※この作品はR-18です。

神戯姦濫   作:水晶水

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 前作が詰まったので設定の洗い直しとかしてリテイクです。


Chapter.1 -神器が奏でるOverture-
プロローグ -日常の一幕-


「よし……今月の受注分はこれで終いっと……」

 

 神経を尖らせて、集中して行っていた作業が終わり、大きく息を吐きながら俺は手にしていた今しがた出来上がったバイオリンを、傷がつかないように慎重に作業台の上に置く。

 

「おや……もう日が明けていたか」

 

 作業に没頭して疲れた頭は思ったことをそのまま口にしてしまうようで、工房の窓から見える暁を目にした俺は、今更ながらに自身が夜通しバイオリン作りに精を出していたことに気が付いた。

 そして今日が平日、つまり登校日であることを薄ぼんやりと頭で思い返しながら、俺は身体に移ったニスの匂いを落とすべくシャワーを浴びに浴室へと向かう。流石に今からゆっくり湯船に浸かる時間的余裕はないだろう。

 

 手早く作業に使っていた服を脱ぎ捨て、未覚醒の意識を覚ますために頭から冷水を被ると、先程までのふわふわとした思考が嘘のように引き締められた。夏場が過ぎ始めた頃とは言え、まだ暑い季節にはこれに限る。

 そうしてハッキリとした頭に思い浮かぶのは、数年前から始めることになった自分の奇妙な生活についてだ。人生何があるか分からないとは言うが、限度というものがあるだろうと愚痴を言いたくなるのは許して欲しい。

 

 俺、空閑(くが)天都(あまと)は元々この世界の人間ではない。突拍子もない発言ではあるが、残念ながら事実である。

 というのも、この世界に来る前、つまり前世で何らかの事故で死亡してしまった俺の魂を、神を自称する存在が拾い上げて、娯楽として利用するために創作物の世界──尤も、俺はこの世界の元になったものを知らないのであるが──にぶち込んだのが原因である。当初は驚きの連続で正直置いてけぼりであったが、今はこうして何ともなしに回想できる程度には慣れたつもりだ。

 神様曰く、彼は俺が創作物の世界でイレギュラーとして奏でる音楽(人生)を楽しむために送ったとのことである。ネット小説なんかでよく見るアレのようなものだと思ってくれればいい。

 ここだけ見れば傍迷惑な行為に見えなくもないが、俺自身、中途半端な形で終えてしまった人生をやり直す機会を得るだけでなく、この世界に来るにあたって色々と便宜を図ってもらった以上、娯楽として見られる分には特に思うことはない。滅多に干渉もしてこないので見られているという実感が薄いというのも理由であるが。

 また、この長々とした心の中での独白で彼ら(・)が見る物語を盛り上げているのはそれに対する俺なりの感謝の気持ちでもある。定期的にやらないと新規の視聴者(神様)は展開についていけなくなるのだそうだ。まあ、長年続けている内に染み付いてしまった癖とも言えるが。

 それともう一つ、物語のアクセントとして、親兄弟のいない天涯孤独の身で私立の学校に通わされるという無茶苦茶な状況にされたことも何度だって目を瞑って差し上げよう。そのために楽器周りの技術を仕込まれたわけであるし。

 

 さて、そんな風に一人自己紹介をやっているうちに清めの儀も終えてしまい、次は学院へ行く準備を始めることになった。先程も言ったが、一人で何でもしなければならないので、ゆっくりとコーヒーブレイクなんぞに興じる時間は一秒たりとも存在しないのだ。まあ、それは流石に過剰表現だが、どの道ゆっくりしている時間が無いのは事実である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、天都。今日も恋人同伴みたいだな」

「おうよ、今日も相思相愛さね」

 

 その後、何事もなく無事に準備を終え、時間通りに登校して自分のクラスに入ると、俺の姿を見つけた中学からの友人、海道秀明が目の下を指差しながら俺を揶揄う様に声をかけてきた。俺もそれに対して軽い調子で応えると、俺たちはどちらからともなく声を出して笑い合う。

