とある日の朝。時期的には工場での事件の次の日。
「え?勇魅さんについて聞きたい?」
「うん。」
常守は自分の上司であり、教育係である薙鵺眞 勇魅について執行官の面々に聞いてみようとふと思い。こうして聞いて回っている。今はかがりに話を聞いている所だ。
「そうだな~。俺からしたら兄貴みたいな人かな。」
「お兄さん?」
「そう。監視官であの人だけは俺を同じ人間として扱ってくれた。それだけじゃなく、自分も非番の日は一緒にゲーセンに連れていってくれたりとよくしてくれたよ。」
どうやらかがりからはかなり高評価のようだ。
他の人にも話を聞いてみよう。
──────────
「薙鵺眞さんについて?」
「はい。」
常守は次に六合塚に出くわし、先程かがりに聞いたように話を聞いている。
「そうね。私から見たあの人はとても大きな存在かしら。」
「大きな...存在?」
常守は六合塚にそう聞き返すと
「ええ。....実は私。彼に恋愛相談したことがあってね。その時、あの人は真剣に聞いてどうすればいいかちゃんと答えてくれた。それだけで私は救われた気分になった。」
「はぁ。」
常守はそう呟く。
「変わってるって思ったでしょ。たかが恋愛相談ぐらいでって。」
「い、いえ!別にそんな風には。」
「.....そんなのは私自身が分かってる。でも、私からしたらあの時のあの人がそれだけ素敵に見えたのよ。」
六合塚は少し微笑んでそう常守に答える。
(薙鵺眞さんって慕われてるなぁ。)
常守は勇魅の事を心の中で再度評価し直すのであった。
───────────
征陸の自室にて。
「俺が勇魅の事をどう思ってるかって?」
「ええ。」
常守は次に征陸に話を聞こうと思い、こうして征陸の元へと出向いた。
「そうさな。息子....みたいなもんかな。」
「息子さん....ですか。」
征陸からそんな言葉が聞けるとは思わなくて常守はつい聞き返してしまう。
「なんだ以外か。俺にも息子くらいいるさ。」
「え!?」
初耳だった。あまりにも衝撃的な征陸のカミングアウトに常守は目を白黒させてしまう。
「あ~。そういや言ってなかったな。まぁそれはいつかまた話すさ。其れよりも勇魅のことだろ。」
「はい。」
常守は征陸の話を聞き逃すまいとしている。
「俺が最初にあいつと会った時。あいつは俺を刑事の先輩として、尊敬すべき対象として接してくれたんだ。」
「はぁ。」
常守は勇魅がそんな事をするようには見えないため、そう空返事を返してしまう。
「なんだあいつが信じられないか。....まぁ、あいつの何時もの飄々とした態度からは想像できないかも知れねぇな。」
征陸は窓の外の景色を見ながらそう答える。
「俺ら執行官は例えどんな理由があろうとも監視官と同じ扱いを受けることは無い。....だが、あいつ..勇魅だけは、俺を同じ人間として扱ってくれた。」
征陸は更に話を続ける。
「そういや、昨日の事件。宜野座監視官が俺を非難したろ?.......その時に勇魅が怒った理由..分かるか?」
今度は征陸
「え!?....えーっと...もしかして征陸さんの為..ですかね?」
常守はそう思い、答えた。
「ああ。そうだ。あいつは今の執行官達の扱いに納得していないみたいでな。俺が偉くなったら先ずは執行官達の扱いの改善を要求してやる!...なんて言ってた位だからな。」
「へぇ。」
なんだか、執行官の皆が勇魅をどう思っているのかが分かった気がする。そう常守は考え、次の人物の元へと向かった。
───────────
「勇魅君のことをどう思ってるかって?」
「はい。」
次に常守が立ち寄ったのは、志恩が居る総合分析室。次は彼女から勇魅の事を聞き出そうとする。
「そうねぇ。....彼は、宜野座監視官と違って私達潜在犯をそれこそ執行官達を同じ人間として見てくれている。それだけでも有難いのに、彼は私を女性としても扱ってくれるわ。紳士よ彼。」
志恩はコーヒー片手にそう常守に話す。
「成る程。」
「ああ、そうそう...朱ちゃん。今度勇魅君に○○店のスイーツ。頼んでおいてくれないかしら?」
「え!?」
常守は志恩が口に出した店の名前を聞いて驚いた。
それもその筈。志恩が口にしたその店は実はスイーツ専門の高級店であり、しかも予約しないと直ぐに売り切れてしまう程の人気店の名前であったのだ。
「ち、ちょっと待って下さい志恩さん。そんな高い店のスイーツなんて何時食べたんですか!?」
「え?...えーっとそうね.......一週間位前だったかしら勇魅君が差し入れで持ってきてくれたのよ。」
志恩は笑いながらそう常守に言った。
それを聞いて常守は、
(あんな高い店のスイーツを!?しかも予約して!?...というか刑事の給料で買えたっけ?)
