「梁ちゃん!! いい大人がぬぁにワガママ言ってんの!!!!」
会場の空気をビリビリと震わせ、大地を揺るがさんばかりの大声。
梁を止めた謎の大声に、会場はなんだなんだとざわめく。
「あ、ほれあそこ」
最初に気付いたのはこぶん。指差した先は上方向。会場の席より上、大導師の席の更に上。
「おい見ろあそこだ!」
「あんな所に人が、いや豚が、いやいや人が!」
こんな間違い方をされるのは……申し訳ないが一人しかいない。
「梁ちゃん! 今すぐ試合を棄権して、傷の手当てをしなさーい!!」
「ヂェーンさん……」
いつの間にか大導師席の屋根に上っていたヂェーンが拡声器で呼びかけていたのだ。
拡声器を外し、彼女は続ける。
「このトーナメントはね、あんた一人の戦いじゃないのよ」
ご覧なさい、と白華の陣営を指差す。
「白華拳にはまだ、趙ちゃんにターちゃん、ペドロちゃん。それと“おまけのアナベベ”だっているのよ!」
「……なんで俺がおまけなんだよぉ!?」
おまけ扱いはともかく、先鋒たる梁の後にはまだターちゃんを始め四人が残っている。
戦わなければいけない気持ちも分かるが、それでも仲間がいるのだというのを、ヂェーンは伝えたかったのだ。
「そうですよ梁師範、まだ私達がいます!」
「あとは私達に任せるのだ」
「梁ちゃん!」
「「梁師範!」」
「……皆」
「梁ちゃん」
仲間達からまだ大丈夫だという思いを受け取った梁は、目を閉じて俯くと、「参った」と呟いた。
「それまで! 白華拳先鋒の棄権により勝者、黒龍拳中堅!!」
歓声が起こる。
その中を歩きながら、李功とすれ違った時に梁は小さく言い残していく。
「時代も変わったか。おめーみてぇな拳士が出てくるんだからよ」
凄まじい強さだったのを梁は認めていた。右腕を押さえながら去っていく。
梁が離れた所で、冷や汗を流す李功。
(……ばかを言え。俺とてあと二撃も食らっていればやられていた。恐るべし、白華最高師範の梁……)
その梁師範だが白華陣営につくなり、「ぐうっ!?」と叫び倒れ込んでしまう。
急いで駆け寄る白華の皆、李功にやられた腐食が体にまで回ってきたのだ。
早く取り除かなければ命が危ない。
「趙君、梁師範は任せて。君は試合に集中してくれ!」
「気をつけて、趙さん!」
「分かりました!」
「白華拳次鋒、前へ!」
一先ず梁はターちゃん達に任せて闘技場へ上がる趙。
李功と対峙しようとしたその時だ。
頭に女性の声が届く。
(待って、趙……。梁の腕を、貴方の内養功で治療してあげて下さい!)
(ですが大導師様、治療の為に気を使えば、私はトーナメントで戦うことが出来ません!)
蓮苞の願いは痛いほど分かる趙。
だが趙は白華の拳士だ。
この戦いを戦わないという選択肢はない。
(趙……!)
(残念ですが……試合を捨ててまで梁師範を助けることは出来ません。梁師範もそう思っている筈。大導師様のお気持ちも分かりますが……これは、西派32門派の将来をかけた、命がけの戦いなのです……!)
