※この作品はR-18です。

神戯姦濫   作:水晶水

16 / 53
 一日中寧々ちゃんのことばっかり考えてるので、夢によく遊びに来てくれます。


F.Son of a Witch

 久しぶりにしこたま雑談に興じた部活の後、帰る方向の違う因幡さんと別れてから、私たちは暫定魔女関係者の柊史を連れて相馬さんの所まで足を運んでいた。事前に連絡していたからというのもあるだろうが、閉店間際なのもあって店内に他の客の姿は見られない。

 

「それで、結局何で急に喫茶店に?」

「なんだ、説明せずに連れて来たのかい?」

 

 そうして、話し合いのために四人で円形のテーブル席に着いてから自己紹介をし終えたタイミングで、困惑した柊史と呆れたような表情の相馬さんの視線を二方向から同時に浴びた。騙し討ちみたいにしたのは悪いと思っているが、これにはちゃんと理由があるのですわよ。

 

「私たちの事前説明だけだと話が拗れるだけだと思っていたので」

「まあ、それは確かにそうだが……」

 

 そう、界隈初心者の私と、イマイチ事情を把握できていない寧々との説明では、柊史を納得させた上でここへ連れてくるのは難しいと判断したのだ。故に、少々手荒なやり方だが、彼が逃げにくい状況を創り出して、彼の中にある魔女の気配の正体についてきっちりと把握するのが私たちの目的である。一応、相馬さんも事情の把握に関しては乗り気であった。

 

「それなら、早速始めていこうか」

 

時間も有限だしね、と相馬さんはコーヒーを一口含んでから柊史へと視線を向ける。

 

「保科君は魔女を知っているかい?」

「魔女……ですか?えっと、大きな鍋で妖しい薬を作っているような……?」

 

唐突で端的な相馬さんの問いに、柊史は表情の困惑の色を強めながら、自身の魔女像を述べていく。

 

「ふむ、こちらの事情には精通していないのか……」

「あの、さっきからいったい何の話を……?」

「そうだね、一から説明しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔女とアルプ……それに空閑と綾地さんが……」

 

 相馬さんの中で、柊史が魔女関係者であるということが確定したようで、彼女は彼に対して以前私が受けたのとほとんど同じ魔女に関する説明を施すのと共に、私たちの立場についても彼に教えることとなった。それに加えて、私が昼間に感じた柊史の諦念が、彼の心に大きく影響を与えてしまっているということも相馬さんは見抜いたようだ。

 それらを聞かされた当人である柊史は理解が追い付いていないのか、或いは話を信じ切れていないのか、眉間に刻まれた皺を話を聞く前よりもほんの少しだけ深くしているようだ。まあ、私の場合が特異だっただけで、普通はこうなるか。

 

「それで、保科君の中にあるのはその魔女の力……魔法の残滓だ。恐らく、父君か母君の力が血を通して君に遺伝したんだろう」

「遺伝…………」

 

 相馬さんに告げられた言葉をゆっくりと噛みしめるように繰り返して、柊史は自身の胸に手を当てて握り拳を作る。その表情は何か心当たりがある様で、一瞬だけ苦しげなものを覗かせた。

 

「ちなみに、ご両親からはこのことについて何も?」

「……父は魔女がどうとかは知らないみたいですけど、オレがその魔女の能力を持っていること自体は知っています」

「なら、母君は?」

「母は、オレが三歳になる前に事故で……」

「そうか……すまない、聞かされていない時点で察しておくべきだった」

「いえ、記憶にもほとんど残ってないですし、気にしないでください」

 

 柊史と相馬さんが数合会話を交わし合って、場に少し気まずい沈黙が訪れる。

 しかし、遺伝した魔法の残滓が柊史の強い諦念を引き起こしていて、それが彼が頼み事を断れない理由になっているとなると、それなりに強力な作用が働いているのだろうか。魔女の魔法は魔力次第でタイムリープすら引き起こせるので何があっても不思議ではないが、そのせいで逆に柊史に宿っている魔法が何かという推測を立てることができない。いっそのこと直接聞いてみるか。

 

「柊史、一ついいか?」

「おう、どうした?」

「柊史の持つ魔法って、いったい何なんだ?」

 

