準決勝が行われた夜。
大臣を殴ってしまい失格になってしまったターちゃんは地下の牢屋に入れらていた。
鉄格子の前には殴ったマハラジャが、ニタニタとした笑みで冷たい床に座るターちゃんを見下ろしている。
「くくく。感謝するぞターちゃん、お前が殴ってくれたお陰で、どうな形であれカシオが決勝に進めた」
禍を転じて福となす。この大会でバイオ戦士を全て倒す可能性があったのはターちゃんただ一人。そのターちゃんはトーナメントから消えた、明日カシオが決勝で勝ち優勝すれば、マハラジャの野望が現実となる。
「これで我がバイオ戦士計画は決まったも同然じゃ、ガハハハハハ」
「そんなこと、させるものか!」
マハラジャに反抗し鉄格子を握りしめるターちゃん。その体に電流が迸る、鉄格子に電気が流されているのだ。
「ぐぬぬうううう!」
「ふん、所詮野蛮人め」
電流がながれるにも流れるにも関わらず、ターちゃんは鉄格子を握り続ける。
体が焦げても。
ちょろちょろと失禁しても。
「おやおや失禁まで。鉄格子を離せば電流も流れんというのに」
ちょろちょろと。
「まあジャングル育ちだからなぁ。そんなものも理解できんとは。ガハハハハハハッ!」
ちょろちょろちょろ……。
つん。
「お前も痺れろやーーーーっ!!!!」
「あばばばばばばばばばばば!!!?」
「大臣ーーーーっ!!」
「国王様! 父さんを牢屋から出してください!!」
国王の自室では、ヂェーンとエテ吉と共にこうががマハラー・ポポへ直談判
に来ていた。内容は言わずもかな、ターちゃんの解放。
けれどもマハラー・ポポは首を横に振る。
「無理だ。大臣を殴ってしまったのを大勢が見ている。それに、今この国で最高実力者はマハラジャなんだ。いくら私でも無理なんだ……」
「あんた国王じゃないの! もっと自信もったらどうなのよ、ターちゃんだってあんたが連れてきたんじゃない!!」
「キキキ!(そうだよ!)」
「……私の身も知らないで言ってくれる。明日のトーナメントでカシオが勝ってしまえば、マハラジャの発言力は更に大きくなる……そうなったら、国王でも口出しができなくなってしまうだろう……」
「ふざけないでよ!! それでいいもんか!!!!」
弱気なことを呟くマハラー・ポポ、それを聞いて怒鳴り付けるこうが。
相手が国王だとか、知ったことではない。ターちゃんが、父がどうなるか分かったものではないのに、弱音を吐く相手が許せなかった。
「あなた国王なんでしょ!? 一番偉い人なんじゃないの、もっとしっかりしろよ!!!!」
「黙れ貴様! それ以上の暴言は許さんぞ!!」
警護の人間がこうがとマハラー・ポポの間に割って入る。これ以上は本当に不味いのでこうがをヂェーンが止めるが、気持ちはこうがと同じでマハラー・ポポを睨み付けている。
「もういいわこうがちゃん、行きましょ。こんな気弱が国王じゃあ、あんなちょび髭大臣に好き勝手されても仕方ないわ」
「貴様ら、下がれ!」
警護に追い出されていくヂェーン達。
部屋に残されたのはマハラー・ポポのみ。一人になった部屋で、彼の中にこうが達の言葉が反響する。
自分だって、国王らしく振る舞わなければいけないのは分かっている。自信のなさが態度となって出てしまい、マハラジャの野望を許してしまった。
「分かっている、分かっているんだ……」
ガン、と壁を叩く。
自分は国王。王の血をひき、先代から王を受け継いでこの国をおさめていかなければならないのだ。
「そう簡単に自信が持てれば、苦労せんわ……」
小さな王の胸の内は、誰にも聞かれることなく、消えていった。
翌日、決勝戦。
トラブルはあれどトーナメントには毎回と同じく観客がぎっしり座り歓声を飛ばしている。
この決勝戦の結果が大いに関係するマハラー・ポポとマハラジャも同じであるが、一つ違うのはマハラジャがマハラー・ポポと同じ高さで座っていて葉巻まで吸っていること。
もうカシオが勝ってバイオ戦士プロジェクトが進むのを確信した余裕か、国王と同じ権力を持ったと思っているのか、はたまたその両方だろうか。
まるで全てに勝ち手にいれたかのようなふるまいだ。
「ぐふふふ」
「(マハラジャめ……)」
結局何も出来ず、マハラー・ポポは拳を握りしめる。こうなっては奇跡でも起こらなければ、マハラジャを止めれない。
そう考えていると、闘技場では選手が出てくる。
決勝戦まで勝ち残ってきた強者二人。
まず現れたのは、シマシママスクマンのゼブラちゃんちゃんこりんマン。彼はマハラー・ポポを見るなり頭を下げひれ伏した。
