「ちょ審判、こいつ武器をーーぐえ!?」
アナベベの抗議を、飛来する鉄の一撃が体ごと吹き飛ばした。石床へ背中から倒れこむアナベベ。
「ぐっはぁ!」
「アナベベ!」
「むん……ふっ!」
開始早々、一撃入れた紫陽拳の先鋒はヌンチャクに似た武器を引き寄せる。鎖で繋がれた鉄の棒は縮んで棒同士で連結し一本の棍へと変形する。
五つの棒が鎖で繋がれているターちゃん達の見たことのない武器。
「あれは中国、軟兵の武器が一つ『五節棍』。時にやわらかいゴムのように、時に鉄のように硬い棒となる武器だ。アフリカじゃあ見たことねえだろ」
「時にやわらかく、時に硬く……。ん?」
「まるでチ○チンみたい」
「やめてくださいよ二人とも!!」
「はぁぁ……連ッ!!」
「ぐぎゃ! がっ! うげぇ!?」
連続で突き出される五節棍がアナベベに降り注ぐ。
伸縮自在の五節棍は間合いが測りにくく、近づく事が出来ない。
「この……!」
首を捻りなんとかかわすアナベベ。だが、
ギュム~!!
「いだだだだ皮引っ張ってる~!!」
「あれはいてぇ」
試合が開始してから打ちのめされっぱなしのアナベベ、このままだとやられてしまう。
「ぐへぇ~!」
「……お粗末な戦いぶりだ」
「どうしたんですかアナベベさんは! ユンケル帝国トーナメントの時とは全然動きが違いすぎますよ!」
師範たる梁が呆れたように呟く。彼の言うとおりで、今のアナベベにはユンケル帝国で戦った姿は見る影もなくて、キレがなく鈍い。
その理由を、親友であるターちゃんは分かっていた。今のアナベベには『あるもの』がなくなっているから。
「アナベベはユンケル帝国のトーナメントで優勝して、賞金で大金持ちになった
……。代わりに、それで満足してしまったのだ」
大金持ちになり、豪邸を建てて生活がゴージャスになったアナベベの生活。贅沢によってもうこれ以上はいいと思ってしまい、挑戦する気持ちが薄れてしまった。
そう……格闘家に必要不可欠などんな相手に挑んでいく『ファイティング精神』が、アナベベから消えてしまったのである。
「ひ~! なんで中国くんたりまで来てかこんな目に合わなきゃなんねーんだよ~っ!」
ターちゃんの言う通り、五節棍に叩きのめされたアナベベは、相手に背を向けて逃げようとしてしまう。
情けない姿に、観客からはヤジが飛び交う。
「白華の先鋒が逃げ出したぞ!」
「だらしねー奴だ!」
「むぅぅ……」
紫陽拳先鋒もアナベベの醜態には眉をひそめる。ここで愚か者を倒さんと、掌を合わせ気を練り始めた。
【煉精化気……煉気化神……】
「不味い! 棍に気を溜めて一気に勝負を決める気です!」
「アナベベ避けろー!」
「えぇ?」
「破ッッ!!」
趙とターちゃんの警告も空しく、気を溜め込んだ五節棍が打ち出され、
ゴッッ……!!
「がっっ!?」
アナベベの後頭部へクリーンヒットしてしまった……!
「……終わったな」
勁の一撃は強力、それを頭に食らったのだ。
この試合は白華の負け……そう思い目を閉じる梁。
ガチャリと五節棍が後頭部より落ちる。
「……何さらすんじゃい」
「ん!?」
しかし、頭に勁を食らい倒れると思われたアナベベは倒れることなくゆっくり振り返ると、紫陽拳先鋒を睨み付ける。
その目には闘志の炎が、失われた筈のファイティング精神がメラメラと燃えており、近づいて相手との間合いを詰めていく。
「こいつ化け物か!? 勁を頭に食らって動けーー」
「オラァッ!!」
「ぐぉ!!!?」
渾身の右ストレート炸裂!!