 私の問いに対して、柊史は息を詰まらせて二の句を留まらせた。次いで、彼は少しだけ目を逸らしてしまう。

 きっと、今までその魔法のせいで苦労してきたのだろう。それは彼が強い諦念などという、およそ普通のティーンエイジャーが抱くとは思えない感情を持ち得てしまっている点からも窺える。

 

「言いたくなかったら無理してまで言ってもらおうとは私も思っていないよ。ただ、柊史が例の癖をどうにかしたいという想いでオカ研に入部して、んでもって、例の癖が柊史が抱いている諦念から来るもので、その諦念が魔法が原因だって言うなら、入部を提案した身として、私がそこに触れないわけにはいかないというのは理解してほしい」

「空閑……」

 

 私が何故踏み込んできているのかを理解しているのか、柊史は難しい表情をしながらも視線を私の方へと戻した。

 

「話してくれれば、どうにかできるかもしれないしな」

「……」

 

 続く私の言葉に柊史は表情に怪訝な色を戻す。まあ、諦める前に何もしてこなかったわけではないだろうから、その反応は当然か。聞きようによっては無責任にも聞こえるわけであるし。

 

「何も、根拠もなく言っているわけではないぞ?」

「え?」

「いや何、単に魔女の魔法に干渉することに関しては既に実績があるというだけだ」

 

 そう、勝算も何もなしに発言しているわけではないのだ。今口にした通り、魔女の魔法への干渉、つまり、先日の寧々の願いの書き換えに成功している以上、柊史の魔法の残滓に対しても干渉は可能なはずなのである。

 その言葉に柊史は目を見開いて驚きを露にして、何故か私ではなく寧々と相馬さんに視線を送ると、二人は真面目な表情のまま頷いて、それを見た柊史は気が抜けたように息を吐いて深くその身を椅子に沈めていった。

 

「…………今まで病院に行って診てもらったり、自分なりにどうにかしようとしたりもしたけど駄目だったんだ。正直、もうどうにもならないんだろうなって思ってた。でも、空閑の言葉が嘘じゃないってことが分かった今は、その可能性を信じてみるのも悪くはないかもしれない」

 

 長い沈黙を経て、柊史はゆっくりと口を開いて、心の奥にしまっていた想いを紡いでいく。

 

「オレの魔法について教えるのは良い。でも空閑、その前に一つだけお前の口から聞かせて欲しいことがある」

「それは?」

「どうして、空閑はそこまで親身になってくれるんだ?」

 

 真剣な、今まで見たことないような強い瞳の色を見せながら、柊史は私へとそんな問いを投げかける。彼の見たことのない様子に思わず身構えてしまったが、何だ、そんな簡単なことか。

 

「Elementary, my dear friend」

「へ?」

「ふふ、友人が苦悩していて、それを助けたいと思うのはそんなに不思議なことかい?」

 

 ほとんどノータイムで告げられた私の言葉に、柊史はハッとした顔をして再び考え込む姿勢に戻っていく。うーむ、柊史は難しく考えすぎだと思うが。

 

「……力を、貸してくれ」

 

 程なくして、考えをまとめた柊史は頭を下げて助力を願い出てきた。よーし、友達のためにお兄さん頑張っちゃうぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……覚(さとり)体質と共感覚(シナスタジア)を合わせたような感じか……」

「あぁ、複合共感覚がどうとかは病院で言われたことはあるな」

 

 あれから、柊史の実体験を交えた自身の魔法のことを聞かされて、説明を咀嚼しながら私はそう口にした。

 彼の魔法の残滓が引き起こしてきたことを短くまとめると、人の感情が勝手に伝わってきて、それを味覚や触覚といったもので認識してしまうのだという。自分に向けられた感情と、そうでなくても強い感情であれば意志に関係なく受信してしまうようで、オンオフの切り替えも出来ないらしい。また、嘘を吐かれれば薬のような味が口の中に広がったり、負の感情を向けられれば怖気や痛みを感じたりと、何と言うか、柊史がああいった境地に達してしまう理由も何となく理解できてしまった。

 

「残り火でそれだけの力を持っているなら、保科君の母君は相当強い魔法を持っていたのだろうね。それこそ、「人の心を読み取る」ぐらいの力だったんだろう」

「母さんがそんな魔法を……」

 

