※この作品はR-18です。

神戯姦濫   作:水晶水

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 最近はとても筆がすいすい進んでます。


B.お見舞いに行こう!

「ん……?」

 

 何か幸せな夢を見ていたような気がする。ゆっくりと意識が浮上して、そんなことを思いながら瞼を開けると、私の目の前には寧々の顔が大きく映し出されていた。

 驚きの余り少し仰け反ってしまったが、なるほど、妙に身体が圧迫されていると思ったらそういうことだったか。そして、彼女がここにいるということは、本当に私は朝に二度寝してから夜まで眠っていたということらしい。

 

「あっ……おはようございます、天都君」

 

 そんなことを考えていると、私の起床に気付いた寧々がにっこりと慈愛の笑顔を浮かべながら声をかけてくる。その声色がいつになく優しいような気がしたが、私の体調が悪いからだろうと勝手に納得しておくことにした。

 

「おはよ、寧々。学校の方はどうだった?」

「……天都君のことが気になって全然集中できませんでした」

 

 私は今朝よりは回る口で寧々にそう尋ねると、彼女は少し頬を膨らませながらずっと心配していたと伝えてくる。それから、私の胸に顔を埋める様にして抱き着いてきたので、私はそんな寧々を抱き返して優しく頭を撫でた。

 彼女をそういう心情にさせてしまったのは紛れもなく私なので、ケアはちゃんとしなければ。むふーっと半日離れた分の何かを補給していることに関しては、何も言及しないでおくものとする。

 

「天都君、明日はオカ研の皆さんがお見舞いに来る予定なのですが、大丈夫ですか?」

「皆が? 私は大丈夫だけど……この体調だし、何ももてなせないよ?」

 

 しばらくそういう風にしてくっついていると、私の胸元から顔を上げた寧々が私にそんなことを伝えてきた。

 お見舞いか……。したことはあったけど、されたことはなかったなぁ。

 

「そこは病人なんですから大人しくしててくださいっ。皆さんもそういうつもりで来るわけではないのですから」

「そっか……。うん、そうだね」

 

 寧々の咎める様な視線と言葉を受けて、私は心に湧いていた申し訳ないという気持ちを引っ込めていく。

 

「さて……天都君は朝から何も食べてないですし、少し早いですけどご飯の時間にしましょうか。食べ物は喉を通りそうですか?」

「いや、まだ固形物は難しいかな……」

「それでは、昨日買いこんだゼリー飲料と飲み物を持ってきますね」

 

 そうして、待っていてください、と言いながら、寧々はするりと私から抱擁を解いて寝室の外へと出ていった。それを見送って、私は静かに脱力して枕に頭を沈めていく。

 頭痛は依然として引いていないが、まあ、今朝と比べればマシな方だろう。一応は快復に向かっているようで何よりだ。

 とりあえず、第一段階は経過したと考えていいだろうか。以前よりは早いペースなので、このままバーッと治って欲しいものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天都君、皆さんがいらしてくださいましたよ」

 

 私が体調を崩してから二日目のお昼のことである。

 インターホンの音を聞いてから早足で寝室を出ていった寧々が、そんな言葉と共に何故か少し赤い顔をしながら戻ってきたので内心で若干首を傾げつつ、私は彼女の後ろに連なるようにして寝室へとエントリーしてきた面々へと視線を送った。そこには事前に聞かされていたオカ研の三人だけでなく、秀明や仮屋の姿も見受けられて私に小さな驚きを齎すが、それと同時に心配してくれていたのだろうと心が温かくなっていくような気がするのであった。

 

「いらっしゃい、皆。こんな格好で悪いね」

「いえいえ、お見舞いなんですからお気になさらず。これ、皆で買ってきた物です」

「おや、これはどうも」

 

 横にしていた身体を半分だけ起こして応対すると、皆を代表してか、妙に張り切った様子の因幡さんが気にするなという言葉と共に果物の詰め合わせを私に手渡してくる。……擦り林檎ぐらいなら今の状態でも食べられるだろうか。

 

