自分の過去を語った甘い夜の翌日、私たちはすっかり板についてきた二人きりの登校を経て、学院へと辿り着いた。登校中は相も変わらず視線を浴びることが多く、今日の夜に放送される例の番組のことを考えると、明日からまた増えるのかと若干憂鬱になってくるが、今更避けようがないので気にしない方向でいくことにしよう。
「優しくて、それでいて使われない人なぁ……」
「うーん……そんな人いるかな?」
そして時は流れて昼休み。部室での昼食を終えて寧々と二人で教室へ帰っていると、私を除いたズッ友グループの諸君らが何やら会話に花を咲かせているのが目に入った。最近話せていなくて少し寂しかったので、とりあえず話しかけることにする。
「やっほーお三方、廊下のド真ん中で何してるのさ」
「おぉ、天都と綾地さん……っていたぁ!」
「あぁ、なるほど、確かに」
「???」
片手を上げて、会話にエントリーするべく声をかけると、一番にこちらの存在に気が付いた秀明が声をかけてきて、その直後に突然大声を上げた。状況を飲み込めていない私と寧々は、寧々の方へと視線を注ぐ三人に不思議そうな顔を向けることとなる。何事かな?
「何? 寧々が何かあった?」
「いや何、柊史がまた頼み事を安請け合いしてたから、どうやったらその癖を治せるかなって話をしててな」
「そうそう、それで、適度に断れるようになるには誰をお手本にしたらいいかって話になって、そこに空閑と綾地さんが」
「なるほど、だいたい分かった」
私の問いに対する二人の答えを噛み砕きながら、私はこっそりと申し訳なさそうな表情をした柊史の方へと視線を送る。どうやら彼はまた何処ぞの誰かに雑用を押し付けられたらしい。
それを見た二人が何度目か分からない会議を開いて、そこで頼み事を全て断る方向にいかないのであれば、柊史が行きつくべきポジションは寧々のように適度に相談に乗りつつ、無理なものは後腐れないように断れるようなポジションだと思いついたわけか。タイミングも丁度良いし。これは本格的に勧誘してみるべきか……?
「柊史はその癖を治せるなら治したい?」
「まあ、治せるならそれに越したことはないけど……」
一歩踏み込むために、私は柊史にそう問うと、彼は少し伏し目がちに答えを返してくる。感情の揺らぎを見てみるが、どうやら嘘は言っていないようだ。しかし、何か事情があってどうにもならないという諦念のようなものも感じ取れる。
何を諦めているのかは断定できないので何とも言えないが、ひょっとすると柊史の魔女の気配が関わっている可能性も否定できないので、一応は性格を矯正する意思を見せている内に引き込んでおくことにしよう。もし魔女の気配が外れの場合はまた追々考えることにするが。
「よし、じゃあアレだ。柊史、オカ研に入部しようか」
「へ? オカ研に?」
「待て待て天都、話が見えてこないぞ」
オカ研の裏の顔を知らない男衆が疑問を呈してくることは予測済みだったので、私は寧々の許可を取ってお悩み相談のことを二人に説明していく。端的な説明であったが、二人は勧誘の意図を理解してくれたようで、納得のいった顔をしてくれた。
「なるほど……そこで綾地さんの処世術を学んでいく、と」
「That’s right.で、返答は?」
選択肢の間で揺られる柊史は唸りながら頭を悩ませる。それが数十秒ほど続いたかと思うと、柊史は私と寧々の方へ意志を宿した瞳を見せた。
「それなら、お願いしようかな」
「うむ、歓迎しよう」
「よろしくお願いしますね」
承諾の意を柊史が示してくれたので、私と寧々は歓迎の言葉をそれぞれ口にする。とりあえず部員の確保はこれにて完了か。
「うっ……でも学院の人気者二人と同じ部活か……周りに何と思われるか……」
「決めた後にそれは締まらないなぁ……」
が、その直後、柊史は具合を悪そうにしながらそんなことを口にする。流石にそれはカッコ悪いなぁとは思ったが、彼が思わんとすることは理解できなくもない。しかしまあ、今回に限ってはそれを気にする必要はないだろう。
「あぁ、それに関してはあんまり心配しなくていいと思うよ」
「?」
「多分、今日あたりにもう一人部員が増えると思うから」
「綾地先輩! 空閑先輩! ……っと、失礼しました……」
「あぁ、大丈夫大丈夫、彼は新しい部員だから」
時は流れて放課後。ようやく落ち着いてきた勧誘を尻目に私たち三人はゆっくりと部室へと向かった。それから間もなくしてテンションの高い因幡さんが勢いよく扉を開けて入室してきたが、柊史を相談者だと勘違いしてすごすごと彼女が出ていこうとしたところを私が引き留める。
「そ、そうなんですか? えっと、一年の因幡めぐるです」
「これはどうもご丁寧に。二年の保科柊史と申します」
改めて入室してきた因幡さんの名乗りに、何故か妙に低い姿勢で柊史は言葉を返した。彼はたまにこういうよく分からないふざけ方をするが、まあ面白いのでいいか。
「それで、その様子だと上手くいったかい?」
「はい! 完璧……とはいきませんでしたが、ゲーム友達は、その、何人か増えました。えへへ……」
