※この作品はR-18です。

神戯姦濫   作:水晶水

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 Chapter2いきますわよ。


Chapter.2 -恋愛至上のMelody Line-
プロローグ -前を向いて行こう-


 昼休みに登校して久島先生の下へ報告に行き、軽く雑談してから授業に復帰してから時は流れて放課後。予想通り高APPのせいで見られることが多くなったが、それ以外はやはり特筆することはないだろう。

 昨日のように逃げるように教室を出る羽目になったが、これでは秀明たちと碌に話すこともできやしないなどとボヤキながら大きくため息を吐くと、寧々はそんな私を見てくすくすと小さく笑った。

 

「寧々?」

「あ、いえ、その、何だか、見てるもの全てが楽しく見えてきて……それがおかしくてつい」

 

 私の呼びかけに、寧々は少しだけ戸惑いながらもそんなことを口にする。そんな風な寧々の姿を見て、私は彼女が未来に目を向けることができるようになっているのだなと、何処か恋人というよりも、親に近い目線で思考していた。

 

「過去に戻っても、思い出を語り合うことができるんだ。我慢していた楽しいことも友達付き合いも何でもかんでも、今から取り戻していこうね」

「天都君……」

 

 活力に溢れる寧々が堪らなく愛おしくなって、飛躍した話をしてしまったけれども、彼女は私の言いたいことを理解して頷いてくれた。

 空気が甘くなっていくのを感じながら、私たちはどちらからともなく抱き合い、お互いの体温を感じ合う。寧々にとって、この温もりがもう虚構に変わってしまうものではなくなったことに、この上なく喜びを感じる自分がそこにはいた。

 そして、見つめ合い、自然と二人の顔が近づいていく最中、部室に二度、入室を求めるノックの音が響き渡る。

 

「は、はい、どうぞ!」

 

 ハッとした顔をして寧々は慌てて私から離れて居住まいを正し、訪問者に入室の許可を出すと、数瞬の間を開けて部室の扉が開かれた。その扉の向こうから現れたのは、我らが姫松学院の生徒会長である、戸隠憧子先輩その人であった。

 彼女とは直接話したことはないが、非常に人気のある人であったと記憶している。彼女が会長になった時の学生会役員の立候補者の数がえらいことになったと言えば、その人気の高さも理解してもらえるのではないだろうか。

 

「もしかしてお取込み……じゃないか、空閑君は部員になったんだったね」

 

 こちらに気を遣うような言葉を口にしかけて、戸隠先輩は私に確認するような言葉に切り替える。それに対して、私は特に口を挟むことなくお辞儀で応答した。

 

「今コーヒーを淹れますので、どうぞこちらにおかけになってください」

「あ、ううん、そんなに時間のかかる用事じゃないからお構いなく~」

 

 とりあえず話し合いの席を用意すべく立ち上がると、会長は私に柔らかい笑顔を浮かべてそう口にする。

 

「それで、戸隠会長は何の御用でここに……」

 

 向かい合いで会長と座る寧々が、早速彼女にオカ研を訪ねてきた理由を尋ねる。時間がかからないということは相談ではなさそうだが……。

 

「えっとね、綾地さんには前から言ってたと思うんだけど、やっぱり私が会長職を引退するタイミングでここを開けてもらうことになる可能性が高そうなの」

「そう、ですか……」

 

 宣告されるのは近い将来ここを立ち退く必要があるという事実。

 元々この学院の部活動は、部の認可に積極的に活動する部員が三人と顧問の先生が一人必要となってくる。

 オカ研も寧々が一年の頃はそれなりの人数いたのだが、先輩方が卒業して私たちが二年に上がった時に部員が寧々だけの部活になっていた。その頃から学生会からせっつかれているという話を零していたような記憶があるが、それは多分これのことだったのだろう。

 冷静に考えると、恐らく今回の勧告は、現部員が二人しかいないオカ研が部室を使っていることに不満を持っている者たちからの苦情が入ったのが理由といったところか。その不満は尤もである。

