プロローグ -課せられる仕事-
どうやら多方面に私の体調不良の噂が行き渡っていたようで、学院に着いた瞬間から同級生だけでなく下級生と上級生、果ては教師陣からも声をかけられることになる。思わぬ事態に多少驚いたものの、大小の差はあれど皆が心配してくれていたのは事実なので、私はそれに笑顔で応えることで問題ないことをアピールしていくのであった。
それ以外はまあ、いつもと変わらない平和な一日になるだろうと踏んでいたのだ。今日の放課後になるまでは。
「え……な、オカ研、無くなっちゃうんですか……?」
その日の放課後のことである。今日唯一顔を合わせていなかった因幡さんとハイタッチをしてから始まった部活の最中、学生会からの使いとして会長──は私が休みの間に既に辞任していたので戸隠先輩と、新会長の越路さんが突如オカルト研究部の部室に訪問してきたのだ。
何事かと思っている内に告げられたのは、九月の中頃に一度伝えられていた立ち退き勧告が現実になるというもので、部員を揃えて安心しきっていた私と寧々は想像の埒外の出来事に思わず言葉を失ってしまう。
当然、柊史が入部した段階で三人揃え終えていたので部員達にはそのことを知らせておらず、今この場で初めてそういう話し合いが行われていたことを知った面々は大きな驚愕を顔に張り付けていた。呆然とした表情で小さく言葉を零す因幡さんを見ればそれも一目瞭然だろう。
さて、冷静に分析してはいるが、実際問題としてオカルト研究部の部室が使えなくなること自体は然したる問題ではない。心の欠片──より正確に言うと魔力の回収は私からすればいいので、自ずから積極的に問題解決に動く必要がないからだ。
柊史に関しても、入部理由となっていた「心の穴をどうにかする」という問題は、今は彼自身の心の方向性が良い方へと向かっているため、私たちの力を借りずともどうにかできるであろう。私が休んでいる間に自分一人の力で依頼を熟したとも寧々から聞いているし、既に柊史は自分の意思で歩き出しているのだ。私としては何の心配もないと思っている。
因幡さんについても、気軽に学内で集まれる場所が無くなるのは少々痛手であるが、今までと同じ活動を続けること自体はそう難しいことではない。平たく言えば多少憩いの場が変わるというだけだ。
「理由をお聞きしても?」
が、事実そうであるからと言って、心情的な意味で納得できるかと聞かれれば答えはNoである。しっかりと期限までに部員を揃えたオカ研が不当な理由で部室を追い出されるというのであれば、私たちが抗議する権利は当然存在するはずである。
故に、私は部室が静まり返る中、申し訳なさそうな顔をしている戸隠先輩へと問いを投げかけた。
「え、えっとね、それは……」
「か……戸隠先輩、そこはアタシが」
口約束だったとはいえ、ハキハキとした態度で部室の継続利用を認めていた戸隠先輩は非常に言い辛そうな表情でこちらを見ていて、それを見かねた越路さんが前会長に代わって私たちに立ち退き勧告の理由を説明し始める。
そんな彼女の口から語られたのはごく当たり前のことで、何でもオカ研は部としての活動実績が足りていないとのことらしい。予想はしていたが、やはりその辺りを突かれたようだ。
放送部や演劇部等は例外にするとして、基本的に文化部は対外試合の様なものが存在しないので、そういった実績を作り辛い。その救済策としてかは定かではないが、一年に一度、我が校では春に文化祭──文化部としては文化部発表会と言うべきか──が行われていて、姫松学院に多数存在する文化部諸君はそこへ向けて一年間の成果を披露すべく奔走するのだ。例を挙げるとすれば、写真部の展覧会や茶道部の開催するお茶会等といったものだろうか。
しかし、我らがオカルト研究部はその文化祭でも今年は何もやっていないので、実績ゼロという危機的状況になっている。当時は部員が寧々一人であったし、そもそもオカ研で発表するものって何だろうと思わなくもないが、とにかく、その点が大きな問題となってしまっているのは覆しようもない事実である。
「と、とりあえず、何か考えないとまずいよね?」
「まあまあ落ち着いて。それに関しては一つ代案をこっちで考えてあるから」
突然の非常事態に部員が慌てふためく中、冷静な越路さんの一言で再び部室に沈黙が訪れた。
はて、彼女は代案と言うが、何か直近でそういう実績が作れるようなものなんてあっただろうか。
「中間考査の後にハロウィンパーティーがあるのは知ってるよね?」
「はい、今朝丁度その話をしていましたので」
越路さんから話を引き継いだ、その代案を思いついたという戸隠先輩の端的な問いに、私はタイムリーな話題だったのもあって即座に言葉を返す。一年の因幡さんや転入してきたばかりの椎葉さんは何のこっちゃと頭に疑問符を浮かべているが、ああ、何となく読めて来たぞ。
「去年もあったような気がしますけど……アレって毎年やってるんですか?」
「そうだよー。何時からかはわたしもよく知らないけど、近年は毎年やってるみたい」
「えっと……つまり、そのパーティーで占いを披露すれば良いということでしょうか?」
去年のことを思い出す様な柊史の問いに先輩は朗らかに答えてみせて、暫しの間を置いてから寧々が先輩に問いを重ねる様に首を傾げながら自身が思いついた考えを述べた。しかし、それを戸隠先輩は即座に首を横に振って否定する。
「それでもいいんだけど、流石にそれだけだと弱いかなって思うんだよね。聞いた範囲では綾地さんと空閑君しか占いはできないみたいだし。だ、か、ら──」
続く言葉に数名の短い呻き声が上がるが、本題はそこではない。その証拠に先輩は胸の下で組んでいた自身の腕の片方を、指先を立てながら顔の横まで持っていって────
「先輩、そこはあくまで学生会からの依頼なのでアタシから」
「あ、うん、ゴメンね……」
口にしかけた台詞を越路さんに妨害されてシュンとするのであった。コントかな?
ついでに、そんな先輩を見て一瞬妖しい笑顔を浮かべた越路さんのことは見なかったことにした。藪は突かないに限る。
「おほん、ということで、学生会からオカルト研究部にハロウィンパーティーの企画、及び準備……つまり運営をお願いしたいのですが」
そして、咳払いと共に雰囲気を正してから、越路さんはそう口にした。
申し訳ないですが選挙編はまるまるカットです。