「ほらエテ吉見るのだ、こんなに空を飛んでるから肌が羽根をむしられた鳥みたいになってるのだ……」
「単に機内が寒いから鳥肌立ってるだけじゃないのか……?」
「ミスターターちゃん。よければこの毛皮をどうぞ、なんなら差し上げます」
ジェット機内。
ぶるぶる震えているターちゃんを気遣い、アブドラがしっかりとした箱に入った、高級毛皮を渡した。
「いいよなー、優勝候補は優遇されて。俺だって寒いのに」
「う」
するとターちゃんの後ろの席に座るスコットがやっかむように言った。ターちゃんは自分だけ暖まるのは悪いと思い、箱の上部分を広げて……
「あの、これでいいです」
「レゲエのおじさんかいおのれは!!!!」
「だって私だけいい思いするのは悪いよ。これはこうがが使いなさい」
「え……」
毛皮はノートに絵を描いていたこうがにパスされる。くるまればさぞ暖かいだろう毛皮を見るが、こうがには周りの視線が突き刺さる。
そんな中で自分だけ、なんてのはこうがにも出来ない訳で。残る箱の下部分を広げて……
「僕も、これでいいです」
「似た者同士やねあんたら!!!!」
「……お前さんとこの師匠と息子、大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ、ベイカーさん。先生もこうが君も、普段はジャングルにいます。町に出るのは初めてだから、不安なんですよ」
「はー、成る程」
「それにトーナメントになれば先生だって真剣に……」
聞いていたナパキャットが成る程と、腕を組む。説明したペドロも内心は不安。でもターちゃん先生なら、と信じて、ターちゃんの達の方を見た。
「え~何よ。ユンケル帝国ってアフリカにあんの? 近所じゃない、ヨーロッパ辺りかと思ってたのに期待して損しちゃったわ~」
「ストリップ劇場ありますか」
「あんたら何しにいくわけ!!!?」
「……多分大丈夫です」
「「「(本当にかよ……)」」」
何はともあれ、ユンケル帝国に到着。空港からバスに乗り、首都リゲインで降車。宿泊するホテルへ案内される。試合の時間が近づいたら迎えが来るそうなので、まずは休む事にするターちゃん達。
「さ、部屋に行くわよ。ホテルに入った入った」
「は~い。ってうわっ!?」
ホテルに入ろうとすると、出入口でこうがと一人の男がぶつかりかけてしまう。同時に、驚いて声を上げてしまうこうが。
「ご、ごめんなさい」
「あー……気を付けろよ、坊主」
「大丈夫こうがちゃん? すみませんでした息子が」
見ず知らずの人には失礼な反応をしてしまい、こうがとヂェーンが謝る。だがこうがが驚いてしまったのも無理はない。男の顔の至る所はパンパンに腫れ上がり頭には包帯を巻いている。右足にはギプスをつけていて松葉杖をついていて、とても無事には見えない。
その男は一行の中からターちゃんを見ると何か思い、こう言い残した。
「あんたらも金目当てでトーナメントに来たみてえだな。悪いこたぁ言わねぇ。さっさと帰りな」
「どうして?」
「まともじゃねえからさ。俺達はな、化物と戦わせる為に集められた、ただのモルモットなんだよ……」
松葉杖をついて、男は去っていく。
「モルモット……どういうことだろう?」
「ぬおあらぁ!」
「せやぁっ!」
ユンケル帝国、闘技場。
既にオープントーナメントは開始されており、大観衆の中、世界中から集められた格闘家達が、己の技を相手にぶつけ合っている。
格闘家同士の、魂をかけた戦い。それを観客席とは別の位置、更に高い場所の席で見ている人間達がいる。
「やはり皆、強き者ばかりだな。こちらにも闘志が伝わってくる」