「(礼儀正しい者だな)」
「あ、やべ……ちんこがケースに……」
実際は賞金で愛人も手にいれれると思いもっこりしてしまっただけなのだが、知らぬが仏というやつである。
「頼むわよーアナベベ。あとはあんたに優勝してもらうしかないわ……」
ターちゃんが出なくてもこも試合は見なくてはいけない。観客席にはヂェーン、こうが、エテ吉。プラス、バックス・ベイカーとラリー・スコット。
「ヂェーンさん、そのアナベベってのは強いのか?」
「強いわ」
迷わずヂェーンは答えた。
昔、ターちゃんとアナベベが一度だけ戦ったことがある。
結果は引き分け。
ターちゃんと引き分けたのは、後にも先にもアナベベただ一人。
「だが相手がカシオだからな……厳しいだろうぜ」
「アナベベさん……」
ゼブラちゃんちゃんこりんマンとは反対側の通路。
そこを歩き決勝の場へ向かうはカシオ。裂けた左肩の腱は手術で完璧に繋げられた。筋肥大も問題なく使える完璧な体だ。
一歩一歩進んでいく。
そのカシオの中では、新たな思いが目覚めようとしていた。
カシオはユンケル帝国の戦士である両親の間に生まれ、戦士の姿を見てきた彼は自分も戦士になると決めていた。
強くなる為。国を守る為。それらを胸に戦ってきた。
だから、マハラジャの思惑であるこのトーナメントなど、あまり良く思っておらず戦うしかなかった。
だが、ペドロやターちゃんといった強き相手。
マハラジャの汚さを改めて思い知り、カシオは思い出した。
自分が何の為に戦うのか。何故戦うのかを。
「カシオが出てきたぞーっ!」
薄暗い通路から太陽に照らされた闘技場へ出る。
「なあっ、なんだと!?」
「あれは!!」
カシオの姿に、マハラジャが。マハラー・ポポが。ゼブラちゃんちゃんこりんマンに観客も驚いた。
筋肥大を……していない。
元の小柄な肉体で、決勝に姿を見せたからである!
「ゼブラちゃんちゃんこりんマン。これが私の本来の姿だ。帝国戦士として、この体でお相手する」
「ーー流石、誇り高き帝国の戦士だ」
それに応えるかのように、ゼブラちゃんちゃんこりんマンも動いた。
名前の通りシマシマのマスクを脱ぎ、素顔を晒す。
実は、このマスクには意味がある。
「俺はアフリカ、ウポポ族の戦士アナベベ。部族の掟により、敗北は死を意味する。故に、全力でお相手する」
「感謝する」
お互い全身全霊をかけた戦い。
それに望む男達の姿に、マハラー・ポポは圧倒され、同時に心へ深く響く“何か”を感じた。
「(あの者達は……この戦いに全てをかけている)」
「決勝戦ーーはじめっ!!」
「ハアアアアアアアアッ!!」
「うおおおおおおおおっ!!」
「こうがちゃん、よく見ときなさい。二人の戦いを」
「アナベベさん。カシオも、全力で……戦ってる」
「それだけじゃあないわ。二人はもっと大きなものの為に戦ってる」
「それって……?
「ーー戦士としての、誇りよ」
「……戦士の、誇り」
正直、今のこうがにそれがどんなものか分からない。
でも、それがとてつもなく大きいもので、アナベベとカシオという男は、それに命を懸けているというのは伝わってきた。
男と男。魂と肉体をぶつけあうこの戦いを、こうがは絶対に見逃さないと、その目に焼き付ける。
「なっ、何をやっているかカシオー!! さっさと筋肥大せんかぁ~!!」
一方で、往生際の悪いやつもいる。
最初の余裕は何処へやら、取り乱しカシオへ叫びまくっているマハラジャ。
が、カシオへは聞こえない。聞こえたとしても聞く気などない。
カシオは本来の肉体で。アナベベは素顔で戦い続けるのみ。
「でやああっ!」
「ぐううっ!」
体格ではアナベベの方が大きく、殴られ、防いでも吹っ飛ばされるカシオ。それでも小柄な体で攻撃を掻い潜り、全身のバネで跳躍し膝蹴りをかます。そこからアナベベはカシオを捕まへヘッドロック。
「ぬおおおおおっ!」
「うおおおおおお!」
激しい攻防。一進一退が繰り返される。
しかし、やはり体格に差があり、徐々にカシオの方が押されていく。
「か、カシオめ頭がおかしくなったか! おい、執行部に連絡しろトーナメントは中止じゃ!!」
「はっ、直ちに」
「ならぬ」
「えっ」
「このまま続けよ」
部下に命じてトーナメントそのものを止めようとするマハラジャ。カシオが言うことを聞かないならもういい。優勝が出来なくともこのトーナメントでの結果を議会に伝え、無理矢理にでもプロジェクトを実現しようとしていた。
