お待たせしました、中国編クライマックスです。
どうぞ!
「ちょっとどいておくれ」
観客席では王翬にやられた魯の元へ、野次馬をかき分け胡文が到着。腰に提げている瓢箪の酒を顔に吹きかけ目を覚まさせる。
「あっ……胡文老師……」
「喋るでないぞ魯。今すぐ内養功の術で治療してやるからな、応急手当くらいしかならんが」
気を放出して背中の傷の治療を始める胡文。
元はと言えば自分がターちゃんを撃ったためにこんなことになったのにまだ見捨てない老師の優しさに、魯の目から涙が零れた。
「すみません……老師。私なんかのために……」
「心配するでない。老いたとはいえワシの気は衰えてはおらん。事情は後でゆっくり聞かせておくれ」
「も、申し訳ありませんっ……!」
◆◆◆
「これならば……! 龍炎拳!!」
両手に気を貯めた王翬は頭上で手を合わせ、大技を繰り出そうとする。
「あれは向こうの次鋒が使った技! 王翬も使えたのか!」
「当たり前だ、奴は黒龍の総帥だぞ!」
「危ない父さん!!」
「――裂!!!!」
まるで龍のように唸りながら、気の塊がターちゃんへ突き進む。
くっつけた石の闘技場は再び真っ二つに成る程の凄まじい威力。次鋒であった龍炎以上だ。
だが、闘技場の何処にもターちゃんの姿がない。
「ターちゃんが消えたぞ!」
「かわしたのか!?」
「バカな! 一体何処に――」
ず ぶ り
「浣腸なのだ」
「~~~~~~~~っ!!!?」
「「「え″っ……」」」
ターちゃんが潜んでいたのは龍炎拳でできた隙間。王翬の真下で浣腸をかました。
ドン引きの周囲。当の王翬はというと尻を押さえてひょこひょこと闘技場をふらついて……デコピンを食らい倒れた。
「ターちゃんデコピン」
「こ、虚仮にしおって……!」
反撃にと殴りかかる王翬。顔へ繰り出された右拳を首を傾けてターちゃんは避け、反撃!
「ターちゃん――しっぺ!」
「ぎぇぇえええあ!?」
続いて、反撃その2!
「ターちゃん――握りっ屁!」
「~~!? くっさぁぁぁぁ!」
あらゆる手でターちゃんは王翬を翻弄する。その姿に32門派の拳士達は唖然とするしかない、あの黒龍拳の王翬にしっぺやら握りっ屁で渡り合っているのだから。
「すごい……すごいよ父さん! あんなに動けるなんて!」
「まるで動物のような、すばやい動きです!」
「そりゃそうよこうがちゃんにペドロちゃん! 今のターちゃんを見てごらんなさい!」
パンツ一丁のターちゃん。ジャングルと代わりない、いつもの姿。それが意味するものとは!
「あんた達! ターちゃんのチンチンやタマタマが、どういう意味を持ってるか分かる!?」
「えっ!? 父さんのチンチンやタマタマに、なんの意味が!?」
「ターちゃんの剥き出しのチンチンやタマタマ……それは、チーターの尻尾!!!!」
「「な、なんだってぇ!!!?」」
チーターの尻尾は走るときにバランスをとる、いわばレーダーやバランサーの役目を持つ。
「ムササビの、そしてリスの尻尾なのよ!!」
「そうか! それで胴着がなくなったから動きやすくなって、バランスも取りやすくなって!」
「あんなに早く動けるんだ! 凄いですヂェーンさん! 先生のタマタマは! 先生のチンチンは!!」
「そうでしょうそうでしょう」
「……なー、どうでもいいけどここ中国」
(((こいつらこの短時間にどれだけチンチンタマタマ言うんだよ……)))
白華陣営がバカを言っているが試合は続いている。
闘技場の方ではターちゃんがその力を解放しようとしていた。予選で使ったあの力だ。
(なんだ、こいつの目は!?)
