西派トーナメント、決勝戦。
会場に流れる空気は今まで以上に重く、張り詰めていて、この場にいる全ての者に緊張を与えている。
「………………」
「………………」
「「「………………」」」
「うぅ……空気が重い……おぇっ」
梁に趙、観客席の西派の拳士達は特に顔を引き締めている。その中にはこれまで戦ってきた紫陽拳や赤羅漢拳、橙イン拳、青掛拳の拳士達、ぶつからなかった他の流派全ての姿がある。繰り返しになるが、西派の運命が文字通りかかっている。西派の者にこの試合を見逃す理由はないと言えよう。
そんな重い空気にまだ子供のこうがは呑まれてしまい、顔を青くして気持ち悪くなってしまっていた。
「皆さん、梁……。気をつけて」
また、決勝戦の今回は大導師の蓮苞も観戦に来ている。石で出来ている普通の観客席とは別に、闘技場を一目で見渡せる高い位置に作られた屋根と椅子のある専用の観客席にて、戦いを見守る。
「……がんばれー!!」
「んっ?」
「ジャングルの王者ターちゃん先生、頑張れ!! ペドロ先輩、ファイト!!」
緊張した空気の中、ターちゃん達への声援が闘技場へよく響き渡った。声の主達は、ターちゃんの知る金髪の白人や色黒の男、アジア風の男性と様々。数ヶ月前に大怪我を負ったターちゃん流空手の弟子達であった。
「ジョーさん達だよ、父さん! 皆怪我治ったんだ!」
「皆……わざわざ来てくれたのか!」
「なんて律儀な奴らだ……たった一ヶ月の師弟関係だったのに。ぐすっ……」
弟子の思いに思わず涙ぐむターちゃん、ペドロ、こうが。
「よーし、応援の幕を広げるぞ!」
「「「おぉ!!」」」
わざわざ手作りした応援の幕まで用意している程。巻いていた幕をくるくるとほどいて、書かれている内容とは!
「がんばれー!!」
拳銃、濁点のついた葉っぱ、手のピースのポーズ、掌。
つまり。
読み仮名は、ガン、ば、つー、てー。
「「「がんばってー!!」」」
「ターちゃんが猿に育てられて字が読めないと思ってた訳ねアンタら」
「絵文字ですか……。個性的な方達ですね」
「よーやるわ」
これには趙に梁も思わず小さく噴き出した。でも白華拳の皆の表情は和らいで、緊張が少し解けた。
これで変に力が入ることなく戦えるようになり、弟子達の応援は確かに師匠と仲間の力になったのだ。
「審判が来たぞ」
さて、前置きはここまで。
遂に、その時が来る。
「只今より、西派拳トーナメント決勝戦。白華拳対黒龍拳の試合を開始いたします!!」
審判の宣言により、いよいよ決勝戦の開始だ。
「死人が出なければよいのぉ」
青掛拳の胡文が心配を込めて呟く先で、石の闘技場へ両陣営の選手が立とうとしていた。
両陣営の出場拳士。
白華拳からはアナベベ、ペドロ、ターちゃん、趙、梁。
黒龍拳からは化剄、龍炎、李功、劉宝、王翬。
まず黒龍側から、今まで一人で勝ち抜いて来ている化剄が登場。
「ふふふ。アナベベ、確か貴様はユンケル帝国でのトーナメントで優勝していたな。だが貴様の気は俺が全て食いつくしてやる」
準決勝での試合から先鋒に来るであろうアナベベに言い放つ化剄。得意技で仕留めてやろうと自信満々だ。
――それが、大間違いだと知らずに。
ザッ……!
「白華の選手は……なぁっ!?」
「「「えええっ!!!?」」」
「……ほぉ。やっと出てきたか」
「げぇっ!? せ、先鋒は梁師範だとぉ!!!?」
今トーナメントでまだ一度も戦っていない白華拳最高師範、梁が闘技場へ現れたことに騒然となる周囲。ターちゃん達味方の助っ人選手ですら知らなかったのだ。
「なーに勘違いしてやがる。順番通りに座ってなきゃいけねぇ規則はねーんだぜ」
「どどど、どういうことよ梁ちゃん! 聞いてないわよ、そんなの!」
「……すみません、ヂェーンさん。これは、梁師範の考えあってのことなのです」
慌てるヂェーン達へ趙が理由を語る。
準決勝までの戦いで、アナベベとペドロにもう戦う力がないことを梁師範は見抜いてた。いくら二人でも、気を食らい続けて戦ってきたことで、体はかなり消耗していた。大丈夫そうにしているがそれはやせ我慢。
ここまで戦ってくれただけで十分。だから後は自分一人で戦い抜く。
残る決勝戦、最大の相手である黒龍拳との戦いに、皆を巻き込まない為に。それが梁師範の考えだった。
「梁師範は感謝していました。白華の為にここまで戦ってくれたこと。そして巻き込んでしまって、申し訳ないとも。……後は全て、自分一人で戦うつもりなのです」
決勝戦、白華拳選手の順番は先鋒が梁。次鋒に趙。中堅ターちゃん。副将ペドロ。大将アナベベ。
「そ、そんな。無茶だ!」
「俺達を庇って……」
「何よ……それ」
梁師範の決意が重い決断だったのは聞いていて分かる。
だけど、それを聞いてターちゃんやヂェーン達が納得する……訳がなかった。
「梁師範……」
「無茶だよ梁師範! 相手は五人もいるんですよ!?」
「なんで、なんでよ梁ちゃん! どうして私達に言ってくれないの!! ターちゃんだって、まだ本気を出してないのよ!!!!」
(やはり、梁は一人で……)
◇◇◇◇◇◇
「……わりーなヂェーンさん、皆」
例え皆から批判を受けようと、梁は闘技場を下りない。
なんとしてもこの試合、勝たなければならない。
暗殺集団結成を防ぐ為。西派の誇りを守る為に。
(後は俺が……戦い抜く!)