それに待ったをかけたのはマハラー・ポポ。部下が戸惑うが、マハラジャが唾を飛ばして命じる。
「ええい、いいから早く行かんか! これは国防大臣であるわしのーー」
「余はユンケル帝国38代目国王マハラー・ポポである」
歓声の中、その言葉はしっかりと響き渡った。ずっしりとした重み、威厳ともいうべきものを纏っていて、それにマハラジャと部下は硬直してしまった。
「どうした。余の言葉を聞いていなかったか。このままトーナメントを続けよ」
「はっ、ははっ!!」
「(な、なんじゃこの小僧……急に、雰囲気が変わりよった……)」
今までの気弱な態度を微塵も感じさせない、まさに『王』としての姿。
変わりように困惑しているマハラジャへ、国王マハラー・ポポは言い放つ。
「大臣。このユンケル帝国の国王は余だ。貴様ではない。これまでのように、でかい顔が出来ると思わぬことだ」
「ぬぐっ……~~~~~~っ!!!!」
国王マハラー・ポポには覚悟を。こうがには戦士の誇りを感じさせる決勝戦も、終わりへ近づいていた。
体格で有利に立ち、主導権を握ったアナベベが怒濤の攻撃をカシオへ食らわせる。カシオも負けじと反撃していったが、猛攻を防ぎきれず、もう立っているのがやっと、という状態になっていた。
「まだ……まだだ、まだ……負けん……!」
「ふんっ!」
「がっ………………」
首筋へのチョップ。カシオの意識を刈り取り、そのまま倒れた。
ーー決着だ。
「それまで! 優勝はアフリカ、ゼブラちゃんちゃんこりんマン!!!!」
「よしっ……」
ワアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
歓声が爆発。優勝したゼブラちゃんちゃんこりんマンを称え拍手喝采が鳴り響く。男と男の、戦士の誇りをかけた戦いは、見ていた全ての人々に勇気や希望を与えていった。
「やった! アナベベーよくやったわぁー!!」
「カシオもすごかったぜ!!」
「二人とも、よくやったぞー!!」
「すごいっ……アナベベさん!」
それは、牢屋の方でも。
「よっし! 流石アナベベなのだ!」
こうして。ユンケル帝国でのオープントーナメントはアナベベさんの優勝で終わりました。
1000万ドルという大金はアナベベさんのものに。
その後、アナベベさんの優勝で父さんは解放されて、バイオ戦士プロジェクトは取り消しになり国防大臣マハラジャはその責任追求と色んな不正がバレて大臣を辞めたそう。マハラー・ポポ国王は王として国をまとめていき、カシオさんは帝国戦士として引き続き国王に仕えているそうです。
僕もあの後、マハラー・ポポ国王に暴言を吐いてしまったのを謝って許してもらえた。
「何もかもめでたしめでたし、だね」
「うん!」
「……そーかしら」
帰りの飛行機の中。ポテトチップを食べながら、何故か不機嫌な母さん。
「あ、ヂェーンさん。これ俺の自家用機だからね、あんま汚さないで」
「へいへい……」
あ、そーだった。
1000万ドルを手にしたアナベベさんは早速、宝石やら高級腕時計、ジェット機まで購入して一気に大金持ちになったんだ。この飛行機もアナベベさんの自家用ジェット。
アフリカに戻ってからは車や屋敷を買い、会社も設立する気らしい。
元々1000万ドルは母さんが狙ってからねー複雑だよね。
ーーとにもかくにも。
ユンケル帝国でのオープントーナメントはこれにて終わり。
そこで学んだのは父さんやペドロさん、アナベベさんの戦う姿。そして戦士の誇り。
まだよくは分からないけど、いつか僕もその戦士の誇りというものを胸に、父さんのようになりたいと思う。
その為にまず帰ったら体を鍛えないと!
△月14日、晴れ、こうが
ジャングルの王者ターちゃん~新ファミリー物語~
第一部、ユンケル帝国編。
ヂェーン
「いやーなんとか第一部。ユンケル帝国編が終わったわぁ」
こうが
「ここアニメだとカットされてるんだよね。アナベベさんがお金持ちになる経緯も違うし」
ヂェーン
「アニメだとダイヤモンド鉱山を見つけたのよね。……一回死んだかと思ったけど」
こうが
「あはは……それはさておき、次回からは第二章!
アフリカへ戻ってきた僕達。
変わらない自然はやっぱりいいなぁ。
けども平和を乱すハンター達も変わらない。
でも新しいことも。父さんの元に、たくさんの男の人達がやってくる。
次回、ジャングルの王者ターちゃん~新ファミリー物語~
第11話 ターちゃん流空手道 の巻
お楽しみに!」