ターちゃんの目がまるで人間ではないものに変わる。動物のような純粋100パーセント。例えるなら1日特に何もせず、食っちゃ寝食っちゃ寝している動物のつぶらな瞳。
王翬の攻撃を回避したターちゃんは後ろに回り込むなり、腹を両足でホールド。石床へ倒し王翬を振り上げた両手で殴りまくる。
「ラッコちゃん攻撃~!」
「あだっ、ぐぁっ、いだぁ!?」
「おぉ! 父さんに動物パワーが乗り移ってる!」
「えぇいふざけるなぁ!!」
王翬は振りほどいて反撃を試みるが、それよりも早くターちゃんが王翬から離れ跳躍、回避。落下の勢いを乗せ、両足蹴りをお見舞いした。
「がはぁ!?」
「あぁ! 王翬様!!」
「ダメだ、完全に動きを読まれている!」
「お、おのれ……」
「ターちゃんボディブロー!!」
「げぇっ!?」
着地して懐へ飛び込むターちゃん、王翬の腹へ右拳を叩き込む。
痛みで前屈みになる王翬、ターちゃんはそこを狙って頭を両足で挟み、胴体を両腕で抱え上げる!
「おぉ、あれは!」
「僕が前に拾ったプロレス大百科に書いてあった技!」
繰り出すはプロレスのフィニッシュ・ホールド!
その名も、パイル!
「パイル!!」
「パイル!!!」
「「パイルドライバー!! 脳天杭打ちやーーーっ!!!!」」
ズシャァ!!!! と、王翬の頭部が思い切り石床に叩きつけられた!
「ぐぉ……」
「「決まったぁ~~~っ!!」」
「な、なんだ! なんなんだあの技は!?」
「西派32門派全てにも、あんな技は存在しないぞ……!?」
そりゃそうであるプロレス技なのだから。
頭からいった王翬は頭より血を流して倒れる。間違いなく大ダメージ。勝利の天秤は白華側へ大きく傾いた。
よろよろとふらつきながら立ち上がる王翬。まだ衝撃とダメージが残っているのが分かる、だがしかし。
手で印を組むと、王翬の身体中を気という気が激しく循環し始めた。明らかにこれまでとは違う「何か」を始めようとしている。
それにいち早く気づいたのは、ターちゃんファミリーや西派の拳士達ではなく、ある子供だった。
(なんだこの気は? 試合で父さんに使ってた技とは、違う?)
◆◆◆
(おのれ……プロレス技だと? とことん儂を虚仮にしおって……ターちゃんめ……!)
パイルドライバーの衝撃で視界がぐらつく中で、王翬は静かに怒りを燃やしていた。
対戦相手であるターちゃんへの怒りだ。
胴着を脱ぎ捨てたかと思えば、浣腸やしっぺといったふざけた戦いでおちょくり、おかしな攻撃で惑わし、挙げ句の果てにはプロレス技などという外の世界の技を持ち込んできた。
ふざけている。拳士にとって、いや王翬自身に対して、侮辱にしかならなかった。
両手の指を合わせる。印を組んで、気を練り上げる。
今から放つ技は、いわば最後の切り札。外せばまともに動けなくなるだろう、だがそんなこと今の王翬にはどうでもよかった。
ただ、ターちゃんを倒すため。白華に勝って西派の実権を握るために。それだけを考え、王翬は究極奥義を発動させる。
◆◆◆
【岷山務羨門子立城五霊丹浅……】
呪文を唱え気を高めていく王翬。その内容は今まで漬かった技の全てと違うものだった。
師範である梁がいち早く異常に気づいて、ターちゃんへ叫ぶ。
「こいつは……気をつけろターちゃん! そいつは百歩神拳じゃない!」
「えっ!?」
「それよりも、もっと大きい何かだ!!」
【日擧華池……】「ぬぁぁぁぁぁ!!」
「見ろ! 王翬の髪がみるみる白くなっていくぞ!?」
「全身の気を、あの一撃に集中しているんだ!」
「気をつけて下さい、先生!」
「でっかい気が来るよ父さん!」
仲間の警告で一層警戒するターちゃん。
「ターちゃん! よくも虚仮にしてくれたな!! 我が最大の一撃、受けてみるがいい!!」
彼を狙って王翬最大の一撃が今――放たれる!!