「時間も丁度いいですし、折角ですから今から食べてしまいましょうか」

「そうだね、皆もそれで良い?」

 

 寧々の言葉を継ぐようにして紡がれた言葉に、皆は一様に頷いて、それを見届けた寧々はにこにことしながら私の手からバスケットを回収してから、そのまま再び寝室から姿を消していく。

 戸の向こうへと消えたエプロン姿の寧々から視線を外すと、ちょうどにやにやと軽薄な笑みを浮かべた秀明と目が合った。……何だ、どういう顔だそれは。

 

「いやぁ、相変わらずお熱いご様子で。付きっ切りで看病してもらってるみたいだし、恋人ってよりは夫婦みたいだな」

 

 私の無言の意思を汲み取ってか、秀明は表情を崩さないままそんなことを口にする。

 

「まあ、ゆくゆくはって感じかな」

「あれ、綾地さんと比べて反応が薄い……」

 

 が、自身でもそれを認識していたので、私は素面のままシレっとそう言い切った。

 隣で便乗する様ににやにやしていた仮屋が期待外れという風に言葉を零すが、なるほど、部屋に入ってきた時に寧々が顔を赤らめていたのはそういうことだったか。

 

「私がそれで動じるタマだと思うかい?」

「確かに、部室で寧々先輩と堂々と熱烈なキスしてましたもんね」

「はははっ」

 

 私のあくまで冷静な返しに、因幡さんが何時かの依頼の時のアレを掘り返してきて、それを聞いたその場の人間がほぼ同時に吹き出した。掘り返した本人もほんのりと顔を赤く染めているようだが、私はそれに簡素な笑い声を返しておくことにする。

 

「ごほんっ……それで、肝心の体調の方は大丈夫なのか?」

「うーん……依然として良くはないかな。まだ身体も上手く動いてくれないし」

 

 柊史は蔓延し始めていたピンク色の空気を断ち切る様な咳払いの後に、顔つきを真剣なものへと変えて私の容態を尋ねてきた。ここで嘘を吐いてもどうせ寧々から真実が伝わるので、私はそれに正直に答えていくと、それを聞いた面々はその顔色を暗くしていく。

 うむむむ、そういう顔をされるとこちらとしても心苦しいのだが……。

 

「まあ、折角遊びに来てくれたんだし、私の体調は気にせずに今日はゆっくりしていっておくれ」

 

 そんな空気を払拭すべく私は軽い調子でそう言うが、心優しい皆は流石にそれでは気持ちを切り替えてはくれなかった。

 た、助けて寧々えもーん!

 

「皆さん、用意が出来ましたのでリビングの方に……ど、どうしたんですか?」

 

 気まずい空気が場を支配する中、私の祈りが通じたのか、寧々がひょっこりと寝室の入口から顔を覗かせて私たちをリビングへと招く。その際にどんよりとした雰囲気に気が付いたようで、寧々は少し動揺するような声を出しながらゆっくりと寝室へと入ってきた。

 

「私の容態を聞いて心配させちゃったみたいで」

「なるほど……あっ、天都君の分も作っておきましたが、一緒に食べますか?」

「そうだね、折角だし皆といただこうかな」

 

 寧々の問いに簡潔に答えると、彼女は納得した顔を見せた後にすぐさま話題転換をしてくれる。それによって、ほんの少しであるが、皆もそちらの方へ意識がシフトしてくれたようだ。

 

「よいしょ……っとと……!」

「危ないですよ、天都君」

「ごめんごめん」

 

 皆でリビングへと向かう中、私もそれに追従すべく立ち上がると、まだ上手くバランスを取れない身体はすぐにふらついてしまうが、それを即座に寧々がフォローに入り姿勢を何とか安定させる。

 仲睦まじい様子に空気がほんわかしたものへと変わっていくが、私はふと、椎葉さんが妙なものを見る様な視線をこちらに向けていることに気が付いた。

 

「えっと、椎葉さん、どうかした?」

「へ!? あっ、え、えと……何でもないよ! うん、何でも」

 

