昼は憲兵、夜は……。 作:鷹山
せっかくのR18だってのに何をやってんのかね私は。
甘い嬌声に呼応して、夜の帳がどろりと濡れる。妖しく光る満月に照らされためくるめく夜は狂い、もはや朝日をのぞむ術もない。
もっともっと、さらにさらにと、絶頂のその先を模索するように二匹の獣は互いの身体を這いずり回り、繋がりを求める。
その先にあるのは桃源郷という名の破滅。それしかないと知りながら、交じって混じって汚れ穢れる。
『あぁまた出そうだ……どうします鹿島さん、次はどこに欲しい?』
『あ、ああぁ……な、膣内ぁ! 膣内に欲しいっ!』
『ははっ! またですか? 本当に膣内出しが好きなんですね』
『は、はぃ! すきぃ! 膣内出ししゅきぃ! だからお願いれす! 新堂さんのせーしいっぱいくださいぃ!』
『わかりました、一滴残らず受け止めてください! くっ、出ます……出すぞ!』
『ふぁぁすごぃ、すごいですぅ! しんどーさんの熱くって、わたしの膣内灼けちゃいそう……』
『……ふぅ、鹿島さんの膣内、最高に気持ち良い……それでは、もう一回しましょうか』
『気に入ってもらえて……う、れしぃです……好きなだけ、せーし……もっとドピュドピュしちゃってください……うふふ、ふ……ふふ』
何度も挿され幾度も突かれ限界以上に責められた鹿島の膣内は、いまや新堂の一物専用とも言えるほどに形成され直されてしまったらしい。
昇天する度に感じられる、パズルの一欠片がついに埋められたかのような一体感。それは異様に気分を昂揚させ、人が人である事を忘れさせる程の多幸感を生み出し続ける。それはすなわち甘美な堕落。開けてはいけない扉の一つである。
『よければ私の部屋に来ませんか? そこで続きをしましょう』
『はいぃ、イきますイきます! あ、でもこのまま、んぅ! イッたら……誰かに見られちゃ、あっ……見られちゃいますね」
『ですね。なので静かに、声を出さずに気をつけてイきましょうか』
『そんなぁ無理ですよぉ……新堂さんのいじわるぅ』
人道から大きく外れた廃人の如き性行為を愉しむ姿は、もはや救い難い。
それでも新堂は休む事なく、そして今まで以上に一物を膨張させて、散々嬲ったはずの鹿島の秘所にまたも深々と突き立てた……その瞬間。
「鹿島さんっ……あ、あれ?」
掛け布団を退かすように起き上がった時には鹿島はおらず、居るのは新堂ただ一人。
腫れぼったいを眼を擦りながら左右を見回すと、そこは第二応接室ではなく自分の部屋。その事実に、ややほっとしたような残念なような複雑な表情を浮かべながら、鈍痛に支配される頭を押さえる。
昨日鹿島と会ってから、いったいどこからどこまでが夢だったのかすら定かではないが、ひどく現実味のある夢だったようだ。淫美で妖艶な鹿島が、瞼の裏に刻まれたまま離れないだけでなく、生々しく誘惑してくる有様である。妄想もここまでくると、もはや特技の域と言えそうだ。
夢の中とはいえ艦娘を侮辱したことに対する贖い。それと無理矢理覚醒を促す意味合いをもって自身の頬をピシャリと二度叩く。そうすることで完全に目が覚めたのか、鼻腔をくすぐる朝食の匂いに新堂はようやく気がついた。
テーブルとしてもくつろぎの場としても用いられるこたつの上には、誰が用意したのか一枚のメモ紙と洋風の朝食。
ふんわりしつつもとろみのある黄金色のスクランブルエッグは粉チーズを乗せることで仕上げられ、その隣にはカリカリになるまで丹念に焼き上げたベーコンが寝そべっている。旨味の含んだ肉汁を身にまとっており、そのテカりは唾液の分泌を促すほどに眩しい。もう一つの丸皿には軽く熱を加えられたきつね色のトーストが、まるでハレの日に化粧をこさえたようにバターが塗られていた。それら全てが香ばしい匂いを立ちのぼらせ、食欲を大いに掻き立てる。
鼻腔と食欲をくすぐる、まさしく洋風といった朝食を目の前にした新堂の腹の虫が、ぐぅと情け無い弱音をあげる。
すぐにでも食したくなる衝動を抑えながら、朝食の傍らに置かれたメモへ手を伸ばす。視界に入った童女ご用達の便箋と可愛らしい丸文字に、思わず眉間に皺が寄る。
(なぜだろう、イヤな予感がする)
新堂にとって、ここまではっきりとした既視感は初めてであった。
しかし無視することも出来ず、恐る恐るといった感じでメモを読む。
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おはようございます。
昨日はだいぶお疲れだったようですね。新堂さん、急に寝てしまったからビックリしちゃいました。
勝手ですけど、鹿島手作りの朝食を用意しておいたので食べてください。
朝食は一日の始まりです。しっかり食べて、今日も頑張りましょう!