実は勇魅は常守だけでなく周りの人に隠している秘密がいくつかあるのだが、それはいずれまた話したいと思う。
─────────
「勇魅について聞きたい?」ハァ...ハァ
「はい。」
次は勇魅の同期であり、彼の事をよく知っている咬噛に聞いた。咬噛は、ちょうどトレーニングを終わらせたところだったようで息切れしていた。
「....あいつはよく周りを見ている。それでいて俺達を気遣ってくれる。そんな存在だな。」
「そうですか。」
常守は勇魅が咬噛達から信頼されていることをここに来て再認識させられるのだった。
「.....昔。俺にも相棒が居た。もし、そいつが居なかったら俺は勇魅と組んでいたかもしれない。」
「咬噛さんにも相棒が居たんですか?」
聞き方によっては大分失礼な気もするが、常守は咬噛にそう聞いた。
「.....もし、あの時。あいつが居なくて、勇魅が執行官だったら俺は間違いなく勇魅をパートナーにしていた。......それだけ俺もギノもあいつを信頼している。」
咬噛は常守の質問を流して自分が勇魅に対してどう思っているか答えた。
「あんたはどうなんだ?...常守監視官。」
「わ、私...ですか?」
「あんた自身は勇魅の事....どう思ってるんだ?」
こちらは答えたのだから今度は自分の番とばかりに常守に質問する咬噛。
「私は.....頼れる上司だと思います。」
常守は咬噛の目を見ながらはっきりと答えた。
「あの人は何時も誰かの為に戦い、誰かの為に怒り、誰かの為に涙する。....そんな人だと私は思います。」
常守の愚直な、それでいて真実味を帯びている言葉を聞き咬噛は少し笑った。
「.....勇魅の奴が、が今のあんたの言葉を聞いたら喜ぶだろうな。」
常守は咬噛の言葉を受け止め、次の人物に接触することにした。
─────────
宜野座の場合
「.....」
「......」
ど、どうしよう。....物凄く気まずい!