「食らえ! これこそ我が究極の拳!! 我が『自在拳』をぉぉぉーーーーーっ!!!!」
両手に溜め込んだ凄まじい気の塊がターちゃんを狙う!!
「――はぁぁぁっ!」
「かわしたぁ!」
「ぬっ……」
「敗れたな王翬! 自在拳!」
気が当たる寸前、両足を大きく開きながら飛んで回避したターちゃん。
……だが!
「まだだ」
「えっ……?」
「まだだぁぁっ!!」
王翬の言葉通りまだ終わっていなかった。かわされて観客席へ向かう気が空中で大きく弧を描き、ターちゃん目掛け戻ってきたのだから!
「父さん、気が!」
「くっ!?」
慌てて転がりながら避けるターちゃんであったが、気の塊は空中で再び反転。ターちゃんを狙って飛んでくる。
まるで意思を持っているかのように。
「ど、どういうことだ!? 一度かわした気が!」
「フハハハ……だから言っただろうターちゃん。それはワシの自在拳であると。その勁の波動はワシの思うがまま、敵を倒すまで自在に飛翔するのだぁ!!」
それはつまり、どんなにかわしても意味がないということだ。外れても王翬の意思によってターちゃんを狙い、何度でも襲ってくる。まさに自在に操る気の拳、自在拳であった。
「ターちゃん! お前にそれをかわすことができるかぁ! ふはははははぁ!!」
「ふっ、はっ、うっ、くぅっ!?」
飛来する気――自在拳をターちゃんは伏せてかわす、身を翻してかわす、ずらしてかわす、転がってかわす。かわし続ける。
だがいくらかわしても自在拳はターちゃんを追いかけ続ける。空中を飛び回り何度も、何度も、何度も。ターちゃんに当たるまで。
「ふっふっふ……いつまでそうしている気だターちゃん。どう足掻こうとお前がこの拳から逃れる術はない」
「ぐ……」
「逃げ惑い、疲れ果てたときこそお前のひれ伏すときだ! 今一度受けてみろ、我が自在拳を!!」
王翬の全身から気が迸る。絶対絶命のターちゃん。
それは、観客席の方でも同じだった。
「ま、不味い。魯の衰弱が酷い、このままじゃ……」
「はっ……!?」
「試合中にどこ見とんじゃあほんだら!!!!」
「――取った! 取ったぞターちゃん!!!!」
一瞬だけ注意がそれたのを王翬が見逃すはずがなかった。再び放たれる自在拳。避けても避けても襲いかかってくる気の塊。飛び、転がり、捻って、何度もかわすうちにターちゃんの体力が削られていく。
「くっ……! はぁ……はぁ……!」
「やべぇ、ターちゃん!」
「先生!」
「ターちゃん!!」
「キィィ!」
「いけない!」
「立つんだ、ターちゃん!」
「父さん!」
「ターちゃん……!」
着地して肩で息をするターちゃんの姿に白華の皆が叫ぶ。もはや体力の限界だ。
だがここで負けるわけにはいかない。どうにか息を整え立ち上がろうとするターちゃん。そこで観客席の、治療されている魯が目に映った。
「魯……!」
「……あれは」
治療を受けているが、魯の命の灯火は消えようとしている。
王翬にやられたからだ。奴の欲のため、なんとしても権力を得るという欲望のため。ただそれだけのために利用され、そして始末された。
自分勝手な理由。自分のことしか考えず、そのために平気で他人を傷つけるその行い。
――それをターちゃんは、許せないと思った。
「……うぁぁぁっ!!」
「これは……!?」
「どうした趙!?」
「すごい気を感じます……ですが、これは王翬のものじゃない!」
気合いで立ち上がるターちゃん。そう、それはターちゃんの気。ターちゃんのパワーだ!