P.S.お近づきのしるしに、新堂さんへプレゼントを用意しました。大事にしてもらえると嬉しいです。
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メモを読み終わると同時に、新堂は自身から湧き上がった疑心をひどく恥じた。
(根拠のない既視感程度で、こんなにも良く出来た人を疑うとは……)
一つ落ち込んだのち、朝食に向かって手を合わせる。そして、鹿島への謝罪と感謝を込めて……。
「鹿島さん、ありがとうございます。いただきますっ!」
清々しい朝に相応しい発声であった。
思っていた以上に腹が減っていたのか、朝食を平らげるのにさほど時間はかからなかった。
指に付いたパンくずや油分を舐めとりながら「そういえば」と、鹿島のプレゼントとやらを思い出す。
テーブルの端に置いてあったのは紙袋。鹿島がよく利用するメーカーだろうか、シャレた横文字かかれた小さい紙袋であった。
おシャレに無頓着な新堂はその価値や意味は分からない。ただ、汚れた手で気持ちこもった贈り物を触る気にはならないようで、指の汚れを拭き取ったのち、紙袋の中身を繊細なガラス細工を扱うよう丁寧に手に取る。感触からして布地であるらしい。
「……う、嘘だろ?」
自分以外誰も居ないはずの部屋で、なぜか真偽を問う。
不思議と見覚えのあるそれは布面積がやたら少なく、アンティークな華美の施されたデザインがなされていた。主張の強い黒色のそれは、歪な三角形をかたどりながら新堂に何かを訴えかけてくる。
信じられない、信じたくないと思うそれは間違いなく、昨夜鹿島が使用していた勝負下着であった。そう確信したと同時に、昨夜の出来事が鮮明に蘇ってくる。
『うぁ! はんっ、ん! ひぃ! ぎっぐぅ! ……っ! んぅ!』
四つん這いになった鹿島を欲望そのままに怒突。
『ひぃあぁぁ! ダメ! それダメですぅ! あぁぁダメェェ!』
陰核を乱暴につねり上げ。
『ぐぶ……じゅ、うっぐ……じゅぶ……くぅ、ぅえ゛っ!』
口を秘裂と決めつけて奉仕を強制。
数々の無体な仕打ちが脳裏をよぎり、自分の中にある汚泥に似た性癖に対し嫌悪と忌避が湧くが、正面から受け入れる余裕は無い。
「夢じゃ、なかったのか……」
無気力に独りごちる。
これは全部媚薬のせいだと責任転嫁したところで、尊敬に値する艦娘を貪り弄んだ事実は消えず、かえって心の葛藤ばかりが加速度的に増し、苦悩は止まない。
そんな中、布全体から薫る鹿島愛用の香水。さらに布の一部からは理性的思考を妨げる性臭と真新しいシミをめざとく見つける。
無意識かはたまた望んでか、鹿島の下着を凝視している自分に気がつくと、まるで吸い寄せられるように鹿島の下着に顔を近づけ、そして……。
『艦隊総員起こしっぽい! 朝っぽーい! 皆んな早く起きるっぽーいぽいぽーい! ぽぽいのぽーっい!』
夕立による間の抜けた総員起こしのおかげで、すんでのところで我に返った新堂は安堵の溜息をどっと吐く。
『夕立ダメじゃないか! ちゃんとマニュアル通りにやらなきゃ』
『えぇー、だってこれじゃあつまんないっぽい』
どうやら放送室には時雨もいるらしい、凛然と夕立を嗜める声が漏れてくる。しかしながら、放送設備の電源が切られていない事には未だ気付かない。
『まったく、こんな事じゃあ新堂に叱ってもらうしかないね』
『……あっ、そうだ! 新堂さんもちゃんと起きるっぽい! お寝坊してたら夕立が起こしに行くっぽーい!』
『こら! 夕立……って、まだスイッチ切ってなかったの!?』
普段ならば「もっと気を引き締めるように」と注意するべきところだが、今回ばかりは泥沼から救われた気分になった。そう思うと時雨・夕立両名による漫才さながらのやりとりが、まるで汚れのない天使の戯れにも聞こえてくる。
これ幸いと我に返った新堂は、魔性を孕む下着を素早く紙袋に封印。はやる気持ちを抑え、さてどこに隠そうかと部屋を見回す……するとそこへ。
「新堂さん、ちゃんと起きてる!?」
「うおわぁ!」