 指摘されると思っていなかったのか、私の名指しの言葉に椎葉さんは肩をビクリと跳ねさせて驚きの声を上げ、それから両手を胸の前でブンブンと素早く振る。誤魔化された感が凄いが、まあ、深く問い詰めるようなことでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「視界が甘すぎる……」

 

 大きな卓を囲みながらのおやつタイムの最中、誰かのそんな言葉が一角が桃色の空気を発する場に浸透していく。その言葉の対象は言わずもがな私たちである。

 初めてのデートの時と違って、寧々は人目を憚らずに私の口元へと、今の私でも食べられる擦り下ろした林檎を運んでいるのだが、何と言うか、手を繋ぐだけで赤面していた付き合いたての頃と比べると、随分と染(・)ま(・)っ(・)て(・)き(・)た(・)ものだ等とぼんやりと考えながら、私はそれを零さないように口で受け取っていく。

 女性陣はその光景を何処か輝く視線を飛ばしながら見ているのだが、男性陣は何か苦味を欲する様な表情をしていたのが少しだけ面白かった。

 

「くぁ……」

「眠くなってしまいましたか?」

「ん……」

 

 ろくに動いていない状況で食物を胃に入れたからか、すぐに満腹中枢が働き始めたようで、お腹いっぱいになって一つ大きな欠伸をすると、寧々はにこにこと楽しそうな笑みを浮かべながら、喜色に濡れた声でそう尋ねてくる。

 私はそれに短く返事をするが、最近の寧々はどうも世話焼きムーヴをしたがる傾向にある様な気がするなぁ。多分と言うか、確実に私が要介護状態なのが原因なのだろうけど、もしかすると、以前母性云々で揶揄ったことに対する意趣返しの様なものなのかもしれない。

 

「どうぞ、天都君」

 

 徐々に虚ろになっていく思考でぼんやりと何かを考えていると、そんな私に向けて寧々は自身の膝を軽く二回タップして、私の頭をそこへと誘導しようとしてくる。所謂膝枕というやつだ。

 そして、その魔性の誘いに思考力が落ち切っている私が抗えるはずもなく、半ば意識を沈ませながら私は魅惑の太ももに頭を乗せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぅ……」

「ふふ……」

 

 頭を一撫でされて可愛らしい寝息を立てる天都君を見て、私は思わず口角が上がっていくのを自覚します。今は二人きりではないので色々と自重しないといけませんが、これぐらいは大丈夫でしょう。

 ……私、変な顔になってませんよね?

 

「わ、もう寝ちゃってますね」

「……空閑、寝顔は余計に女の子みたいだな」

 

 私と天都君のそれぞれの隣に座っていた因幡さんと保科君が、眠りに就いた天都君の顔を覗き込みながらそんなことを口にしました。確かに、元々中性的な顔つきの天都君ですが、眠っている時の彼は何故かその顔つきは何処か女性的なものをいつもより強く感じさせます。そんな彼も好きなので私としては全然構わないのですけども。

 

「それにしても、目から血を流し始めた時はどうなることかと思ったけど、思ってたよりは無事みたいで安心したよ」

 

 天都君の寝顔で癒し空間が形成されていく中、リラックスする姿勢を取る海道君が徐にそのような言葉を紡ぎました。その表情は安堵の色を感じ取ることができます。

 

「中学の時はこのようなことは無かったのですか?」

「俺が知ってる範囲では無かったと思うけど……天都は中学時代はしょっちゅう仕事だ何だで休んでたからそこは何とも判断がね」

 

 何となく私の口から飛び出てきたのはそんな疑問で、海道君の答えを聞いてから、そういえば天都君の中学時代の話はあまり聞いたことが無かったことを思い出しました。お仕事や旅行の話はよく聞かせてもらいましたけど、彼の古い友人関係については聞いたことがありません。

 ……天都君の体調が良くなったら聞いてみましょうか。そうしましょう。

 

「ねえねえ、中学時代の空閑ってどんなだったの?」

「あ、それめぐるも気になります」

「わ、ワタシもちょっと聞いてみたいかも……」

 