 目の前の彼を簡潔に紹介すると、残念イケメンという一言で表すことが出来よう。顔面偏差値は前述の通り高水準を誇っている秀明であるが、真正のドMという特大のマイナスポイントを擁しているのだ。あと女運が無い。具体的に言うと、俺がいなければ確実に地雷を踏み抜いていたと断言できる程度には女運が無い。

 まあ、色々と言ったが、良いやつであることには違いはない。でなければこう何年も付き合いを続けてはいないだろうし。

 

「でも大丈夫なのか? あんまり洒落にならない濃さだけど」

「おや、柊史か」

 

 そんな風な思考を巡らせている俺に、会話を縫うようにして秀明とは別の男子生徒が心配そうな声をかける。今しがた話しかけてきた男の名は保科柊史。彼はこの学校で秀明を通じて知り合った友人だ。

 柊史も秀明ほどではないにしろ顔は整った部類に入るが、その死んだ魚の目と称される瞳のせいで、色々と台無しになっている男である。その歳でどういう境地に達してしまったのか気になるところだが、流石にそれを聞く勇気は俺にはない。

 ちなみに彼が心配そうにしているのは、徹夜で作業をしていた俺の目の下にべっとりと濃い隈が貼り付いているからである。楽器作りでよく徹夜をするので、結構な頻度で目の下にくっついてくる可愛いやつだ。ついでに言うと秀明が恋人と称しているのもこれである。

 

「まあ、今月分の仕事は都合ついたし、とりあえずあと半月はゆっくり過ごせるから問題ない……と思いたい」

「そっか、空閑は……」

 

 今朝方作り終えた分で今月のノルマは終えているので、当分はゆっくり過ごせるはずだと伝えると、俺の予想とは反して柊史の顔は暗くなってしまった。うーむ、心配してくれるのは嬉しいのだが、そこまで気を揉まれるとこちらも少し気まずくなるというか何というか。彼は彼で片親の家庭だから少し共感できる部分があるのだろう。

 

「おはよう……って、どしたの、朝からどんよりしちゃって」

「おぉ、仮屋か。おはようさん」

 

 しんみりとした空気の中、教室の入り口付近で固まっていると、そんな雰囲気を払拭するような元気な声で俺たちに声をかける女子生徒が現れた。俺の挨拶に続いて秀明と柊史も彼女に挨拶の言葉をかける。

 彼女の名前は仮屋和奏。これまた秀明を通して知り合った顔の良い友人で、例の如く人見知りしやすいという欠点持ちである。流行っているのだろうか。

 冗談はさておき、今一堂に会している四人がいつも行動する友人、所謂仲良しグループというやつだ。ズッ友である。

 

「まあ、俺の仕事の話をしていたらってことだ」

「あー……って、また空閑は不健康そうな顔してるし」

「ははは、慣れたらこれも可愛いもんよ」

「いや、それはそれでどうなんだ」

 

 挨拶もそこそこに、この空気になった経緯をざっくりと説明すると、仮屋は納得したような声を上げた後、俺の隈(恋人)を起点にして話題を違う方向へと持っていこうとする。それに俺が茶化す方向で乗っかり、柊史はそれにツッコミを入れることで、沈んでいた空気もあっという間に何処かへといってしまった。うむ、やはり友と語らうなら明るい雰囲気の方がいいな。

 

「おっと、そろそろ席に着かないと」

「ホームルーム中に寝るなよ? 佳苗ちゃんそういうのには厳しいからな~」

「分かってる分かってる。流石に俺もしんどい時にしんどい目に逢いたかない」

 

 空気がリセットされたところで予鈴が鳴り、俺たちは軽口を叩き合いながら席へと戻っていく。我らが担任は怒ると怖いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これでホームルームは以上……じゃなかった。空閑」