夕立ではなく、元気発剌とした雷の乱入に思わず紙袋をベッドの下に放り込む。おかげで鹿島の下着は、健康的な男性の性処理を担当する悩ましい女性描かれた何冊かの雑誌に並び立つ。下品な言い方をするならば、夜のオカズの立ち位置を得た、ということに相違ない。
不本意とはいえ誰かに見られたら最期、罪と詰みが確定するのは間違いないだろう。
「ちゃんと起きてるわね、感心感心」
「いい雷さん! ノックくらいしてもらわないと、こ、困るじゃないですか!」
「? 新堂さん、大丈夫? なんだか、エッチな本読んでたらお母さんが部屋に入ってきちゃった思春期の学生さんみたいになってるわよ?」
例えが完璧すぎて戦慄が走る。
どこかで見ていたのではないかという邪推をしても致し方ないほどに完璧だ。パッチリとした彼女の輝く瞳は、もしかしたら異能の観察力でも秘めているのかもしれない。
「し、失敬なことを言わないで下さい」
「えへへ、ごめんなさい。実は今日も雷特製朝御飯を作ってきたんだけど……でも、もう食べちゃったみたいね」
腰に手を当て踏ん反り返っているものの、溌剌とした笑顔は翳り、どこか諦めに似た表情で雷は力無く笑う。
そこへ新堂、漢気を示す。
「いえ、いただきます!」
「……だ、ダメよ! 食べ過ぎは良くないわ! 何事も腹八分目が─」
「お願いします! 雷さんの朝御飯じゃないとダメなんです!」
「えぇ!? わたしのじゃないとダメってどういう─」
「それと着替えたいので早目に出てって下さい!」
「ちょ!? 着替えなら手伝ってあげるから待って! わたしのじゃないとダメってどういう……あぁんもう! 追い出さないでよ!」
愛らしい仔猫柄に包まれた弁当箱を引ったくり、話もロクに聞かずに雷の小さな背中をグイグイ押し出し部屋から追い出す。
漢気と言うにはあまりに自分勝手なものだが、女性用下着を所有していることを知られるよりはマシだと新堂は思ったらしい。それと偶然であるが、雷もいつもの調子が戻ってきた。
「雷さんも任務があるでしょう! 早く向かって下さい!」
「お願いっ、あーんさせて! 一口だけでいいからタコさんウインナーあーんさせてほしいの! あとわたしのじゃないとダメってどういうこと!?」
いまや鹿島の下着をなんとかすることに専念したい新堂は……。
「雷さんじゃないとダメってことです!」
青天の霹靂に似た衝撃的な告白に、雷は痺れた。
喉から飛び出しそうになっている心臓を落ち着かせようと薄い胸に手を当て、高らかに響く歓喜の鼓動を実感しながらひどく混乱していた。
なにせここまで真っ直ぐ且つシンプルな告白など、恋愛小説の中だけのことだと高をくくっていたからだ。
出来ればもっとロマンティックな雰囲気で、と思わないでもなかったが、扉一枚隔てた向こうで緊張しているだろう新堂を想像したらやけに可愛いく思えてきて、ニヤけてしまうのも事実。
兎にも角にも、熱湯を注いだように熱く真っ赤に火照った顔をグッとあげ、深呼吸を三回ほどしたのち雷は想いを告げる。
「し、新堂さんの気持ち……よく分かったわ! 困ったことがあったら、いつでもどこでもなんでもこの雷に頼っていいからね!」
「はい! 頼りにしてます!」
「ええ! 末永くよろしくね!」
「……今なんと言いました? 末永く?」
既に走り去った為、雷からの返事はない。
それならばそれで良し。今度こそ、この焦燥の原因である鹿島の下着を処理する絶好の好機。逃す手はない。
洗って返すか。
捨ててしまうか。
このまま隠し通すか。
(よし決めた!)
「新堂さーん! 宣言どおり夕立来たっぽい。居るのは分かってるっぽい!」
「夕立、それじゃあ取り立て屋だよ?」
(……今日は厄日だ)
そう心の中でぽつりとつぶやき、まるで罪人が観念したかのようにやつれた新堂は、ドンドンと扉を叩き続ける夕立と傍らで佇む時雨の訪問を受け入れるのだった。
本来なら蒼龍との絡みを書きたかったんだけど、書いてたらあと半月は掛かる気がしたので断念しました。
次回はちゃんとします。