私の未来について寧々にカミングアウトしてから数日後、具体的に言うと中間考査前の最後の部活の日に、用事があるという戸隠先輩の要望によって、私たちは慌てて教室を出ていった柊史を除いて、放課後にオカ研の部室へと集まるととなる。そこで先輩に告げられたのは、私たちがハロウィンパーティーで着る衣装を被服部が作ってくれるらしく、そのために私たちの身体のサイズを測りたいとのことだった。
ぶっちゃけた話、パーティー用の装いなら幾つか所持しているので改めて作ってもらう必要はなかったのだが、先輩曰くあちらから強っての希望とのことらしく、そういうことならば断る理由もないので私も一着作ってもらうことになり、今は女性陣たちがサイズを測るために花園を創り出しているので、私は一人寂しく隣接する図書室に避難していたのだが────
「おや?」
くぐもった悲鳴の様な声が耳に入り、私は視線を落としていた本から目を離して声のした図書室の出入口──より正確に言うと、オカ研の部室の方へと向ける。周りの数人もそれが聞こえていたのか、私と同じ反応をしているようだ。
何があったのかは何となーく見当がつくが、取り敢えず私も部室の方に戻ってみるか。
「イヤーーーーーーッッッ!!!!」
急ぐ理由もないのでゆっくりと本を元の位置に戻してから図書室を出たタイミングで、今度は先程よりも大きな悲鳴が聞こえてきた。明らかに柊史のそれであったことに疑問を抱きつつも、既に採寸を終えたのか、部室の外に出てきている寧々の下へと私は歩いていく。
「あ、おかえりなさい天都君」
「あぁ、うん、ただいま。…………寧々、今中から柊史のものらしき悲鳴が聞こえてきたけど」
「それは皆さんに裸に剥かれてるからですね」
「何で!?」
靴音に反応してこちらを振り向いてきた寧々に挨拶を返してから事情を聞いてみると、何とも珍妙な答えが返ってくる。
アレか、裸を見られたからこっちも見てやるぞ的な感じなのだろうか。まあ、何にせよ柊史はご愁傷様である。合掌。
「……天都君だけ何もないのは不公平ですよね」
「えー?」
「んん……」
眼前で手を合わせて部室に一礼していると、中の女性陣と一緒にハプニングに巻き込まれた寧々がそんなことを言ってくる。ぷりぷりと柊史への怒りを何故か私に向けているようなので、私は惚けた声を出しながら寧々の頭を撫でると、寧々は気持ち良さそうな声を出して機嫌が良くなるのであった。可愛い。
「ぐすっ……もうお婿にいけない……」
柊史の採寸も終わったようで、部室の鍵が開く音とともに中に招き入れる声に従って私たちが部室に入ると、一番に部屋の隅っこでさめざめと泣きながら呪詛を零す柊史の姿が目に入る。かわいそう……。
というか、今さっきだけでなく、私が出て行ったタイミングで部室の鍵を閉めていればこのようなことにはならなかっただろうに。
「さて、あとは空閑君だけだよ~? 脱いで脱いで~」
「いや、アレ放置しておくんですか?」
憐みの視線を柊史へと送っていると、今度は私の右方向から戸隠先輩が手をわきわきと動かしながらにじり寄ってくるのが目に入った。どうやら次のターゲットは私らしい。
「いいんですよ、アレはセンパイの自業自得なので」
「そもそも鍵を閉めていればあんなことには……」
「あーあー! 聞こえませーん!」
じわじわと私がピンチに陥っていく最中、一応因幡さんが私の言葉を拾ってくれたが、彼女は少し柊史に辛辣ではなかろうか。いや、仲の良さの裏返しとも見れないことは無いのだが。
「大丈夫だよ空閑君、保科君の時みたいに手荒なことはしないから」
「そんな目をした人の言葉を信用しろってのは少々無理があると思うんだけどね、椎葉さん」
そして、最後に先輩の逆サイドから、何があったのか目が血走っている椎葉さんがヤバ気な表情でこちらと迫ってきていた。何処のどういうスイッチが今入っているんだ彼女は。
「いや、まあ、脱ぐぐらいなら別に何とも思わないから良いんだけど」
いつの間にか寧々にも無言で背後を取られて四面楚歌の状態が出来上がっていたので、よく分からない狂気に中てられた彼女たちに手をかけられる前に、私は自らの手でワイシャツのボタンを外していく。別にプールの時は見られているし、上半身なら何ということは無い。流石に下半身はまずいが。
「よっと……」
「おぉ……これはこれは……」
今更ながら採寸だけなら脱ぐ必要はあったのだろうかと思いつつインナーも脱いでしまうと、複数の生唾を飲み下す音と戸隠先輩の感嘆の声が漏れてきた。そして、彼女たちの視線は私の裸体に余すことなく注がれていく。
至高故に、何処に出しても恥ずかしくない芸術品の様な身体と自負しているので、この反応も当然であるか。何か私も変なテンションになってきたな。
「それでは失礼し申す~」
「どうぞ~」
そして、一通り視線で堪能された後、妙な口調になった戸隠先輩がメジャーを片手に突撃してくるのであった。
この後めちゃくちゃ採寸された。
「うん? パーティーのためにバンドを組むのかい?」
「あぁ、仮屋のデビューのためと……オレ、あんまり準備の方で力になれてないから、せめて本番を盛り上げられたらなって思って」
採寸が終わった後にいつも通り部活が始まったかと思うと、しばらくしてから柊史がハロウィンパーティーでステージ発表に立候補すると伝えられ、私は目を丸くしてその真偽を彼に問い返す。