「? はい」

 

 のんべんだらりとホームルームをやり過ごしていると、教壇に立って話をしていた久島先生が俺の名を呼ぶ。突然のことだったので少し間を開けつつも返事をするが、何か呼びつけられることでもあっただろうか。

 

「来週のテレビの取材の打ち合わせがあるから、昼休みに職員室に来るように」

「げっ、アレって今月でしたっけ」

 

 先生が口にしたテレビの取材というワードに教室が俄かに騒がしくなり、クラス中の視線が俺へと突き刺さる。今更その程度で動じない俺としては、そう言えばそんな仕事を引き受けていたなと、一ヵ月前の自分の行いを思い出していた。

 簡単に説明してしまうと、凄腕の高校生楽器職人がいるという情報が、俺の作った楽器を買った人から漏れたせいでテレビ局の方に嗅ぎつけられたというわけだ。まあ、神様から教わった、正しく神業に等しい技術で作られた物なので、考えようによってはよく今まで情報が出回らなかったものだと思わなくもないが。

 そんなわけで、工房バレ、もとい住所バレを俺が渋った結果、この姫松学院でインタビューと演奏──超常たる楽器を作る身として、当然それを扱う術も心得ているので──する手筈になっているはずだが、恐らくそれの段取りを今日決めるのだろう。

 

 ざわつきが止まぬ中ホームルームは終わり、余計に疲れてしまったような気がする身体を椅子にどっさりと預ける。それと同時に、沢山あると思っていた自身の休暇が半分以上溶けてしまうことに気が付いてしまった。辛い。

 

「大丈夫ですか?」

「ん……? あぁ、綾地さんか。おはよう」

「はい、おはようございます空閑君」

 

 ぐったりとさせていた身体を傾け、声をかけてきた少女の方へと顔を向けると、そこには少し目尻を下げて心配そうな表情をした隣の席の住人、綾地寧々さんの姿があった。

 彼女はこの学院で初めて出会った女の子で、容姿端麗、才色兼備という言葉が似合う、天が二物も三物も与え給うたような人だ。何の因果か一年生の頃から隣同士の席になることが多いことから、友人と言っても過言ではない程度には会話に興じる仲である。

 

「それで、今日も顔色があまり良くありませんが……」

「寝不足気味でちょっとね……」

 

 嘆息しながら彼女の問いに簡潔に答えると、綾地さんの憂慮の色は更に色を濃くした。こんな風に人が良いところも彼女の魅力の一つだ。

 

「……空閑君、放課後部室に来てくださいますか?」

「放課後に? それはいいけど何かあった?」

 

 悲しそうな顔から一転、綾地さんは何かを決めたような顔つきをして、突然俺へとそんな誘いをかけてきた。彼女の言う部室とは、彼女が所属するオカルト研究部の部室のことで、そのオカルト研究部は現在部員が綾地さん一人の部活だ。活動内容は端的に表現すると人助けを主としていて、学院の女生徒の間──諸々の事情で男子生徒には活動内容が広まらないようにしている──でそれなりに知られている。

 諸事情により活動内容に詳しいオカ研に、俺自身も暇な時にお邪魔させてもらうことがあるのだが、今のようにあちらからお誘いを受けるのは初回以来のような気がする。時間は確保できそうなのでそこはいいのだが、一体何の用事だろうか。

 

「それは来てからのお楽しみということで」

「つまり内緒ってことね……まあいいか、それならタイミングを見てお邪魔するけどそれでいい?」

「はい、楽しみにしてますね♪」

 

 普段綾地さんがあまり見せない茶目っ気たっぷりの言葉に思うところが無いでもなかったが、彼女に限って変なことはしないだろうと思い直し、ここは素直に言葉に従っておくことにした。まあ、気分転換と考えれば良いだろう。

 

