「ただ今より二回戦! ユンケル帝国国防軍戦士アークツルス対アフリカ、ジャングルの王者ターちゃんの試合を行います!!」
歓声と熱気が充満する闘技場。東側より三人目のバイオ戦士アークツルスが入場してくる。
観客席ではターちゃんの体を知るヂェーンにこうが、エテ吉が心配そうに座っている。別の場所ではゼブラちゃんちゃんこりんマンもいる。沙良に別の場所にはペドロを下したカシオの姿もあった。
「おいおい。ターちゃんってのは片手片足が使えねーんだろ、大丈夫かよ」
「賞金に目が眩んでんのさ。一千万ドルだぜ、一千万」
「バカッ!! お金の為違うわい!!!!」
「「ひええええええ~っ!?」」
「キキー!(喧嘩はダメー!)」
「あ、父さんが出てきた!」
こうがが思わず指差した先。西側よりひょこひょこと片足を引きずりながら出てくるターちゃん。その姿に観客がどよめく。怪我ではない。ある部分が全く違うことになっているからだ。
「見ろ! 髪の毛が逆立っているぞ!!」
「す、すごい。まるでたてがみみたいだ」
「気持ちが高ぶっているのよ……今まであんなターちゃん、見たことない」
「……キキ(……いや、ある)」
思わぬ反応をしたのはエテ吉であった。
「キキ、キーキキキキ(昔、あんなターちゃんを見たことがある。こないだ、こうがも見たろ?)」
「え……あっ! あれだ!」※今更ですがこうがもエテ吉のエテ公語が分かります。
それはターちゃんがまだ十歳の時。こうがはアフリカにいる時。
サバンナで旅行者が忘れていった鞄を見つけて、中にプラスチックの下敷きが入っていた。それを擦って頭にやると……。
「髪の毛が逆立ったんだ!」
「そりゃ静電気じゃい!!!!」
「え、そうなの」
「試合、開始!」
「ガアアアアアア!!」
開始と同時、両手を伸ばし吠えるアークツルスがターちゃんへ突っ込む。ターちゃんは怪我をしていない右腕だけを構え、怪我の左腕は下げている。
突進の勢いを乗せたカノーブスの右ストレート。屈みウィービングで避けようとするターちゃんだが、右足を負傷している。かわしたものの右足から激痛が走り、バランスが取れずふらついてしまう。
「ぐっ!!」
「死ねや!」
次々とアークツルスは拳を繰り出す。それをターちゃんは右腕だけを使い、弾く。片足ではディフェンスの際にふんばりきれず、押し負けてしまう。
とにかく使える右腕だけでなんとかやり過ごしていくターちゃん。
相手のアークツルスは、片手片足といえどパンチだけでは仕留めきれないと考え、ぐっと身を屈ませた。
「不味い、キックが来るぞ!」
ゼブラちゃんちゃんこりんマンが反射的に叫んだ。アークツルスの大柄な体でキックが来たら、片腕では弾ききれない。
「ずぉらぁ!!」
「ターちゃん!」「父さん!」
「キー(大丈夫)」
ゴッッッッ!!!!
「なぁ!?」
「キックを片腕で止めやがった!!」
「キキーッ! キキッキッキー! キキ(あったり前! ターちゃんを育てたの、誰だと思っていやがる! 俺だよ)」
そう。ターちゃんは足より手が達者なエテ公、エテ吉に育てられてきた。その手は凄まじく強靭なのだ!
「あぁっ、でも!」
「ぐうっ!?」
キックを防ぎはした。だが片足では踏ん張りが効かず倒れてしまうターちゃん、そこへ踏み潰さんと足を振り上げるアークツルス!
「踏み潰してやる!」
「父さんが!」
「キー(大丈夫)」
さっ
「ちんこでかわしたーっ!?」
「んなバカな!!」
ついでに手よりポコチンが達者なエテ公、エテ吉でもある。ちんこで体を持ち上げ踏みつけを回避。
「キィィ(それも俺だ)」
「ふ、ふざけやがって!」
「……それは、こっちの台詞」
「あぁ!? なッ……!」
ゆっくり立ち上がるターちゃん。その一対の瞳がアークツルスを睨みつけ、気圧されるアークツルス。黄色く染まり縦に黒筋が入った二つの瞳。つられるように髪の毛が大きく逆立ち、本当にたてがみのようになった。
その瞳はライオンの瞳。
ターちゃんの怒り、闘気に反応して、これまでバイオ戦士研究で殺されたライオン達の霊がターちゃんに乗り移ったのだ。
「へっ、なら貴様もタマ潰してやるわ!!」
一瞬はたじろいだが直ぐにターちゃんへ襲いかかるアークツルス。繰り出すは右ストレート。
それをターちゃんは、
バキィッ!!!!
「がっ……うあああああああああああ!!!?」
チョップで、右腕をへし折った。折れた骨が皮膚を破り見える程に!!
「ただのチョップで、アークツルスの腕を折った!?」
「うらぁぁぁぁ!」
「ぎがああああああ!?」
続いて左腕も掌を掴んで握り潰す。両手が使えなくなっても容赦はしない。
「ふん!!」
「ぐっ!!!?」
ヘッドバットで鼻を潰す。腕だけで逆立ちをし、キック。反対のキック。またキック!!