 尤もではあるが、心の欠片を集めなければならない都合上、相談の場としてこの部室を使えなくなるのは非常に困るのだ。そうなると、どうにかしてこの事態を回避するしかないのだが……。

 

「あっ、でもでも、十月までに部員が三人揃えば問題ないからね? 一先ず一人増えたみたいだし、この調子でいけば大丈夫なはずだから」

 

 そう言いながら、会長は私の方にちらりと視線を送る。自分でも思い至っていたが、会長の言う通り、やはり規定人数を揃えるしかなさそうだ。一難去ってまた一難、人生とは上手くいかないことが多いものであるな。

 

「うん、とりあえず伝えておくことはこれだけかな」

「わざわざありがとうございました、戸隠会長」

「ううん、気にしないで、これも仕事の内だから」

 

 軽く頭を下げる寧々に、会長はにこにこと笑いながら胸の前で手を振る。

 

「それじゃあ、後は若い二人に任せてお姉さんは退散するね」

 

 そう言って立ち上がり、会長は足早に部室を後にしていった。学生会がどんなことをしているのかはよく分かっていないが忙しいのだろう。

 

「あっ、男の子と女の子が密室で二人きりだからって、学院内でやらしーことしちゃ、ダメだよ?」

 

 と思ったが、出て言った直後にひょいっと顔だけを覗かせて、会長は可愛らしいウインクと共に爆弾を残していくのであった。会長が来る直前にそういう雰囲気になっていたのもあってか、寧々の顔が一気にボフっと真っ赤に染まる。

 

「……学院では(・)、止めておこうか」

「は、はひ……」

 

 私の意味ありげな言葉に、寧々は耳まで真っ赤になった顔をこちらに向けて返事をした。可愛い。

 再び甘い空気が流れかけたが、これまた先程の焼き直しのように扉がノックされる音が部屋に響く。今日は来訪者が多いな。

 

「あ、開いていますのでどうぞ」

「し、失礼します……」

 

 先程よりはテンパらずに寧々が外の人に声をかけると、少し派手目な格好をした女の子が、その見た目に反して非常におずおずとした様子で入室してきた。見たことのない子だが、雰囲気から察するに下級生だろうか。

 

「あ、あの、ここで綾地先輩が相談に乗ってくれると聞いたんですけど……」

「はい、相談の方ですね。何についてお困りなのでしょうか?」

 

 恐る恐るといった風に尋ねてくる女の子に対して、寧々は慣れた感じでにこやかにそう返す。

 

「……」

「私は席を外していた方がいいかな?」

「い、いえ! その、できれば空閑先輩にも聞いてもらえると……」

 

 言い淀む様子の少女から、男の私がいると言い辛いことなのかと思ったが、そういうことではないらしい。単純に恥ずかしがっているだけなのだろうか。

 とりあえず同席の許可は得たので、女の子が話を切り出すのを黙って待つことにしよう。

 

「あ……あの! わた、私を人気者にして欲しいんです!!」

 

 待つこと数秒、少女の相談事が大声で告げられたのだが、それに反して、部室内は冗談みたいに静まり返るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ、粗コーヒーですが」

「あ、ありがとうございます空閑先輩……」

 

 緊張で喉が渇いているのか、差し出されたコーヒーを少女──因幡めぐるさんは手にして口にした。淹れたてなのもあって、熱そうにして慌てている辺り、緊張の度合いは大きいようだ。

 

「それじゃあ、因幡さんの言う人気者にして欲しいって言うのはアイドルみたいになりたいってことでいいの?」

「い、いえ、えっと、空閑先輩みたいな感じではなくて……」

 

 最初に打ち明けられた情報から推測して話を進めようとすると、何やらとても気になるフレーズが因幡さんの口から飛び出してくる。ちょっと待って、私は学院内でそういう扱いになってるの?