「では決勝戦。試合――開始!!」
「破ッ!!!!」
「ひぃっ!?」
試合開始と同時に、石床を蹴って凄まじい速度で突撃。
右腕を振りかぶる。
突撃の中で気を練り溜め込んだ右腕の一撃を、ぶちかます!!
「はぁあっ!!!!」
グワシャッッッ!!!!
「ぐへぇぁぁぁ!!!?」
梁に怯んだ化剄の顔面に、一撃がクリーンヒット。その身は観客席へ叩き付けられ気絶。戦闘不能。
まさに、鎧袖一触。
たったの一撃で、これまで一人で勝ち抜いてきた相手をやっつけた梁に、言葉を失う一同。
「たったの一撃で……」
「べ、別次元じゃないか……梁師範の強さって」
「当然です。梁師範は十年前のトーナメントで、あの王翬にも勝利しているのです。化勁使いごとき敵ではありません」
「お、王翬に勝った!?」
「あの王翬にか!?」
「そうだったよな、王翬」
「……全くな。一生の不覚であったわ」
十年前、前回のトーナメントで白華の副将として出場した梁。決勝戦で黒龍拳と当たり、血まみれになりながらも大将の王翬を倒したわだ。それが僅か十六才の時だ。
「……あれ? 負けたんじゃなかったの王翬に」
「いいえ、梁師範はトーナメントで一度も負けたことなどありません」
「よーく思い出してみな、ターちゃんにこうが。前に話した時、俺は一度も負けた、なんて言っちゃいねぇぜ」
「「そーだっけ?」」
ではその時の、第17話の会話を思い出してみましょう。
『あぁ、信じられねぇくらい強かった。十年前のトーナメントで俺は決勝戦であいつと、王翬と戦ったからな』
顔の斜め傷を指差して、
『その時につけられたのがこの傷さ』
次に胴着を開いて右肩を見せて、
『もう一つ、傷をつけられた場所がここだ』
次に次にお腹を出して、
『倒れたところにつけられた傷がここで』
最後にお尻を出して、
『逃げ出したところをつけられた傷がこのバッテン傷ね』
「「あ、ホントだ言ってない」」
「そこまでしないと思い出さないわけ!!!!」
とにもかくにも、黒龍拳先鋒、化剄は撃破。
残るはあと四人だ。
「すげぇぞ梁師範!」
「黒龍拳なんてやっつけちまえ!」
「よし応援幕第二弾だ!!」
内容は、胃袋、胃袋、象。
即ち、い、い、ぞう。
「「「いいぞー!」」」
「その応援なんとかしてね!!!!」
ターちゃんと同じ応援で梁が恥ずかしい思いしている一方で。
黒龍拳次鋒の男、龍炎はがたがたと身を震わせていた。
「じ、冗談じゃねえ……王翬様に勝った奴に勝てるわけねえ……」
「黒龍拳次鋒、前へ!」
「おい龍炎。お前の番だろう、行けよ」
「む、無理だ! 俺じゃ勝てねえ、下りさせてもら……」
「みっともねえ、さっさと行け。それとも俺に殴り殺されてえか」
「ひいっ!?」
辞退しようとすると、黒龍に敵前逃亡など許されない。中堅である李功に脅され、泣く泣く闘技場で梁と向かい合う龍炎。
対し、梁の方は呼吸を整え、迎え撃つ態勢を整えていた。
「――はじめ!!」
「くっ……あぁぁぁぁ!!」
開始早々、気を貯めて龍炎が殴りかかるも、軽々とかわす梁。
実力差は明らか。
この試合、龍炎は勝てないだろう、と誰もが思っていた。
「フフフ……。そうだ気を使うのだ梁よ。お前の弱点は、気のコントロールにあるのだからな」
ただひとり。
王翬だけは、計算通りと黒い笑みを浮かべていた。
こうが
「次回予告!
力を発揮した梁師範、その力でバンバン攻めまくる!!
いいぞ、梁師範その調子!
しかし! 思わぬ強敵に大ピンチ! どうなる梁師範
!?
次回、ジャングルの王者ターちゃん~新ファミリー物語~
第21話 決戦、黒龍拳!!中編1の巻
不味い! このままじゃ梁師範が!!」