※この作品はR-18です。

神戯姦濫   作:水晶水

42 / 53
 情事まで長そう。


E.それぞれのステージのために

「お、終わったぁぁぁ……!」

 

 最後のテストが終わりを告げる福音とともに、絞り出す様な秀明の声が聞こえてくる。一瞬ポカをやらかしたのかと思ったが、そこに悲嘆の色は見受けられなかったので恐らくは問題ないだろう。

 

「秀明」

「ん? おぉ、さんきゅ」

 

 決戦の場から解放された教室の面々が思い思いに動き始める中、私はぐだっと姿勢を崩した秀明に呼びかけながら一本の鍵を放った。緩慢な動作で振り向いた彼は、突然飛んできた物体に驚きつつも寸での所でそれを掴み取り、軽い調子で礼を述べてくる。

 

「柊史、仮屋、君たちも秀明に着いていって」

「へ? あ、あぁ、そっか、今日から練習するんだったね」

「空閑は来ないのか?」

「私は運営の準備をしてから合流するから」

 

 続けて、これまた疲れた様子を見せていた柊史と仮屋に声をかけると、思い出したとばかりに二人とも同じタイミングで再起動して椅子から立ち上がった。

 仮屋が零した通り、これから三人で先にステージデビュー──正確に言うと秀明は違うが──に向けて練習を始めてもらっておくのだ。私はみっちり練習が必要な柊史に代わって彼の分も準備を頑張らねばならないので、練習の方には遅れて合流することになっている。

 ちなみに先程秀明に投げ渡したのは工房の鍵で、スタジオを借りるのではなくそこを練習場所として使ってもらう予定だ。

 

「柊史に使ってもらうベースはドラムの横に置いてきてるから、基本姿勢と軽くでいいからコードを二人に教わってておくれ」

「分かった、それじゃあ後でな空閑」

 

 テキパキと口頭で指示を出していき、私は手を振って仲良く去っていく三人を見送る。さてさて、忙しくなるぞぅ!

 

「な、何だか忙しないね」

「まあ、二人はともかくとして柊史は急がないとホントにまずいからねぇ」

 

 そこに、部活へと行く準備を終えた椎葉さんが横から私に話しかけてきた。

 軽い感じでそれに返してはいるが、マジな話一週間で仕上げるならば相当急がねばならない。強行軍をしながら慣れないことをする精神的負担とオーバーワークによる肉体的負担にも気を配らないといけないので、口に出しているよりも私の責任は重いのだ。

 まあ、尤も勝算があって引き受けているので、その割に私自身は気負っていないのであるが。

 

「ごめんなさい、お待たせしてしまいました」

「大丈夫大丈夫、それなら部室に行こうか」

 

 そして、最後になった寧々が準備を終えたのを見計らって、私たちはオカ研の部室へと出発するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Stop!」

「っ!」

 

 私の鋭い静止の声に、ビクリと指を強張らせて柊史の動きが止まる。だいぶ肩の力を抜いて弾けるようにはなってきたようだが、まだまだ動きが硬いようだ。

 あれから部活を開始して、滞りなく打ち合わせが進んで大まかな段取りを決めた後、部活を終えた私と寧々は少し急いで私の家に帰り、練習に熱中していた三人組に合流することとなった。

 今は練習を見始めてほんの少し柊史の隠れた才能に期待していたが、別にそんなものは存在していなかったので普通に指導を開始して二時間ほどが経ったところだろうか。一応覚えは悪くはないので、このペースでいってくれればどうにか本番までには間に合いそうである。

 

「よし、今日はここまでにしておこうか」

「え、もう?」

 

 ちらりと時計を見遣ると時刻は既に七時前。学校が終わってからずっと練習しているのであれば、それなりに良い時間である。

 しかし、柊史はまだ物足りないのか、突然の終了宣言に拍子抜けした様な声を漏らした。

 

「焦りは禁物だよ。普段使わない筋肉使ってるだろうし、今日のところはここまでだ」

 

 それを私が窘めると、柊史は渋々ながらではあるものの納得の意を示す。聞き分けが良いのは良いことです。

 

「一先ず、夜は指のストレッチを入念にね。ベースの方はあんまり触らなくていいから」

「分かった」

 