 

「私が関知しないところで私がえらいことになっているのは置いておくとして」

「置いておいて大丈夫なのでしょうか……?」

「どうにもならないこともあるから諦めよう。えっと、じゃあ因幡さんの言う人気者っていうのは?」

 

 人の噂はどうにもならないものなので、寧々の不安そうな横槍を軽くいなして私は足りない情報を埋めるべく、因幡さんへと言葉の意味の説明を要求した。

 

「あの、実は私、入学式あたりで病気でしばらく休んじゃってですね……そのせいで友達がいないと言いますか何と言いますか……」

「……あぁ、休んでいる間にグループが出来上がって……ってこと?」

「ざっくりと言えば……」

 

 今度の推測は当たっていたようで、因幡さんはガックリと項垂れながらそれを肯定する。

 なるほど、何となく見えてきた。つまり彼女は人気者、言い換えれば皆に好かれる存在になることで、新しく友人関係を構築したいといったところだろう。

 

「意外と言うか何と言うか、因幡さんは友達多そうな感じするけど……」

「あぁ、えっと、これはその、高校に入った時に思い切ってイメチェンしようって思って、雑誌とかを参考にして……」

 

 そう言いながら、因幡さんは俯きながら自身の髪を指先でくるくると弄る。

 ふむ、彼女が言っているのは所謂高校デビューというやつか。……相談内容から察するに、残念ながらそれも失敗に終わったようだが。

 

「その、失礼なことを聞くかもしれませんが、因幡さんはクラスから虐められているとか、そういうことではないんですよね?」

「はい、それに関しては問題ないです。その、何と言いますか、クラスの皆と話自体はするんですけど、踏み込んだ関係の人がいない……というか、そんな感じです」

 

 寧々の指摘に対して、因幡さんはハッキリと否定の言葉を口にする。堂々としている様子から、その言葉に嘘はなさそうである。

 私もクラスメイトとはよく話す方であるが、それでも学院内で友人と呼べるのはいつものメンバー三人ぐらいだろう。因幡さんの現状はこの友と言える人がいないクラスでの微妙な距離感をどうにかしたいといったところか。

 

「なるほど、それで人気者になりたいってことか……」

「は、はい、それで何か良い方法はないでしょうか?」

 

 因幡さんが頷くのを見て、私は椅子に深く座り直して腕を組む。これは一筋縄でいかなさそうな依頼である。

 一応の目的は見えてきたが、一概に人気者と言っても、方向性も色々ある。今回は内容的に皆が話しかけたくなるようなそんな感じをイメージしているのだろうが、さて、どうしたものか……。

 

「私としては学院の人気者である先輩方の話を伺ってみたいなぁ……なんて……」

 

 そう言って、因幡さんは若干上目遣いで私と寧々に視線を行き来させる。そう言われても、今の私の状況は意図して生み出したものではないので、アドバイスするにしても何と言っていいものか。

 

「わ、私なんかは全然……その、友達と呼べる人も全然いませんし……」

 

 そう言いながら、寧々はだんだんと言葉を紡いでいくうちに落ち込んでいく。事情が事情なので仕方がないが、何だか私まで悲しくなってきた。

 それに、寧々のようなタイプの人気者、所謂高嶺の花タイプは因幡さんの目指す人気者とは違う系統のものだと思う。

 

「え、えっと、空閑先輩!」

 

 流れの悪くなる空気を変えるためか、因幡さんは敢えて声を張って私にターゲットを絞ってきた。ふむ、気遣いはしっかりできる子のようだ。

 

「うーん……客観的に私のことを分析するなら……」

 

 私が今学院中で注目を集めているのは、自他ともに認める純然たる事実である。そこは覆しようはないだろう。

 それで、何故そんなことになってるのかと言えば、ニッグを筆頭とした超ビッグネームと知り合いであることがバレたのもあるだろうが、それ以上に私の演奏している時の姿を多くの人が見たからだろう。

 古来より楽器ができる男はモテると言うが、色々な演奏家(アーティスト)を見てきた私としては、その言葉は紛れもない真実だと思っている。そして、私もその例から外れてはいない。つまり、私が人気者になっているのは、死ぬほど楽器が上手いからだ。いっそ清々しいほどの自画自賛だが、事実なので仕方がない。

