「ああああぁぁぁっ! 腕が! 俺の腕がああああ!!」
「な、なんだお前は!」
突然の襲撃者。
いきなり現れてジョニーの右腕を手刀で切り飛ばした、黒い胴着を着て禿頭の男。
こいつは敵だ、反射的に身構えるターちゃんの弟子達。
「破ッッッ!!」
「がっ――!?」
男が鋭い叫びと共に掌底突きを放つ。手刀と同じようにぼんやり光を放つそれは、弟子の一人リッキーを十メートル以上も吹き飛ばし、木に激突させた。
「ただの掌底突きであんなにぶっ飛ばしやがった!!」
「なんなんだよこいつは!?」
「ふん……。どいつもこいつもちゃちなオーラを発しやがって。お前らじゃあないみたいだな、白華拳の趙がスカウトに来た格闘家は」
動揺する弟子達を、男は次々といたぶり叩きのめしていく。
「弱い」
「ぎゃあ!?」
「弱すぎる」
「ぐが!?」
「ひ、ひいいいい……」
「ぬん……」
男は手の指を体の前で合わせる。
【煉精化気……煉気化神……】
『勁』の呪文を唱える。精神を集中させ、全身の細胞で『気』を練り上げる。
男の両手のぼんやり光るエネルギー――気が溜め込まれ、怯える黒人の弟子ブライアンの頭へ注入。
【印】
「ぐぼぁ…………っ!」
ブライアンの鼻と口、耳から大量の血が飛び出た。大量の気を送り込まれたことによる衝撃だ。
「おい貴様、趙が集めている格闘家は何処にいる」
「な、なんのことだ……俺は何にも知らねえ!」
「なら死ねや」
「ぎゃっ……」
片腕を切り落としたジョニーから、自分が望む答えが出ないと分かるなり容赦なく殴り飛ばす男。
このまま答えを聞き出すまでこいつらを痛め付けるか、そう考え男が別の弟子を殴ろうとした、その時だ。
「それ以上、私の弟子を痛め付けるのはやめろ」
ターちゃんだ。何か嫌な予感がして駆けつけたのだが、血まみれで倒れる弟子達
の姿に、奥歯をぎりりと噛み締める。
遅れてこうが、趙もやってくるが、その惨状に思わず口をおさえる。
「うっ……ひ、酷い……」
「大変だ、早く手当てをしないと……!」
「白華拳の趙……そうか。お前だな、趙が探し求めていた格闘家は。こいつらとは違う、強力なオーラを感じる。なかなかの強者と見たぞ」
「……………………」
「だがしかし、所詮はただの人間。勁の使い手でもないようだ。何故趙が目をつけたのかは分からんが、命が惜しくばトーナメントには出ないことだ――」
バキィィィィィィッ!!
「ぐぼ……っ!」
男が言い切るより前に、ターちゃんは殴り飛ばした。強烈な右ストレートは、一撃で男を打ち倒し意識を失わせた。
家族同然の弟子を傷つけられて、それだけターちゃんは怒っていたのだ。
「と、父さん……」
「……こうが。早く皆を運ぼう、手伝ってくれ」
「う、うん」
「待ってください、その前に」
趙が切られたジョニーの右腕を持ってきて、切り口につけると、趙の全身が光を放ち出す。
【通明賢気……骨禎枸根……黄考建中……】
呪文を唱えていくと、切られた部分が少しずつ塞がっていく。皮膚と皮膚がくっついていって血も止まり、ジョニーの顔色も良くなっていった。
「……次です」
汗だくになり血がつくのも構わず、弟子達全員の、大きな傷を趙は不思議なパワーで治療していった。
全員が済むと家まで運び、残った傷の手当てをして静かに寝かせておいてあげる。
「皆しっかり。もうすぐ赤十字の車が来るから頑張って」
「すみませんヂェーンさん……」
趙が治療しなければ、弟子の半分は死んでいた所だった。その趙は座り込み、荒い呼吸を繰り返している。
「いえ……私がまねいた災難ですから……」
「趙さん、お水です」
「ありがとうございます……」
こうがから水を受け取り少しずつ飲んでいく趙。それを見て、フフフ、と嘲笑う笑う声。襲撃してきた黒い胴着の男だ。動けないよう縛られているのに、態度には余裕がみえる。
「流石は白華拳一の勁の使い手、趙だな。ご自慢の内養功の術、しかと見せてもらったぞ」