「もしや父さんのあの力!?」
「小賢しいわ! ぬぁぁぁぁぁっっ!!」
今度こそターちゃんを倒さんと、王翬から放たれた気が閃光を撒き散らす。
繰り出されるは自在拳。
対しターちゃんの行動、それは……!
「――っ!!」
「何!? かかとをつけた!?」
「まさか受け止める気なのか!」
「無茶です、ターちゃんさん!!」
気の塊を受け止める。そう、確かに無茶だ。ターちゃんにも分かっていた。
だがこうしている間にも、魯が死んでしまうかもしれない。
一分でも、一秒でも早く。この試合を終わらせるために。
(私は……私はこのリングにいる限り、できる限りのことをしたいんだ……!)
「ターちゃん!」
「先生!」
「父さん!」
「さあ、来い! 王翬!!」
「ならばゆくぞ! たとえどのような手段を使おうとも、ワシはワシのため!! 必ずお前を倒さねばならんのだぁぁぁぁ!!!!」
自在拳――発射!!
ターちゃんはそれを真っ正面から……受けた!!
「うっ……うわぁぁぁぁぁっ!!」
「ゆけぇワシの気よ! その力でターちゃんを、ターちゃんを押し潰せぇぇぇぇぇ!!!!」
王翬の全てを乗せた気。受け止めるターちゃんはその力に押され、皮膚を焼かれ、苦しめられる。
力の限り踏ん張るが止められず、押されていく。
(この気……! 私一人では、どうにもならないのか……!?)
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ターちゃん!」
「無理だ! いくら先生でもあの気じゃ……!」
「父さんでも……勝てないのか!?」
王翬の気に押されていく姿に、もはや誰もがターちゃんの敗北を思いかけた。
(……私は、私は! このリングて戦っている限り、これ以上皆を傷つけたくないんだ……!)
だがターちゃんは決して諦めていなかった。肌を焼かれ、今にも倒れそうになっても。
この西派トーナメントで梁や趙、ペドロ、アナベベ。王翬の手にかかった魯。他にもたくさんの人が戦い、傷つくのをみてきた。
だからこそ、もう誰にも傷ついてほしくない。
それはターちゃんの生まれ故郷……ターちゃんが守るアフリカの動物達のように。
「っ!? この凄い気は……!?」
「あのアフリカの……動物達のように……」
「王翬じゃない、父さんに向かって?」
「アフリカの、動物達のように……!」
「この気のパワーは……これは!?」
「アフリカの……! アフリカの……!! みんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ズンッ!! ズンッ!! ドシィンッッッ!!!!
「な、なんだ!? なんだあれはぁ!!」
そのとき、王翬を含む一部の人間は有り得ないものを目の当たりにした!
ターちゃんの周りにたくさんの動物が集まり、一緒に気を押し返していたのだ!
サイにカバにライオンにヒョウ、ゾウにシマウマにワニにクマ、アリやカマキリカマキリといった小さな虫まで!
「こ、この凄まじい気の力は……!?」
動物達のパワーが合わさって、ターちゃんと共に王翬の気を押し返す!!
「なんなんだこれは……! なんなんだ! ワシは今までこんな拳法見たことないぞぉ!?」
王翬はもちろん、誰もが驚愕するしかなかった。あの王翬に、西派の勁の技を受け止めるターちゃんのその姿に。
それを見た大導師の蓮苞はターちゃんを支えている動物達。その『力』に気づいていた。
「ターちゃん、私には分かります。アフリカの大地に根づいた大きな心……そして、あなたを支える多くの動物達の姿が……」
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!」
それを未だ信じられないのは相手の王翬だ。たかが動物とターちゃんごときになぜ西派の究極奥義が通じないのかと。
動物ごとターちゃんを吹き飛ばそうと残った気を自在拳に注ぎ込む。
雷のように強烈な気の光が辺り一面を照らし上げる。
しかし! ターちゃんは倒れない!