 そんな風なことを考えていると、仮屋さんが海道君にそう質問をして、それに乗るようにして因幡さんと椎葉さんも彼へと視線を向けました。ここにいる人たちは海道君を除いて全員が学院に入ってから天都君と知り合った人なので、自分たちが知らない天都君の話が聞けることに興味津々のようです。斯く言う私もそうなのですが。

 

「うーん、そうだなぁ……だいたいは今と大差ないと思うけど…………」

 

 昔を思い出す様に海道君は腕を組みながら天井を仰ぎます。つらつらと天都君との思い出を思い返しながら口から溢れてくる言葉から察するに、彼は昔から今みたいな感じだったようですが……。

 

「あっ、前に俺がバンドやってたってのは知ってるよな?」

「あぁ、確かドラムやってたんだっけ?」

「そうそう、その時に練習場所借りるついでに色々指導してもらったんだけど……それが普段からは想像できないぐらいスパルタでな」

 

 そこから語られるのは一片の容赦もない天都君の技術指導の数々。なまじ受けている当人たちも指導の度に上手くなっていく実感があったが故に、ライブハウスでデビューするまで一人も脱落することは無かったそうですが、それはそれは厳しい指導とのことでした。

 ……私もドSな天都君の攻め(指導)を味わっん゛んっ! 何でもないです。

 

「それでは、あんまり長居するのも悪いですし、私たちはそろそろ帰りますね」

「はい、今日はありがとうございました」

 

 それから時計が四時過ぎを示す頃になって、海道君の天都君との思い出語りもそこそこに今日のところはお開きということになりました。皆さんを見送るためにそっと天都君の頭をふかふかのカーペットの上に置きますが、すやすやと眠る彼の寝顔は依然として幸せそうなものです。ふふ、可愛い……。

 っとと、あまりお待たせしてはいけませんね。

 

「綾地さん、天都が起きたらお大事にと伝えておいて。あと、普段から無茶してるし、これを機にしっかり休むようにとも」

「ふふ、はい、しっかりと伝えておきます」

 

 玄関での帰り際の海道君の心配する様な、揶揄う様な言葉に私は微笑みを返しながら了承の意を返します。それに追従して他の方も同じ様な言葉を残していって、その事実に天都君がこんなにも慕われているということを実感して、私はそれが自分のことの様に嬉しくなりました。

 

「天都君、ベッドに戻りましょうか」

「んん……?」

 

 見送りも終えてリビングに戻ってから私は安眠する天都君を揺さぶると、彼は寝惚け眼で私を見上げながら可愛らしい声を小さく漏らします。あぁ、イけません、そんな声を出されてしまうと下腹部が疼いてしまうじゃないですか。

 

「寧々……」

「ひゃっ……!」

 

 あぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!? い、イけません、イけませんよ!? そ、そんな甘える様な声を出しながら抱き着いてきたら、今湯水の様に湧き出てきている私の庇護欲が鼻から溢れてしまいます!

 

「ほ、ほら、天都君、ダメですって」

「ん……」

 

 しかし、そこで心の内の様に絶叫したり、興奮で鼻血を溢れさせるような私ではありません。努めて冷静に振る舞い、天都君をベッドへと誘導するべく言葉を紡いでいきます。声も上擦ってなんかないです。ないったらないです。

 のそのそと牛歩で寝室へと戻っていく天都君の後ろ姿を捉えつつ、私は深呼吸で心を平静へと戻していきます。正直今のは相当危なかったですから……。ああいったものをギャップ萌えと言うのですね。よく理解しました。

 ……これから一週間、毎日ああいう天都君と遭遇することになるのですが、私の心臓は果たして無事でいられるでしょうか? そこはかとなく不安になってきますが、同時に楽しみにしている自分がいるのも自覚しています。

 まあ、とにかく天都君が元気になるまで頑張りましょう。不肖綾地寧々、気合を入れて頑張りますっ。




なぜなに天都君-第三回-


Q.誕生日は何時なの?

A.六月の六日ってことにしてるよ。日本においては楽器の日とされているね。
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