 それから、俺たちはいつも通り授業が始まるまで他愛のない話に花を咲かせることとなった。余談であるがその間、周囲からずっと嫉妬の視線が飛んできていたことは気にしないものとする。何度も言うがそんなもので動じる精神性はしていないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特に問題もなく、語るべきこともない授業も打ち合わせも終え、時は流れて放課後。朝のホームルームから噂が広まったのか、視線に晒されることが多い一日だったが、それも特に語ることではないだろう。

 

「さて、部活のない四人組で楽しく帰るとしますか」

「あ、すまん、俺は用事あるわ」

「あ、私はバイト」

「何ですと!?」

 

 のんびりとした秀明の提案に、俺と仮屋がほぼ同時にその提案に乗れない意を示すと、彼はオーバーリアクション気味に驚いてみせた。

 

「天都は置いとくとして」

「置いとくんか」

「置いとくとして、和奏ちゃんはいつの間にバイト始めたんだ?」

「今月の頭ぐらいにちょっとね~」

 

 そう言いながら、仮屋は気持ち楽しそうに笑みを浮かべる。ふむ、余程好条件のバイトを見つけたといったところか。

 

「それにしても急だな。何か欲しい物でもできたのか?」

「うん、ギターを買おうかなって」

「おっ」

「いやいや、お前のとこのは学生は手が出せないだろ」

 

 続く柊史の問いに仮屋が簡潔に答えたのを聞いて、楽器職人の俺が反応を示すが、そこへすかさず秀明のツッコミが飛んでくる。抜け目のないヤツめ。

 

「えっ、今一瞬でツッコミたいところが幾つかできたんだけど」

「というか、空閑が作ってるのってバイオリンじゃなかったっけ?」

「いや、俺が作ってるのは弦楽器全般だよ」

 

 訂正するようにして、高校からの付き合いで俺の仕事についてよく知らない二人に軽く説明をする。

 先程口にした通り、俺は今朝作っていたバイオリンだけでなく、弦のある楽器であれば、皆知ってるギターから、奏者の少ないハープのような物まで幅広く手掛けているのだ。もちろん作る以上は演奏だってできる。

 ちなみに、こんなことができるようになったのは神様が技術指導の時に気合が入りまくった結果、この世界に降りてくるまでの間で覚えさせられたのが原因だ。時間があれば、まだこれ以上に楽器の扱いを習熟させるつもりだったらしいので、解放された時は少しだけほっとした。

 

「じゃ、じゃあ学生には手が出せないっていうのは……?」

「オーダーメイド品は安くても三桁万円はするからね」

「三桁……!?」

 

 想像の埒外の値段に二人は目を剥いて驚きを露わにする。最高傑作級の物は四桁するのだが、それを言えば卒倒してしまいそうなので、それについては言わないでおいた。

 

「ぼ、ぼったくり価格じゃないんだよな……?」

「正真正銘適正価格じゃい」

 

 失礼な、この値段は有識者と共に話し合って決めてもらった値段だ。おかげさまでもう三生分働かなくてもいいぐらいのお金は懐にある。

 

「友人が思っていた以上に凄い人間だった件について」

「同じく」

「俺の初見の時と同じようなリアクションするのね君ら」

「ははは、でも仮屋になら友人用スーパープライスで売ってもいいかな」

 

 呆然とする二人であったが、続く俺のお金に困っていない旨の言葉に仮屋はギラついた瞳で俺を見てくる。これは獲物を狙う肉食獣の目……!