「何故だ!?」
退かない!
「何故だぁ!?」
受け止める!!
「何故だ、何故だ、何故だぁぁぁ!? 何故倒れんのだぁぁぁぉぁぁぁぁっ!!!!」
「――気だか勁だか知らんねーがこちとらアニマルパワーだ!!」
ターちゃんは一人じゃない。
たくさんの動物達に後押しされている今、どんな力も敵ではなかった。
「――うぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
気の塊を正面から、完全粉砕!!
「ぬぅぅぅぅっ……!?」
「王翬様!」
「王翬様ぁ!」
「やった! 父さん!!」
「キィーッ!!」
「す、すげえ……。王翬の気を、正面からぶち破りやがった……」
「気とは、元々誰もが持つ精神力です。私達の勁とは違いますが、ターちゃんの内にあるパワーを垣間見た気がします……!」
「こんな……ワシの気が……!」
一番衝撃を受けているのは王翬だ。自在拳に殆どの気を使い、体力も大きく消費した。立っていることすら精一杯、勁の技を封じられては打つ手がない。
今度こそ、勝負がほぼ決まった瞬間だった。
「ハァー……ハァーっ……!」
「もうよせ。勝負は見えた」
「ぐっ……!!」
最後の悪あがきと、残った僅かな気で技を放とうとする王翬。
だがその相手は、リングのターちゃんではない。
「……おかしい! 王翬の気はターちゃんじゃない、客席の方に向けられています!」
「何っ!?」
「死ねぇっ!!」
投げられた気弾の標的は観客席、更にその上にいる人物!
「蓮苞! 貴様が死ねば白華直系の血は絶え継承者を失う! その時点で、西派32門派を束ねる資格も失うのだ!!」
「あぁっ!?」
「卑怯なっ!!」
気弾が着弾、爆発。大導師の席が瓦礫の山となる。
舞い上がった煙が少しずつ晴れていって、中から姿を現したのは……背中が焼け焦げた梁と、無傷の蓮苞。
「……大丈夫か」
「……梁。梁っ!」
危機一髪。梁が盾になったことで、どうにか大導師の命は守られたのだった。
「ぐ……」
「……終わったな。せめて大導師を殺せればと思ったが」
「な、何を言ってんだ劉宝兄さん。王翬様がそんな卑劣なことをなさる訳がない、きっと今のは外しただけで……」
黒龍陣営の李功が王翬の行動をフォローしようとしたが、義兄劉宝は「子供は黙ってろ!」と黙らせる。
その王翬に審判が駆け寄る。
「お、王翬よ。今の攻撃は明らかに反則。よって負けとなるが」
「ま、負けもクソもあるか……。もう立っているのがやっとだ……」
「ならばそれまで! 勝者、白華――」
「まだ終わっちゃいないぞ」
勝敗が下されようとした瞬間であった。ターちゃんが満身創痍の王翬の首を、腕で締め上げたのは。
「ターちゃん!」
「ターちゃん先生!?」
「な、何をする気だ、白華の中堅!」
周りが騒然となる中、ターちゃんは王翬の顔をある方向へ向けさせた。その先には王翬が傷を負わせた魯の姿がある。
「お前が倒した客席の男を助けろ。気でもなんでもいいから、早く治してやれ!」
「む……無茶を言うな。ワシのどこに、あいつを治す気があるものか……」
王翬に治療ができないことはターちゃんも分かっていた。
目的は別。
腕に力を込め、王翬を締める。
「ぐぁ……」
「や、やめろ! もう勝負はついているじゃないか! それに王翬様は、お前を狙った男を倒してくれたんだぞ!!」
「――違う!!」
庇う李功を大声で否定し、王翬を睨み付ける。
「白状しろ! 今ここで、本当のことを皆に言うんだ!」
「ぐ……」
「それとも私が言いましょうか、王翬」
「れ、蓮苞!?」
現れたのは蓮苞と梁。気のテレパシーによって、全ての真実を蓮苞は知っている。