返ってきた答えに対してそこまで気負わずとも良いだろうにとも思ったが、彼自身が考えてその答えを出したというのであれば、それを止める様な無粋な真似はするまい。
「でも確か、柊史はバキバキの初心者だったと記憶してるけど」
「……実はそのことで空閑にお願いがあって」
「いいよ」
「まだ何も言ってないけど!?」
しかし、記憶が確かであれば、柊史は楽器の経験は皆無であったはずである。そこで彼がしてくるお願いなんて一つしか思い浮かばないので私が先んじて了承すると、柊史は全力でツッコミを入れてくれた。うむ、相変わらず良いリアクションだ。
「大方、技術指導の話だろう?」
「ま、まあ、そうなんだけど……」
「任せたまえ、一週間で人前でも恥ずかしくないレヴェルに仕上げてあげよう」
そう言って、大船に乗ったつもりでいておくれと締めくくると、柊史は再度表情を引き締めてから私に頭を下げてきた。うむうむ、目標に対して真摯であるのは良いことだ。
「まあ、まずはテストを乗り越えてからになるんだけどね」
「うぐ……そ、そっちは大丈夫だと思うけど」
私が雰囲気を崩してそう言うと、柊史はふいと目を逸らしながら少々不安な言葉を零す。彼なら特に問題は無いと思うけどなぁ。
「センパイがバンドですか……全然イメージできないですけど大丈夫なんです?」
「不安を煽るのは止めてくれ」
寧ろ不安なのは因幡さんの方である。一応着々と範囲を潰せてはいるようだが、もう少しひいこらやらないと割とギリギリになりそうな気がする。
「空閑君は何かしないの?」
「取材の時のアレ、凄かったですもんね」
「あー……特に何も考えてなかったなぁ」
柊史と因幡さんのいつもの様な遣り取りを眺めていると横から椎葉さんの問いが飛んできて、それを聞いていた因幡さんも柊史を弄るのを止めて椎葉さんに同調してきた。
本当に何も考えていなかったし、ただ出るだけだと本気でやるであろう柊史たちに対して失礼過ぎるだろう。主に心意気的な意味で。
「学生会の子たちは皆空閑君が出るものと考えてたみたいだけど」
「オレも空閑は前みたいに何かすると思ってた」
「……これ、もしかして何もやらなかったら非難轟々なのでは?」
続く先輩と柊史の言葉に、私は微妙に危機感を覚え始める。
いや、演目自体は幾らでもやれるし、何なら開始から終了まで延々弾き続けるのも余裕だろうが、流れでやらされるというのは
「……」
「……?」
出演するならばしっかりと何か目標を立てておきたいところであるがと思ったところで、ふと隣で何かを期待した視線を送ってくる寧々と目が合った。そこで私の思考に一つの閃きが訪れる。
「寧々、一緒にやるかい?」
「えぇ!?」
ハロウィンパーティーは恐らくこの時空での最後の学校行事になるので、何か寧々と二人で特別な思い出を作っておくのも悪くはない。そう思って提案してみたのだが、寧々は予想外だったようで目を見開いて驚きの声を上げた。
「わ、私が天都君とですか?」
「寧々は歌も上手いし、思い出作りも兼ねてどうかなって思ったんだけど」
動揺する寧々に思い浮かんだことを伝えていくと、彼女は思い出作りの部分で大いに反応を示したが、幾分かやる方に気持ちが傾いたとはいえまだその瞳から迷いの気配は消えていない。
「私なんて、天都君と比べると全然ですし、それに、あまり注目されると緊張して……」
しかし、寧々は謙遜の言葉と共に結局は否定の言葉を口にしていく。流石に
「じゃあさ、こういうのはどうだい?」
「??」
「寧々が作詞した曲を私が演奏するのさ」
だが、諦めの悪い私はすぐさま第二案を提示する。これなら寧々がステージに立つことも無いし、共同作業という一番大事な点も崩れないので、私としては良い案だと思うのだが。
「さ、作詞の経験なんて無いですよ?」
「必要なのは心の奥底に根付くパトスを如何に解放するかだよ、寧々。語りたい想い、伝えたい熱情があるのなら、経験の有無は塵みたいなものだ」
自信無さ気な寧々に対して、私は敢えて大仰に言葉を紡いでいく。少女の最後の一歩を引き出すために。
「胸の内から溢れ出す想いを感じないかい? 今、言葉にして誰かに届けたいと思った想いは無かったかい? ……あったのであれば、寧々、どうか私と最高の一曲を作って欲しい」
そして、愛の告白の様に、私は心の内に強い想いを秘めている寧々にそう伝えきった。これでダメならもう押しても引いてもダメだろう。
「…………わ、分かりました、精一杯頑張りますっ」
数秒の間が空いて、寧々は真っすぐにこちらに
「……何か愛の告白みたいでしたね」
「うんうん、見てるこっちもドキドキしちゃった」
「ぽひゃぁっ!!?」
寧々への勧誘が行われていたのは部活中の部室の中。当然周りには今の遣り取りを固唾を呑んで見守っていた人たちがいたわけで、一連の流れが終わってから紡がれる因幡さんと戸隠先輩の言葉に、寧々は一瞬で顔を真っ赤に染め上げながら奇声を発するのであった。
ともあれ、パーティーに向けてやることが増えたので、これから忙しく過ごすことになりそうだ。テストの方はまるで心配していないが、とにかく頑張っていこう。
ポロリどころか下着姿のシーンもありませんでしたね。R-18小説として恥ずかしくないんか? んん?