 相馬さんの推測を聞かされて、柊史は再び考え込むような姿勢を取り始める。彼が幼い頃に亡くなったそうなので、きっとその辺りも含めて色々と分からないことがあるのだろう。確かに柊史のお母様が何故そこまで強力な精神感応能力(メンタル=テレパシー)を欲したのかは気になるところであるが、私はその前にやるべきことを済ませてしまおう。

 

「とりあえずだ、私が柊史にしてやれることは大きく分けて二つと言ったところか」

 

 私の言葉にそれぞれ考えるのを止めて、三人の視線が私に集中する。

 

「一つ目はさっき何とかできるって言った通り、私の力を使って柊史の魔法の残滓を取り除くこと」

 

 右手の人差し指を立てて紡ぐ言葉に、柊史が俄かに反応を示すが、二つ目の案を言っていないからか、途中で口を挟むようなことはしなかった。それを横目で確認しつつ、私は二本目の指を見せつけるように立たせる。

 

「二つ目は力をそのまま残して、当初の予定通り処世術を覚えるなりして、諦念によって空いた柊史の心の穴をどうにかする方向で頑張ること」

「……二つ提示した意味はあったのか?」

 

 示された分岐路を見て、柊史は怪訝な顔をこちらへと向ける。忌み嫌っている力をわざわざ残す意味があるのかといった表情だが、焦らずによく考えて欲しい。

 

「確かに、柊史にとっては邪魔臭いものかもしれないけど、結論を出すのはよく考えてからでも遅くはない。これは柊史と柊史のお母様との繋がりでもあるんだぜ?」

「っ!」

 

 諭すような私の言葉に、柊史は言葉を詰まらせた。彼の中にあるのは幼少の頃に亡くなった母を感じることのできる魔法の残り香だ。私はそれを安易に手放していいとは思えない。熟考して、悩みに悩んだ末に手放すのであれば私も止めはしないが、その答えを出すのは些か早計であると思う。

 

「それに、原因を潰せばすぐに心の穴が埋まるというものではないと思うよ。ですよね?」

「空閑君の言う通りだ。原因を取り除けば回復傾向に向かう可能性はあるが、長年積もりに積もって築かれた君の諦念で開けられた穴を塞ぐには、魔法がどうこうではなく、保科君自身が変わらないとどうにもならないよ」

 

 正面の柊史から視線を外して相馬さんにパスを送ると、彼女は頷きながら私の言葉を補足してくれた。

 これは殺人犯とその遺族で考えれば分かりやすいだろうか。殺人犯を殺すなり逮捕するなりしても、殺された人間は戻ってくるわけでもなく、それによる遺族の心の傷が即座に癒えるわけでもない。殺人犯(原因)によって引き起こされた傷(結果)を癒すには、傷を負った本人が原因とどう向き合い、どういう方向に立ち直るかが重要なのだ。

 早い話、魔法を排除するにせよしないにせよ、そこに重きを置くのではなく、その選択肢を選んだ後にどうするのかを考えなければ意味はないということである。

 

「……まだ、考えてみることにする。母さんがどういう人だったかもよく知らないからさ、どういう気持ちで魔法を手に入れて、どういう風に過ごしてたかとか、全部は分からないかもしれないけど、オヤジに聞いたり自分なりに考えてから結論を出したい。……空閑の言う通り、これは母さんとの大切な繋がりでもあるから」

 

 重く、深く吐き出すようにして、柊史はそう口にした。この様子なら、恐らく間違いを犯すことはないだろう。

 

「うむ、その意気や善し。自分の人生に関わることだ、大いに悩みたまえ少年」

「ははっ、空閑だって同い年だろうに」

 

 柊史の出した保留という答えに、敢えて尊大な口調でその意思を尊重すると、彼は小さく笑ってツッコミの言葉を入れてきた。気負いも無し、焦りも無し、大いにオッケーである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実際問題、どうするつもりだい?」

 

 話し始めた時よりはスッキリした顔の柊史が帰った後、私たちは三人で円卓を囲っていた。そして今は相馬さんと今後の方向性について話し合っているところである。

 

「要は人生を楽しいと思わせればいいんでしょう?」

「そういうことではあるが……」

 