キックラッシュをぶちこむ!!
「がっ、ぎゃっ、ごはぁあ!」
「うあああっ!!」
「うぎゃっ……!」
ラストは足での締め付け。両手を折られ鼻を潰され蹴りに蹴られまくったアークツルスに、戦闘力は欠片も残っていなかった。
「やめて父さん!」
「それ以上やったら死んじゃうわよ!」
二人の言葉が通じたのか。ターちゃんはアークツルスを解放、次の瞬間に試合終了のゴングが鳴った。
「そ、それまで! 勝者、ジャングルの王者ターちゃん!!」
まさに圧倒であった。観客達の歓声が降り注ぐ。
試合終了と同時に逆立っていた髪の毛も戻っていく。殺されたライオン達は退散していき、元のターちゃんへ戻る。
『これで、終わった』
『もう、心残りはない』
『ありがとう、ターちゃん』
最後にターちゃんはそう聞いた気がした。人間の野望で殺されたライオン達。せめて安らかに眠れ、控え室に戻ったターちゃんは手を合わせた。
「しかし、やり過ぎただろーか」
試合を思い出す。アークツルスは強かった。怒りで戦ったのは事実だが、あんなに叩きのめしていい気はしない。そう後悔していると、答えるかのような声が聞こえてくる。
「やらなきゃ、お前がやられてたろーさ」
声の主はシマシマ柄の黒人マッチョマスクマン、ゼブラちゃんちゃんこりんマン。確かな強さを持った謎の男。
「何やってんのアナベベ」
「あら、やっぱばれてーら」
しかしてその実態はターちゃんの親友である『アナベベ』だ。彼を知るターちゃんやヂェーンからすれば一目で分かる変装だった。
「まっ、お前も頑張れよ。俺はこれから二回戦だ」
「アナベベ……」
「お互い頑張ろうや」
「うん。…………でも、パンツからチンコケースはみ出てるぞ。あときんたま」
「いやーん!」
このあと、ゼブラちゃんちゃんこりんマンは二回戦に勝利し、最後のバイオ戦士カシオも二回戦で勝利。
ターちゃん、ゼブラちゃんちゃんこりんマン、カシオの全員は、準決勝へと勝ち残った。
「アークツルスが……あんな一方的にやられるとは……」
ユンケル帝国の奥、マハラジャの研究施設。
マハラジャは青ざめた顔をしている。アークツルスが敗北、しかも圧倒的に押されて倒されてしまった。これで残るバイオ戦士はカシオ一人。もしカシオまでやられてしまえば、プロジェクトは取り止めにされ同時に自分の野望も終わってしまう。野心家のマハラジャは、なんとしてもカシオを勝たせねばと躍起になっていた。
「ステロイド注射を始める! カシオ!」
「はい」
上半身裸のカシオにはいくつもパッドが貼られコンピュータにデータが表示されている。これから行われるのは、新型アナボリックステロイドによる更なる強化だ。
「注射開始!」
「注射、開始します!」
指示された研究員がカチャカチャとキーボードを操作。アーム型注射機がカシオの首、腹、太股の動脈に針を突き刺し、ステロイドを注入していく。
ドクドクと全身の血管が脈動し、カシオが苦悶の声を漏らす。
「ぐ、ぐううう」
「もっとだ、もっと注入しろ!」
「一気に注入すると危険です。心臓、脈管係に異常発生」
「ぐううううっ!」
ボンッ! 体が膨れ上がる。投与されたステロイドの効果だ。
「150パーセント肥大」
「もっと続けろ!」
「ぐああああああっ!!」
膨れ上がった体に、更にステロイドを詰め込まれていくカシオ。たまらず絶叫し、汗が異常な程分泌されていく。
「これ以上は危険です! 心拍数に異常発生!」
「続けろ! 明日の相手はターちゃんなのだ……ギリギリまで投与してパワーアップさせるのだ!!」
「ぐあああっ、あああああーーーーっ!!!!」
トーナメントには父さん。バイオ戦士のカシオ。あとやっぱりだったゼブラちゃんちゃんこりんマンことアナベベさんが残った。
準決勝の組み合わせで、父さんはカシオと当たることになっている。
ペドロさんをボコボコにしたカシオ……父さんがやられるなんて考えたくないけど、やっぱり心配だ。
父さん、どうか無事で。ちゃんと帰ってきてね。
あ、それとボコボコにされたペドロさんは1ヶ月もあれば治るとのこと。鼻を潰されたそうだけど、国王様がタダで整形手術をしてくれるそうで、一安心だ。
△月10日、くもり、こうが
こうが
「次回予告
父さん対カシオ! 最後のバイオ戦士との戦いだ。
怪我を治した父さんは全力全開! でもカシオも更に筋肉増強して迫り来る。
手に汗握る戦い。だけども、この戦いには思いもよらない結末が待っていたんだ……。
次回、ジャングルの王者ターちゃん~新ファミリー物語~
第9話 VSカシオ、オープントーナメントの巻
父さん、いったい何を!?」