試合を観戦しそう呟くのは少年。だが彼こそがターちゃんに招待状を送った張本人。ユンケル帝国38代国王マハラー・ポポ、その人である。
ポポ国王の側には側近が二人。それとは別に、国王より低い高さの椅子に座る、ちょび髭の男がいる。名はマハラジャ、ユンケル帝国の国防大臣だ。
「ふむ、中々の動体視力……」
マハラジャは選手を分析しながら、膝の上に乗っけているコンピューターにデータを打ち込んでいる。しかし今の選手はお眼鏡に叶わず、「鍛えてもこの程度だな」と評価を下した。
会場の方では次の試合が始まろうとしていた。片方の出入口から現れたのは、黒人の男性。元WBB世界ミドル級チャンピオン、ブラジルのリオ・サントス。
「続きまして入場者するは、我がユンケル帝国の国防軍戦士、アークツルス!!」
審判に紹介され、ユンケル帝国の選手が会場に出てくる。筋骨隆々、強面の大男。見るからにただ者ではない雰囲気を放っている。
「あれが大臣の言う『バイオ戦士』というやつか?」
「いかにも。国防省がバイオテクノロジーの粋を集めて作らせた無敵の戦士。その戦いぶり、ゆっくりとご覧ください」
「どりゃあぁっ!!」
試合開始と同時に、ブラジルのサントスがパンチを打ち込む。ストレート、アッパー、フック、様々な拳を叩き込みまくる。
だが、相手のアークツルスはびくともしない。ボディブローを食らおうと、何もなかったかの様に立っていた。
まるで、体が鋼で出来ているかの様に。
「おらよっ」
「がはぁっ!? がっ……」
「い、一発でダウンだと!」
「アークツルスの筋肉密度は薬物注射により通常の6倍。それについていける筋力も備えています」
マハラジャの言う薬物注射はステロイド注射という薬物投与。その薬物や改造により強化された人間こそが、バイオ戦士。現在はテスト移管中の、マハラジャが進めている国家プロジェクトであった。
しかし、冷徹に相手を殴るアークツルスの姿を、マハラー・ポポは良いとは思えなかった。
「だがマハラジャ。薬物投与などという怪しいもので作った戦士など、殺人機械同様ではないか。国民に余計な不安を与えるだろうし、無用な争いの火種にもなりかねんぞ」
マハラー・ポポはバイオ戦士プロジェクトには反対していた。そんなものは必要ないと。
そんな国王にマハラジャはため息をついてから答えた。
「国王様。国を治める貴方がそのような弱腰では困りますな。我がユンケル帝国はサハラ砂漠の中央にある小国。強力な力を持たねば、隣国に蹂躙されるだけですぞ」
(まあ最も、私が王になれば問題ないのだがな……)
今の国王、マハラー・ポポは王位についたばかり。そのせいか、自信が持てず弱腰になってしまっている。マハラジャはそこに漬け込み、国防大臣の権力を使ってバイオ戦士プロジェクトを立ち上げた。バイオ戦士を量産し強力な国防軍を形成。そうすれば、ユンケル帝国は世界最強の国家にもなる。
そう……マハラジャの真なる目的は、国王の座を奪い取り、自分が王になる事なのだ。
(……だから私は、ターちゃんを呼んだのだ)
それを薄々、マハラー・ポポは分かっていた。だから、ガイドで世話になったターちゃんをトーナメントに招待した。
バイオ戦士プロジェクトは既に議会の決定の元に進められている。もしバイオ戦士がトーナメントで優勝してしまえば、プロジェクトは更に大きくなって止められなくなる。
だが逆に。バイオ戦士を普通の選手が倒せば、価値はないと見なされ、議会はプロジェクトを却下するだろう。
だから、ターちゃんに希望を託したのだ。マハラー・ポポは。
(情けない私ですまない……。ターちゃん、どうか……頼む!)