全身の気を放出して、対象の治療を行う術。それが、趙が使った術だ。ただし全身の気を使う為、大きく体力と精神力を消耗してしまう。
「趙君のことを知っているなんて、こいつは何者なのだ」
「その黒い胴着、ライバル門派である黒龍拳のものです。私のスカウトを妨害する為に送られてきた刺客でしょう」
「分かっているなら話は早いな」
男は自分が刺客だとあっさり認めたが、全く態度を変えることなく続ける。
「趙よ、確かにお前がスカウトするこいつらは強いようだ。……だが『気』の力も使えん奴を迎えたところでトーナメントは勝てんぞ」
「『気』も使えん、だと?」
「ふざけるな! 気くらい使えるやい!」
コポポポポ……。
スッ……。
「お茶でもどーぞ」
「お茶菓子どーぞ」
「あ、どうも」
「その気を使ってどーすんじゃい!!!!」
「でも、変じゃないですか。何故そこまでして、ただの武術大会にこだわるんですか」
弟子達を見ていたペドロが話に加わってきて、最もな疑問を口にした。
「それはトーナメントで優勝した門派が、次のトーナメントまで西派の実権を握れるからさ今は趙の門派、白華拳が実権を握っている」
平たく言えば権力争いである。
「そうです。ですが黒龍拳は開祖の掟である門外不出を破って、西派拳法の国外流出を計画しているのです」
「そうとも。西派拳法とは元は暗殺拳。拳士は超一流の暗殺者にもなりえるからな」
黒龍拳には既にCIA、KBG、中国情報局からも声がかかっており、ビッグビジネスとして動き出そうとしている。
だからこそ、刺客を送り込んでまで白華拳の妨害に来たのだ。
西派の実権を手にすることを、暗殺拳士の国外流出計画を、より確実にする為に。
「……そしてその為に、我が白華の拳士三人を毒殺したということか」
「……成る程ねぇ」
「ここまで聞いたら、黙っている訳にはいかないな」
放っておけば暗殺拳士が世界中に解き放たれてしまうかもしれない。
一通り話を聞いたターちゃんは、このまま無視することは出来ないと思い、うんと頷いた。
「ペドロ。厳しい戦いになるだろうが、またトーナメントに出てみないか」
「この命、既に先生に預けていますよ」
「ではお二人とも、トーナメントに!」
「あぁ。参加するよ」
ターちゃんとペドロはトーナメント参加を決める。
そんな男二人の姿見て、他の家族も続く。
「やれやれ。じゃあ早く中国行きの用意しないとね」
「勿論僕も行くよ!」
「キキー(俺もだ。ターちゃんの力になりたい)」
「み、皆。泣かせるじゃあないか~っ」
「キキキ……(中国……赤毛ザル……ぐへへ)」
「おめでたい奴等め……お前らなど、黒龍の拳士の足元にも及ばんわ!」
「やってみなくちゃ分からないですよ、そんなの」
「ターちゃん先生、ペドロ先輩。俺達は何にもできないけど」
「勝利を祈ってます」
「「「ターちゃん先生、ペドロ先輩! 頑張って!!」」」
「よし皆! いざ中国へ!!」
「「「オーーーーーーッ!!!!」」」
――こうして、僕らターちゃんファミリーは中国へ飛びました。
黒龍の拳士が言うように、気の力は強力。たくさんの強敵がいると思う。
けど僕には父さんやペドロさん、母さんにエテ吉もいる。
皆を、趙さんを信じて、中国でも頑張るぞ!
□月24日 晴れのち雨 こうが
「ところでターちゃん、チャイナドレスのかわいこちゃんがいたせりつくせりしてくれるそうだけど本当か?」
「あーうん」
ちなみに、中国へはアナベベさんの自家用ジェットで向かいました。
こうが
「次回予告!
中国の白華拳の里へ到着した僕達。
待っていたのは白華拳の師範と大道師様、二人とも凄い気の使い手なんだって。
そしていよいよ、西派トーナメントが開幕する!
次回、ジャングルの王者ターちゃん~新ファミリー物語~
第14話 白華拳の郷の巻
気の力……相手の心も読めるのか!? すげぇ!」