 

「い、一応聞いとくけどお幾らに……?」

「流石に完全オーダーメイドのは無理だけど、店頭に並べてるやつなら一桁までプライスダウンできるよ」

「そ、それ元値は……?」

「確かギターは二桁後半のもあったかな……」

 

 値札に書かれた数字を思い出しながら、それを仮屋に伝えると彼女の心は決まったようで、興奮気味に言葉を続ける。

 

「よっしゃあ! 今度の休みに空閑の家に行くよ!」

「あぁ、倉庫の方からも幾つか引っ張り出して待ってるよ。合う合わないもあるし試し弾きもしていくといい」

 

 ひゃっほーい! と、普段見ないようなテンションで仮屋ははしゃぎ倒す。ここまで喜んでくれるなら、売る側としても嬉しい限りだ。楽器の方も浮かばれることだろう。

 

「折角だ、二人もどうだ?」

「そうだな……面白そうだしお邪魔してもいいか?」

「構わんよ。秀明は?」

「聞く必要あるか?」

「違いない」

 

 控え目な柊史に対して、秀明は端から遊びに来る気満々のようである。まあ、彼は中学時代に何度か工房に遊びに来てるし、遠慮は今更か。当日の案内は彼に任せよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイトにより張り切る姿勢を見せて走り去って行った仮屋を見送ってから、用事がある俺は二人とも別れて特別棟へと足を運ぶ。長期休暇を挟んだが早々忘れるようなことでもないので、迷うことなくオカルト研究部の部室の前に辿り着いた。

 

「はい、どうぞ」

 

 訪問を知らせるために軽く扉をノックすると、扉の向こうから綾地さんの了承の声が返ってくる。それから部室に入ると、そこには広い部室で一人、読書に励む綾地さんの姿があった。

 

「ふふ、お待ちしてました。どうぞこちらへ」

 

 柔らかい笑顔を浮かべながら、綾地さんは自身の隣に置いてあるパイプ椅子を引いて俺を招く。普通は正面じゃないだろうかと一瞬思ったが、手の届く範囲はそこだけかと納得し、敢えてそれに反抗する意味もないので大人しく綾地さんの隣に座った。

 

「それで、今日は何かあったの?」

「そ、その、これといって用事があったわけではないのですが……夏休みが明けてからずっと体調が優れないようでしたので、ゆ、友人としてリフレッシュのお手伝いをできたらなと……」

 

 全体的に妙に早口で友人の部分を強調しつつ、綾地さんはそう口にする。それは友人のやる範疇なのだろうかと思いはしたが、しかし、その厚意自体はとてもありがたい。

 

「そっか……ありがとね、綾地さん」

「い、いえ、私が好きでやっていることなので」

 

 なので、ここは素直に笑みを浮かべて──恐らく隈との相乗効果でえらく不気味な表情になっているだろうが──お礼を述べると、彼女も実に嬉しそうな笑顔で言葉を返してくれた。

 

「それでは、これをどうぞ」

 

 そう言いながら、綾地さんは机の上に置いてあったコーヒーメーカーからカップにコーヒーを注いで俺へと渡してくる。

 

「砂糖は二つ……ですよね?」

「あ、うん、ありがと」

 

 漂ってくるコーヒーの香りを堪能していると、綾地さんはメーカーの横に置いてあった入れ物から、角砂糖を二つ摘んで俺の目の前のカップへと投入する。ここでコーヒーを飲むのは久しぶりだが、俺の好みの味を覚えてくれていたらしい。

 他にも、机の上には俺の好きなお菓子なども置いてあり、彼女のおもてなしの心を強く感じることが出来た。

 

「ささやかですが、二人だけのコーヒーブレイクです」

「ふふ、綾地さんほどの美人と二人きりなら男冥利に尽きるってものよな」

「び、美人だなんてそんな……♪」

 

 にこりと笑顔を向けてくれる綾地さんに賛美の言葉を送ると、彼女はほんのりと顔を赤らめて謙遜の意を示す。嬉しさを隠せていないあたりが実に可愛らしいが。

 

「ん……」

 

 言葉を交わすのもそこそこに、まずは一口コーヒーを飲むと、心地良い独特な苦味が口の中を通り抜けていく。前に飲ませてもらった時も思ったが、綾地さんの入れるコーヒーは美味であった。

 