 現状の指導者である私の指示に今度は素直に頷いてくれた。

 

「いやぁ、先(・)生(・)は相変わらずだなぁ」

「話には聞いてたけど、ホントにスパルタなんだね……」

「関係無い風に装ってるけど、柊史が合わせられるようになったら二人にも指導していくんだからね?」

 

 一連のハードな指導を見て、秀明と仮屋が遠巻きに柊史に哀れみの言葉を零しているが、当然バンドとしてやる以上は二人にも指導を受けてもらうつもりだ。そのことを伝えると、二人は揃って仰け反りながら呻き声を漏らす。

 今は初心者の柊史にかかりきりにならざるを得ないが、どうせならより良いステージにしておきたいところであるし、二人にも頑張っていただきたいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐぐ……」

「難しいかい?」

「はい……」

 

 ペンを手にしたまま難しい顔でテーブルと紙に向かい合う寧々に声をかけると、彼女はしょぼんとした表情をこちらに向けてくる。どうやら作詞は捗っていないらしい。

 

「天都君のことを考えていると、好きだとか、愛してるだとか、そういう言葉ばかり溢れてきて……」

「ふふ、気持ちはとても嬉しいよ」

「えへへ」

 

 俯き気味の寧々が紡ぐ言葉に、私は思わず微笑みながら彼女の頭を撫で回した。

 

「ところで、私のことを詩にするのかい?」

「えっと、私が抱く強い想いが何かと聞かれれば、やっぱり天都君のことが多いかなって」

 

 撫でる手を止めずに、私は寧々が詩の題材に私を選んだことを尋ねてみると、彼女はにこにこと笑みを絶やさずにそんなことを口にする。可愛い。

 

「でも、好きが先行しすぎて何と言いますか、同じ様な言葉の羅列で安っぽい表現になってしまうと言いますか……」

 

 そんな寧々が語るのは、強すぎる一つの想いが詩を陳腐なものにしてしまうという悩みであった。うんうんと唸り続けている様子を見ていたので分かっているが、ノーヒントで作詞をやらせるのはやはり難しかったようだ。

 

「あ、いえ、その、天都君への想いが安っぽいということではなくてですね」

「大丈夫、それは分かってるから」

「ふにゃ……♡」

 

 その後、自分が失言したと思った寧々が、慌てて両手をぶんぶん振りながら否定の言葉を口にし始める。それを落ち着けるために私が優しく抱き寄せると、寧々は鼓動を早めながら何か力の抜けた鳴き声のようなものを発した。

 

「それじゃあ一つだけ指針を与えよう」

「指針、ですか?」

 

 抱きしめながら紡がれる私の言葉に、寧々はもぞもぞと私の腕の中で姿勢を変えて、私を抱き返しながら上目遣いでそう聞き返してくる。私はそれに微笑みながら一つ頷いた。

 

「思い出を詩に綴るのはどうだい?」

「思い出……私と天都君の……」

「Exactly」

 

 そう、今世最後の学校行事に私たちの思い出の集大成を作り上げるのだ。高校生になってから、更に言えば恋人になってからはまだ一ヶ月と少しなので短い期間での話ではあるが、濃密な時間を過ごしてきているので詩にできるものは沢山ある。

 

「それなら、語りきれないぐらいたくさんあります。天都君にしてもらって嬉しかったことや楽しかったこと、いっぱい、いっぱい表していいんですね?」

「うん、寧々の想いをたくさん聴かせておくれ」

 

 何度も頷いてから寧々は楽しそうな微笑みを浮かべて、強いやる気の炎を心に灯した。今から寧々が綴るリリックが出来上がるのが楽しみだ。

 

「幸せな気持ちになったらもっと良くなりそうなので、キスしても、いいですか……?」

「んー? ホントはキスしたいだけなんじゃない?」

「えへへ♡」

 

 それから、砂糖を吐くような甘い問答の後に、私たちはゆっくりと唇を重ねた。そして、じっくりとお互いを味わい合う様な口吸いを何度も何度も繰り返していく。

 溢れる幸せに浸り続けるのは何時までか。願わくば、これが永遠にならんことを。




 自分で書いたラヴシーン読み返して「尊い……」ってなってるので、萌えの永久機関みたいなところありますね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。