紫陽拳先鋒の顔面へ叩き込まれ、体が宙を舞って紫陽拳の陣営へぶっ飛ばされた。
一発KO。
「そ、それまで」
「「「うおおおぉぉぉぉっ!!」」」
「やったーー!! アナベベの勝ちなのだ!」
「すげぇやアナベベさん! 頭に気を食らったのに!」
「あぁ? おめーら誰だ?」
「「え」」
勝利の喜びにターちゃん親子は沸き立つが、当の本人は正反対。怪訝そうに周りをキョロキョロと見回している。
「ここは何処だ? 俺ぁ何してんだ?」
「アナベベさん、どうしたのさ!?」
「もしやアナベベさん、五節棍を頭に受けたショックで、軽い記憶喪失になっているのでは?」
趙の言う通り。
だから、昔のファイティング精神溢れる戦士のアナベベとなって一撃をぶちかましたのだ。
記憶喪失状態のアナベベはあることに気づいて「おい」と白華拳の陣地を指差す。
「おめー誰だ?」
「お、俺だよ! ターちゃんだよ! まさかそんなことまで忘れてしまったのか……!」
「アナベベさんそんな……」
「いやおめーらじゃねーよ。その後ろの」
「え?」「後ろ?」
「俺の旅行カバンから通帳とハンコ抜き取ろうとしてるおばさんだよ」
※ヂェーンです。
「「だぁ~~!!」」
「あらーつまんないことは覚えてんのね」
とにもかくにも、紫陽拳の先鋒は倒した。
……が。
「うっ……ごはっ……!」
「アナベベ!?」
「どーしたのよ!?」
いきなり口や鼻から血を出してアナベベは倒れてしまう。
慌てて駆け寄る皆。
「無理もない。まともに勁を、それも頭に食らったんだ。反撃出来たのが奇跡だぜ」
とはいえアナベベにこれ以上の試合は無理。白華の陣地で休ませる。
先鋒戦は痛み分けとなり、試合は次鋒戦へと移る。
「白華拳、紫陽拳の次鋒。前へ」
「ペドロさん、お願いします!」
「押忍!!」
「頑張れペドロ!」
「気は使えなくても、気合いです!」
ターちゃん親子が一番弟子を送り出す。
「ムン!」
「発ッ……!」
相手である禿頭の男――紫陽拳の次鋒が構える武器は柳葉刀と呼ばれる片刃の剣だ。
「ーー始め!」
「たぁぁぁっ!」
「キェァァァ!」
始まる次鋒同士の戦い。
ターちゃん直伝の格闘でペドロは攻める。
紫陽拳次鋒は柳葉刀による高速切りや連続突きで素早く戦う。
「ペドロ頑張れ!!」
「負けるなー!」
「発ァッ!!」
「ふんっ! だぁりゃっ!」
互いに譲らず、殴り、切りつけ、蹴り、突きの一進一退。
「阿ッッッ!!」
「くっ!」
渾身の突きを、ペドロは上体を反らしてなんとか回避した。
すかさず反撃!
「せぇりゃ!!」
「ぬん!」
「ナイスペドロ! 攻めるんだ!」
上段蹴りで返す、相手は同じく上段反らしで避ける。
相手に気や勁の技というアドバンテージがある分、使えない助っ人の三人は怯む訳にいかない。
ビビらず、常に攻める。攻めて攻めて攻めて、勝負を挑み、勝ちをもぎ取らねばならない。
「ふっ……」
「あぁっ! 相手が印を結んだ!」
紫陽拳次鋒が柳葉刀に気を溜め始める。
ならば、とペドロも気合いを入れ構える。
「だったら俺もぉ!」
態勢を整え、両者が中央へ走る!
【煉精化気……煉気化神……】
「弱肉強食……一日一善……」
「四字熟語で張り合ってどーすんじゃい!!!!」
両者、中央で激突!!!!
ばっっっっっ!!!!
ペドロの闘気と、紫陽拳次鋒の気がぶつかり合って真っ白な閃光が迸った。
ペドロは右拳、紫陽拳次鋒が繰り出したのは腹を狙った突き。
その勝敗は――!?
「……ぐぁっ」
「それまで! 勝者、白華拳次鋒!」
「「「やったーーー!!」
」」
「ハァ……ハァ……ぐっ」
「「………………」」
顔面に拳を決められ倒しる紫陽拳次鋒。
ペドロの勝利にターちゃん、ヂェーン、こうがは喜ぶ。
が、梁に趙。勝った本人のペドロは難しい顔をしていた。
「なんでそんな難しい顔してんの! ペドロちゃんが勝ったのよ、喜びなさいよ~!」
「何を馬鹿なことを。こんなのが勝ちと言えるか」
「ぬわぁんですってぇ!」
「……いえヂェーンさん、梁師範の言う通りです」
勝ちにケチをつける梁へヂェーンが噛みつくが、他ならぬペドロが梁を正しいと言う。
その証拠にペドロは見せる、胴着の腹に空いた穴を。あの時、柳葉刀は届いていたのだ。仕舞っておいたいたコンパクトミラーが偶然刀を防いだだけで、無ければ今頃刺し貫かれていた筈だった。
勝利の真実にターちゃん達は青ざめる。ペドロ自身も冷や汗が止まらない。
「偶然の勝利だったな」
梁がそう言うのも無理はない。
だが、試合は止まらない。まだ相手が三人控えている。
「紫陽拳、中堅! 前へ!」
次なる相手、紫陽拳の中堅が闘技場に上がりペドロと対峙する。
こうが
「次回予告!
紫陽拳中堅が使う強力な武器にペドロさんがやられる!
それにより出場するは趙さん。
白華拳師範の実力が今、発揮される!!
次回、ジャングルの王者ターちゃん~新ファミリー物語~
第16話 趙の実力の巻
趙さん、試合に望むならマントを纏った方が良いんじゃ?」