「前飲んだ時は聞きそびれたんだけど、これって市販の物じゃないよね? もしかして綾地さんの手作りだったりするの?」

「いえ、これは私の知り合いの店で購入した物ですよ」

「……この辺にコーヒーショップなんてあったっけ?」

「コーヒーショップ……と言うよりは喫茶店でしょうか。…………きょ、興味があるのなら、今度一緒に行きませんか?」

「おぉ、それはありがたい」

 

 非常に美味なコーヒーを中心として会話を展開し、その流れで俺はコーヒーの出処を知ることが出来た。購入できるのであれば、これを家に常備しておくのは全然ありだろう。夜中に作業することも多いことだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空閑君?」

「くぅ……」

 

 会話もそこそこ落ち着いてきた頃、その会話に興じていた相手が突然静かになったのを不思議に思って視線を送ると、そこには寝息を立ててすやすやと眠る彼の姿がありました。その穏やかな寝顔に、そんな表情を見せてくれるほどに信頼してもらえているのだなと嬉しくなります。

 そんな彼の名前は空閑天都。私がここ、姫松学院の入学式の日に初めて出会った人で、私が唯一友達と呼べる人であり、私の想い人でもあります。

 人付き合い、殊恋愛に関してはある事情により意図的に避けて生きてきた私ですが、空閑君との出会いはそんな私の考えを即座に吹き飛ばしてしまうものでした。まあ、それは所謂一目惚れなのですが。

 不思議なことに、彼とはよく席が隣になることから話す機会も多く、そこからオカルトという共通の趣味があることを知り、交友関係が始まったことは今も昨日のことのように思い出せます。

 

「ふふ、可愛い……」

 

 うたた寝して俯き気味の空閑君の可愛い寝顔を、私は起こさないように慎重に一撫でします。手のひらからじわりと空閑君の体温が伝わってきて、思わず口角が上がりますが、焦らず、じっくりと味わう様に、頬から耳、夜闇のような黒髪へと手を動かし続けていると、だんだんと幸福感で満たされてきました。

 空閑君と二人きりで話したり、デートの約束も取り付けたりと、今日は私の人生の中で一番幸せな日かもしれません。

 

「っ……! こ、こんな時に……」

 

 そんな風に最愛の人を見て夢想していると、代償である強制発情が起きてしまいました。気持ちの昂りに呼応して発動することも多いので、後から考えるとこうなることは必然であったと思いますが。

 それはともかく、起きてしまった以上は治めないことにはどうしようもありません。そんなわけで、その時はお手洗いに行くふりをしてこっそり鎮めるつもりでしたが、ゆっくりと立ち上がろうとした私はあるものを目撃してしまいます。それは空閑君の制服のスラックス、その股間付近の布地が不自然に盛り上がっている光景です。

 

「ごくっ……」

 

 眠っていると生理現象として起きるとは聞いたことはありますが、実際にそうなっているのを見るのは初めてでした。存在を主張するように隆起したモノを見て、私は思わず生唾を飲み込んでしまいます。

 そして、煮え滾るようなお腹の奥の方を疼かせる発情は、私の頭にまで侵食してしまったのか、ふとこんなことを思ってしまいました。

 

 空閑君のアレに擦り付けたらどれだけ気持ちよくなれるのでしょうか……?

 

 熱に浮かされた完全にまともでない思考でしたが、あろうことか、その時の私はその考えを是としました。してしまいました。

 そこからはもう止まりません。起こさないように慎重に、しかし迅速に私は空閑君の上に跨り、ぴったりと正面から身体を密着させ、腰を動かしやすいように床に足をしっかりとつけます。本当に不名誉なことですが、外で処理をしないといけないことも少なくないので、こういったポジショニングの取り方は上手くなってしまいました。

 外から見ると相当はしたない体勢だと思いますが、もうオナニーすることしか頭に無い私にそれを気にする余裕があるはずもなく、とうとう私はゆっくりと空閑君の空閑君に熱く疼く箇所を擦り付け始めました。




 寧々ちゃん好き(好き)。
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