「そんな……」
大導師の席で涙を流す蓮苞。
このままでは梁が死んでしまうかもしれない。
白華陣営ではターちゃん達が包帯を巻いたり、汗をはふいたりしているが、腐った部分をなんとかしない限り解決にならない。そして治療が出来るのは、内養功しかないのは趙も分かっていた。
目の前の戦いか、仲間の命か。
趙の心が揺れ動く。
「――何迷ってやがる! 趙!!」
後ろからの大声。
思わず振り返ると、顔を真っ青にしながらも、梁が趙へ叫んでいた。
「おいバカ動くんじゃねぇ!」
「梁師範騒がないで下さい!」
「体に悪いって!」
慌ててアナベベとペドロとこうがが押さえに入るが、馬鹿力で梁師範は暴れ、趙へ戦うよう叫び続ける。
「俺のことはいい。戦え! 戦うんだ!! 趙ーーーッ!!」
――ばさり
「もがぁ!!!?」
「俺の一年履きっぱなしのパンツ」
「~!? ~~!?」
更に、かぽっと。
「アナベベさんの一年使ったチンコケースつけときますね」
「!?!?!?!?……ぐはっ」
「安心してください。麻酔ですから」
「その根拠のない医療行為やめんかい!!!!」
とどめさした……いやいや梁師範を大人しくさせたターちゃん達。
闘技場の趙へ大丈夫と伝える。
「水くせーな梁ちゃんは。もっと俺達の力を信頼しろって。趙が棄権したって、まだ俺達三人が残ってんだからよ」
「そうですよ、厳しい戦いになるのは百も承知。このまま梁師範を返したら、大導師様にあわす顔がありません」
「アナベベさん、ペドロさん」
「任せなさいって趙君。試合に出たい出たい気持ちも分かるけどさ、黒龍の三人は私がなんとかすっから」
「………………」
「だから、梁師範の腕を治してやって」
ターちゃんの言葉を受け、趙は闘技場を下りる。
彼らの言葉で決心がついた。
自分のやるべきことをやる為に、下りて治療を開始する。
「白華の奴ら、この試合を捨てたようだな」
(助かったぜ。これで体力を回復する時間が出来た)
◇◇◇
【通明賢気……骨禎枸根……黄考建中……】
「全身の気を使い回復を行う内養功の術……あれだけ気を消費すれば、力はもう残ってはいないでしょう、王翬様」
「ふっ。ばかな選択をしたものよ」
趙の内養功の術による治療が始まった。
その様子を見て黒龍側は、これで白華の師範全てが出場できなくなり、勝ちに大きく近づいたと黒龍大将の王翬はほくそ笑む。
【通明賢気……骨禎枸根……黄考建中……】
「梁師範の怪我が治っていきます!」
「よかったー。これで一安心だ」
「良かったわね、梁ちゃん!」
「……バカどもが」
こちらは白華側。腐食が治っていくのを、ターちゃん達は心から喜んで、梁を励ましている。
試合を捨ててまでくれた趙に、これから地獄のような戦いに赴くだろうに全く怯まないターちゃん達。
梁が頭の中か外していた皆の姿に、梁の目には涙が浮かぶ。
(皆……いいやつじゃねぇか)
たった一人で戦うとしたのが恥ずかしくなる。
一言でも話していれば、とも思ってしまう。
だって、直ぐ側にはこんなに頼りになる“仲間”がいたのだから。
◇◇◇
やがて内養功の治療が終了した。
梁の腕の腐食は完全に治療され、健康的な色を取り戻していた。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
趙の全身の気という、大きなものを引き換えにして。
肩で息をする趙へ闘技場の審判より試合へ出るか否か、確認が飛ぶ。
「白華拳次鋒! これ以上の待機は試合放棄と見なすが!」
「はーい。代わりに中堅、ジャングルの王者ターちゃん出まーす」
気を消耗した趙はもう戦えない。
言った通り、ターちゃんが出場すると手を挙げた。
――ザッ
闘技場へ、白華拳士が上がる。
「……何!?」
「えっ!」
「えぇ!?」
「え~~~っ!?」
その人物に、相手の李功だけでなく白華側も、“出る筈”のターちゃんもビックリ仰天!
