け回り、そのスピードを活かした一撃によるヒット&アウェイでカシオを翻弄するターちゃん。
「何をしているカシオ! 時間がないんださっさとやっつけろ!!」
「ちょこまかとーっ!」
「ぐうっ!?」
ターちゃんの一撃をカシオはパワーで受け止め、肩を掴んで逃げられなくする。そのまま首に手を回しホールド。ヘッドロックで絞め落としにかかる!!
「そのまま首をへし折れぇ!!」
「あぶないターちゃん!!」
「父さーん!!」
誰もが息を呑んだ、その瞬間。
カシオの巨体が、持ち上がり。
弧を描くように体が舞い。
顔面から、石床に叩きつけられた。
「がああああっ……」
「あの態勢からバックドロップだと……」
「なんてやつだ、ターちゃんってのは」
「そりゃそーさ。パワーはともかく、テクニックじゃあターちゃんが完全に勝ってる」
「げっ、お、お前は!?」
バックス・ベイカーが乱入してきた声主に、思わず立ち上がってしまう。ヂェーンの隣の隣、座っているのはゼブラちゃんちゃんこりんマン。なんでここに、という驚きと同時に、バックス・ベイカーを倒した相手でもあるからだ。
そんな謎のマスクマンに、こうがが躊躇いがちに聞く。
「あのー貴方やっぱり……アナベベさんですよね?」
「はっはっは、何を言う。誰かと勘違いしてないかい君」
「あっ、あのゼブラちゃんちゃんこりんマンですよね!? 私ファンなんです、サイン下さい!!」
「あぁいいよ」
何の冗談だと笑うゼブラちゃんちゃんこりんマン。そのまま、ファンの女性にサインを書いてやるファンサービス。
「ありがとうございま……アナベベ?」
「おいマスクマン。本名書いてどないする」
「やっぱアナベベさんじゃん」
「ま、それだったら納得よ。ターちゃんの親友よ、これ」
「そりゃ強い筈だぜ……」
「おい、それより見てみろ。カシオの奴を」
闘技場の中では、どれだけターちゃんに殴られ、蹴られても向かっていくカシオの姿がある。顔は勿論、筋肥大した巨体もあらゆる部分が切れ血を流し打撲だらけ。そんなボロボロでも、ターちゃんへ立ち向かっていく。
「すごい。何度も向かってくるファイティングスピリッツ、感心なのだ」
「だ、まれ……俺は……帝国の……戦士カシオだ……っ! 敗北は、許されない……!!」
上段蹴りを放つ。ターちゃんが回避して、鳩尾にボディブローが決められる。
「ぐううううっ……!」
「馬鹿者が手間どりおって! 急げと言っておるだろうがっ!!」
うずくまるカシオの痛みなど露知らず、さっきから言い放題のマハラジャ。急激な筋肥大による負荷。蓄積されたダメージによって、カシオはもう限界であった。
攻撃は全てが読まれ、かわされ、反撃されてしまう。
ストレートにフック、蹴りあげがカシオに突き刺さり、何度も何度もダウンする。
「お、おのれええええ……」
「むっ」
「調子に乗りやがって!!」
なんとしてでも一撃を入れる。カシオが大きく左腕を振りかぶり、ターちゃんを殴り付けようとした。
ぶちり
「ぐっ、ぐあああああああああああ!!」
「!?」
カシオの左腕の付け根と肩の間、皮膚と腱が裂けた。大量の血が溢れ出て、肩をおさえ膝をつくカシオ。
激戦によって、予想より早くカシオの体が限界を迎えてしまったのだ。
これにはターちゃんも驚いて、動きを止めてしまう。
「ちぃ、こんな程度で限界か!」
「ぐううううっ、くそぉぉぉぉ……!」
「お、おい。大丈夫なのか」
「ぐうぅ……た、ターちゃん俺の負けだ。止めをさせ。こんな情けない姿、帝国戦士としてあるまじき姿だ……」
「そんな。どうしたんだよお前」
明らかな異常に戸惑うターちゃん。
カシオの方は、醜態を晒してしまい止めを差すよう言う。カシオは戦士、誇りある戦士だからこそう言った。
だがそんな状況にも関わらず、自分勝手な奴の大声が闘技場に響く。
「何をしているカシオ! 立て、ターちゃんを打ち倒せ!!」
「あいつは……確か、マハラジャ」
「くそが……こんなんで、戦えというのか、きさま」
「お前の体にどれだけ金をかけたと思っている!! たかが腕が使えないがなんだ! 腕がダメなら足を使え! 足がダメなら噛みついてでも殺せ! お前は私が作った戦闘マシーンだ!!
ーーそれさえ出来ないと言うなら死ね!! 役立たずが!!!!」
「ーー最低の人間だな、お前」
バキッ……!
「ぎゃっ……」
「あぁっ!」
「だ、大臣を!」
「ぎゃああああ~っ! いたい、いたい~!!」
余りにも自分勝手なマハラジャに、キレたターちゃんがマハラジャを殴り飛ばした。
「そ、それまで!」
「これは……不味いぞターちゃん」
「ジャングルの王者ターちゃん反則負け!」
「何やってんだ野蛮人が!!」
「相手間違えてんじゃねーぞ!!」
歓声はブーイングへ早変わり。ターちゃんは周りを銃を持った憲兵四人に取り囲まれる。
「ジャングルの王者ターちゃん。第一級暴行罪で逮捕する」
「そんなっ、父さんが!!」
「ターちゃん反則負けより、勝者カシオ!」
「な、なんだと……?」
勝者となった血まみれのカシオはあんな試合だったのに何故という表情。
ターちゃんの方は、憲兵に連行されていく。
「い、いったいどうなっちゃうの……!?」
ヂェーンの言う通り思わぬ結末となってしまったターちゃんのトーナメント。
果たして、ターちゃんの運命や如何に!?
ーー次回。ユンケル帝国編、最終回。
こうが
「次回予告!
大臣を殴ってしまい父さんは失格。牢屋に送られてしまう。
このままカシオが優勝したらマハラジャの野望通りになっちゃう!
決勝で戦うカシオの相手はマスクマンのアナベベさん。
最後の希望はアナベベさんに託されます!
次回、ジャングルの王者ターちゃん~新ファミリー物語~
第10話 決着、オープントーナメントの巻
第一部最終回、お楽しみに!」