「では続けて、予選第8試合を開始いたします!」
審判が叫ぶ。ワァァァァ、と観客の声が響き渡り、開戦の時を待っている。
「父さん、これにペドロさんが出るんだよね?」
「そうなのだ。しっかり応援しようね」
「うん!」
「あ、相手が出てきたわよ」
紹介されるのは、フランスの89年アマ、ヨーロッパ空手選手権チャンピオン、ジャンポール・ベルモンチ。青い胴着を着こんだ、金髪碧眼で爽やかな笑顔を観客に振り撒いている男性。ハンサムな容姿に、観客から黄色い声がたくさん上がる。
「対するはアフリカ、ターちゃん流空手術、ペドロ・カズマイヤー!」
ペドロが入場してくる。引き締めた表情。初めての試合だからか、少し緊張気味のよう。
「ペドロさん、頑張って下さい!」
「ファイトよーペドロちゃん!」
「落ち着いていけ、ペドロ! いつも通りやれば大丈夫だから!」
「押忍! 皆さん!!」
ターちゃんファミリーの応援を受け、気合いを入れるペドロ。
両者が構え、にらみ会う。
そして遂に――審判が合図。
「はじめ!!」
「うりゃあああ!」
ペドロの試合が始まった。先制はベルモンチ、鋭い左ストレート。屈んでかわすペドロ、そこに右の蹴りが来る。回避後の態勢では避けれまい、ベルモンチはそう思ったが、ペドロはベルモンチの予想より素早く反応した。後方で高速で何度もバク転し、回避と同時に距離を取った。着地し、構え直す。
「何!?」
「何だ!? 今の素早い動きは!!」
「くそっ、ならこいつだ!」
ベルモンチだけではなく、観客も驚きを隠せなかった。ならばとベルモンチはペドロへ突撃、右手の人差し指、中指を突き出す。目潰しだ。
対し、ペドロは冷静に右手の手刀で目潰しをガード。人差し指と中指の間に当たり、ベルモンチの皮膚が裂け、痛みで仰け反った。
「こ、こいつぅ~!」
「見える!」
右蹴りが再び来る、しかしさっきよりキレがなく、苦し紛れの一撃だ。首を左へずらして回避。次の左ストレートも体を反らし避ける。ペドロには、ベルモンチの技が全て見えていた。動きについていけている。
(そうか、先生だ。先生の素早い動きを、いつも見ていたからだ)
「ぬん!」
「なっ!?」
「ペドロ――パンチッ!!」
「ぶふあぁ!?」
突き出された左腕を右腕で押し上げ、がら空きの顔面に左ストレートを叩き込む。まともに食らったベルモンチは、そのまま倒れ、気を失ったようで起き上がらなかった。
「それまで! 勝者、アフリカのペドロ・カズマイヤー!」
「やった……!」
観客が沸き立つ。彼ら彼女らの予想とは違っていたが、ペドロの強さは確実に伝わっていた。
まずは一勝。予選を通過できた。自分の事だから当然嬉しい。でもそれ以上に……ペドロの胸の内を満たしているのは、師匠や応援してくれた人達への感謝。
稽古をつけてもらい、家族の同然に接してくれ、共に鍛練を乗り越えた、あの一達への!
この気持ちを、まず伝えねば!
「先生ーーーっ! ヂェーンさーーーん! こうがくーーーん! やりましたよ……」
「きゃああぁぁぁ~~~っ!!うちのモンキーちゃんが見ず知らずのモンキーちゃんと交尾を~~~っ!!!!」(もちろんエテ吉)
「お前は見境ないんかい!!!!」
「いやー今の彼、私の弟子なんですよ実は。ははは」
「でもペドロさんもちょっと抜けてて、この間も布団の隙間にH本隠してたりとか……」
「だあああぁぁぁ~~~~っ!!!?」
……なんだかんだでペドロ、予選通過である。
「続いて予選第9試合を行います! まずはタイ国、現ムエタイヘビー級チャンピオン、ナパキャット・ワンタン! 対するは、ユンケル帝国、国防軍戦士プロキオンです!」
続く第9試合。片や、ターちゃん達も知るナパキャットの出番。その相手はユンケル帝国の戦士。
既にユンケル帝国はアースガルツともう一人を出場させていて、二人とも予選を突破済。今度はどんな奴が来るんだと観客や選手は注目する。
そして、出てきたのは……1メートルもない、顔に斜めの縫い傷がある男だった。
「おいおい、あんな奴が本当に帝国の戦士かよ!」
「他の二人とは大違いだぜ!」
その矮躯に野次を飛ばす観客達。そんな中で、第9試合の火蓋が切って落とされる。
「はじめ!」
「はぁぁぁ、ふんっ!!」
「よし、先制だ!」
「ナパちゃん頑張んなさい!」
「ファイトー!」
ナパキャットが右中段蹴りを決める。そこから膝蹴り。プロキオンの首を両腕でホールドし、連続で突き刺すような膝蹴りを叩き込んでいく。
「やれやれい! か~っあたしもなんか見てたらエキサイトしてきたわよぉ~~!!」
「え、かあさ、ぼぎゅっ!!!?」
「おらッ、おらッ、おらよっ!!」
「どらぁ、どらぁ、どおりゃあ!!」
「ヂェーン何するの、ほごぉ!!!?」
「……あのーもうすぐターちゃんさんの試合なんですが……」
ヒートアップしたヂェーンのナパキャットを真似た膝蹴りにこうがとターちゃんが巻き込まれたが……多分大丈夫だろう。
それよりも、ナパキャットとプロキオンの試合だ。観客やナパキャットの、全く予想外の展開になっているのである。
「こいつなんだ!? どれだけ蹴っても倒れねえ!」
ナパキャットの腹までしか身長がないにも関わらず、ユンケル帝国の戦士プロキオンは、蹴りをいくら食らってもダウンしない。連続膝蹴りも同じ、普通ならとっくにダウンする攻撃を受けても何もなかったように立っているプロキオンに、ナパキャットは薄気味悪さを感じ始めていた。
「こいつなら!」
余りにもしつこいので、繰り出す左フック。だがそれは勝負を早く決めようとした焦りで大振りになった。プロキオンは小柄な体を活かし少し屈んで回避、そのままがら空きになったナパキャットの懐へ飛び込んで、背中へ両腕をまわし――!