それも予想していたから、王翬は蓮苞を殺そうとした。
暗殺を防がれ、戦う力もない。
王翬は遂に観念して……全てを白状した。
「……わ、分かった……言う。魯がターちゃんを狙ったのは……ワシの差し金だ……」
「王翬様!? 本当ですか!」
「狼狽えるな李功!」
「……どうせそんなことだろうと思った。お前達は西派の実権欲しさに、人まで傷つけるって言うのか!!」
怒りを込めた言葉を浴びせ、ターちゃんは王翬を放した。
黒龍を倒し勝利した。トーナメントは白華の優勝だ。
だがそこに……栄光などなかった。
優勝者への喝采も、勝利の喜びも存在せず。
シン、と歓声が嘘のように静寂が流れる闘技場。
「……今、私はこのトーナメントに参加したことを後悔している」
「ターちゃん先生……」
その中でターちゃんは、一人静かに語り始めた。
「うまくは言えないが……。動物の世界にも戦いはある。食い物を得るために、ライオンは他の動物を襲う」
誰もがそれを、何も言わず聞いていた。
「しかし、そのライオンだって必要以上の獲物はとらない。自分と家族のためだけの戦いだ。……ところがどうだ人間は。権力欲のために戦い、必要のない者まで巻き添えにして傷つける……」
この西派トーナメントを通し、見て、感じたこと。
人間の欲望が引き起こした醜い権力争いを目の当たりにして、ターちゃんは『言葉』を伝えていく。
「そ、それはここにいる私も、仲間達も……そして集まっている全部の人間にも、少しずつ責任があって……」
精一杯の『言葉』。それでも少しずつ、途切れ途切れになっていって。
やがてターちゃんから……涙がこぼれ落ちた。
「……ちくしょう。頭が悪いんでこれ以上説明ができない……っ」
「……分かったわよ。ターちゃん」
妻であるヂェーンが静かに頷く。
最後まで説明会できなくても、ターちゃんの『言葉』の意味は、この場にいる全員へ伝わったから。
静かに、静かに、ターちゃんの『言葉』は胸の中へと、響き渡っていった……。
◆◆◆
――こうして、西派トーナメントは終わりを迎えた。
西派32門派は、優勝した白華の支配に再びおさまった。
王翬と劉宝はトーナメントで策略を巡らせた罪を認め、刑罰に服した。
その王翬へ利用された魯は李功が治療に手を貸してくれたことで一命を取り留め、病気の息子は青掛の皆が協力し金を出しあって病院へ入ることができた。
蓮苞は大導師として西派の頂点につき、梁もまた西派の掟に従い、最高師範として蓮苞に仕えることになったのであった……。
◆◆◆
トーナメントから時は流れ、1ヶ月後。
【通明賢気……骨禎枸根……黄考建中……】
白華の里にて、内養功の術を趙に使う李功。気によって見えなくなった趙の目の治療だ。
気を解除すると「ふぅー」と一息つく。
「あと半年ほど通って気を通わせてやる。そうすればいずれ、目も見えるようになるだろう。……俺がやったんだから仕方ないや」
「その通り。ひどい奴だ」
「いじめるなよ」
趙に苦笑いしながら、罰を受けている李功は王翬と劉宝のことを思う。
「……俺は4歳のときから王翬様に仕込まれた、10年後のトーナメントで白華を倒すために」
毎日受けた血の滲むような修行を思い出す。李功や黒龍拳にとって、王翬とは絶対の存在だった。
だが白人のスポンサーが金をちらつかせ、西派を暗殺集団とする話を持ちかけたことで黒龍拳は変わり、狂っていった。
その結果が、トーナメントでの事件だった。
「……しかしまさか、義兄さんと王翬様が共謀して試合中の選手を殺そうとしていたのは知らなかったよ」