 

「因幡さんも楽器始める……?」

「うえぇぇ!? 私がですか?!」

 

 私の提案に、因幡さんは心底驚いて声を上げる。

 

「あ、でもクラスメイトの前で演奏する機会がないか……」

「それ以前に、そんなすぐに上手くなるものでもないですよ。楽器の経験なんてからっきしですし……」

 

 うーむ、良い案だと思ったのだがなぁ……。そう簡単にはいかないものである。

 

「楽器がダメなら、何か秀でた一芸とかになるのかな……。言い換えれば人に自慢できるような特技とか」

「特技ですか……」

 

 楽器でなくとも、何か目を惹き、アッと言わせるような能力があれば、人の関心を惹くことはできるだろう。そういうものを足がかりにできればどうにかできそうではあるが……。

 

「うぅ……特に思い当たるものはないですかね……」

「そっか……」

 

 そうなってくると、本当にこの話はどうしたものか。時期を外した交友関係の構築というのはそれほど難しいのだ。

 

「……やっぱり、難しいですよね……」

 

 妙案を出せず、難色を示す私たちを見て、因幡さんはすっかり肩を落としてしまった。その姿は見ていて少し辛くなる。

 

「……因幡さん、私たちに少しだけ時間をくれませんか?」

「え……?」

 

 何と言ったら良いかと悩んでいると、口を噤んでいた寧々が因幡さんにそんな言葉をかけた。

 

「確かに今の私たちでは分からないことかもしれませんが、皆で考えれば何かしら案が出てくるかもしれません」

「先輩……」

 

 寧々は因幡さんを慰めるように言葉を紡ぎ、それに対して因幡さんは俯いていた顔をゆっくりと上げて寧々の方へ視線を送る。その瞳には少しだけ活力が戻ってきているような気がした。

 

「明日……は休みなので、来週の月曜日の放課後、また部室に来てくれませんか? それまでに色々と模索してみますから」

「は、はい! ありがとうございます綾地先輩!」

 

 寧々に微笑まれて明るい表情になった因幡さんが勢いよく頭を下げる。因幡さんがこんなに真剣に悩んでいる以上、このまま見捨てるというのも後味が悪すぎるので、私としても寧々と同様にもっと違う方向からアプローチをかけてみるつもりだ。

 

「とりあえず、出来るところまでは一緒に頑張ろうか、因幡さん」

「空閑先輩……!」

 

 そのことを伝えてみると、バッとこちらにも感動したという風な表情で因幡さんが顔を向けてくる。表情がコロコロ変わって面白い子だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、来週もまたお願いします!」

「ん、帰りは気をつけてね」

 

 お疲れ様でした、と深々と一礼してから因幡さんが部室から出ていくのを見送ってから、私は一つ大きく息を吐く。結局あの後は一般論的な友達の作り方について話したり、話が逸れて雑談になったりしながら過ごした。

 外に目を遣ると既に日が傾いていて、下校時刻までそうかからなさそうだ。

 

「さて、私たちも帰ろうか?」

「はい、そうしましょう」

 

 因幡さんが去っていったドアを見つめたままの寧々に声をかけて、私たちも帰路につくべく支度を始めた。

 

「寧々も、何か友達付き合いのヒントを得られればいいけどね」

「そう、ですね……。天都君に頼り切りというのもいけませんから」

 

 二人で並んで歩道を歩きながら、今日持ち込まれた案件について二人で話し合う。

 いつでも私が側にいられる訳では無いので、寧々は寧々で因幡さんのように友達作りに励んで欲しいと思っている。今は心を捕らえる柵もないのだから、きっと寧々はやり遂げられるはずだ。

 そういう意味でも、切っ掛けとして、今回因幡さんがこの案件を持ち掛けてくれて本当に助かった。せめてものお礼に、私も彼女の願いが成就できるよう頑張るとするか。

 願わくば、二人の少女に幸あらんことを。




 保科君のエントリーのタイミングを計っている。
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