ごぎり。
ナパキャットの背骨をへし折った。
「そ、それまで!! 勝者プロキオン!」
「救護班急げー!」「無闇に動かすな、背骨が折れてる!」
口から血と泡を吐き白目をむきぴくりともしないナパキャットの姿に、静まり返る会場。
「な、ナパちゃんが、やられちゃった……」
「あれが、ユンケル帝国の戦士なの……?」
「ひどい事を……」
「ターちゃんさん、あなた様の相手もプロキオンと同じユンケル帝国の戦士なのです」
知らない仲ではないから、ヂェーン達もショックを隠せない。
ターちゃんは静かに怒りを燃やす、流石にあんなのを見て何も思わない訳がなかった。
「よし、ならば」
気合いをいれるターちゃん、指をぼきぼき鳴らし、
「いっちょ真面目に」
首をぐきぐきひねり、
「戦ってくるか」
……逆立ちして足の指までぼきぼきと鳴らした。
「何処が真面目なんじゃい!!!!」
「父さん……気を付けてね」
「こうが?」
「……ジャングルだと戦ってる所見たいなんて言ったけど……ナパさんがあんなになっちゃって……」
もしかしたらターちゃんも……。
暗い表情のこうが。そんな息子の頭を、ターちゃんはぽんぽん、と叩いた。
「心配すんなってこうが。私を誰だと思っているのだ」
「だいじょーぶよこうがちゃん。ターちゃんの取り柄は今まで喧嘩に負けた事ない事だから」
「それ誉めてんの……ヂェーン?」
「まーまー。でも、きぃつけなさいよ」
「……ん。言ってくるのだ」
ヂェーンは相変わらず。でも、その言葉の中にはちゃんと心配も含まれている。
だって、ヂェーンはターちゃんの奥さんだから。
一目惚れしたこの男を信じ、そしていつも心配している。
息子と共に、ターちゃんの勝利を信じて待つ。
ヂェーンとこうがへ頷いて、ターちゃんは控え室へ。
「それまで! 予選第12試合、勝者アフリカのゼブラちゃんちゃんこりんマン!!」
試合は進みターちゃんの一つ前の試合が終了。勝者はシマウマ柄のマスクを被った黒人マッチョのマスクマンだ。
「あれ? 母さん、あのシマシマの人って……」
「あら、アイツじゃない。なんでここにいんの」
「続きまして、予選第13試合! ユンケル帝国、国防軍戦士カノーブス!」
入場してきたのは右目と、顔右側が作り物の大男。他の帝国戦士と同じ、強者の雰囲気を放っている。
「対するはアフリカ、ジャングルの王者ターちゃん!」
反対からターちゃんが入場、定位置に向かう途中で前試合の選手、ゼブラちゃんちゃんこりんマンとすれ違う。
「負けるんじゃねーぞターちゃん」
「ん。…………うん?」
とある人物を思い浮かべ振り返るターちゃん、でも今は試合に集中しなければいけない。定位置につき、カノーブスと対峙する。
「ターちゃん、頑張りなさいよ!」
「父さん、ファイトー!」
さあ、いよいよターちゃんの試合だ。
「予選第13試合、試合――開始!!」
ヂェーン
「えぇ~っ!! ここで終わり!?」
いやーすみません。これ以上長くするとグダグダになっちゃうので……。
こうが
「真ん中辺りで切ればいいんじゃなかったのかな」
……うん。次回予告お願い。
こうが、ヂェーン
((動揺したな))
こうが
「じゃあ次回予告。
ターちゃん父さんの試合が遂に開始!
予選終了、でもターちゃん父さんはトーナメントを降りると言い出してしまう。
一体どうなっちゃうの!?
次回、ジャングルの王者ターちゃん~新ファミリー物語~
第6話 波乱、オープントーナメントの巻
父さん……どうやってジャングルに帰るのさー!?」
ヂェーン
「いやそこかい!!」