「……白華拳の三人の拳士を毒殺したのも、その白人達だったそうだな」
「あぁ……。しかし、それを止めなかった黒龍拳にも責任がある。もちろん俺にもだ」
結局李功も利用されていた存在。
だが此度の事件で黒龍は大きく力を失った。周りからの風当たりもしばらくは強いだろう。
それでも、例え一生かけてでも、償いはする。
黒龍の若き拳士は、覚悟を決めた瞳を持っていた。
「黒龍は、一から出直しだ」
「……頑張れよ」
「あぁ」
向かいあう白華の若拳士も、負けないくらいの強い思いを胸に秘め、握手をかわした。
――後に、この二人が西派に大きく名を轟かせることになるのだが、それはまた別のお話。
「あの二人、いいライバルになりそうね」
「そうだな。ま、俺達は夫婦になり損ねちまったがな……」
「えー? だったらいい手段があるじゃないですかー」
手伝いの畑仕事が終わった僕は、結婚ができないことを話していた梁師範と蓮苞さんの二人へ、前から思っていた提案をしてみた。
「だって同門だから結婚できないんですよね? だったら父さんの、ターちゃん流空手に入門すればいいのでは」
「「……あっ」」
「そりゃいいやー」
「いい考えするじゃないの、こうがちゃん」
「あ、畑仕事終わりましたよー」
同じく畑の手伝いをしていた父さんにペドロさん。肉まんを頬張る母さんと集まってきて、あとピースサインで同意する人が……一人。
「ぐっどあいであー」
「なーにがぐっどあいであーだアナベベ。毎日働きもせず中華料理ばっか食ってさ」
おかげでブクブク太っちゃったりしてる。まあお金は払ってるから大丈夫なんだけどね。
「そ、そうねー。こうが君のそれ、いいかもしれないわ!」
「そーだ、そーしようか! うん!!」
二人がくっつく目処がついたみたいだ。この後にでも直ぐに上の人へ話に行くんだって。
うん、一安心。
……こうして。
アフリカから来た父さん達、三人の戦士によって、この中国拳法の里に再び静けさが戻ってきた。
中国での戦いはこれでおしまい。
気を使った激しい戦い。戦いに隠された思いや愛、そして……人の欲望や、父さんが言った戦いの意味。
――この中国での戦いが、僕へ大きな影響を与えるのを、このときはまだ知らなかった。
□月15日、くもり、こうが
ジャングルの王者ターちゃん~新ファミリー物語~
第二部、中国編。
「なーリンリンちゃん。皆アフリカに帰るみたいだし、別れよーか」
「え、エテ吉さんって勝手だわ!!!!」
追記。
エテ吉は中国のガールフレンドと別れたよーです。
こうが
「……はい! 中国編、これにて終わりです!!」
ターちゃん
「わー、ぱちぱちなのだ」
ヂェーン
「長いわよ作者ちゃーん。他の作品もほったらかしちゃってさー」
……返す言葉もないです。申し訳ありませんでした。ホントに。
ヂェーン
「こないだなんか向こうの一捷ちゃん達が遊びに来たわよ」
ターちゃん
「セイバーさんは凄い食べっぷりだったねぇ」
こうが
「そんなことになっての!? いつ来てたんだ……」
ヂェーン
「まーやることはやって、こっちも書いてよね」
はい。とりあえず、今後のお知らせを。
ターちゃんは少し日常話を挟んで、次のお話へ行きたいと思います。オリジナルで、こうがについての内容をやります。
ターちゃん
「タイトルを少し拾うんだね」
ヂェーン
「物語がちょこっとずつ動き出すわけねー。じゃあこうがちゃん、〆よろしく」
こうが
「はい母さん! 次回はアフリカへ戻ってきた僕達。でも何故か梁師範も一緒に、一体どうして?
次回、ジャングルの王者ターちゃん~新ファミリー物語~
第27話 こうがの秘密 前編
あれ、もうやんのこれ?」