 私のざっくりとした理解に相馬さんは呆れたような視線を私に飛ばして、そんな私たちを見て寧々は苦笑いを浮かべていた。

 

「まあ、見ていてください。何たって、私は生粋の音楽家(エンターテイナー)ですからね。人を楽しませることにおいては一家言ありますよ」

「ふぅ、そういうことなら任せてもいいんだね?」

「えぇ、問題ありません」

 

 微妙に心配そうな相馬さんに対して、あくまで自信満々の姿勢で私は言葉を返す。しかし、少なくともここ五年間は人を楽しませて生きてきているのだ。強ちこの自信も間違いではないだろう。

 

「何かあったら私を頼るといい。魔法の問題なら空閑君よりも詳しいからね」

「はい、その時は是非に」

「うむ。……さて、もう随分遅い時間だ。今日のところは帰りたまえ」

 

 優し気な表情の相馬さんからそう言われたので、私は残っていたコーヒーを飲み干してから、寧々を連れ立ってschwarze・katzeを後にすることにした。今日もコーヒーご馳走様でした。

 

 暗くなって街灯がぼんやりと夜闇を照らす中、私と寧々は指を絡めて手を繋いでゆっくりと街道を歩く。にこやかに話す寧々と並んで歩く幸せな時間だ。

 

「今回も何だか任せきりになってしまいましたね……」

 

 そんな中、突如表情を曇らせた寧々がそんなことを口にする。柊史に関する話し合いの中でほとんど口を挟めなかったのを気にしているのだろう。

 

「寧々は柊史とほとんど話したことなかったんだし、それは仕方ないんじゃない? 今回みたいなのだと特にさ」

 

 寧々は落ち込んでいるが、話していた内容が内容故にそれは仕方のないことだと思う。入学してからの友人である私や、魔法の専門家である相馬さんは話に踏み込んでいく必要があったが、柊史との交友が浅い寧々にとって、彼の心に踏み込んでいく話題に取り組むのはかなり難しいはずであるから。

 

「まあ、それでも気にしてるってんなら、これから友達として柊史と接してやっておくれ。寧々は美人だし、仲良くなるだけでも前向きになってくれるかもよ?」

「ふふ、分かりました。頑張りますね」

 

 少しだけ冗談めかした物言いで場の空気を茶化してみると、寧々は小さく笑ってからいつもの調子を取り戻してくれた。うむ、やはり寧々は笑っている顔が一番だ。

 

「あ、そういえば天都君」

「どうした?」

「天都君が出演する番組って今日の八時からでしたよね?」

「あーっと……うん、そうだね」

 

 寧々の突然の問いかけに、頭の奥に引っ込んでいた記憶を掘り返しながら、自身の左腕に嵌めていた腕時計に目を遣ると、時計の針は七時過ぎを示していた。家に帰って色々準備を終えた頃にちょうど始まる時間だろうか。

 

「あの、天都君と一緒に観たいのですが、お家に寄って行っても大丈夫でしょうか?」

「もちろんいいとも。晩御飯も食べていく?」

「えへへ、お願いします」

 

 上目遣いでおねだりしてくる寧々に二つ返事で了承して、私は堪らず寧々の頭を撫でる。そうすると、提案を受け入れられて撫でられた寧々は実に嬉しそうな笑顔を私へと見せてくれた。可愛い。

 

「ここのところずっとどちらかの家で過ごしているので、何だか同棲してるみたいで楽しいです」

「ふふ、将来的には本当に同棲することになるんだ。その予行演習みたいなものと思えばいい」

 

 にこにこと花が満開に咲いたような笑顔を私に向けたまま、寧々は楽しそうに言葉を紡ぎ続ける。それに対する私の言葉を聞いた直後に、寧々は私の腕に甘えるようにして抱き着いてきた。ブレザー越しにむにゅりと柔らかい双丘の感触が伝わってくる。

 

「いっぱい幸せにしてくださいね、天都君♪」

 

 そして、嬉しさが臨界点を突破した寧々は、甘く蕩けた音色を喉から響かせて熱い愛を綴った。それは冷え始めてきた夜風の冷たさを払ってくれるようであった。

 幸せへと続く道を、私たちは今まっすぐに歩いている。




 突然ですが天都君が女体化した時の呼び名は天音ちゃんに決定しました(登場未定)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。