常守はこの沈黙の時間に耐えられなくなりそうになっていた。
「.....俺が勇魅をどう思っているか聞きたいんだったな?」
ついに宜野座が沈黙を破り、常守に話しかけた。
「は、はい。」
「.......」
だが宜野座はまた黙り混み、また暫く沈黙の時間が続いた。
そして宜野座はまた口を開いた。
「あいつは何時も何時も事件の度に遅刻してくるし、その度に何で俺があいつの尻拭いをしなければならないんだ!」
常守は宜野座が勇魅を褒めるのかと思ったが、その逆であった。
宜野座は今までの勇魅の勝手な行動に対して不満を漏らした。
「おまけに反省すらしていない!もう俺はあいつの同期というだけで胃に穴が空きそうなんだぞ!...もう勘弁してくれ。」
先程までの威勢は何処へやら、意気消沈して泣き言を言い始めた。
「だが、あいつが居たから今まで俺は監視菅としてやってこられたのかもしれないな。」
と、宜野座は少しだけ笑った。
(こんな宜野座さん初めて見た。)
いかに勇魅が皆から慕われているかを再認識させられた常守であった。
─────────
「さて、後は皆から聞いた話を纏めないと。」
常守は急いで自分の席に戻ろうと署内の廊下を走っていた。
「きゃっ!」
ちょうど突き当たりに差し掛かったところで誰かとぶつかってしまった。
「おっと、悪い。...大丈夫か?...ってあれ、常守?」
「え?....薙鵺眞さん!?」
常守がぶつかってしまった相手は、自分が今まで調べていた上司─
──────────────
番外編 勇魅の場合
「成る程、
(大体合ってる。)
「そ、それよりも薙鵺眞さんはどう思ってるんですか?...その、皆のこと。」
恐る恐る勇魅に問いかける常守。
「ん?....ああ、そうだな。.......大切だよ。守るべき存在だ。...俺の命を掛けてでも守るべきだと思ってる。」
「......!」
常守は勇魅の思いに驚きを隠せないでいた。
「まぁ、こんなこと他の監視官に聞かれたら"異端"だって思われるんだろうな。.....だが、それがどうした。...守りたいものを守りたいと言って一体何が悪い!....と、俺は思ってる訳だけど、お前は俺みたいにはなるなよ、常守。」
「え!?......あ、はい。」
勇魅の心の声を聞き、普段とはまた違う。勇魅の一面を見た常守だった。
──────────
「.........」
(守りたいもの....か。)
自分には無い考え方だなと、勇魅に対して何処か自嘲するように考える常守。
「やっぱり私は....」
「あのー?」
すると突然背後から声が聞こえた。
「うひゃ!?....は、はい。何でしょうか?」
振り向くとそこには同じ監視官の青柳が常守を見下ろしていた。
「あー、ごめんなさいね。...別に驚かせるつもりは無かったの。...これを"彼"に届けに来たのよ。ほら"彼"、今日宿直だから」
と、青柳は紙袋を常守に手渡す。
「"彼"?」
常守は青柳が一体、誰の事を言っているのか分からなくて戸惑った。
「勇魅よ。...薙鵺眞 勇魅。」
「ああ、薙鵺眞さんでしたか........勇魅!?」
常守はまさかあのお堅いことで知られている青柳の口から勇魅の名前を聞く等とは思わなかったことと、彼女が勇魅を"彼"と、呼んだことに驚きを隠せなかった。
「そんなに驚く事かしら?.....私達、付き合ってるのに....。」
「え!?......お二人ってそういう関係なんですか!?」
また新たな情報に更に驚きを見せた常守。
「ええそうよ。........というか勇魅ったらまだ誰にも言ってなかったのね。...全く。」
それには理由があり、勇魅は自分に彼女が出来たこと。...それが自分の同期の女性であること。それらを話さなかったのは単純に恥ずかしがってなのだが、そんなことは誰も知らない事実である。
「これは明日の夜...きっちりと搾り取らないとね。」
「あ、あはははは。」(すいません薙鵺眞さん。...これはどうにもなりません。)
常守は勇魅にこの事がバレた時、真っ先に助けを求められると思い、先に心の中で謝罪するのだった。
「それで?常守さん。...あなた一体何をしていたの?」
「実は、薙鵺眞さんの事で。」
常守は仲間内から勇魅がどう思われているか聞いて回っていたことを青柳に話した。
「.....へぇ。彼大人気なのね。...それにしても執行官を外に出すなんて.....これは更にキツイO・SHi・O・Kiが必要ね。」
これで勇魅の"朝まで連続コース"が決まった瞬間であった。
「......でもまぁ、彼らしいと言えば彼らしいわね。」
青柳はそんな台詞を残してその場を後にするのだった。
(彼らしい、か。....今日一日で薙鵺眞さんの事を知った気になっていたけど、実はまだ知らない事の方が多いんだろうな。)
と、常守は一人心の中で愚痴を溢すのだった。
そして後日、勇魅は青柳に"朝までコース"を実行されていたのか何処かやつれた様子で出勤してきたという。