初対面同士の自己紹介を見届けてから、私は因幡さんに本題について尋ねると、因幡さんはいじらしく指先を合わせながら、嬉しそうに笑ってそう言葉を零す。その心の底からホッとしたような彼女の様子を見て、私と寧々は胸を撫で下ろした。上手くいったようで何よりだ。
「それで、その、お礼を言いに来たのもあるのですが、実はもう一つお願いがありまして……」
「それはこれかい?」
因幡さんが可愛らしい笑顔を浮かべたまま紡いでいく言葉の先を読むようにして、私は一枚のA4用紙を因幡さんへと手渡す。すると、行動を読まれていたことに驚いたのか、彼女は目を丸くしたまま私と紙とで視線を行き来させた。
「あ、あの、いいんですか!?」
「いいとも。寧々と二人で入ってくれたらいいなって話してたしね」
あっさり入部許可をもらえたことが信じられないのか、因幡さんは目を白黒させて声を上げるが、続く私たちが歓迎する意を言葉にして伝えると、今度は瞳を輝かせて満面の笑みを浮かべる。前も思っていたが、よく表情の変わる子だ。
「柊史も書いといてね」
「分かった」
尻尾が生えていればぶんぶん振ってそうな因幡さんから目線を外して、私は柊史にも因幡さんに渡したものと同じ入部届を渡してそう伝えると、こちらは淡白な反応を返してきた。可愛げが無いなぁ。……まあ、男に可愛げを求めてもしょうがないが。
「さて、じゃあ部活……と言いたいところだけどその前に」
「どうかしましたか?」
「いや、確か柊史もゲーム好きだったよな?」
やることを終えて部活開始といく前に、私は柊史と因幡さんの橋渡しをするべく言葉を紡ぐ。
「えっ! そうなんですかセンパイ?」
「お、おう。……あれ? 空閑に話したことあったっけ?」
「いや、話してはないけど、学校でこっそりやってたのを何回か見たことあるからさ」
「あぁ……」
因幡さんの予想外の食いつきの良さに、若干びっくりしつつ柊史は言葉を返し、一度も会話に上がったことが無いことを思い出して私に問いを飛ばすが、私の返答で納得した顔を見せてくれた。とりあえずこれで二人は勝手に仲良くなってくれるだろう。相談が無い時のオカ研は基本的に暇なのだ。
「んでもって、そんな二人にお願いなんだけど、昨日因幡さんの話聞いてていいなぁって思ったから、今度寧々と二人でその……何だっけ? 3DW?」
「はい、合ってますよ」
「3DW買いに行くつもりなんだけど、何かソフトでお勧めとかあったりしない? こういうのは私も寧々も疎くてね」
そして、因幡さんの補足を受けつつ、私と寧々が因幡さんに触発されてゲームに興味を示したことを話すと、目に見えて彼女の様子が喜色に塗れたものへと変貌する。柊史の方も、因幡さんほどではないが、この話に良さげな感情を抱いているようだ。
「それならモン猟やりましょう! モン猟!」
「あ、因幡さんもやってるんだ、モン猟」
「保科センパイもやってるんですか?」
話題に食いついてきた因幡さんに追従するように柊史が言葉を発し、そのまま二人はきゃいきゃいとゲームの話で盛り上がり始めた。よし、これでとりあえずは気まずい感じにはならないか。初顔合わせで少し心配していたが、杞憂で終わってくれて何よりだ。
「凄いですね、天都君」
「いや何、これでも音楽家だからね」
そんな風にして二人の様子を眺めていると、寧々は私の意図を理解したようで、私の隣に寄り添うように立ちながら、小声で私に声をかけてきた。そして、私はそれに何でもないように言葉を返す。
音楽に関わる技能をほぼ全て習得している私は、当然指揮者の権能も持ち得ていて、そこから何時かの様な権能の拡大解釈によって、人の動きの流れを誘導させる能力にも長けているのだ。あまり露骨なことは楽器態の力を使わないと無理だが、これぐらいであればある程度の流れを作らせることは可能である。まあ、それでも必ず上手くいくという保証はないのだが。
「っと、メインのお二人が遠くで何やってるんですか。オススメの周辺機器とかも教えますから、メモしておいてくださいよ!」
遠巻きで新入部員二人を微笑ましく眺めていると、それに気が付いた因幡さんがそちらへ来るように声を上げた。
メインの目的は柊史と因幡さんの橋渡しであったが、私と寧々が今度ゲームを買うつもりなのもまた事実である。なので、私たちはその言葉に逆らわずに二人の方へと移動する。
「相談者もまだ来ないでしょうから、座ってお話ししましょうか」
「ふむ、では私はコーヒーを淹れようか。柊史はコーヒー大丈夫?」
「問題ないよ。悪いなわざわざ」
寧々の言う通り、相談者が来始めるのはもう少ししてからなので、会話に花を咲かす準備をするべく、手慣れた二人で場のセッティングを施していく。
結局その後は相談者は来ることなく、いつものように雑談をして過ごすこととなったが、いつもと違って二人分増えたそれは、とても賑やかなものとなるのであった。
オカ研メンバーでわいわいしながらモン猟ワールドしてるところとか見たいですね。まあ、私はPS4持ってないのでMHWがどんな感じなのか全然知らないんですけども。