「趙君!? なんで出てるのさ!?」
「試合は下りません。確かに気を使いましたが、李功にも梁師範との戦いによるダメージが残っています。今の奴になら、勝てるかもしれません」
「えぇーー!? やだやだやだーい!! 折角私が出る筈だったのにぃ~~!!!」
「と、父さん……」「先生……」
「――アナベベ、ターちゃんに封印を」
「分かった」※さっきのパンツ
……ぐはっ。
さて、封印が完了したところで。
「はっ。舐められたもんだぜ」
相手・李功はというと、この間に気を巡らせ、梁との戦いで負ったダメージの九割を回復していた。
対し気を使いきり戦う力のない筈の趙、彼は今までかぶっていたつばなし人民帽をとる。
露になる丸坊主。その天辺にある黒い模様――紋様。
「あれは、李功と同じ!?」
「そう。私も、生まれつき気が強い体質なのです」
「……ちっ」
ぼっ! と趙の纏う気が膨れ上がった。
戦いに使う気はこれで確保完了。
試合が、始まる。
「――はじめ!」
「ふっ!」
「はっ!」
開始と同時、気を使い加速して闘技場を駆け回る両者。
スピードは互角だ。
「ほざけ! その気、生命エネルギーをかき集めた最後の炎と見た!」
「うるさい!」
だが李功の言う通りでもある。
今の趙は万全の状態ではない。長期戦は言うまでもなく不利だ。
だから、一撃で決めると決めていた。
今ある全ての力を使って放つ、奥義で!
【三花聚頂……天花乱墜……】
「あの印は、まさか!」
そのまさか。
梁も使った、大量の気を撃ち放つ西派の最終兵器。
「食らえ――百歩神拳!!!!」
「何っ!?」
全力を込めた気が閃光の如く迸る!
一直線に向かう先は李功、直撃すれば流石にただではすまない気だ!
「――くっ!!」
「かわされた!?」
結論から言うと、倒せなかった。
寸前で李功は体を捻り、直撃だけは避けたのだ。
渾身の百歩神拳、結果は左半身を焼きダメージは与え消えてしまった。
同時に、ふらついてしまう趙。
「ぐ……くそぉ!」
「しくじったな、一か八かの百歩神拳。もう歩く力も残っていまい。ーー今度はこっちの番だ」
そこからは一方的な展開だ。
今度こそ気を使いきった趙は、避けることも防ぐことも出来ず、殴られられ、蹴られ、吹っ飛ばされてのサンドバッグ状態。気の攻撃で打ちのめされていく。
「ぐぁぁぁぁぁっ!!」
「趙さーんっ!!」
「趙、もういい! 降参しろ!」
既に勝負はついていた。
これ以上やれば趙の命が危ない、そこに李功が気をチャージした大振りの拳を叩き込もうとして、
「それまで! それまでだ!!」
流石に不味いと審判が止めに入った。
いくら李功でも審判には逆らえない、下手をすれば失格にされる。
それでも攻撃を邪魔された苛立ちで舌打ちをすると、拳に溜まっている右手を趙へ近づけていく。
「折角だ。元“気”を入れてやるよ」
「なっ……止めろーーっ!! もう勝負はついてーー」
「へっ……」
【印】
「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
何をする気なのか分かってしまい思わず叫んだこうが。
その先で、李功は溜め込んだ気を、趙の頭へ直接叩き込んだのだ。
趙の目や口から静かに煙が上る。
「が……あ……」
「流石白華の拳士だ。並の人間なら頭が吹っ飛んでる筈なんだがな」
ほらよ、と李功は用が終わったとばかりに、乱暴に趙を投げ捨てた。
慌てて白華の皆が集まる、真っ先に抱えたのは梁だ。
「趙……! 何てことしやがるんだ、目の神経が気でやられていやがる……!」
「そ、そんな!」
「なんて酷いことを……!」
「……悪いのは黒龍拳よ」
目に涙をいっぱい溜め、憤怒の形相でヂェーンは黒龍陣営へ吠えた。
「アイツら、本当の外道よっっっ!!!!」
「趙君……!」
気でやられたせいで趙は呻くことしか出来ない。
仲間をこんな風にした黒龍の奴等へ、次なる選手ターちゃんの怒りが燃え上がる。
「許さん……! 許さないぞ、黒龍!!」
こうが
「次回予告!
趙さんまでやられた白華拳。
でも大丈夫! 遂に父さんの登場だ!
怒りに燃える父さんの拳が、黒龍に炸裂する!!
次回、ジャングルの王者ターちゃん~新ファミリー物語~
第23話 決戦、黒龍拳!!中編3の巻
残るは三人対三人、ここからが勝負所!」